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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第一章:ナケナシ王国立て直し編 ~契約書の罠とブラックな労働環境の改善~

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第4話:冒険者ギルドと、不正会計の断罪

「――はあ? 手数料で半分引くって、どういうことですか!」


 冒険者ギルドの受付カウンターで、若い女性冒険者の悲鳴のような声が上がった。  

彼女の装備はボロボロで、革の鎧にはいくつもの修復跡がある。

命がけで薬草を採取してきたのだろう、手は泥だらけで傷だらけだ。


「決まりですから。ギルド運営費、施設維持費、それに『安全保障税』……合わせて報酬の50%を徴収します」


 受付の男は、面倒くさそうに事務的に答えるだけだ。  少女は悔しそうに唇を噛み締め、わずかな銀貨を握りしめて肩を落とした。


「……ひどい話やな」


 その一部始終を見ていたヨシコの目が、冷たく光った。  

ヨシコは今日、ギルドの視察に来ていた。

魔王討伐の旅に出るにあたり、情報のハブとなるギルドの協力が必要だったからだ。  

だが、足を踏み入れた瞬間から、ヨシコの「総務の勘」が警鐘を鳴らしていた。


 冒険者たちは皆、装備が貧相で痩せ細っている。  

対照的に、このギルドの建物はやけに豪華だ。

床は大理石、天井にはシャンデリア。

受付の職員たちの制服も、無駄に刺繍が入った高級品だ。


(金の流れが腐っとる。……匂うな)


 ヨシコはツカツカとカウンターへ歩み寄った。


「ちょっと、あんた」


「あ? なんですか、おばさん。依頼ならあっちの……」


「ギルド長に会い来たんや。取り次ぎな」


「はあ? ギルド長は多忙で……」


 ヨシコは無言で、王様から貰った『全権委任状(王家の紋章入り)』をカウンターに叩きつけた。


「……今すぐや」


 通されたギルド長室は、さらに悪趣味だった。  

ふかふかの絨毯、壁に飾られた名画、そして昼間からワインを開けている小太りの男。

ギルド長のドズーだ。


「やあやあ、噂の異世界勇者殿ですか。こんなむさ苦しい所へようこそ」


 ドズーは愛想笑いを浮かべながらも、その目はヨシコを「田舎の老婆」と値踏みしていた。


「単刀直入に言いますわ。さっき受付で見せてもろたんやけど……このギルド、報酬の中抜きがエグすぎまへんか?」


「中抜き? 失礼な。正当な『手数料』ですよ。組織を運営するには金がかかるのです」


「ほう。ほな、その金の使い道、詳しく教えてもらおか」


 ヨシコは割烹着のポケットからスマホを取り出し、テーブルの上に置いた。  

通話先は、長男のイチロウだ。


「イチロウ。聞こえるか?」


『ああ、バッチリだ姉さん。……こりゃひどい部屋だね。成金の典型だ』


 ドズーが眉をひそめる。


「なんだその板は。……まあいい。運営費の内訳ですか? ええと、修繕費に、人件費に……」


「帳簿出しなはれ」


「は?」


「口で言うても信用できへん。あんたがつけてる帳簿、今ここに出しなさい言うてんの!」


 ヨシコの剣幕に圧されたのと、王家の委任状の効力もあり、ドズーは渋々、金庫から分厚い帳簿を取り出した。  

どうせ素人には読めないだろう、とタカをくくっているのが顔に出ている。


 だが、それは致命的なミスだった。  

ヨシコは老眼鏡をかけると、カバンから愛用の「12桁電卓(ソーラー式)」を取り出した。


「おっしゃ、監査の時間や!」


 タタタタタタタッ!


