実年齢+50歳
紫堂 日菜子、16歳。
これが過去の私の個人情報だ。
ヒナコ・シドー、66歳。
そしてこれが今の私の個人情報。
私がこの世界に来て、このオスタシア国の巫女姫の存在の「成り代わり」となってからもう五十年の時が流れたのだ。そりゃあ年も取るし目も霞むし、腰だって痛くなっても仕方ないよね。うん、我慢できるよ。とは言え私の外見年齢は16歳のままだ。まあ、これには色々わけがある。沢山ありすぎて色々の一言に纏めないと大変なことになるくらい。だって五十年分だもんね!
簡単に解りやすく、かつ要点を纏めて私の五十年を語るならこうだ。
かつてこのオスタシア国には聖女の血をひく巫女姫がいました。が、ある日突然巫女姫の存在がなくなり、その立場に日本で普通の女子高生をしていた紫堂日菜子がおさまってしまい、それから五十年がたちました。そして今に至る。
うん、こんな感じだ。
今のこの国に、私が来る前にいた筈の巫女の形跡なんて何処にもない。何故ならその立場を「私」が奪ってしまったから。そしてこの国に私が生まれてからの十六年は何処にもない。何故なら「私」はこの世界の人間じゃないから。
長い説明なんて本当は要らない。
私は別の誰かの人生を奪って生きてきたんだ。
五十年前は色々と事件があったり国が荒れたりもした。でも、今のオスタシアはとても平和で過ごしやすい。平和ボケしてると言っても過言はないし、それが良いか悪いか意見が分かれる事もあると思う。でも私は五十年、この国と此処で暮らす人をずっと見て来た中でこの平和を強く望んでいた人が沢山いたことを絶対に忘れない。オスタシアを守る為に武器を取った人、他者を憎み、そして愛した人、そしてその頂点を飾るオスタシア王家の人々の努力や、時には悲しい決意を私は知っている。それを私は守りたい。私は彼らから奪ってしまったから。誰も覚えていないし知らないのだろうけど、私は本来彼らが大切にしていた存在ではないのだ。それは覆せないし、許されることでもないのだけれど。どうか守らせて、繋がせて欲しい。
誇り高きオスタシア、私が出会った全ての人に、そして消してしまった彼女に誓う。
必ず、守るから。
そして私は今日も巫女服を身に纏うのだ。
まだまだ現役で頑張れる。
「そう、定年退職は無しの方向で」