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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
最終章:株式会社魔王軍ホールディングス ~最強の総務、時空を超える~

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最終話:アコギ王国の倒産と、最強兄弟の「新規市場開拓」

 アコギ王国の王都上空は、真っ青な晴天だった。

だが、王城前の広場は、かつてない緊張感に包まれていた。


 王城を取り囲むのは、魔王軍の重装歩兵部隊。

そして、その最前列には、正気を取り戻した近衛騎士団五千名と、勇者パーティが整列している。


 バルコニーに飛び出したアコギ国王が、拡声器で国民に向かって絶叫していた。


「国民よ! 聞け! 魔王軍が攻めてきたぞ! 奴らは野蛮な侵略者だ! 武器を取れ! 余を守るのだ!」


 広場に集まった市民たちがざわめく。

「魔王軍?」

「騎士団が寝返ったって本当か?」

「怖い……」

恐怖と混乱が広がる。

だが、そこへ――。


『――あー、テステス。本日は晴天なり』


 王の絶叫をかき消す、気の抜けた声が空から降ってきた。

上空に巨大なホログラム映像が出現する。

映し出されたのは、エプロン姿のヨシコと、スーツを着こなした二人の男(長男・イチロウ、三男・サブロウ)だ。


「な、なんだアレは!?」


王が空を指差して震える。


『アコギ王国の皆さん、こんにちは。魔王軍・総務担当のヨシコですぅ。……今日はな、「侵略」しに来たんちゃうで』


 ヨシコがニカっと笑った。


『お宅の王様がやらかした不正の数々……その「第三者委員会による監査報告」に来ましたんや』


「か、監査だと!?」


『そちらにおわすのが、ウチの顧問弁護士と、経営コンサルタントですわ』


 画面の中で、長男・イチロウが眼鏡を光らせた。


『――アコギ国王。我々は貴殿の進退を問うつもりはない。それは貴国の内政問題だからだ。……しかし』


 イチロウの声が、冷徹に響く。


『貴殿の行為は、周辺諸国と結んだ「大陸間戦争協定」および「人道的国際法」に明確に違反している。よって、我々は国際社会に対し、以下の事実を公表する』


 イチロウが指を鳴らすと、空中に巨大なスライドが表示された。 そこには、これまでシェイド(暗殺者)やシロウ(技師)、ロクロウ(医師)が集めた証拠の数々が映し出された。


報告1:平和条約における詐欺的条文の強要(信義誠実の原則違反)


報告2:自国兵士(近衛騎士団)への違法薬物投与と、人権を無視した生体改造


 市民たちが息を呑む。 特に、報告2のインパクトは絶大だった。


『さらに、決定的な証拠があります』


三男・サブロウが、冷徹な関西弁で続ける。


『これ、先日の戦闘中に録音された、王様の音声データですわ。……再生しますで』


スピーカーから、王の声が流れる。


『黙れ! 権利だの休息だのと喚く道具など、我が国には不要だ!』(第22話・解雇通告時)

『行け! 薬漬けの狂犬どもよ!』(第23話・開戦時)

『金ならやる! 給料を倍に……いや三倍に……!』(第23話・逃走時)


 広場が静まり返った。

そして、爆発的な怒号に変わった。


「ふざけるな! 俺たちの息子を道具呼ばわりか!」

「狂犬だと!? 騎士団は国の誇りだぞ!」

「こんな王のために戦ってたのか!」


 市民の怒りの矛先が、魔王軍から国王へと一気に反転する。

アコギ王は顔面蒼白で後ずさった。


「ち、違う! これは合成音声だ! 敵のプロパガンダだ!」


『言い逃れはできません』


 イチロウが淡々と告げる。


『この証拠が公表されれば、貴国は国際社会から「経済制裁」を受け、孤立することになるでしょう。……さあ、国民の皆さん。国の未来を決めるのは、我々(魔王軍)ではありません。貴方たち自身です』