 静かな部屋に、電卓を叩く凄まじい連打音が響き渡る。  

ヨシコの指は残像が見えるほどの速度で動き、目は帳簿の数字を次々と貪っていく。


「……3月の修繕費、架空計上やな。工事の実績がない。……接待交際費、対前年比400%増? 誰と飲み食いしたらこんな額になるんや」


「な、なにをブツブツと……」


「おいドズー! この『特別顧問料』ってのはなんや! 毎月、王都の貴族の口座に送金されとるやないか!」


 ドズーの顔から血の気が引いた。  

ヨシコは帳簿を指差しながら、スマホに向かって叫ぶ。


「イチロウ! ここのギルド規約、第12条! 『手数料ハ運営ニ必要ナ経費ニ限ル』ってあるな?」


『ああ。そして王国法第8条では『公益法人ハ不当ナ利益ヲ得テハナラナイ』とある。……姉さん、その帳簿の数字、完全に「横領」と「特別背任」の証拠になるよ』


 スマホから響く冷静な法的指摘に、ドズーが震え上がった。


「き、貴様ら……何者だ……!?」


「ただの総務のおばちゃんや! ……あんたな」


 ヨシコはバン! と机を叩いて立ち上がった。


「あの子らが泥だらけになって、命削って稼いだ金やぞ! それをあんたは、こんな高い酒に変えて飲み下したんか! 恥ずかしくないんか!」


「う、うぐっ……」


「その酒一本で、あの子の鎧が新調できたかもしれん。

ポーションが買えたかもしれん。

……あんたの贅沢のせいで、あの子らが怪我したり、死んだりしたかもしれんのやぞ!」


 ヨシコの脳裏に、先ほどの少女の悔しそうな顔と、ツギハギだらけの防具が蘇る。  

そして、それとは別の――遠い過去の、誰かの姿が一瞬だけ重なりそうになる。  

無理をして笑っていた、あの顔が。


(……ほんま、ええ加減にせえよ)


 こみ上げる怒りを飲み込み、ヨシコはドズーを睨み据えた。


「わ、わかった! 手数料は下げる! 3割……いや、2割でどうだ! 返金もする!」


「はぁ?」


「だから、許してくれ! これからは心を入れ替えて……」


 ドズーがすがりついてくる。  

だが、ヨシコは冷ややかな目で見下ろしたまま、スマホに向かって言った。


「……やてさ。イチロウ、告発の手続きは?」


『もう終わってるよ。姉さんが読み上げた不正の証拠を基に、「告発状」のドラフトを作成した。……今、姉さんのスマホに表示するから、王宮への「直訴用魔道具(目安箱)」にかざしてくれ』


