魔女裁判のシンデレラ ~断罪されるべきは誰? 有罪なら破滅したって知らないわ~
大量のすすが煙突から落ちてきて、私は頭からかぶってしまう。その上、すすを吸い込んでしまい、咳が止まらなくなった。
「シンデレラッ!!」
背中から叱責する声が響く。
鬼の形相で立っていたのは、継母のマチルダである。
「まったく暖炉の掃除一つ満足にできやしない! どうすんだい、こんなに汚してっ!!」
マチルダは父の再婚相手だ。父は六年前に亡くなり、私は継母であるマチルダに引き取られた。
それから、ずっと彼女にいじめられている。この家も父の物だったが、私は召使扱いだ。
「……申し訳ございません。お義母さま。箒を貸していただけますか……?」
「あら、あつかましいこと。うちの箒はね、家族の物なの。汚らしい居候には貸せないわね」
家族の物とは言うけれど、掃除なんて召使に任せるばかりで一度だってしたことないくせに。要するに嫌がらせがしたいだけ。
「それじゃ、どうやって?」
「手でやりなさいな。そうじゃなかったら、その汚らしい一張羅を破って、雑巾にでもしたら?」
呆れて物も言えない。この人はこんな陰湿なことをしてなにが楽しいんだろう? 頭に欠陥があるとしか思えない。
「でも、お母様。あたし、汚れっぱなしは嫌よ」
やってきたのはメリルだ。マチルダの連れ子で、私とは血がつながっていない姉である。
「ねえ、シンデレラ。これを使うといいわ」
メリルが手にしたのは、古いバケツである。中には濁った水が入っており、雑巾がかかっている。彼女もマチルダと一緒になって、よく私に嫌がらせをしてくる。
だけど、なにもないよりはまだマシだ。
「ありがとうござ――」
バケツを受け取ろうとした瞬間、メリルはそれをひっくり返す。私は汚水を頭からかぶった。
「ごっめーんっ。手が滑ったわ」
きゃはははっ、とメリルは耳障りな笑い声を漏らす。
「でも、よかったじゃない。あんたって、汚水よりも汚らしいんだから。それで少しは綺麗になったでしょ」
下を向いたまま、私はなにも言わずにいた。反応すれば、調子に乗せるだけだ。
黙ったまま、私は雑巾を手に取り、掃除を始めた。
すると、メリルは興味をなくしたように別の話を始めた。
「お母様。今夜の舞踏会、根回しはよろしくて?」
「ええ。それはもう。あんたこそ、あっちとは上手くやってるんだろうね?」
「当たり前でしょ。あたしにぞっこん。なんでも言うこと聞いてくれるわ」
「ようやくこの貧乏暮らしから抜け出せるわね。まったく、気が利かないのに家柄がいいから妥協して結婚したってのに、すぐ死んじまうなんて甲斐性なしにもほどがあるわ」
亡くなったお父様を侮辱されて、私はマチルダを睨みつけていた。
しかし、彼女はそれに気がついていない。
「あー、早く夜にならないかなぁ。舞踏会が本当に楽しみ」
そう言いながら、二人は去っていった。
危ぶなかった。もう少し、ここにいたら、うっかり手を出していたところだ。
床と暖炉の掃除を続けていると、あっという間に夜が来た。
マチルダとメリルはドレスを着て、舞踏会へ向かった。
私も行きたかったけれど、ドレスもなければ靴もない。
ついでに食べる物もない。カボチャだけあるけど、これは明日の分だし。
遊びに来た三匹の野良猫を撫でながら、空腹を紛らわす。名前はクロ、シロ、シマだ。そのまんま、毛の色から名前をつけたのだ。
それにしても、お腹が空いた。
もうふて寝をするしかないわ。
机に突っ伏す格好で、私は目を閉じる。ずっと掃除をしていたからか、すぐに眠気がやってきた。
コンコン、と音がした。
微睡んだ意識の中、誰かがドアをノックする音が聞こえる。
私は目を覚ましたが、音は鳴っていない。
けれどもなんだか気になってしまい、玄関まで行ってドアを開けた。
そこに真っ黒な服を来たおばあさんが立っていた。
「こんばんは。シンデレラ」
「……こんばんは……」
知らないおばあさんだ。けれども、少し懐かしいような気もした。
「舞踏会に行きたいのかい?」
どうして知っているんだろう?
