表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第一章:ナケナシ王国立て直し編 ~契約書の罠とブラックな労働環境の改善~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

第6話:防衛戦のシステムエラーと、おばちゃんのミス

その日、王都に非常警報が鳴り響いた。


「――東の空より、魔物の群れ接近! その数、およそ300!」


 王城の作戦指令室は怒号に包まれていた。  

ヨシコは王様や騎士団長のガインと共に、巨大な水晶モニターを見つめていた。  

映し出されているのは、空を埋め尽くすガーゴイルの群れだ。


「結界はどうなっとるんや!」


「だ、ダメです! 先ほどから出力が安定しません! エラーが出ています!」


 魔導師長が悲鳴を上げる。  

王都を守るはずの光のドームが、チカチカと点滅を繰り返している。  

召喚時にヨシコが契約書を書き換えさせたことで「王権バグ」は直ったはずだが、長年のメンテナンス不足(ブラック労働による整備不良)がここに来て祟ったのだ。


「クソッ、迎撃部隊、前へ! 結界が消えた瞬間に撃ち落とせ!」


 ガインが叫ぶ。  

水晶には、城壁の上に整列する若い魔導師部隊が映っていた。  

その最前列に、一人の少年がいる。

まだあどけなさの残る顔。

恐怖で杖を持つ手が震えている。


「……あ」


 ヨシコの心臓が、ドクンと跳ねた。  

――あの少年を下がらせたら、前線が崩れる。

しかし、少年の顔色が生気のない土気色をしている。  

それは、あの日――徹夜続きでボロボロになり、そしてある日突然、デスクから消えてしまった息子の、最後の疲れた笑顔と重なった。


(あかん。消えてまう。あの子もまた、どこかへ……!)


 ヨシコの頭の中で、冷静な判断回路が焼き切れた。


「逃げろ! カケル!!」


 ヨシコは叫ぶと、出口へと駆け出した。  

総務としての役割も、指揮官としての立場も、すべて吹き飛んでいた。

ただの「母親」として、幻影を追いかけようとしたのだ。


「ヨシコ殿!? どこへ行く!?」


「現場や! 私が行って止めてくる!」


 ヨシコがドアノブに手をかけた、その時だった。  

エプロンのポケットに入れていたスマホが、最大音量で着信音を鳴らした。  

自動的にスピーカーがオンになり、怒声が響き渡る。


『座れ、姉さんッ!!』


 部屋中の空気が凍りつくような、鋭い声。

長男のイチロウだ。


『今、現場に行ってどうする! 姉さんは魔法が使えるのか! 剣が振れるのか! 生身の人間が飛び出しても、足手まといになって二人とも死ぬだけだ!』


「で、でも! あの子が……カケルみたいに、また消えて……!」


『カケルはもういない!』


 イチロウの容赦ない言葉が、ヨシコの胸を刺す。  

警察が捜索を打ち切り、「失踪(おそらくは自死)」と断定したあの日がフラッシュバックする。  

ヨシコはハッとして動きを止めた。


『姉さんが今やるべきことは何だ。感情で動くことか? 違うだろ! ……シロウ、解析は!?』


 間髪入れず、四男のシロウの声が響く。


『終わってる! 姉ちゃん、スマホを水晶モニターに向けて! 結界の魔術式を映して!』


 ヨシコは震える手でスマホを構えた。  

イチロウの叱責で、冷や水をぶっかけられたように意識が覚醒する。  

そうだ。私は何をしている。  

泣いて探し回っても、あの子は見つからなかった。

でも、今目の前にいるこの子は、まだ助けられる。


「……ごめん。私が悪かった」


 ヨシコは自分の頬を、パァン! と両手で叩いた。  

乾いた音が室内に響く。  

顔を上げた時、そこにはいつもの「最強の総務」の目が戻っていた。


「シロウ! 映したで! どこがバグの原因や!」


『右下の第7術式や! あーもう、滅茶苦茶やな!』


 シロウの早口な関西弁が、指令室に響き渡る。


『記述がループしててメモリ食い潰しとる! 典型的なスパゲッティコードや! 現場の魔導師長に伝ええ! 「3行目の詠唱をカットして、5行目の魔力をバイパス直結させろ」って!』


