生魚
ギラギラと照りつける太陽!
見渡す限りの楽園!
耳に響く波の音!
そう!俺はいま海に来ている!
「やっぱり混んでるな…」
これは俺の父。メガネをかけていて、少し太り気味。
普通のサラリーマン。その代わりかなりの料理上手。
俺は絶対大人になってもこんな平凡なやつにはなりたくない。
「だからもっとはやく行こうって言ったのに」
これは兄、普通にカッコいい。だからモテモテ、ラブレターなんか毎日のように来る。
でも兄はモテていることに気付かない。いや、気付かせない。
「はいはい、喧嘩しない。場所とってもらってるんだから」これは母、「綺麗」というより「可愛い」といった方が正しい。
しかもどう見ても小学生にしか見えない。
俺は今でも父が誘拐でもしたのではないのかと、思っている。
「早く行こうぜ。そんなに待たせるのも悪いだろうから」
「そうだな、急ぐか」
人込みの中歩くこと5分。
「あ、あれじゃない?」
「ああ、あれだ。間違いない」
皆の目の先にいたのは叔父。
自称「社長」何の社長かは不明。
それと……アフロ。
この人以外に、こんな髪型のひとはいないだろう。確実に。
「よう、やっと来たな。」
アフロマン、もとい叔父は昼間から酒を飲みながら言った。
「おう、待たせたな」
いつもは弱気な父も叔父の前では強気になる。
いつもそのくらい強気でいてくれればなぁ……。
「よし!子供は荷物を置いて泳いで来い!」
どーでもいいが、強気になった父は普通より強い。
「俺、子供って歳でもねえけど…」
「うるさい!黙れ!シャラップ!行って泳いで来いと言ってるんだ!」
兄弟、父にむかって敬礼
「了解しましたっ!」
きれいに二人の声が重なる。
敬礼コンテストなるものがあれば間違いなく1位を取れるだろう。
俺たちは急いで水着に着替える。
水着に着替え終わった俺たちは、親父に渡された謎の袋をもって波打ち際へと走っていく。
不意にうしろから叔父が呼び止める。
「えー…なんだったかな…、すまん。忘れた」
おいおい、もう老化が始まってるのか?
「まあいいや、思い出したら言うわ。じゃ行って来い」
「了解!」
今度は重ならない。
俺たちは気を取り直して波打ち際へ向かった。
波打ち際に来ると海が人でいっぱいになっていた。
「…これに入るのか…?」
「さすがにココまで人が多いとは……。どうする?」
二人で悩んでいると、背中を思いっきり叩かれた。
「痛っ!何しやがる」
叩いた犯人を見た瞬間、そう言ったことを後悔した。
「お前…、誰に向かってそんな口聞いてるんだ?」
この偉そうなのは二兄
いつもなら金髪、乱れた服装、偉そうな言葉づかい。
まさに不良。夜遅く帰ってくる場合も多い。
しかし、成績優秀!運動神経抜群!
…なんで不良なんかになったのか気になる…。
「ちょうどよかった。ちょっとこいつの世話しててくれるか?」
「ん……、100で受けよう」
「0だ。決まってるだろ。」
「それじゃ駄目だ受けない。…ってあれ?アイツ何処行きやがった?」
「兄貴が目閉じてる間に行っちまったよ」
二兄は拳を握り締め、怒りの念を放出していた。
俺たちは、一兄を待っている間。
やることも無くボーっと突っ立っていた。
「アイツ、何処行きやがったんだ」
「暇だな。」
「ああ、暇だ。お前のせいでな。」
気まずい沈黙が流れる。
「…これからどうするんだ。おまえは」
「とりあえず、海に入る」
「なぜ?」
「なぜって、泳ぎに来たからだろ?」
「ふっ、お前ならそういうと思ったよ!」
二兄がいきなり大声で叫んだ。他の人が何事かとこちらを見る。
視線が俺たちに集中する。嫌な予感がする。
恥ずかしい、他人のフリをしたい。
にも関わらず、二兄はハイテンションで会話を続ける。
「お前が泳ぎに来たのでも、俺は泳ぎに来たんじゃない!
俺は、観察に来たんだよ!」
嫌な予感的中。誰か助けてくれ・・。
「年に1度の海開き!そこに集まる水着ギャル!
その姿を目に焼き付けておかねば損だろうが!」
気のせいか、二兄の言葉に熱がこもってきたような・・・。
「水着がはちきれんばかりのダイナマイトバスト!!