「はい。でも、ドレスがなくて」
「魔法をかけてあげるよ。魔女の魔法を」
おばあさんが指先を向ければ、光が放たれた。
今日、散々掃除をした暖炉のすすが光に誘導されるように私のもとへ飛んできて、青いドレスに変わった。
まるで透明な湖を彷彿させる、美しい仕立てだった。
テーブルに置いてあったカボチャが、外に移動して、カボチャの馬車に変わった。
猫のクロとシロは二頭の馬に、シロは御者に変化していた。
「それと」
おばあさんがガラスの靴を差し出してくれる。
「あれ? でも、靴はもう素敵なものをいただいたわ」
さっきの魔法で、私はドレスにぴったりの靴を履いている。
「これはあんたに必要なものだよ。使い方は、その時が来れば、このガラスの靴が教えてくれる。持ってお行き」
よくわからなかったが、ガラスの靴を受け取ると、それは光になって私の体に吸い込まれていった。
おばあさんを見ると、彼女はこくりとうなずいた。
「ありがとう、おばあさん。行ってくるねっ!」
「はい、行ってらっしゃい」
カボチャの馬車に乗って、私は舞踏会へ向かったのだった。
そういえば、招待状も持ってないわ。そう思ったのだけれど、馬車とドレスを見て、守衛の人たちは快く城の中に案内してくれた。
オーケストラの演奏が響く中、貴族の紳士淑女が踊っている。きらびやかな内装、豪奢なドレス、なにもかも絵画を切り取ったかのように美しい。
父が生きていた頃は私も舞踏会には何度か出たことがある。けれども、今はあまり踊る気にはなれない。
なぜって? とてもお腹が空いているの。
というわけで、少し離れたところに用意された軽食にありつくことにするわ。
野菜も素敵だけれど、家ではあまり食べられないお肉にしましょう。
ローストビーフ、ローストビーフ、そしてローストビーフ。ソースを全種類制覇する勢いで、ローストビーフを頬張っていく。
付け合わせのアスパラまで非常に美味しい。これはおかわりをしなければ申し訳が立たないわ。
「ふふっ」
と、隣から上品な笑い声が聞こえた。
見れば、可愛らしい令嬢が微笑んでいた。湖のような鮮やかなブルーの髪と、宝石のような瞳。素敵なドレスに身を包んだ、優しそうな女の子だ。
「も、申し訳ございません。とても気持ち良くお召し上がりになさっているので、私も楽しくなってしまいました」
恐縮しながら、その子は言う。
「私はカイフォーン伯爵家のシーラと申します」
「シンデレラよ。フォーノールド男爵家の」
短く私は答えた。
「よろしく、シンデレラ。ねえ、良かったら話し相手になってくださらない? 私、踊れなくて、一人で誘われてしまいそうなので」
私は少し考えた。
「あの……フォーノールド家は父が亡くなって、跡継ぎがいないの。私はお義母様にはよく思われていないし。だから、私と付き合っても伯爵家にはあんまりいいことがないわ」
すると、シーラは不思議そうな表情を浮かべた。
「お友達になるのには関係のないことでしょう」
純粋無垢な言葉だった。どうやら、本当にただ話し相手が欲しいだけみたいだ。
「確かに、そうね」
と、それから私はシーラと世間話に花を咲かせた。勿論、食べ物を物色する目は常に光らせているわ。
しばらく二人で話し込んでいると、やがて周囲の貴族たちの声が耳に入ってきた。
「ねえ、シーラ様よ。カイフォーン伯爵家の」
「本当だわ。ロレンス第一王子との婚約が決まったのよね」
「しっ。発表はまだ。もしかしたら、この舞踏会でって言われているわ。それまではあまり表立って言っちゃだめよ」
完全に丸聞こえだったが、表立って言ってないらしい。
それにしても、ロレンス第一王子と婚約とはおめでたい話ね。
私がシーラをじっと見ると、彼女にも令嬢たちの噂話が聞こえたのか、恥ずかしそうに目をそらした。
「な、なあに?」
「おめでとう」
私は笑顔で祝福した。
「あ、ありがとう。でも、正式発表はまだだから」
「いつするの?」
「……今夜」
やっぱり、舞踏会で発表するようだ。
「ロレンス王子ってどんな人なの?」
「え? 優しい人……かな。以前お会いしていた頃は」
「以前?」
今は違うのか気になった。シーラが少し浮かない顔をしていたからだ。
「……なんだか、最近、お会いできない時が増えたように思えて。お忙しいから、仕方ないのだけれど……」
「あんまりこういう場所で言わない方がいいわ。私がどんな噂を立てるかわからないでしょ」
「あ……でも、なんだか、シンデレラは大丈夫な気がして……」
さすがにお人好しというか、もう少し気をつけた方がいいと思う。第一王子との婚姻なのだから、妬む人間は山ほどいるだろう。
「今日会ったばかりなのに?」
「変、かしら?」
「うん。変ね」
「それ、思った答えと違うわっ!」
シーラの反応が可愛らしくて、私は思わず笑ってしまう。つられるように、くすくすと彼女も笑っていた。
その時、オーケストラの演奏が止まった。
「舞踏会の途中にすまない」
凛とした声が響く。声の主は、ロレンス第一王子だった。
すると、貴族たちはロレンスに注目し、期待するように次の言葉を待っている。皆、今夜ロレンスとシーラの婚約発表があるのは噂で聞いているのだろう。
「実は――」
「ロレンス第一王子」
そう口にして、歩み出たのは私の継母、マチルダだった。
「例の件で、一つお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「ふむ。フォーノールド男爵が遺した娘の件だったな。よい。話せ」
私の話? いったい、なんのこと?
