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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第四章:勇者労組とアコギ王国対決編 ~法的制裁と世界を変えるストライキ~

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20/21

第20話:勇者パーティの殴り込みと、受付での「門前払い」

 平和条約の決裂から数日後。

魔王城は、いつも通りの穏やかな朝を迎えていた。


 エントランスでは受付嬢ラミアが笑顔で挨拶し、社員(魔物)たちはタイムカードを押して、それぞれの部署へ向かう。

魔王ゼノンも、朝のコーヒー※を飲みながら日経新聞(魔界版)を広げていた。

※ヨシコが地球のコーヒーの製法をジロウに確認。

 カフアの実を使い、リッチ料理長に伝授して、魔王国でコーヒーとして流通させ始めていた。


「うむ。今月の『働きがいのある城ランキング』……北部覇王軍が3位、西の竜王軍が2位。そして我が魔王軍が堂々の1位か。悪くない」


「調子に乗ったらアカンで。維持するのが大変なんやから」


 ヨシコが窓拭きをしながら釘を刺す。

その時だった。


 ドォォォォォォォン!!


 凄まじい爆発音と共に、エントランスの巨大な扉が吹き飛んだ。 土煙が舞い上がり、警報魔法がビービーと鳴り響く。


「な、何事だ!?」


 魔王ゼノンは椅子から飛び上がったが、次の瞬間、悲鳴を上げた。


「ああっ! ヨシコが昨日ピカピカに磨いた床が! 土足で泥だらけに!!」


 侵入者の心配よりも先に、掃除の手間を心配する。

すっかり主婦(主夫?)目線が板についていた。


「そこかい! ……まあええ、行くで!」


 魔王とヨシコがホールに駆けつけると、そこには光り輝く剣を掲げた、金髪の青年が立っていた。

後ろには、聖女、魔法使い、武闘家。 典型的な「勇者パーティ」だ。


「見つけたぞ、諸悪の根源、魔王ゼノン! 俺はアコギ王国の勇者レオ! 天に代わって貴様を討ちに来た!」


 勇者レオが叫ぶ。

その目は「正義」の炎でギラギラと燃えている。

彼は土足でピカピカの床を踏みしめ、剣先を魔王に向けた。


「覚悟しろ! 今日こそ魔界を浄化し、人類に平和を……」


「ちょっと待ちぃぃぃッ!!」


 勇者の演説を遮り、モップを持ったオカンが立ちはだかった。


「な、なんだ貴様は! 魔王の側近か!」


「ナケナシ王国勇者、兼、魔王軍総務担当のヨシコや! ……あんた、何してくれてんねん!」


 ヨシコは吹き飛ばされた扉と、泥だらけになった床を指差した。


「この扉、先月修理したばっかりやぞ! 修理費なんぼすると思てんねん! それに土足! ここは土禁や言うてあるやろが!」


「は……? 土足……?」


 勇者レオがポカンとする。

命のやり取りをする場に、まさか「掃除の文句」が出てくるとは思わなかったのだろう。


「と、問答無用! 魔物は人類の敵だ! 敵の城を壊して何が悪い!」


「敵でも『他人の家』やろが! 挨拶もなしにドア爆破する『正義』がどこにあるんや!」


 ヨシコの一喝に、勇者がたじろぐ。

だが、後ろにいた聖女が金切り声を上げた。


「レオ! 聞く耳を持ってはダメです! 悪魔の言葉は毒です! さあ、早く浄化(虐殺)を!」


「そ、そうだな! いくぞ皆!」


 勇者たちが武器を構える。

魔王軍の兵士たちも応戦しようとするが、ヨシコがそれを手で制した。


「手出し無用や。……こんな『常識知らず』に、あんたらの手を汚すことはない」


 ヨシコはスマホを取り出し、冷静にダイヤルした。

呼び出すのは、この手の「不法侵入者」に一番効く専門家だ。


「イチロウ。……出番や。城に『強盗団』が入ったわ」


『――強盗団? いや、映像を見る限り……勇者パーティだね』


 画面に映った長男・イチロウ(国際弁護士)は、冷静に眼鏡を押し上げた。


『姉さん。彼らの行為は、日本の現行法で以下の罪に該当する』


 イチロウの淡々とした声が、ホールのスピーカーから響き渡る。


『刑法第130条・住居侵入罪。 刑法第261条・器物損壊罪。 さらに、武器を持って脅迫しているので、暴力行為等処罰法違反だ』


「な、なんだと!? 我々は王国の勅命を受けた勇者だぞ! 異世界の法律など……」


『ふむ。自分たちの世界の法律なら通じると思っているようだね』


 イチロウが手元の資料に目を落とした。


『そこにあるのは、魔王軍の書庫から取り寄せた、この世界の法典だ。……これの『大陸間戦争協定グランド・コンベンション』第9条を見てみたまえ』


 イチロウが条文を読み上げる。


『“国家間の武力行使に際しては、最低でも24時間前に、文書による宣戦布告を行わなければならない”……とあるね』


「なっ……!?」


『さらに第10条。“宣戦布告なき奇襲攻撃は、重大な国際法違反(テロ行為)と見なし、交戦権を認めない”……とも書いてある』


 イチロウの目が、冷ややかに勇者を射抜く。


『君たちの国、アコギ王国はまだ正式な宣戦布告をしていないはずだが? ……外交官が捨て台詞を吐いて逃げただけで、手続きは完了していないよ』


 勇者が言葉に詰まる。

