ラスボス、仕事を開始する。【怒る】
エニシダ王女は相変わらず無表情のまま、盗み聞きしていた私を責めるでも詰るでもなくただ見つめてくるだけだった。むしろ彼女はモデル並に背が高いから小柄な私だと半分見下ろされるような状態に近いかもしれない。うーむ、美人。
当然といえば当然、エニシダ王女の行動により他の王女達も私の存在に気がついたようだ。困ったような顔をしたコディア王女の隣でマチルダ王女が非難の声をあげる。こら美人がきゃんきゃん吠えるんじゃない、勿体ないぞ。
「お前!そこで何をしているの!?」
「何って、窓からお邪魔しようと思って控えていただけです。どういう訳か扉が開かなかったので」
さりげなく扉の方へ視線を向けると、扉の前には椅子や家具や果てはクッションがどーんと鎮座している。
これは私一人じゃ開けられないなあ。
それで?貴女達はこの部屋から出る時何処から出るつもりだったの?明らかに後先考えてないな。
とりあえず私もいつまでも外にいるわけにはいかないので窓枠に足をかけて室内へ入る事にした。何か全身の骨がぽきぽきいってるんだけど・・・老体に鞭を入れていたら近くにいたエニシダ王女が脇に避けて場所を作ってくれる。すみませんね、お手数かけて。有り難くその場所におさまった私をマチルダ王女が馬鹿にしたような目で見た。
「野蛮ね」
「野蛮な所もこういう時に役立ちます」
私だって華麗な登場をしたかったがエニシダ王女に見つかってしまったんだから仕方ない。不覚。
「さて・・・皆さん、おはようございます。昨日我が国の国王からも紹介がありましたが・・・私がオスタシアの巫女。ヒナコ・シドーです。これから貴女方がエディオス様に相応しくあることができるよう、お力添えをさせて頂きます、よろしくお願いします」
私は頭を下げてから一人一人の顔を見渡した。そして最後にマチルダ王女に視線を戻す。
「マチルダ王女。この『悪戯』は貴女が考えたんですね?わざわざ侍女を巻き込んでまで」
マチルダ王女は答えない。私なんかと話もしたくないって感じだ。
「コディア王女、それからレベッカ王女、エニシダ王女はそれを黙認していたと考えても良いですか?」
「そうね、そう考えてくれて構わないわ」
先に答えたレベッカ王女ははっきり頷いて、その知的そうな瞳を向けてくる。
「貴女の対応が知りたかったのよ。こういう下らない事をしでかす私達をどう対処するのかをね」
「・・・コディア王女、エニシダ王女。貴女方もレベッカ王女と同じ理由で?」
私が視線を向けた先でコディア王女が首を振る。
「いいえ・・・私は止めきれなくて。でも何もしなかったという点では同じだわ」
コディア王女はマチルダ王女に巻き込まれたみたい。エニシダ王女は・・・暫く様子を伺ったけど何も言わないからコディア王女と同じような立場なのだろう。
・・・今回は本当に困ったちゃんばかり集まったものだ。
「はっきり言わせて貰うと、今の貴女方の誰一人にもオスタシアの王妃を任せられません。マチルダ王女、私はこの国の巫女。エディオス様と並びオスタシアの柱を任されている私に対してこの仕打ち、簡単に許されることだと思っていたら大間違いです。しかも貴女が国から連れて来た侍女の礼儀もなっていない。彼女達の品位は貴女を表すものの一つ。良い侍女を持つ王女はやっぱり彼女達の主として立派に纏めあげています」
これは色々パターンはあるが、主が優秀であれば侍女の中に多少問題がある者が紛れていても上手に纏めあげているものである。まあたまに主が残念で侍女が優秀だったり、主も侍女も残念な時もあるけど。
「だから何だというの?わたくしの言うことを聞かない侍女なんて要らないわ。それにわたくしの侍女はお前をこの部屋に入れなかったのだし、命令を聞いているじゃない。わたくしはちゃんと纏めあげているのよ」
マチルダ王女には何を言っても無駄そうだ。そもそもの根本からして理解出来ていないし、聞く気もないのだろう。彼女だけに時間を割いていては夜になってしまう。マチルダ王女には後々よーーーく理解してもらうとして、先に他の王女から注意していこうかな。
「レベッカ王女、私を試すのは結構ですが貴女に評価される必要もなければされる立場でもありません。私を試すのはエディオス様を試す事と同じ。オスタシアへの不敬を恥じて下さい。それからコディア王女とエニシダ王女、見ているだけというのは実行しているのと同じです。王妃になると言うことは多くの家臣を従え、かつその過ちを正す必要があります。時に諌める相手が国王になる時だってあるんです。今この場面で他人に流されてしまうようなら王妃に相応しいとは言えません」
少し厳しいかもしれないが、全部本当のことだ。国の頂点に立つには広い視野が必ず必要になってくる。彼女達は自分の手が届く範囲しか知らず、マチルダ王女に関しては論外の域である。
「まずは、この家具の山を片付けてもらいます。王妃になると全ての行動に責任がついて回りますから後片付けもご自身で出来ないと困りますよ。それに片付けないと私達、部屋から出れないし」
箸より重いものを持ったことがなさそうなお姫様には辛いとは思うけど、自分でやらかした事は自分で片付けてもらおう。
「それは侍女がやったのよ。わたくし達がそんな労力を使うわけがないでしょう?」
「それじゃあその侍女を呼んで下さって結構ですよ。ただし呼びに行くには野蛮にもそこの窓から外に出ないと駄目ですね」
私が入って来た窓を指さしながら言うと、マチルダ王女は私を刃物で刺しそうな目で睨んでくる。怖すぎて泣けそう。
「わたくしに行けと言うの?お前が行きなさいよ!さっきもそうして入って来たでしょう?」
「まだ解らないんですか、マチルダ王女。私に命令をすることはエディオス様に命令することと同じなんです。貴女は今、エディオス様に窓を越えて侍女を呼びに行けと言ったんですよ」
そんな事本人に言ってみろ。窓から外に放り投げられて終わりだ。
私がそこまではっきり言ってようやくマチルダ王女は黙った。私が気に入らないだけでエディオス様のことは本当に好きみたい。
私の言葉に暫く黙って動かなかった王女達だけど、意外にも一番初めに家具に触れたのはエニシダ王女だった。儚い容貌に反して案外力持ちらしく、椅子や机を退けていく。それを見ていたコディア王女が続き、それからレベッカ王女も手伝い始める。
「・・・マチルダ王女」
私は今だ動かないマチルダ王女を振り向いた。この王女は本当に!沈黙したままの彼女に、私は少し大きな声をあげた。
「マチルダ王女!これ以上勝手をするなら明日にでも荷物を纏めてアジェンダイへ帰国して頂きます!」
彼女は目を見開いて私を見たあと、ようやくのろのろと家具の山に近づいてクッションを退ける。そんな軽いものは最後で良いよ!隣で机を運ぶコディア王女を手伝ってあげて欲しい!
オスタシアの明るい未来は遠そうだ。