「主人が亡くなって以来、娘の様子がおかしいと思って、様子を探っておりました。すると、やはりというべきか、残念なことに娘のシンデレラは不倫をしていたのでございます」
はあっ!?
私が驚いたのと同じタイミングで、この場の貴族たちも声を漏らしていた。
「平民であれば、このようなところで話すまい。相手は誰だ?」
「はい。カイフォーン伯爵、ダニエルでございます」
カイフォーン伯爵と言えば……?
私が隣を見ると、シーラが「嘘……」と信じられないような目をしていた。ダニエルは彼女の父親である。
「カイフォーン伯爵が……」
衝撃を受けたのはロレンスだ。
しかし、すぐに自制心を働かせ、毅然とした表情に戻った。
「不義の罪を犯したならば、致し方がない」
「お、お待ちください、ロレンス様っ!」
そう声を上げたのはシーラである。
「お父様がそのようなことをするはずがありませんっ! そもそも、最近は体調が優れず、屋敷にこもっておりました。密通など決して……!」
「恐れながら、シーラ様。あなたの御言葉は証言にはなりませんよ」
慇懃な態度で、けれども見下すようにマチルダが言った
「な、なぜですか……?」
「ご身内ですものねぇ。それに、シーラ様はロレンス第一王子との婚約話があおりでしょう?」
「…………!?」
息を吞んだのはシーラだけではなく、ロレンスも同じだった。皆、噂で知っていることとはいえ、最悪な形での発表となってしまった。
「お父様が不義を働く方と知れれば、王室もその件は破談とするでしょう。あなたはそれを避けたいがために、お父様をかばっているだけです」
「そ、そんな……! そんなことはありませんっ!!」
シーラは必死に否定したが、場の空気は完全にマチルダに支配されていた。
「母親がわざわざ娘を貶めるような嘘を言うはずがない。受け入れがたいが、これは事実であろう」
毅然とロレンスがそう結論づける。
育ちの良い王子様には、継母にいじめられる子のことなど思い当たりもしないようね。
「無論、王族として見過ごすわけにはいかぬ」
「お待ちくださいっ、ロレンス様。確かに娘は罪を犯しました。しかし、死罪だけは、死罪だけはどうかこの通りお許しください。それ以外ならば、国外追放でもなんでも構いません。だから、せめてっ!」
マチルダは大仰な仕草でその場に平服し、嘆願した。
完全に芝居ね。そもそも、不倫で死罪になった例はない。余計な温情で私への罪を軽くさせないためにしているのだろう。
「わかった。では、カイフォーン伯爵と王族との接見を禁じる。またフォーノールド男爵の娘シンデレラは国外追放だ! そして、皆も噂は聞き及んでいたかと思うが、カイフォーン伯爵令嬢シーラと私の縁談は、王室として認めることはできない。これをもって破棄とする!」
名裁きとばかりにロレンス王子は堂々と言った。
貴族たちのどよめき、とカイフォーン伯爵に対する雑言、そしてマチルダのしたり顔が目に映った。
このままでは私は国外追放されてしまい、お父様が遺した物を全て奪われる。
なにより、こんな理不尽なことは許せるはずがない。
だけど、どうすればこの状況を覆せるの?
