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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
後日談:ヨシコとカケル

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後日談 第3話:異世界の街角査察

次元の歪みを抜けた先には、活気ある喧騒が広がっていた。


「……ほう。ここが『リベリス』か」


 ヨシコは石畳の上に降り立ち、眩しそうに目を細めた。  魔界の薄暗い空とは違う、抜けるような青空。  

通りを行き交う人々は、人間、獣人、エルフと多種多様だ。


 ヨシコは割烹着の埃をパンパンと払い、スマホを取り出した。  

画面には、弟・シロウが送ってくれた地図が表示されている。


『座標のポイントは、この大通りの先や。……カケル、近くにおるんやな』


 胸が高鳴る。  

すぐにでも走り出したい気持ちを抑え、ヨシコは深呼吸をした。


「焦りは禁物や。まずは現状把握から……」


 総務の鉄則。

「現場を知らずして対策なし」。  

ヨシコは買い物カゴ(マジックバッグ)を提げ直し、ゆっくりと大通りを歩き出した。


 だが、歩き始めて数分もしないうちに、ヨシコの眉間に皺が寄り始めた。


「……あかん。気になりすぎる」


 彼女の目は、感動の再会よりも先に、街の「不備」を捉えてしまっていたのだ。


 例えば、通り沿いの果物屋。

「おっちゃん! その陳列あかんで! 傷みやすい桃を一番下に積んだら自重で潰れるやろ! ロス率考え!」


 例えば、路地裏の武器屋。

「兄ちゃん! 店先が散らかりすぎや! 導線が塞がっとるから客が入ってこーへんのや。『5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)』徹底しぃ!」


 例えば、屋台の焼きそば屋。

「兄ちゃん! その布巾、いつ洗うた!? 生乾きの匂いしとるで! 食中毒出したら営業停止やぞ!」


 ヨシコが通るたびに、店主たちが「ヒィッ!」「す、すみません!」と直立不動になる。  

魔王軍やアコギ王国を更生させた「最強の総務オカン」のオーラは、ここリベリスでも健在だった。


「はぁ……。どいつもこいつも、ツメが甘いなぁ」


 ヨシコはため息をつきながら、さらに通りを進む。  

その時だった。


 通りの向こうに、ひときわ長い行列ができている店が見えた。


「お? あそこは繁盛しとるな」


 石造りの小洒落た建物。  

看板には《前借亭》とある。  

香ばしいガーリックの香りと、肉が焼ける匂いが漂ってくる。


「へぇ、飲食店か。匂いはええな。……せやけど」


 ヨシコは足を止め、行列をじっと観察した。  

鋭い眼光が、行列の進み具合(回転率)と、店から出てくる客の様子をスキャンしていく。


「……回転率が悪すぎる」


 行列は長いが、なかなか進まない。  

出てくる客は満足そうだが、店内のスタッフ(ウェイター)が小走りで動いているのが窓越しに見える。  

そして何より、行列の整理ができておらず、通行の邪魔になっている。


「中のオペレーションがパンクしとるな。……司令塔がおらん証拠や」


 ヨシコの「お節介センサー」が激しく反応した。  

普通ならスルーするところだが、これから息子に会う前に、ちょっと腹ごしらえもしたい。  

それに、この「忙しすぎて回っていない店」の空気感

――かつてカケルが働いていたブラック企業の空気に似ていて、どうにも放っておけない。


「……しゃあない。ちょっと覗いてみるか」


 ヨシコは行列の最後尾には並ばず、ズカズカと店の入り口へと向かった。  

客として並ぶつもりはない。  

この状況、「業務改善」が必要な緊急事態だと判断したからだ。


 カランカラン♪  ドアベルが鳴る。


 店内に一歩足を踏み入れた瞬間、戦場のような喧騒と熱気がヨシコを包み込んだ。


「いらっしゃいませ! すいません、今満席で……!」


 ホールの女性スタッフ(ルシアナ)が、悲鳴のような声で対応に走ってくる。  

その奥の厨房では、一人の青年が背中を向けて、鬼のような形相でフライパンを振っていた。


(……ほう。あれが店長か)


 ヨシコはまだ、その背中が誰のものか気づいていない。  

ただ、「ワンオペで死にかけている料理人」として認識しただけだ。


 ヨシコは割烹着の紐をキュッと締め直した。  

彼女の目は、もう「母親」ではなく「歴戦の総務」の目になっていた。


「姉ちゃん。満席なのは見たら分かるわ。……でもな、このままだと店、潰れるで?」


「えっ……?」


 ルシアナが目を丸くする前で、ヨシコは腕まくりをした。


「見とれんわ。……おばちゃんが、ちょっと手伝うたる」


 最強の母、ついに息子の城(店)に侵入。  

しかし、感動の再会はまだお預け。  

まずはこの「回っていない現場」を立て直すのが、総務の流儀だ。


(続く)


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胸が高鳴る。けれど、すぐにでも走り出したい気持ちを抑え、ヨシコは深呼吸をした。すぐに行かないとは、どこに行っても堅実に対応できるヨシコさんは凄い。 そしてこの異世界は、ヨシコさんの最初の異世界よりはブ…
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