表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第四章:勇者労組とアコギ王国対決編 ~法的制裁と世界を変えるストライキ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/21

第19話:不平等条約の罠と、最強弁護士の「赤ペン先生」

魔王城の応接室は、甘い香りに包まれていた。  

テーブルの上には、人間界から贈られた高級菓子と、分厚い羊皮紙の束。


「いやぁ、魔王様。賢明なご判断です。この条約さえ結べば、我ら『アコギ王国』は貴軍を国家として承認し、勇者の派遣も停止しましょう」


 揉み手をしながら笑うのは、人間界の外交官・サギス。  対する魔王ゼノンは、上機嫌で羽ペンを握っている。


「うむ! 我が軍もホワイト化し、無益な争いは避けたいと思っていたところだ。勇者が来なくなるなら安いものよ」


「ええ、ええ! では、ここにサインを……」


 魔王がペン先を紙に落とそうとした、その時。


「ちょっと待ったぁぁぁッ!!」


 バン!  

ヨシコがドアを蹴破り、スマホを片手に飛び込んできた。


「ヨ、ヨシコよ、何ごとか! 今、平和条約の調印中なのだが……」


「アホか! 判子押す前に中身よう読んだんか!?」


「読んだとも! 『仲良くしよう』と書いてあったぞ?」


「それが罠や言うてんねん!」


 外交官サギスの顔が引きつる。


「な、失礼な! 私は平和の使者ですよ!?」


 ヨシコは無視して、スマホをテーブルの中央に置いた。  

画面には、銀縁メガネをかけた厳格な初老の男性が映っている。  

長男・イチロウ(54歳)。  

ニューヨークに事務所を構え、国家間の訴訟すら請け負う「法の番人」だ。


『――魔王さん。条約文の第12条4項、読みましたか?』


 スピーカーから、氷のように冷徹な声が響く。


「えっ? 第12条……?」


 魔王が慌てて羊皮紙をめくる。

そこには、虫眼鏡でも読めないほど小さな文字がびっしりと書かれていた。


『読み上げましょうか。“甲(魔王軍)は乙(王国)に対し、平和維持協力費として、魔界の全鉱山採掘権の80%を永続的に譲渡するものとする”』


「は……?」  

魔王の手からペンが落ちた。


『さらに第15条。“乙は甲の領土内において、治外法権を有する。また、甲の国民(魔物)が乙の国民に損害を与えた場合、理由の如何を問わず即時処刑できるものとする”』


「な、なんだそれはぁぁぁッ!?」  

魔王が絶叫する。  

それは平和条約などではない。完全なる「奴隷契約」だ。


『典型的な「不平等条約」ですね。耳障りのいい言葉で油断させ、細かい条文で搾取する。……悪徳業者の手口そのものだ』


 イチロウの目が、画面越しに外交官サギスを射抜く。


『おい、そこの外交官。この条約は「公序良俗」に反する。国際法上も無効だ』


「ひっ……! な、何だ貴様は! たかが箱の中の絵の分際で!」


 サギスが開き直って叫んだ。


「うるさい! 魔物風情が法律など分かるものか! サインさえさせればこっちの勝ちだ! 戦争が嫌なら黙ってサインしろ!」


「……言うたな、この古狸」


 ヨシコが静かに怒りを燃やす。  

だが、イチロウはフッと冷笑した。


『姉さん。……やるか。私の「赤ペン」を見せてやろう』


「おう。徹底的にやったれ!」


 ヨシコはスマホを条約文にかざした。  

イチロウは画面越しに条文をスキャンし、瞬時に修正案カウンター」を作成していく。


『第1条、修正。「一方的な不可侵」を「相互不可侵」に変更。第4条、削除。「賠償金」の根拠が不明確。第12条、破棄。このような資源の搾取は、国家間の「経済的主権の侵害」にあたる』


 ものすごい速度で、条約文が「赤字」で埋め尽くされていく。  

ヨシコはその修正内容を読み上げ、魔王が新しい羊皮紙に書き写す。


「そ、そして第25条追加! “乙が信義誠実の原則に反した場合、甲は『懲罰的損害賠償』として王国予算の50%を請求できる”……だ!」


 ドン!  


