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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第一章:ナケナシ王国立て直し編 ~契約書の罠とブラックな労働環境の改善~

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第7話:旅立ちの理由と、特大弁当

「……よし、荷造り完了や」


 王城の一室で、ヨシコはパンパンに膨れ上がった風呂敷包みを叩いた。  

中身は着替えや日用品、それに市場で買い込んだ調味料や保存食だ。  

王様が「勇者の装備」として支給してくれた「マジックバッグ(容量無限)」もあるのだが、すぐに使うものは手元にないと落ち着かないのが、おばちゃんの性分である。


「ヨシコ殿、本当に行かれるのですか?」


 部屋の入り口で、騎士団長のガインが沈痛な面持ちで立っていた。

その後ろには、暫定ギルド長のミランダや、先日助けた少年魔導師もいる。


「せや。契約は契約やからな」


 ヨシコは風呂敷を背負うと、皆の方に向き直った。


「私がここに来たんは『魔王を何とかするため』や。……この国の内側(ブラック体質)はだいぶマシになったけど、本題はまだこれからやろ」


「し、しかし! 貴殿がいなくなれば、また元に戻ってしまうかもしれません! 国王陛下も『宰相になってくれ』と仰って……」


「アホか。いつまでも私が付いてたら、あんたらが成長できへん」


 ヨシコは苦笑しながら首を振った。


「契約書は直した。シフト表も組んだ。不正会計も潰した。……土台は作ったんやから、あとはあんたらが運用するだけや」


 厳しい口調だが、その目は優しい。  

ガインたちは何も言い返せず、ただ俯いた。


「それにな……」


 ヨシコは窓の外、遥か彼方に霞む「魔王城」の方角を見つめた。


「放っとかれへんのよ。魔王ってのも」


「魔王を……ですか?」


「ああ。こっちに来て分かったんやけど、魔王軍かて組織や。末端の兵隊モンスターたちは、好きで人間を襲ってるわけちゃう。上からの命令ノルマで動いてるだけや」


 ヨシコの脳裏に、かつてブラック企業の営業職だった息子の言葉が蘇る。  

『無理なノルマなんだ。でも、やらないと自分の居場所がなくなる』 魔王もまた、何かのシステムに縛られた被害者なのかもしれない。


「あっちにも、ブラックな環境で泣いてる子供がおるかもしれん。……やったら、行かなあかんやろ」


 ヨシコの決意は固かった。  

ガインは深く一礼し、道を空けた。


 城門の前には、黒山の人だかりができていた。  

騎士団員、冒険者、スラムの子供たち、そしてパン屋の店主や犬耳の少年まで。

ヨシコが王都滞在中に世話を焼いた人々だ。


「おばちゃーん! 行っちゃやだー!」


「校長! 俺たちもっと教えてほしいことあるのに!」


 レオ率いるスラムの技術者集団(元スリ)たちが駆け寄ってくる。  

ヨシコは苦笑しながら、彼らの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「泣くな泣くな、湿っぽいのは好かん。……ほら、これやっとくわ」


