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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第三章:魔王軍ホワイト化計画・深化編 ~福利厚生の充実と意識改革~

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第17話:戦慄の健康診断と、魔王様の「メタボリックシンドローム」

 その日、魔王城の大広間は、処刑場のような静けさに包まれていた。

ずらりと並んだ長机。白衣を着た医療班スケルトン

そして、謎の魔導器具の数々。


 今日は、魔王軍初の「全軍一斉健康診断」の日である。


「……おい、聞いたかゴブ」


「……ああ。判定で『E』が出たら、その場で処分エリミネートされるらしい」


「……ひっ! 隠せ! 不調を隠すんだ!」


 兵士たちはガタガタと震えている。

彼らにとって「不健康」とは「欠陥品」と同義だ。

これまで怪我や病気は、隠して働くか、バレて捨てられるかの二択だったのだから。


「次! サイクロプス! 視力検査や!」


 ヨシコが手元の名簿を叩いた。

巨大な一つ目の巨人が、おずおずと検査台の前に立つ。


「右目……あ、目は一個か。……ええから、この『C』の切れ目どっちか言うてみぃ」


「え、えっと……ぼやけて見えねぇ……上、かな……?」


「下や! 視力0.1以下! ……あんた、最近頭痛するやろ?」


 サイクロプスがギクリとする。


「ど、どうしてそれを……」


「スマホ(遠見の水晶)の見すぎによる『眼精疲労』や。……判定D! 要精密検査!」


 死刑宣告を受けたかのように、サイクロプスが崩れ落ちる。

続いて呼ばれたのは、デュラハン(首なし騎士)だ。


「次! あんた、最近肩が上がらんらしいな?」


「は、はい……首がないのに、なぜか首周りが凝るのです……」


「そらそうや。いっつも自分の生首を左手で持ってるからや。重心が偏っとる」


「!?」


「『慢性的な片側荷重による脊椎歪み』や。……判定D! 生首はリュックに入れて背負え!」


 次々と下される非情な診断。

会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

だが、ヨシコ一人では診断しきれない。

彼女のスマホ画面には、白衣を着たクールな青年の顔が映し出されていた。


『――姉さん。次、魔王の番だね』


 六男・ロクロウ(30歳)。

世界中の難病を治療してきた、天才総合診療医ドクター・ジェネラリストだ。

彼は画面越しに、送られてきた魔王のバイタルデータ(魔法数値)を冷徹に見つめている。


「魔王! あんたの番やで!」


「ふ、ふん! 必要ない!」


 魔王ゼノンがマントを翻して現れた。

その顔には脂汗が滲んでいる。


「私は魔王だぞ? 不老不死の肉体を持つ最強の存在だ! 病気など……」


『数値は嘘をつかないよ、魔王さん』


 スマホからロクロウの声が響く。


『血圧180の110。中性脂肪値が基準の3倍。尿酸値は危険域。……典型的な「高血圧」と「脂質異常症」、おまけに「痛風」予備軍だ』


 魔王が石化した。

最強の魔王が、人間界の中年サラリーマンと同じ病名を告げられたのだ。


「う、嘘だ……! 私はまだ数千歳……人間で言えば30代だぞ!?」


『ストレスと運動不足、それに不規則な食生活だね。……最近、深夜に「魔界ラーメン(背脂マシマシ)」とか食べてないかい?』


「ぐっ……! そ、それは残業の唯一の楽しみで……」


『それが血管をボロボロにしてるんだ。……判定E。即入院レベルだね』


 ガーン!!