そして、その胸とは対照的ほっそりとしたウエスト!」
もうやめろ、やめてくれ。誰か助けてくれ。
「そして、美しく輝く顔!その3つを兼ね備えた最高の女性がいないか
目を光らせてみてるんだろうが!そんなこともわからねえのか!
なら俺が美しい女性の見分け方十か条を詳しく教えてやる!よーく聞いてろ!」
今の言葉で大半の男性はこちらの会話を熱心に聞くことにしただろう。
「第一にっ!美しいじょっ……」
ドスッ!
突如、俺たちの間に入ってきた女の子は、二兄にすさまじい威力の
ストレートを繰り出し、見事二兄を討ち倒した。
俺は、ありがたかった反面、美しい女性の見分け方を聞きたくもあった。
(…家に帰ったら聞いてみるか…)
「あの〜、聞いてますか〜」
「ああ、はい、なんでしょう!……っておまえか……」
「ふふふふふ〜、私にそんなこと言っていいんですか〜?」
これは俺の双子の妹、俺が知る中での最重要注意人物だ。
なぜならこいつはどんな情報でも知っているからだ。
身長や体重くらいのものじゃない。人に知られたくないことまで知っている。
もし広まったら自殺でもするんじゃないかという情報まである。
「まあ今回は許してあげます〜。次は注意してくださいね〜。
それではまた〜」
そういい残すと人込みの中へと消えていった。
「やっと消えてくれたか・・・」
「いいえ〜」
消えたはずの妹の声がすぐ後ろから聞こえる。
突然のことに驚き、その場で凍りついた。
「き、消えたんじゃねえのか…?」
「ええ〜、ちょっと言い忘れたことがありまして〜。
この、馬鹿兄をどうにかしといてくださいね〜。
厄介ごとはごめんですから〜」
笑顔で言っているが、とてつもない威圧感があった…。
俺は少し怯みながらも、冷静を装って言い返した。
「おいちょっと待てい。おまえがやったんだろうが…っておい!待てっちゅうに!」
俺の言葉を無視して、妹は再び人込みの中に消えていく。なにかを振り回しながら
……ん?アイツあんな物持ってたっけ?俺の小銭入れに似てるようもするが…
「あ、あれ?ちょっと待て?俺の小銭入れは何処だ?」
確かに後ろポケットに入れたはずだったが今は陰も形もない。
「…あ、あの野郎…!」
あの野郎、人の都合を無視しやがって…!
「絶対に捕まえてやるよ!覚悟しやがれ!」
そうすると二兄をどうするかが問題になる。
……うん、二兄ならほっといても大丈夫だな。
そう考えると俺は二兄をほったらかしにしてその場を後にして、妹を追いかけることにした。
結構走っただろう。
妹の姿はいまだに見えない。
それどころか人の姿すらない。
あるのはぽっかりとあいた洞穴だけだ。
「ふぅ、あの野郎こっちに来たはずなんだけど…」
俺はくるりと周りを見渡した。
「隠れられるところは……ないな」
残っているのは洞穴…か…。
俺は覚悟を決めて洞穴のなかへと向かった。
背後から監視されていることも知らずに……。
「まあ、これは一体……」
母の見ている先には、子供の玩具と化した二兄の姿があった。
何故こんなことになったのか、それは遡ること数十分…
だが、説明がめんどくさいのでまたの機会ということで…。(その機会があればいいけど)
暗く、1メートル先も見えない洞窟に俺の足音だけが響く。
「これなら、懐中電灯でも持ってくるんだったな」
しばらく歩き、立ち止まる。また歩き、立ち止まる。
…誰かがついて来ている…?
