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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第四章:勇者労組とアコギ王国対決編 ~法的制裁と世界を変えるストライキ~

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21/22

第21話:勇者労組の結成と、世界を救う「ストライキ」

 魔王城のゲストルーム(元・貴賓室)。

朝の日差しの中、勇者レオはふかふかのベッドで目を覚ました。


「……ッ!?」


 ガバッと跳ね起きる。

昨日の記憶が蘇る。

魔王城に突撃し、門前払いされ、唐揚げ定食を食べて……そこで記憶が途切れている。

あまりの満腹感と疲労で、泥のように眠ってしまったのだ。


「レオ! 無事ですか!?」


 隣の部屋から、聖女マリア、魔法使い、武闘家が駆け込んできた。

全員、パジャマ姿で、顔色は驚くほど良い。

目の下のクマも消えている。


「くっ……不覚だ! 魔王の罠にハマって熟睡してしまうとは!」


「レオ、逃げましょう! 今なら警備も手薄なはず……」


 彼らが窓を開けようとした時、背後の扉がガラリと開いた。


「おはようさん。よう寝とったな」


 ワゴンを押して入ってきたのは、エプロン姿のヨシコだった。

ワゴンには、焼き立てのトースト、目玉焼き、サラダ、そしてコーヒー。

優雅な「モーニングセット」だ。


「さ、朝ごはんや。これ食うたら、ちょっと話がある」


「毒か!?」


「毒なんか盛るか! 栄養満点の朝食や!」


 食後。

勇者たちは会議室に連行された。

そこには、ホワイトボードの前に立つヨシコと、スマホの画面に映る理知的な男性――三男・サブロウ(45歳)が待っていた。


「座り。……今日はあんたらに、大事な授業をする」


「授業だと? 俺たちは忙しいんだ! 早く世界を救いに……」


 勇者レオが立ち上がろうとするが、サブロウの慇懃な声がそれを制した。


『――君らの言います「世界を救う」て、具体的にどういう契約に基づいとるんですかな?』


 サブロウが眼鏡のブリッジを指で押し上げた。


『僕は経営コンサルタントですわ。君らの労働環境、ヒアリングさせてもらいましたで』


 サブロウが画面共有で、一枚のスライドを表示した。

タイトルは【勇者パーティ労働実態調査報告書】。


『まず、労働時間。君ら、24時間365日、オンコール状態で働いてますな。これ、労働基準法違反ですわ』


『次に、報酬。王国からの支給は「成功報酬(魔王討伐時)」のみ。日々の活動費は「現地調達(魔物からのドロップ)」頼み。……これ、完全歩合制ですらない。ただの「カツアゲ」ですがな』


『そして、福利厚生。労災なし、保険なし、経費精算なし。装備品すら自腹だそうですな』


 ズラリと並ぶ「違法」の文字。

勇者たちがポカンとする。


「な、何を言っている……? それは勇者の『試練』だ! 苦難を乗り越えてこそ……」


『それは雇用主(王様)が都合よく作った「言い訳」ですわ』


 サブロウがバッサリと切り捨てた。


『よろしいか。君らは「勇者」いう名の、「使い捨て個人事業主」なんですわ。王国は君らにリスクを丸投げして、成果だけを搾取しとるんです』


 その言葉に、聖女マリアが反論した。


「違います! 私たちは神と王に誓いを立てたのです! お金のためじゃありません! 愛と信仰のために戦っているのです!」


「……愛、なぁ」


 ヨシコが口を開いた。


「あんた、そのボロボロの杖、接着剤付けたガムテープを巻きつけてで補修しとるな?」


「っ……! これは、新しいのを買うお金がなくて……」


「回復魔法を使うたびに、あんた自身の寿命が削れるんやろ? 薬代は出とるんか?」


「……出て、ません……」


「愛で腹は膨れん。信仰で杖は直らん。……あんたが倒れたら、誰がレオを回復するんや?」


 聖女が唇を噛み締め、俯いた。

図星だった。

彼女は「聖女だから」という理由で、一番過酷な労働を強いられていたのだ。


『君らの目的は「世界平和」ですやろ?』


 サブロウが問いかける。


『なら、君らが倒れたら元も子もない。……世界を救うためには、まず「君ら自身」が守られなアカン』


「……自分たちを、守る……?」


『そうですわ。そのために必要なのが、これです』


 サブロウが次のスライドを表示した。

デカデカと書かれた文字。


 【勇者労働組合(勇者ユニオン)】


「く、組合……?」


『労働者が団結して、雇用主と対等に交渉するための組織ですわ。……レオ君。君らは今日から、「王の命令に従う下僕」やない。「契約に基づいて業務を遂行するプロフェッショナル」になるんです』


 ヨシコが、一枚の書類を勇者の前に置いた。

【要求書】と書かれている。


基本給の支給(月額固定・危険手当込み)