 ヨシコは魔導師長に食ってかかった。


「聞いたか! 第7術式の3行目を削除! すぐにバイパス繋げぇッ!」


「は、はいッ!」


 魔導師長が慌てて通信魔道具で現場に指示を飛ばす。


 モニターの中で、最前列の少年が呪文を唱えようとした瞬間――  頭上の結界が、ブォン! と力強い音を立てて輝きを取り戻した。  

ガーゴイルの爪が結界に弾かれ、火花を散らす。


「結界、再稼働! 強度安定しました!」


「よし! 騎士団、今だ! 反撃開始!」


 ガインの号令で、安全な結界の中から一斉射撃が行われる。  

ガーゴイルの群れは次々と撃ち落とされ、撤退していった。


 少年は無傷だった。  

へたり込み、安堵の涙を流している姿がモニターに映る。


 戦闘終了後。  

指令室の隅で、ヨシコは一人、スマホを握りしめてうなだれていた。


「……情けないわ。私、また間違うとこやった」


『人間だもの、仕方ないよ』


 電話の向こうで、イチロウの声は優しかった。

さっきの鬼のような剣幕が嘘のようだ。


『姉さんがカケルの失踪を引きずってるのは知ってる。……俺たちだってそうだ。あいつを守ってやれなかった』


『せやで姉ちゃん』


 シロウも続く。


『でも、だからこそ、姉ちゃんには「司令塔」でいてほしいんや。もう二度と、誰も見失わんために』


「……せやな。あんたら、いつの間にこんな立派になったんやろな」


 ヨシコは目尻に浮かんだ涙を指で拭った。  

生きているのか死んでいるのかさえ分からない息子・カケル。

その空席を埋めるように、かつて自分が守ってきた弟たちが、今は自分を支えてくれている。


「ヨシコ殿」


 背後から声をかけられた。  

振り返ると、ガインと、あの最前列にいた少年魔導師が立っていた。


「助けていただき、ありがとうございました! あの時、ヨシコ様が的確な指示をくれなかったら、僕は……」


「……いや、ええんや」


 ヨシコは少年の手を取り、その温かさを確かめるようにギュッと握った。  

ここにいる。

温かい。

消えていない。


「あんた、よう頑張ったな。怖かったやろ」


「は、はい……!」


「今日はもう帰り。家で美味いもん食って、泥のように寝なさい。これは業務命令や」


 少年はボロボロと涙を流し、何度も頭を下げて去っていった。  

その背中を見送りながら、ヨシコは深く息を吐いた。


 カケルはまだ見つからない。  

でも、私がここで頑張れば、巡り巡ってどこかの空の下で、あの子も誰かに助けられているかもしれない。  

そう信じることにした。


「さて! 落ち込んでても腹は減る!」


 ヨシコはパンと手を叩き、ガインを振り返った。


「団長、今日の祝勝会は私が仕切るで! 経費で一番高い肉、買うてこい!」


 いつもの笑顔が、そこにはあった。  

失われたものを嘆くのではなく、今あるものを守るために。  ヨシコの戦いは、新たな決意と共に続いていく。


(続く)

いつも気丈なヨシコさんが見せた弱音と、それを支える弟たち。

家族の絆を感じていただけたら嬉しいです 。


さて、今回ヨシコさんが思い出して涙した行方不明の息子「カケル」ですが……。

実は、彼もまた別の場所で、懸命に戦っています。


弊作「異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが? (以下『…前借スキル…』)」の主人公は、なんとそのカケル君です!

ヨシコさんが異世界で奮闘している裏で、息子は何をしているのか?


親子の物語がリンクするクロスオーバー、ぜひカケル君の無事も確かめてやってください!


▼『…前借スキル…』はこちらから読めます。

https://ncode.syosetu.com/n1424ll/

こちらもご贔屓にお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