 ヨシコが引き継いだ。


「聞いたか、王様。……もう誰もあんたを『社長リーダー』とは認めてへん。従業員(国民)の信頼を失った組織に、明日はないんやで」


 王城の門が、内側から開かれた。

出てきたのは、王の側近や兵士たちだ。

彼らは武器を捨て、両手を上げている。

もう誰も、王を守ろうとはしなかった。


「お、おのれぇぇ! 私は王だぞ! 神に選ばれた……」


 王が逃げようとしたその時、背後から一人の男が立ちはだかった。

近衛騎士団長だ。


「……陛下。いえ、アコギ容疑者」


 団長は静かに手錠(魔封じの錠)を取り出した。


「騎士団の名において、貴様を拘束する。……これより先は、我々国民の手で裁かせてもらう」


「ひぃぃぃッ!」


 かつての栄華を誇った暴君は、無様に腰を抜かし、自らの部下によって連行されていった。

その瞬間、王都中から割れんばかりの歓声が上がった。

魔王軍の介入ではなく、国民自身の意思による「革命」が成し遂げられた瞬間だった。


 数日後。

アコギ王国の王城で、戦後処理の会議が行われていた。

テーブルを囲むのは、魔王ゼノン、勇者レオ、騎士団長、そしてヨシコ。


「……王国の財政は火の車です。王が私腹を肥やし浪費しすぎて、国庫は空っぽだ」


 サブロウ(画面越し)が、電卓を叩きながら溜息をつく。


『普通なら国家破綻ですわ。……ですが、魔王軍からの「技術提供」と「人材交流」があれば、再建は可能です』


「うむ! 我が軍のホワイトなノウハウを輸出しよう! 農耕、建築、医療……共に手を取り合えば、魔界も人間界も豊かになる!」


 魔王ゼノンが胸を張る。

かつて世界を恐怖させた魔王が、今は「復興支援のスポンサー」になろうとしているのだ。


「レオ君、君が暫定的な国の代表になりなさい。国民からの人気も高い」


 ヨシコに言われ、レオは照れくさそうに頭をかいた。


「俺に務まるでしょうか……。計算とか苦手だし」


「大丈夫や。あんたには優秀な仲間(労組メンバー)がおる。それに、困ったらウチの弟たち(コンサル軍団)が相談に乗ったるわ」


 レオが顔を輝かせる。


「本当ですか! それなら心強いです! ……あ、でも……」


 レオが言い淀むと、ヨシコはニヤリと笑った。


「もちろん、『報酬』と『必要経費』はきっちり請求させてもらうけどな。ウチの弟ら、仕事に関してはシビアやで?」


「は、はい! もちろんです! ……ですが、どうやってお支払いすれば……?」


 レオが困惑顔で尋ねる。

当然の疑問だ。

こちらの世界の通貨(金貨)を、どうやって地球にいる彼らに送金するのか。

異世界間で銀行振込はできない。


「あ、そうか。送金手段がないな……」


 ヨシコが腕組みをした時、画面の中のイチロウが、待っていましたとばかりに眼鏡の位置を直した。


『――ご安心を。その「送金ルート」についてですが……既に解決策があります』


「えっ? どうやるんや?」


『魔王軍の魔導解析班から連絡があったんです。「大規模転移魔法陣」の解析が終わったと。……あれを使えば、地球への恒久的なゲートが開けます』


 会議室がどよめいた。


『座標も特定できた。ゲートが開けば、人と物の行き来が可能になる。つまり……』


 サブロウが、商魂たくましい笑みを浮かべて引き継いだ。


『こちらの世界の「金・宝石・レアメタル」、そして「魔法技術」を地球に輸出し、代わりに地球の「製品・食料・インフラ技術」をこちらに輸入する。……我々兄弟は、その「独占貿易権」を頂きます。それがコンサル料の代わりですわ』


 ヨシコは口をあんぐりと開けた。


「……あんたら、まさか」


『はい。我々は「異世界」という未開拓の巨大市場を手に入れたわけです。……姉さん、これはとんでもないビジネスチャンスですよ』


 なんということだ。

姉を助けるために協力していたと思ったら、彼らは裏でちゃっかり「新規市場開拓」を進めていたのだ。

さすがエリート兄弟。

転んでもただでは起きない。


『ゲートが開通すれば、姉さんを元の世界――こっちの日本に帰還させることも可能です』


 イチロウが本題を切り出した。


『……どうする? 帰ってくるかい?』


 帰還。

それはヨシコがずっと願っていたことだ。

住み慣れた家。

便利なコンビニ。

そして、仏壇に写真を飾ったカケル。


「……そうか。帰れるんか」


『ああ。……どうする?』


 ヨシコは窓の外を見た。

中庭では、オークと騎士たちが一緒になって宴会をしている。

厨房からは、リッチ料理長が作る新作メニューのいい匂いがする。

魔王ゼノンは、勇者レオと肩を組んで笑っている。


 みんな、ヨシコが育てた「家族」だ。

でも、もし自分が帰ったら?