「直訴用魔道具? ああ、部屋の隅にあるあの赤い水晶か」


 ヨシコは部屋の隅に設置された、民の声を集めるための魔道具へ歩み寄った。  

本来は手紙を入れるものだが、水晶部分は光を記録できる。


『スマホの画面の輝度を最大にして、水晶に押し当てて。……それと、確実に受理させるために「アレ」も添付しておこう』


「了解や」


 ヨシコは、イチロウが作成した完璧な『告発状(PDF)』を画面に表示し、水晶に読み込ませた。  

さらに、ダメ押しとして画像を切り替える。

召喚時に撮影した、「王様とのツーショット満面笑顔ピース写真」だ。


「件名は……『王様の友達・ヨシコより。大至急読んでな!』っと」


 送信完了。  

その数秒後。  

城の方角から、緊急事態を告げる鐘の音が鳴り響いた。


「な、なんだと!?」


「聞こえたか? 王様もお怒りのようやで。……あんたの私財、銀行口座、別荘、全部『差し押さえ』や」


 ヨシコはドズーの鼻先に指を突きつけた。


「あんたの贅沢のせいで、あの子らが怪我したり、死んだりしたかもしれんのやぞ! 返金くらいで済むと思うな! 刑務所で一生、罪償ってこい!」


 その時、ドアが乱暴に開かれた。  

武装した騎士たちが雪崩れ込んでくる。  

王宮からの捜査官だ。


「ギルド長ドズー! および経理担当理事! 業務上横領の容疑で拘束する!」


「ひ、ひいいぃぃっ!」


 ドズーと、甘い汁を吸っていた取り巻きの職員たちが、次々と引っ立てられていく。  

連行されていくドズーの悲鳴が遠ざかると、ヨシコは残された真面目そうな若手職員たちに向き直った。


「さて、腐ったミカンは排除したけど、組織は回さなアカン。……三男のサブロウ(コンサル)、繋がっとるか?」


『ああ、聞いてたで姉さん。トップが消えて現場が混乱する前に、暫定処置が必要やな』


 サブロウの冷静な関西弁が響く。


『王家に掛け合って、このギルドは一時的に「国営化」して監査を入れよう。それと、新しいギルド長には、現場からの叩き上げで、一番信頼されている人物を据えるべきや』


「せやな。……そこのお嬢ちゃん」


 ヨシコは、部屋の隅で怯えていた地味な女性職員に優しく声をかけた。  

彼女の袖口はすり切れ、指にはペンだこがあった。

ドズーたちの贅沢とは無縁に、実務を回していた証拠だ。


「あ、はい! わ、私ですか?」


「あんたの机の上にある、そのピンクの付箋」


 ヨシコは、彼女のデスクと、押収した帳簿を指差した。


「この帳簿に貼ってある『未払い』の警告付箋と、同じやつやな。……あんた、ずっと気にしてたんやろ? 上の不正に気付きながら、言えなくて苦しかったな」


 女性職員――ミランダの目から、涙が溢れ出した。  

ずっと一人で、不正な経理処理を強いられ、心を痛めていたのだ。


「……はい……怖くて、何も言えなくて……」


「よう耐えたな。今日からあんたが暫定ギルド長や。ウチのコンサルが遠隔でサポートするから、好きにやりな」


 ミランダは、涙を拭いながら何度も頷いた。

その指は、帳簿の端を強く握りしめていた。

これでギルドは正常化するだろう。  

ヨシコは満足げに頷くと、懐から一枚の紙を取り出し、ミランダの前にパシリと置いた。


「あ、それとこれ。私の『特別監査報酬』の請求書な」


「へ?」


 ミランダが目を丸くする。


「今回の不正発覚と資産回収の成功報酬や。回収額の20%。……ドズーの没収資産から引いといてな」


「は、はい! もちろんです!」


 タダ働きはしない。それがプロの流儀だ。  

ヨシコはニカっと笑うと、ミランダの肩を叩いた。


「ほな、あとは頼んだで!」


 翌日。  

ギルドの掲示板には、『手数料の完全撤廃』と『没収資産による過去の過払い金・全額返還』のお知らせが貼り出されていた。


「すげえ! 金が戻ってきた!」


「没収されたドズーの隠し財産だってよ!」


「これで新しい剣が買える……!」


 冒険者たちの歓声が響く中、ヨシコは昨日の少女を見つけた。  

彼女は返還された金で真新しい鎧を買い、泣きそうな笑顔で仲間に見せている。  

その光景を見て、ヨシコは目を細めた。


「……これでええ。働いたもんが報われん社会なんて、嘘やからな」


 ヨシコは懐に入ったずっしりと重い革袋(監査報酬)の重みを確かめると、軽やかな足取りでギルドを後にした。  

冒険者たちが強くなれば、王都の守りも盤石になる。

これで心置きなく留守を任せられるというものだ。


「さて、路銀もしっかり稼いだことやし、そろそろ旅の準備でもしよか!」


 最強の総務おばちゃんによる「王都の大掃除」は、これにて完了。  

懐も心も満たし、次はいよいよ、魔王の待つ世界への旅立ちだ。


(続く)


悪徳ギルド長、成敗完了です!

電卓と法律で殴る異世界無双、楽しんでいただけましたでしょうか?


「ざまぁ!」「スカッとした!」という方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけると励みになります!


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老眼鏡と「12桁電卓」を装備し、ベテラン総務の神業スキルで、悪徳ギルド長の不正をあばく、ヨシコオカンは超最強! 鋭い観察力で暫定ギルド長ミランダを素早く選び、すかさず『特別監査報酬』の請求書を出す、ヨ…
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