 ヨシコは懐から、分厚いファイルをレオに手渡した。


「なんこれ?」


「『業務引継書』や。

工場の運営マニュアル、品質管理基準、あと美味しいまかないのレシピも入ってる。

困った時はこれを読みな」


「……ッ! うえぇぇん、校長ぉぉ!」


 レオがヨシコの腰にしがみついて泣く。  

それを見て、他の人々も次々とヨシコに駆け寄ってきた。


「ヨシコ殿! これを持って行ってください!」


「ウチの店で焼いたパンだ! 腐るほどあるぞ!」


「回復薬です! 最高級品です!」


「靴下編んだの! 履いて!」


 あっという間に、ヨシコの周りは「餞別」の山になった。  

金銀財宝ではない。  

パン、干し肉、果物、衣類、お守り。  

すべて、彼らがヨシコを想って用意した「生活の糧」だ。


「ちょ、ちょっとあんたら! こんなに持てへんわ! マジックバッグにも入らんで!」


 ヨシコは嬉しい悲鳴を上げた。  

かつて、こんなに見送られたことがあっただろうか。  

ただの総務のおばちゃんが、異世界でこんなにも愛されている。


 その時、人混みがサッと割れ、ファンファーレと共に王様が現れた。  

その後ろには、数人の兵士が何やら「巨大な額縁」を運んでいる。


「……ヨシコよ」


「なんや王様。またなんかトラブルか?」


「違う。……約束の品が完成したから、見せに来たのだ」


 王様の合図で、兵士たちが額縁にかかっていた布を取り払った。


「どや!」


 そこに描かれていたのは、精密な油絵だった。  

召喚時のあの時。  

引きつった顔で怯える王様と、その横で満面の笑みでピースサインをするヨシコ。  

背景の石碑の文字が日本語に変わっているところまで、忠実に再現されている。


「……ぶっ! なんやこれ!」


 ヨシコは吹き出した。


「めっちゃリアルやんか! 恥ずかしいわ!」


「国の宝として、玉座の間に飾ることにした。『国を変えた瞬間』の記録だ」


 王様は真顔で胸を張った。  

どうやら本気らしい。

この国は、数百年後もこの「ピースサインをするおばちゃん」の絵を拝むことになるのか。  

ヨシコは呆れつつも、目頭が熱くなるのを感じた。


「……おおきに。私の顔、忘れんといてな」


「忘れるものか。……それと、これだ」


 王様が、背中に隠していた包みをおずおずと差し出した。  

竹の皮で包まれた、温かい何か。


「わしが……今朝、厨房で作った。中身は梅干しと、焼き鮭だ。……厨房の者に作り方を教わったから、味は保証する」


「……ほう」


 ヨシコは包みを開けた。  

綺麗に握られた、大きなおにぎりが入っていた。  

王様の手には、火傷の跡と、絆創膏が貼ってある。


「……不器用やなぁ。でも、王様にしては上出来や」


「フン。……死ぬなよ。必ず帰ってこい」


「はいはい。有給消化したら戻ってくるわ」


 ヨシコはおにぎりを大事に風呂敷へしまうと、皆に向かって大きく手を振った。


「ほな、行ってくるで! 留守の間、ちゃんとメシ食うんやで! 歯ァ磨いて寝や!」


「「「行ってらっしゃい!!」」」


 数百人の大合唱に見送られ、ヨシコは王都を後にした。  

その背中は、来た時よりもずっと大きく、そして温かく見えた。


 街道を歩きながら、ヨシコはスマホを取り出した。


「……見たか、カケル。お母さん、ちょっとは人気者になれたみたいや」


 画面の向こうには、まだカケルの既読がつかないメッセージアプリがある。  

防衛戦の時は取り乱してしまったけれど、今はもう大丈夫だ。


「待ってなさい。魔王も勇者も、あんたも……お母さんが全員まとめて面倒見たるから!」


 最強の総務おばちゃん、第二章「旅路編」のスタートだ。


(続く)

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます! これにて「第一章:ナケナシ王国立て直し編」完結です。 王様のおにぎり、不格好だけど最高のご馳走ですね。


【読者の皆様へのお願い】 ここまで読んで「面白かった!」「ヨシコさん頑張れ!」と思ってくださった方は、 ページ下にある【☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価いただけると、作者が泣いて喜びます! ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします。


明日からは「第二章:魔王軍ホワイト化計画」がスタートします! 敵地へ乗り込むヨシコさんを、引き続き見守ってください!

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― 新着の感想 ―
世直し奉行、ヨシコさんの旅立ち 異世界人も、ヨシコオカンと関われば、みんな素敵な笑顔になれる。やっぱヨシコさん超最強・超最高! 魔王軍まで、面倒をみようと思える懐の深さ、素敵過ぎる〜 今後の活躍も期待…
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