彼らはまた、元の殺伐とした世界に戻ってしまうかもしれない。

いや、もう戻らないかもしれないが、それでも「総務のオカン」の席は空席になる。


(カケル……。あんたなら、どう言うやろな)


 ヨシコは目を閉じた。

ブラック企業の過酷な労働から失踪してしまった息子。

彼を救えなかった後悔。 でも、ここには「救えた命」がたくさんある。

そして、「これからも救える命」がある。

それに、ゲートが繋がれば、いつでも帰れるし、いつでも会える。


 ヨシコは目を開け、画面の弟たちに向かってニカっと笑った。


「……ごめんな、みんな。私、今はまだ帰らへんわ」


『!』


「こっちにはな、まだまだ世話の焼ける『大きな子供ら』がいっぱいおるんや。私が手綱握っとらんと、すぐに調子に乗ってブラック化しよる」


 ヨシコは窓の外の喧騒を指差した。


「ここが、私の新しい『職場』で……新しい『家』や」


 画面の向こうで、兄弟たちが顔を見合わせる。

そして、全員が優しく微笑んだ。


『……やっぱりね』

『姉さんならそう言うと思いましたわ』

『ま、僕らも「現地支社長」がいてくれた方が助かりますしね』

『健康診断の結果だけは、定期的に送ってくださいね』


 彼らは分かっていたのだ。

姉が、困っている人を置いて帰るような人ではないことを。


「おおきにな。……あんたらも、無理したらアカンで。ちゃんと飯食うんやで」


『ああ。……ありがとう、姉さん』


 半年後。

魔王城のエントランスには、新しい看板が掲げられていた。


【株式会社 魔王軍ホールディングス・総務課】


「はい、次の面接の方ー! どうぞー!」


 ヨシコが元気な声で呼び込む。

リクルートスーツ(鎧)を着た若き魔物や人間たちが、緊張した面持ちで入ってくる。


「志望動機は?」

「はい! 地球の技術を取り入れた最先端企業で、世界一働きがいがあると聞いたからです!」

「よし! 合格! ……ただし、挨拶と掃除、書類の期限は徹底すること。ええな?」


「はいッ!!」


 総務課のヨシコのデスクには、一枚の写真立てが置かれていた。

それは息子・カケルがピースサインをしている写真。

そしてその隣には、もう一つ、新しい写真立てが並んでいる。

芋ジャージ姿の魔王、ポーズを決める四天王、作業着姿の勇者パーティ、そしてエプロン姿のヨシコが、満面の笑みで写っている「集合写真」だ。


 二つの家族が、机の上で笑い合っていた。


 その頃、地球では――。

三男・サブロウが、テレビのビジネス番組で熱弁を振るっていた。


『この新商品「魔界エナジー・ドラゴンブースト」、なんとカフェインゼロで疲労回復効果は従来品の100倍! 働き方改革の切り札ですわ!』


六男・ロクロウは、学会で発表していた。


『異世界の薬草「万能草」から抽出した成分が、現代医学の難病を根治させる鍵になります』


彼らは彼らで、異世界の恵みを使い、地球をより良い場所に変えようと奮闘していた。


 異世界総務のヨシコさん。

彼女は今日も、魔王城の片隅で、書類の束を片手に怒鳴っている。


「コラ魔王! 今日中に旅費申請しいやって言ってたやろ! それに、復命書がなければ出張は成立せえへんで!」


「ひぃぃ! すまんヨシコ! 後で書くから!」


「後ではアカン! それと、宿泊先の領収書も出しや! 領収書がないと自腹やで!」


「そ、それだけは勘弁してくれぇぇぇ!」


 ホワイト企業と化した魔王軍。 そして、異世界と地球を股にかけた、最強の一族。 魔界の平和とコンプライアンスを守るため、総務のオカンの戦いは、世界を超えて、まだまだ続いていく――。


(おわり)

国民の手による革命、そしてアコギ王の逮捕。 すべて丸く収まり……と思ったら、弟たちがちゃっかりビジネスを始めていて笑いました。さすがです。


ヨシコさんの選んだ道、楽しんでしていただけましたでしょうか?

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― 新着の感想 ―
アコギ王が今までやってきた悪事の数々をイチロウとサブロウが明らかにしていく。ヨシコさんが手を下すまでもなく、アコギ王は自国民から制裁される。そして、ヨシコさんはレオを次期国王に指名をし、アコギ王国を再…
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