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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
後日談:ヨシコとカケル

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後日談 第1話:有給休暇と、次元の座標

魔王城の朝は、今日も平和なラジオ体操から始まった。  「いっち、に、さん、し!」  

中庭に響く掛け声。数千の魔物たちが健康的に体を動かす中、テラスでコーヒーを飲んでいるヨシコ(58歳)は、眼下の光景に目を細めた。


(……ええ眺めや)


 総務とは、単なる「何でも屋」ではない。  

会社や組織という巨大な機械が、キシみ音を上げずに滑らかに回るよう、油を差し、ネジを締め、土台を支える「バックオフィス」の要だ。  

他部署が拾いきれない業務を拾い、問題が起きる前に「仕組み」で解決する。  

だからこそ、トラブルが起きず、自分の出る幕がないこの状況こそが――総務としての「完全勝利」の形なのだ。


(魔王軍も、ようなったなぁ。みんな優秀やし、私が口出さんでも仕事が回っとる)


 ヨシコの支援により、魔王軍には有能な人材が育ち、組織の歯車はガッチリと噛み合っている。  

コーヒーの香りを楽しみながら、ヨシコはその成果をゆっくりと噛みしめていた。


「……で、ヨシコよ。なぜ貴様は、その『勝利の余韻』に浸りながら、手元で書類の決裁をしておるのだ?」


 背後から呆れたような声がした。

魔王ゼノンだ。  

健康的な顔色の彼は、ヨシコの手元――無意識にペンを走らせている備品発注書――を指差した。


「ああ、これか? いやな、平和な時こそ備蓄の点検時期やし、今のうちに年末調整の準備もしといた方が……」

「それが『働きすぎ』だと言っておるのだ!」


 魔王はため息をつき、一枚の羊皮紙を突き出した。


『特別功労休暇発令通知(無期限)』


「……休暇? 私にか?」

「うむ。組織はもう盤石だ。貴様が築いたシステムのおかげでな。……だが、貴様自身が休むシステムが抜け落ちておる」  

魔王は少し照れくさそうに視線を逸らした。

「四天王からの総意だ。『ヨシコ殿が休まないと、我々も休みづらい』とな。……頼むから、少しは羽根を伸ばしてこい」


 ヨシコは羊皮紙を見つめ、苦笑した。  

私が休むことが、最後のリスク管理(マネジメント)っちゅうわけか。


「……わかったわ。ほな、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 ヨシコがペンを置いた、その時だった。  

割烹着のポケットに入っていたスマホが、けたたましく着信音を鳴らした。  

画面には『シロウ(四男)』の文字。


「もしもし、シロウか? 今な、魔王から有給もろうて……」

『姉ちゃん! それどころちゃうで!』  

スピーカーから、興奮したシロウの早口な関西弁が飛び出してきた。

『見つけたで! カケルや!』


 ヨシコの手から、羊皮紙がひらりと落ちた。  

時が止まる。


「……カケル……? 見つかったんか!? 生きてるんか!?」

『生きてる! 昨日な、次元を二つほど跨いだ世界で、恒星並みのデタラメなエネルギー爆発が観測されたんや』


 シロウがキーボードを叩く音が、背景から響いてくる。


『そのエネルギーの波形の中に、微弱やけど「音声データ」が混じってたんや。ノイズ除去して再生するで、よう聞きや!』


 ザザッ……というノイズの向こうから、複数の声が響いてきた。


『『『『『カケル——ッ!!』』』』』

『行けーーーッ!! カケル——ッ!!!』

『あなたの“感情”を信じて!!』

『勝てる!!!』

『ぬるい!!!』

『ピュイイ!!』


 男の声、女の声、そして何やら動物のような鳴き声。  必死で、けれど信頼に満ちた声で、息子の名前を叫んでいる。


「……あ……」


 ヨシコの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。  

間違いなく、カケルの名前だ。  

そして何より――。


「……あの子、一人やなかったんやな……」


 会社で孤立し、心をすり減らしていた息子。  

けれど、この声の数々はどうだ。

こんなにも熱く、カケルを呼んでくれている。  

あの子は向こうの世界で、ちゃんと「仲間」を作れていたのだ。


『この声援の中心におるエネルギー反応、これがカケル本人や! 今はもう神界から地上に戻って、とある街に定着してるみたいや。「リベリス」って街やで!』


 リベリス。  

聞いたこともない街の名前だが、ヨシコにとっては「希望」そのものの響きだった。


「……行けるんか?」

『行ける! アコギ王国の転移魔法陣を改造して、ゲートを固定した。……いつでも飛べるで!』


 ヨシコは震える手でスマホを握りしめた。  

ずっと探していた、最重要案件。  

息子が大暴れしてくれたおかげで、そして何より、仲間たちが呼んでくれたおかげで、ようやく尻尾を掴めたのだ。


「……魔王」  

ヨシコは振り返った。  

魔王ゼノンは、全てを察したように深く頷き、ニヤリと笑った。


「行け、ヨシコ。……これは業務命令ではない。友としての願いだ」

「みんな!! お土産持ってきたぞー!!」


 魔王が指を鳴らすまでもなく、廊下の奥から四天王たちがドタドタと駆け寄ってきた。全員、満面の笑みで荷物を抱えている。


「ヨシコ殿! 息子さんに会うなら手ぶらはいけません!」

(炎の将軍ボルグ)

「魔界特産『最高級熟成肉』です! 成長期(?)には肉でしょう!」

「こっちは『不老長寿の秘薬(栄養ドリンク)』です!」

(氷の参謀ラピス)

「おにぎりの具にいいと思って……『魔海産・激辛明太子』も……」

(闇の暗殺者シェイド)


 あっという間に、ヨシコの周りは「お土産」の山になった。  

リッチ料理長まで飛んできて、湯気の立つ包みを差し出した。


「ヨシコ殿! 今朝、城のみんなのために炊いた『銀シャリ』の余りです! 貴殿のマジックバッグに入れておけば、向こうでも温かいまま食べられますぞ!」

「……みんな……」


 ヨシコは溢れそうになる涙をこらえ、ニカっと笑った。


「おおきにな! 遠慮なく貰っていくわ! ……うちの息子にも、あんたら自慢の味、食わせたげたいからな!」


 ヨシコはマジックバッグに炊きたてのご飯やお土産を詰め込み、割烹着の紐をキュッと締め直した。  

もう、迷いはない。


「シロウ! ゲート開け! 座標はリベリスや!」

『了解や! 行ってらっしゃい、姉ちゃん!』


 魔王城の中庭に、光の渦が現れる。  

ヨシコは魔王と四天王たちに大きく手を振り、光の中へと飛び込んだ。


「待ってなさい、カケル! ……お母さんが、今行くで!」


 最強の総務おばちゃん、次元を超えて息子に会いに行く。  

その手には、温かいご飯と、溢れんばかりの母の愛を携えて。


(続く)


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― 新着の感想 ―
ヨシコさんが休むことが、最後のリスク管理マネジメントとは…、カケルが「どいつもこいつも働き過ぎなんだよ」と言っていたっけ。 それにしても、シロウさん優秀。しかも、前借亭のみんなの掛け声を聞いたヨシコさ…
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