すばやく後ろに振り向く。
「気のせい…か…?」
気を取り直しまた歩き始める。
彼の少し後ろ、2人の人影が細い岩柱に隠れ、小声で話していた。
「ふぅ〜、間一髪でしたねえ〜。ま、そう簡単に見つかる私ではないですけども〜」
カメラを持った少女が言う。
「気をつけてくださいよ。ばれてしまっては意味がないですからね。」
こいつは顔を隠していてよくわからない。
「わかってますとも〜。あ、ターゲットが移動しますよ」
「おっとそれは急がないと!行きますよ!」
「了解〜」
2人の人影は、彼に見つからないように再び尾行を開始した。
「あの野郎!何処まで行きやがった!」
だいぶ歩いただろう。しかし、一向に何も見えてこない。
「……アイツ、確かに女だよな…?何でこんなに体力あるんだよ…化け物か…?アイツは…」
追跡者にもその声は聞こえていた。
(帰ったら覚えてなさい〜)
突然、体中に寒気がした。さらに、背後から突き抜けるような強烈な視線を感じた。
反射的に背後を確認する。人影はない。
「…気の…せい…な訳ないよな…」
気のせいにしてはかなりリアルな感覚だった。
絶対に見られていたはずなのだ。
「…逃げるか……」
そして俺は軽くジャンプと屈伸をした。
「ここまで来たら出るわけにはいかないだろ!覚悟しろ!」
大声で叫んだあと全速力で走っていく。
後ろの岩柱から二つの人影が出てくる。
「ああ〜あの馬鹿は〜」
「まあ、この先で行き止まりになってますから、さすがに気付くでしょう」
「そうですねえ〜」
「じゃ、帰りますか!」
「ラジャ〜。了解です〜」
二つの人影は洞窟の出口へと向かって歩き出した。
その少女は暗い岩の檻の閉じ込められていた。
その少女は歌っていた。
美しく透き通った声で、心に響く悲しい歌を。
足音がした。誰かが来る。
少女は歌を止め、訪問者を待った。
やがて訪問者がやってきた。来たのは少年だった。
少年は探し物をしているようだった。
少年は何か呟いた後、立ち去ろうとした。
少女は少年と話がしたかった。少女には勇気が無かった。
少女は又会えるようにと、少年にペンダントを投げた。
ペンダントは地に落ちた。少年はそれを拾い上げた。
少年はペンダントを持って立ち去った。
少女は安心した。初めて会った人とまた出会えることを確信できたから。
少女は再び歌い始めた。
美しく透き通った声で、心に響く喜び溢れる歌を。
洞窟を出ると、オレンジ色に染まった海が見えた。
よく考えると、俺は海で泳いでない。
「…結局、俺は何しに海に来たんだろうか…」
とりあえず夕日はきれいだった。
帰りの車内
車に乗っていたのは俺と、妹と、車を運転している母だった。
父と一兄は叔父の車に乗り、二兄は叔父の車に載せられていた。
…疲れた…。いろんな意味で…。
そんな時、前の座席に座っていた妹が、前を見たまま話し掛けてきた。
「どうでしたか〜今年の海は〜。夏を思いっきりenjoyしましたか〜?」
「おまっ、それが思いっきり邪魔した奴の言うことか!
もっと謝るとかしろよ!」
前の座席から写真を見せられる。
絶叫する俺。写真をひったくる。
「あら〜そんなにあせってどうしたんですか〜?」
叫ぶ俺。自分で何を言っているかわからない。
「あせりすぎです〜。もうちょっと素を出さない努力をしなさい〜」
「そんなのできっ、ぶっ!」
突然の急ブレーキ。
前の座席に顔面を思いっきりぶつける。
「ごめんね、ちょっとまってて」
母はそう言って外へ出て行った。
外には警官らしき人影があった。
数分後
「ごめんね、ちょっといろいろあってね…」
「さっきの警察だろ?なんで止められたんだよ」
その質問をした瞬間、母の表情が一転した。
(その質問はしてはだめです〜!)
小声で注意された。ここはおとなしく従っておくことにする。
そのあとは順調に進み思ったより早く家に着いた。
「ただいまー」
家に入った瞬間強烈な酒の匂いがした。
父と叔父が飲んでいるのだろう。
もういいや、早く寝よ…。
「おやすみー」
「はい、お休みなさい」
布団に入って横になる。
今日はほんとにいろいろあったなー。
あ、そういや二兄はどうなったんだろう…。
ま、いーか。どーせ死ぬわけじゃないんだし。
…………!
「小銭入れ返してもらってねえ!」
「うるさいです〜」
「ちょっと待て!ここ俺のっ…」
妹の一撃が見事にクリーンヒット。
「ぐっ、ごっ、がっ…」
…意識が朦朧としてきた…。
………。
「おやすみなさいです〜。まあ返事は出来ないとおもいますけど〜。
生きてたら明日あいましょうね〜」
妹はそういい残して部屋から去っていった。
鳥の鳴き声が聞こえる。
部屋が明るくなっている。
「朝…?ってことは俺死んでない…?……」
多分、この夏一番の笑顔だっただろう。
確実に人生の喜びベスト500に入る。
「朝飯食うか!」
俺は晴れやかな気持ちでリビングへ向かった。
このあと、二兄から断罪されたのは言うまでもない…。
…書いてるときは楽しかったんですけどね。
第1作目なので勘弁してください。
これから頑張っていこうと思うんで…