魔王の頭上に、巨大な岩が落ちてきたような衝撃が走る。

周りの兵士たちがざわめいた。


「ま、魔王様がE判定……!?」


処分エリミネートされるのか……!?」


「魔王軍は終わりだ……」


 絶望的な空気が流れる中、一人のガーゴイル(石像兵)が、突然倒れた。


「おい! どないしたんや!」


 ヨシコが駆け寄る。

ガーゴイルは胸を押さえて苦しんでいる。

その石の皮膚には、微細な「ヒビ」が入っていた。


「……す、すみません……実は前から、胸が痛くて……でも、言ったら壊されると思って……」


「アホか! なんで黙ってたんや!」


『姉さん、スマホを胸に当てて!』


 ロクロウの指示で、ヨシコがスマホを当てる。

ロクロウは画面越しに「魔力聴診」を行い、即座に診断を下した。


『……「疲労骨折」からの「魔力不整脈」だ。過労で石の心臓にヒビが入ってる。……このまま働いてたら、あと数日で砕け散ってたよ』


 会場が凍りついた。 魔王が青ざめた顔で叫ぶ。


「な、なんと……! 私の配下が、そこまで追い詰められていたとは……!」


「あんたも人のこと言えんけどな!」


 ヨシコは倒れたガーゴイルの手を握り、全軍に向かって叫んだ。


「よう聞き! 判定『E』はな、Eliminate(排除)のEちゃう! Emergency(緊急治療)のEや!」


 ヨシコの言葉が、石壁に反響する。


「悪いとこが見つかったら、直せばええ! 早期発見なら治るんや! ……一番アカンのはな、隠して無理して、取り返しがつかんようになることや!」


 ヨシコの脳裏に、カケルの顔が浮かんだ。

「大丈夫です」「まだやれます」と言って、健康診断の結果を机の奥に隠していた息子。

もし、あの時、無理やりにでも病院に連れて行っていれば。


「……体はな、車の部品とちゃうねん。取り替えがきかんのや。……壊れる前に、言うてくれ。頼むから」


 ヨシコの声が、わずかに震えた。

その真剣な響きに、ガーゴイルが涙を流した。

そして、隠れていた兵士たちが、次々と手を挙げ始めた。


「……実は、腰が痛いゴブ」


「……最近、眠れないのです」


「……胃がキリキリして……」


 堰を切ったように溢れ出す、体の悲鳴。

それは、彼らが初めて「弱音を吐いても殺されない」と知った証だった。


『……やれやれ。これじゃあ今日は徹夜で処方箋書きだね』


 ロクロウが苦笑しながら、キーボードを叩く音が聞こえる。


『でも、手遅れになるよりずっといい。……姉さん、魔王さんには特製の「減塩・禁酒プログラム」を送っておくよ』


「頼んだで!」


「な、禁酒だとぉぉぉ!?」


 魔王の絶叫が響く中、魔王軍初の健康診断は幕を閉じた。


 翌朝。

魔王城の中庭には、奇妙な光景が広がっていた。


「いち、に、さん、し!」


「「「ゴブ、ゴブ、ゴブ、ゴブ!」」」


 全軍揃っての「ラジオ体操(第一)」だ。

先頭では、えんじ色の「芋ジャージ」を着た魔王ゼノンが、悲鳴を上げながら前屈をしている。

背中にはヨシコのマジック書きで『魔王(中性脂肪注意)』と書かれていた。


「うぐぐ……! これが世界征服より辛いとは……!」


「膝曲げたらアカンで! しっかり伸ばす!」


 ヨシコの檄が飛ぶ。

ふと横を見れば、昨日倒れたガーゴイルが、胸に真新しい包帯を巻き、どこか晴れやかな顔で腕を回していた。

早期発見のおかげで、接着魔法で綺麗に治ったらしい。


 朝の光の中、数千の魔物が健康的に体を動かす。

それは、どんな強力な魔法よりも、この軍隊を強くする儀式だった。


「……さて。体調管理もできた」


 ヨシコは空を見上げた。

衣食住、そして医療。 人が(魔物が)働くための基盤は整った。

だが、組織にはまだ、最も厄介な「心の闇」が残っている。


 次回、いよいよ魔王軍編クライマックスへの助走。

「ハラスメント講習」と、無自覚な加害者たち。

五男・ゴロウ(保育士・メンタルケア)が、再び輝く時が来る。


(続く)

魔王様、まさかの生活習慣病(予備軍)。

皆様も、健康診断の結果はちゃんと見ましょうね……(自戒)。


次回、パワハラ鬼教官 vs 最強保育士!

言葉の「翻訳ゲーム」は必見です。

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