装備費・経費の全額国庫負担

週休二日制の導入

労働災害保険の加入


「こ、こんなこと……王様に言えるわけがない! 『反逆だ』と言われたら……」


『その時は』


 サブロウがニヤリと笑った。


『「ストライキ」ですわ』


「ス、ストライキ……!?」


『「要求が通るまで、魔王討伐業務を無期限停止します」て宣言するんです。……大丈夫。君ら以外に、魔王と戦える人材はおまへん。これ、最強の交渉カードですわ』


 勇者レオの手が震える。

王に逆らうなど、考えたこともなかった。

だが、隣を見ると、魔法使いの少女が涙を拭いながら頷いている。

武闘家が拳を握りしめている。

みんな、限界だったのだ。

「勇者」という重荷に潰されそうになりながら、それでも必死に笑っていたのだ。


「……俺は……」


 レオはペンを握った。

王のためではない。

仲間のために。


「……俺は、仲間を守りたい。……これ以上、あいつらに無理をさせたくない!」


 サラサラと署名が走る。

【勇者労働組合・執行委員長 レオ】


「よう言うた!」  ヨシコがレオの肩をバンと叩いた。


「それが本当の『勇者』や! ……さあ、反撃開始やで!」


 数日後。

人間界の王城、謁見の間。

アコギ王国の国王は、玉座でふんぞり返っていた。


「遅い! 勇者どもは何をしておる! さっさと魔王の首を持ってこんか!」


 そこへ、近衛兵が真っ青な顔で駆け込んできた。


「へ、陛下! 大変です! 勇者パーティが帰還しました!」


「おお! やっとか! で、魔王の首は?」


「い、いえ……それが……」


 ドォォォン!!


扉が開き、勇者レオたちが入ってきた。

だが、彼らは武装していなかった。

全員、お揃いの「腕章」をつけ、手にはプラカードを持っていた。


「な、なんだその格好は!?」


「国王陛下に申し上げます!」


 レオが一歩前に出た。

その目は、かつての洗脳された虚ろな目ではない。

理知と決意に満ちた、闘士の目だ。


「我々勇者パーティは、本日をもって『勇者労働組合』を結成しました!」


「はぁ!?」


「つきましては、以下の要求が受け入れられるまで、魔王討伐業務を全面的にボイコット(拒否)します!!」


 ドン!


要求書が王の前に叩きつけられた。


「き、貴様ら……気でも狂ったか! 世界の平和を人質に取る気か!」


「人質に取っていたのはそっちだ!」


 レオが叫ぶ。


「俺たちは道具じゃない! 人間だ! ……人間らしい生活と権利を寄越せ! さもなくば、剣は二度と握らん!」


「要求貫徹ーーッ!!」


 レオの掛け声に続き、後ろに控えていた仲間たちが一斉に叫んだ。


「有給寄越せー!!」


「ポーション代払えー!! 私費で買うの高いんだぞー!!」


「聖女だって日曜は休みたいー!!」


 魔法使いの少女たちの、魂の叫びが玉座の間に響き渡る。

特に魔法使いの声は、切実すぎて近衛兵たちも「うわぁ……」と引くほどだった。


 王は顔を真っ赤にして震え出した。


「お、おのれ……誰がこんな知恵を……! あの純朴だった勇者をたぶらかしたのは誰だ……!」


 その様子を、水晶玉越しに見ていた魔王城の一室。

魔王ゼノンは、勇者たちの美しいフォーメーションと、力強いシュプレヒコールに釘付けになっていた。


「くっ……! なんて美しい団結力だ……! 我が軍も負けていられんな!」


「なんでそっちやねん」


 ヨシコが呆れてツッコむが、魔王は止まらない。


「おい四天王! 私たちもスクラムを組むぞ! 『魔王軍、一致団結!』と叫ぶのだ!」


「は、はい! ええと、魔王軍、ばんざーい?」


 訳も分からず肩を組まされる四天王たち。

完全に方向性はズレているが、士気だけは高まっていた。


 ヨシコはニヤリと笑って、コーヒーを啜った。


「ふふん。……さあ王様。ここからが本当の『交渉』やで」


 魔王軍ホワイトと、勇者労組(覚醒)。

かつての敵同士が、今、見えない絆で結ばれ、最大の「ブラック企業(王国)」を追い詰める。


 次回、いよいよ最終章への入り口。

逆上した国王が、禁断の「最終兵器(勇者クビ&魔導兵器導入)」に手を染める。

だが、それはヨシコたちの想定内だった――?


(続く)

勇者、ストライキ決行! 世界を救うために、まずは自分たちの権利を守る。

これぞ新しい勇者像です。


物語はいよいよ佳境へ!

アコギ王が繰り出す禁断の兵器とは?

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