その時だった。私の手のひらに光が集った。見れば、その光の中から、ガラスの靴が現れる。
ガラスの靴は教えてくれた。私にどんな魔法が宿っているのかを。私になにができるのかを。
「お願い、ガラスの靴」
すると、ガラスの靴から光が放たれ、私に二重の魔法がかけられていく。
着ているドレスは黒く染め上げられていき、光はその場にいた全員を吞み込んだ。
構築されているのは法廷。そう、そこは全てがガラスで作られた、ガラスの法廷だった。
「な、なあに、これ……?」
「なんだ、なにが起きたのだっ?」
「ここは、どこだっ!?」
シーラや王子、貴族たちは突然の出来事に混乱しているようだ。
そんな中、私は円形の法廷の中心に歩み出た。
皆の注目が私に集まる。
「ようこそ、皆様方。魔女ノ法廷へ。私はシンデレラ。魔女よ。深夜12時までは」
「シンデレラ……?」
驚いたようにシーラが目を丸くしている。
「あっ! あんたっ! シンデレラッ!」
食ってかかったのがマチルダだ。
「このおかしな場所は、あんたの仕業だってのかいっ? とっとと元の場所にお戻――」
「静粛になさって」
手にした小槌――ガラスのガペルを打ち鳴らすと、マチルダはまるで魔法にかけられたように喋れなくなる。パクパクと口を動かすが、声が出ない様子だ。
「いい? この法廷では私に逆らえない。判決が出るまでね」
「は、判決とは……なんだ?」
ロレンスが言った。
「もちろん、カイフォーン伯爵と私の不義の話よ。不自然だと思わない? 伯爵邸で密通ができるはずがない。それなら、会っていたのは外よね。でも、誰にも見られないってことがあるのかしら? この話を知っていた方、お義母様以外にどなたかいらっしゃって?」
貴族たちに問う。彼らはざわざわと話し始めるが、申し出る者はいない。
「誰もいないわよね。今まで、こういう密通話で噂にならなかったことがあったかしら? 大抵はどこかで見られるし、いくら口止め料を払ったところで、人の口に戸は立てられないもの。誰にも内緒ねって言って、噂になるものだわ」
確かに、と口々に同意するような声がそこかしこから聞こえてくる。
「だ、だが……母親が娘を貶めるような嘘を言うはずが……」
「あら? 血のつながっていない娘を召使扱いしているような義理の母なら、なんの不思議もないわ。それに――」
ロレンスの言葉に、私は真っ向から反論した。
「理由があるのよ」
「り、理由?」
「私とカイフォーン伯爵との不義を捏造すると、どうなるかしら?」
「で、デタラメを言わないでっ! ロレンス王子、このような魔女の言うことは――」
「はい、静粛に」
ガラスのガペルを再び叩くと、またしてもマチルダは沈黙した。
「ど、どうなるというのだ?」
ロレンスが聞く。
「ロレンス王子とシーラ様の婚約が破談になるわ。実際なったわけでしょ」
「……で、ですが、シンデレラ。私の縁談が破談になったとして、マチルダ様になんの得があるのですか?」
私の魔女っぷりに怯えているのか、シーラは敬語で聞いてきた。
「私、舞踏会に来る前にこんなことを聞いたのよね」
継母マチルダと姉メリルの会話を私は思い出す。
『お母様。今夜の舞踏会、根回しはよろしくて?』
『ええ。それはもう。あんたこそ、あっちとは上手くやってるんだろうね?』
『当たり前でしょ。あたしにぞっこん。なんでも言うこと聞いてくれるわ』
『ようやくこの貧乏暮らしから抜け出せるわね。まったく、気が利かないのに金があるから妥協して結婚したのに、すぐ死んじまうなんて甲斐性なしにもほどがあったわ』
その時はなんのことわからなかった。しかし、今日の欠席裁判をマチルダが企んだのだとすれば、自ずと答えは見えてくる。
「ねえ、ロレンス王子。最近、シーラが会えないことが増えたそうね。婚約者と会えないだなんて、なにをなさっていたのかしら?」
じっとロレンスの目を見つめると、彼は僅かに目をそらした。
「そ、それは色々と――」
「浮気なさっているのでしょう?」
一瞬でロレンスの顔が青ざめた。
「私の姉、メリルと」
「なっ! シンデレラッ! 黙って聞いてれば、よくそんな口からデマカセを言えたも――」
「うるさいわ。静粛に」
ガラスのガペルを打ち鳴らし、メリルを黙らせる。
「つまり、お義姉様、あなたが黒幕ね。あなたはロレンス王子の結婚を破談にしたくて、 カイフォーン伯爵の不義をでっちあげた。婚約者のお父様がそんなことになれば、王室の名誉を守るため、縁談を進めるわけにはいかないものね」