魔王が書き上げた「修正版・真の平和条約」を外交官の前に突き出した。


「これが我々の提示する『修正案』だ」


「な、な、なにぃぃ……!? 懲罰的賠償だと!? 国家間の条約でそんな無茶な……!」


「おたくが先に『無茶(詐欺)』を仕掛けてきたんやろがい!」


 ヨシコがドスを利かせて一喝する。


「内容は全て『対等』かつ『公正』なものにしてある。最後の賠償金だって、おたくが裏切らなきゃ払わんでええんや。……サギス殿。貴殿の国が本当に平和を望んでいるのなら、これにサインできるはずやな?」


 サギスが修正版を手に取り、震え上がった。  

完璧だ。  

法的に一切の隙がなく、かつ魔王軍の権利が鉄壁に守られている。

これでは、当初の目的だった「騙して搾取」など不可能だ。


「ぐ、ぐぬぬ……! こ、こんな……こんな高度なリーガルチェックができるわけがない! 貴様ら、本当に野蛮な魔物なのか!?」


「野蛮やと? 笑わせなや」


 ヨシコが鼻で笑った。


「騙して搾取しようとするあんたと、対等に手を組もうとした魔王……どっちが『野蛮』か、自分の胸に聞いてみぃ! うちはな、『コンプライアンス遵守』のホワイト企業や。あんたらよりよっぽど文明的やで!よう覚えとき。法律ルールを悪用して他人を騙そうとする奴はな、いつか必ずその法律ルールに寝首をかかれるんや! 正義面した悪党に、サインさせる紙はないで!」


 ぐうの音も出ない正論。  

これ以上交渉しても、搾取は不可能だ。  

サギスは顔を真っ赤にして立ち上がり、修正案を床に叩きつけた。


「ええい、交渉決裂だ! ……おのれ、生意気な魔物どもめ!」


 彼は出口へと走り去りながら、憎々しげに叫んだ。


「覚えていろ! こんな面倒な国、こうなったら力ずくで潰してやる! 勇者パーティを送り込んで、根絶やしにしてくれるわぁぁぁッ!」


 捨て台詞を残し、外交官は消え去った。  

魔王城に、再び静寂が戻る。


「……ふぅ。危ないところだった」  

魔王ゼノンは冷や汗を拭い、スマホに向かって頭を下げた。


「イチロウ殿……感謝する。貴殿がいなければ、私は国を売るところであった」


『礼には及びません。……ただ、魔王さん』


 イチロウが眼鏡の位置を直す。


『「契約」とは、お互いの信頼を形にするものです。相手が悪意を持っているなら、戦うしかない。……ですが、貴方がホワイトであり続ける限り、ルールは貴方を守る盾になります』


「……法が、盾に……」


 魔王は深く噛み締めた。  

そこへ、ヨシコが歩み寄り、ポンと魔王の肩を叩いた。


「魔王。ええか、無知は罪やない。でもな、『知ろうとしないこと』は罪や。判子押す前に、虫眼鏡で隅々まで読む。それが自分の身を守る一番の武器なんや!」


「……肝に銘じよう。知恵こそが、王の武器なのだな」


 魔王は深く頷いた。

これまでは「力こそパワー」だと思っていた。

だが、知性こそが最強の防壁になることを知ったのだ。


 その夜。  

ヨシコは自室で、イチロウとの通話を続けていた。


『……姉さん。カケルくんのこと、覚えているかい?』


「……ああ」


 イチロウの声が少し沈む。


『彼がブラック企業に入社した時、契約書を見せてもらったことがあった。「固定残業代」や「裁量労働制」……法的にはギリギリ合法だが、実質的な奴隷契約だった』


 カケルは言ったのだ。  

「みんな頑張ってるから」「これが社会のルールだから」と。  

そして、サインしてしまった。


『……あの時、私がもっと強く止めていれば。あるいは、労働基準監督署にねじ込んでいれば……』


「イチロウ、あんたのせいちゃうよ」


 ヨシコは首を振った。  

日本の社会には、「契約書を細かく見るのは失礼だ」という空気がある。  

「信頼」という言葉を盾に、リスクを弱者に押し付ける構造。


「……あの時、私らも『まあ大丈夫やろ』って目を逸らしてもうたんや。カケルの優しさに甘えて、周りの大人がちゃんと契約書を見んかった。それが間違いやったんや」


 ヨシコはスマホをギュッと握りしめた。


「だから、二度と同じ轍は踏まん。今度こそ、徹底的に確認して、守り抜くんや」


 ヨシコは窓の外を見た。  

魔王軍は強くなった。

法も知った。    

だが、外交官の最後の言葉が耳に残っている。  

『勇者パーティを送り込んで、根絶やしにしてくれるわ』


「……来るな。本物の『勇者』が」


 ホワイト化した魔王軍。  

そこに、「魔王=悪」と信じて疑わない「正義の味方」が現れたらどうなるか。  

最大のパラドックスにして、魔王軍編のクライマックスが迫りつつあった。


(続く)

契約書の赤ペン修正、気持ちいいですね!

知恵と法律は、弱者を守る盾になります。


次回、勘違いした「勇者パーティ」が殴り込み!?

ヨシコさん、どう迎撃する!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