こちらの世界のルールでも、彼らは完全に「アウト」なのだ。


「う、うるさい! 悪を倒すのに手続きなどいらん! 俺たちの心にある正義がルールだ!」


「……正義、か」


 ヨシコは勇者たちをじっと観察した。

ギラギラした目。

ボロボロの装備。

そして、目の下の濃いクマと、ガリガリに痩せた体。


 彼らは「正義の味方」というより、何かに追いつめられた「強迫観念の塊」に見える。


「あんた……いつから寝てへん?」


「は?」


「目が充血しとる。肌もボロボロや。……ちゃんと飯食うてるんか?」


 勇者が虚勢を張って叫ぶ。


「ね、寝ている暇などない! 俺たちが休んでいる間にも、世界は魔王に脅かされているんだ! 3日徹夜で行軍など当たり前だ!」


「……報酬は? 残業代は出てるんか?」


「金のためではない! 名誉と使命感のためだ! ……王様からは『世界が平和になったら褒美をやる』と言われている!」


 ヨシコは天を仰いだ。

出た。「やりがい搾取」の極みだ。

「世界平和」という美しい目標を人質に、若者をタダ同然で使い潰す。

アコギ王国こそが、真正のブラック企業ではないか。


「……可哀想になぁ」


「な、何だと!?」


「あんたら、騙されとるで。それは『使命感』ちゃう。『洗脳』や」


 ヨシコは一歩前に出た。


「ええか若造。ちゃんとした組織はな、従業員(勇者)に3日も徹夜させたりせん。万全の状態で戦わせるんが、上の責任や」


「黙れ! 魔物に俺たちの尊い自己犠牲が分かってたまるか!」


 勇者レオが剣を振り上げる。

問答無用の一撃。

だが、その剣は魔王に届かなかった。


 ガキィィン!!


 金属音が響く。

勇者の剣を受け止めたのは、四天王の一人、炎の将軍ボルグだった。

かつては疲労でボロボロだった彼だが、今は肌ツヤも良く、筋肉がパンプアップしている。


「……軽いな、勇者よ」


「な、なにっ!?」


「睡眠不足で足元がふらついている。食事不足で剣に重みがない。……そんな『ブラックな剣』で、今のホワイトな我が軍が斬れると思うな!」


 ボルグが軽く剣を振ると、勇者は木の葉のように吹き飛ばされた。

ドサッ! 床に転がる勇者パーティ。

圧倒的な「コンディションの差」だ。


「く、くそっ……なぜだ……! 正義の俺たちが、なぜ悪に負けるんだ……!」


「悪ちゃうわ」


 ヨシコが倒れた勇者を見下ろした。


「うちは今、週休二日、残業規制、三食昼寝付きの優良企業や。……ボロボロのあんたらが勝てるわけないやろ」


 勇者が呆然と周りを見る。

魔王軍の兵士たちは、皆、血色が良く、憐れみの目で勇者たちを見ていた。

「うわぁ、顔色悪っ……」

「可哀想に、休ませてもらえてないんだな……」

という同情の視線。


 それが、勇者のプライドを粉々に砕いた。


「……嘘だ……こんなの、間違ってる……!」


 勇者が地団駄を踏んで泣き出しそうな顔になる。

その時、どこからともなく、香ばしい醤油と生姜の匂いが漂ってきた。


「……ん?」


 勇者パーティの後ろにいた、魔法使いの少女が鼻をヒクヒクさせた。


「……この匂い、もしかして唐揚げ?」


「……ええ鼻しとるな。今日のランチは『唐揚げ定食』やで。マヨネーズかけ放題や」


 魔法使いの少女は、杖をカランと床に落とした。

そして、死んだ魚のような目で、リーダーの勇者レオを見た。


「……ねえ、レオ。私、もう降伏していい? 限界」


「なっ!? お前、何を言って……!」


「だって、私たち3日もカロリーバーしか食べてないじゃん。もう無理。魔王とかどうでもいい。唐揚げ食べたい」


 若者特有の、あまりにドライな本音。

ブラックな職場環境への嫌悪感が、使命感(洗脳)を凌駕した瞬間だった。


「わ、私も……実はお腹が……」


 武闘家も座り込んでしまった。

残されたのは、まだ「正義」にしがみつく勇者と聖女だけ。


「……イチロウ。警察(憲兵)呼ぶ?」


『いや、姉さん。彼らは加害者だが、同時に被害者だ』


 イチロウが静かに告げる。


『彼らをここまで追い詰めた「雇用主(王国)」こそが真の悪だ。……姉さん、彼らを一旦「保護」してやれないか?』


「……せやな」


 ヨシコはため息をつき、勇者に手を差し伸べた。


「立て、若造。……戦うんは飯食って、風呂入って、寝てからや」


「さ、触るな! 俺は……俺は……!」


 拒絶しようとする勇者のお腹が、グゥ〜〜と盛大に鳴った。

城内に、微妙な空気が流れる。


「……ほら、意地張らんとき」


 ヨシコは勇者の背中をパンと叩いた。

その温もりに、張り詰めていた勇者の糸が、プツリと切れたように見えた。


 こうして、魔王城に新たな「居候(捕虜?)」が増えることになった。

だが、これはまだ序章に過ぎない。

勇者たちが「真実(王国の搾取構造)」を知った時、その刃はどこへ向くのか。


 次回、勇者パーティへの「あれ」のススメ。

洗脳を解くのは、やはりあの男(三男・サブロウ)のロジカルシンキングだ。


(続く)

ドアを爆破して入ってくるのは、確かに不法侵入ですね(笑)

勇者たちもまた、ブラック企業の被害者でした。


彼らを救うための次なる一手は……まさかの……!?

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