「そ、そんなのは憶測ではないか。なんの証拠があるというのだっ?」
ロレンスがそう言った。
「ええ、それでは、どうぞ証言台へ。お義姉様でも、お義母様でもけっこうですよ」
私が指し示した証言台は低い。そこにはガラスの靴があった。
「無実の方だけが、このガラスの靴を履くことができるの。ただし、証人が偽証すれば、その方はガラスになってしまうわ。未来永劫ね」
ロレンスも、マチルダも、メリルも、私の説明を聞き、全員が絶望的な表情を浮かべた。
「ほら、どうぞ。お義姉様。無実を証明なさって」
彼女の背を押して、ガラスの靴の前まで連れていくと、
「や、やめてっ! そうよっ! そうっ! ぜんぶ、私が企んだのっ! だって、シーラとは政略結婚だって言ったんだからっ! 破談の口実さえあれば、私と一緒になってくれるって!!」
「ばっ、な、なにを言い出すのだっ!!」
白状したメリルを、叱りつけるようにロレンスが言う。
「もういいじゃないっ! 仕方ないわ。こうなったら、二人で駆け落ちしましょう」
「馬鹿を言うな、この売女がっ!!」
すり寄ってきたメリルを、振り払うようにロレンスが殴りつけた。
「身の程をわきまえよ。お前のような卑しい出のものが、王族と一緒になれるとでも思ったかっ!! 金を恵んでやって、まだ慈悲が足りなかったと申すかっ!!」
「う、そ……うそ……嘘ぉ……! なんだったのっ!? 愛してるって言ったじゃないっ! 何度も何度も、ベッドの中で、あんなに愛してるって言ったじゃないっ!!」
「馬鹿女がっ! いちいち真に受けるところが、卑しいのだっ! 夢を見られただけで光栄に思うのが礼儀であろう!」
愚かな手段で略奪しようとしておきながら、それでも愛を信じていたのか、メリルは惨めな顔で、大粒の涙をこぼす。
「貴様もだ、マチルダッ! 王室を謀り、ただで済むと思うなっ!! お前と関わった貴族は金輪際、王室との関りを失うと思えっ!」
「そ、そんなっ! それだけはっ! お、お許しを、ロレンス王子っ!」
マチルダがすがりつくが、ロレンスは「うるさいっ!」と払いのけた。
「浮気をしておいて、ずいぶんと偉そうね、王子様?」
私が言うと、彼はびくっと体を震わせた。
「ま、待て。なにをするつもりだ? 私は正直に喋っただろう?」
「そうね。でも、無実ではなかったわ」
ガラスの靴が光り輝き、王子様が光に包まれる。やがて、何事もなかったように光は消えた。
「……な、なにを……?」
「浮気の罰よ。あなたが行為をしようとしたら、その瞬間、ガラスがあなたの体内で大きくなって、激痛が走るの。ある部分にね」
「ど、どこに?」
「さあ? 試してみたら?」
恐怖に震え、ロレンスはごくりと唾を飲み込む。
「お世継ぎは第二王子様に任せることね」
私はくるりと踵を返し、外へ向かって歩き出す。
貴族たちは不安そうな顔で私の行く先を注視している。
「皆真実がわかったでしょ。もういいわ、解放してあげる。それじゃ、これで閉廷」
途端にガラスが砕け散り、法廷の世界が消えていく。
私が魔女だという記憶は彼らには残らない。
しかし、誰がどんな罪を犯したのか。その記憶は永遠に残り続け、日常に戻った後も罪人たちを苛み続けるだろう。
話はこれでお仕舞だけれど、そうね。その後のことを少しだけ語ろうかしら?
シーラはあの事件以降、少し塞ぎこんでいたが、時折私と遊ぶようになって、元気を取り戻した。
元々、ロレンス王子に違和感を覚えていたから、ショックが少なかったのが幸いした。
聞いたところによれば、ロレンスとメアリの関係は完全に破綻した。ロレンスはあの魔女裁判以降、意気消沈し、人が変わったようになってしまったらしい。
新しい縁談にもまったく興味を示さず、噂では第二王子が王位を継ぐことになりそうだとか。
継母のマチルダと姉のメアリはと言えば、責任を押しつけ合って、毎日のようにいがみ合っている。元々、性格が悪い二人だ。どんどんエスカレートして、とうとう公の場で他の貴族に恥をかかせてしまったとか。
この国から追放されるのも、時間の問題だと言われている。
ああ、本当、いい気味だわ。
めでたし、めでたし。
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