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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第二章:魔王軍ホワイト化計画・始動編 ~ワンオペ魔王と疲弊する中間管理職~

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第11話:崩壊する四天王と、無限栄養ドリンク

 魔王城、大会議室。

そこは、世界の命運を決める「御前会議」の場――であるはずだった。


「……なんや、この空気は」


 ヨシコは部屋に入った瞬間、鼻をつまんだ。

澱んだ空気。

酸っぱいような異臭。

そして床に散らばる大量の空き瓶。

机の奥には、魔王軍最強の幹部「四天王」たちが座っていた。

だが、その姿は伝説の怪物とは程遠い。


「……魔王様、次の議題は……ヒッ、ヒヒ……」


 炎の将軍ボルグ。

筋骨隆々の巨漢だが、目が虚ろで、小刻みに震えながら謎の色の液体ポーションをガブ飲みしている。


「……計算が合わない。兵站が……予算が……ブツブツ……」


 氷の参謀ラピス。

美しい女魔導師だが、髪はボサボサ、目の下のクマは魔王以上に濃い。


「……帰りたい。……消えたい……」


 闇の暗殺者シェイド。

影に潜むのが得意なはずが、今は単に机の下で体育座りをして現実逃避している。


「……あ、あのぅ、皆さん……?」


 唯一まともそうなのが、風の遊撃隊長ウィン。

一番若手の彼は、先輩たちの異様な空気に怯えきっている。


「これが四天王か? ただの『デスマーチ中の開発チーム』やないか」


 ヨシコは呆れ果てて、上座に座らされている(ヨシコに怒られて小さくなっている)魔王ゼノンを睨んだ。


「あんた、部下に何させてんの?」


「な、何を言う! 彼らは我が軍の誇る精鋭だ! 不眠不休で私の期待に応えてくれている!」


「応えてへんわ! 壊れとるだけや!」


 ヨシコは机の上の空き瓶を拾い上げた。

ラベルには『魔剤・ギガスタミナ(カフェイン200倍)』と書かれている。


「こんなもん常飲して仕事なんかできるかい! ……おい、あんた!」


 ヨシコは震える炎の将軍ボルグの肩を揺さぶった。


「寝たの、いつや?」


「ね、寝る……? 睡眠は甘え……魔王様のために……あと3つの砦を落とせば……ウヒヒ」


「アカン、中毒症状が出とる」


 ヨシコは即座にスマホを取り出し、三男のサブロウ(経営コンサルタント)を呼び出した。


「サブロウ! 緊急や! 組織図を見直さな死人が出る!」


『――状況は?』


「トップがアホみたいに指示を出して、中間管理職の4人で全部回そうとしてパンクしてる状態や!」


 スピーカー越しに、カチカチと電卓を叩くような音が聞こえ、サブロウの冷徹な声が響いた。


『典型的な「文鎮ぶんちん型組織」の末路ですね。社長(魔王)が全権を握り、直下の役員(四天王)に責任だけを丸投げしている。……姉さん、はっきり言いますわ』


「な、なんや?」


『その組織、もう手遅れです。「損切り」しましょう。一度破綻させて、民事再生法(の魔界版)を適用するのが一番合理的です。魔王には退場してもらい、資産を売却して――』


「待ったりぃな! 潰しに来たんちゃうわ! 私はそこで働いとる子らを助けたいんや!」


『……はぁ。相変わらず甘いですね、姉さんは』


 サブロウの呆れたようなため息が聞こえる。


『非効率な組織を延命させるのは僕の主義じゃないんですが……姉さんがそう言うなら仕方ない。まずは基本の確認です。彼らの「職務分掌ジョブ・ディスクリプション」はあるんですか?』


「あるわけないやろ! 『全部やれ』って言われてるんやから!」


 ヨシコは通話を切ると、魔王を指差した。


「魔王! あんた、思いつきで『あそこの村を襲え』とか『カッコいい城を作れ』とか言うてへんか?」


「と、当然だ! 私は魔王だぞ! アイデアは次々と湧いてくる!」


「そのアイデアを形にするのに、現場がどれだけ動いてるか知らんのか!」


 ヨシコはホワイトボード(のような石版)に、マジックで殴り書きを始めた。

魔王から四天王へ伸びる矢印。

その矢印の数は、数百本にも及ぶ。


「見てみぃ! あんたの『思いつき』一つで、ボルグさんは兵を集め、ラピスさんは予算を組み、シェイドさんは下見に行き、ウィン君は現場調整に走るんや! それを1日10回もやられたら、誰だって壊れるわ!」


 図解された「業務過多」の現実に、魔王が絶句する。

そして、今まで沈黙していた氷の参謀ラピスが、ふらりと立ち上がった。


「……魔王様」


「ラ、ラピス?」


「……あの『空飛ぶ要塞計画』、先週撤回されましたよね?」


「うむ。あれは効率が悪いと思ったのでな」


「……私、あの設計のために、3日徹夜したんです」


 ラピスの目から、ツーっと涙が流れた。

静かな、しかしドス黒い殺気が会議室を満たす。


「……魔王様は『効率が悪い』の一言で済みますけど……私の3日間は……私の寿命は……!」


 バチバチバチッ!!


 ラピスの杖から漆黒の雷撃がほとばしり、会議室の窓ガラスが共鳴して割れた。

いわゆる「キレた」状態だ。


「ひっ!?」


 魔王ゼノンは椅子から転げ落ちそうになった。

(な、なんだこのプレッシャーは……!?)

魔王の背筋に、冷や汗が滝のように流れる。

(300年前に戦った勇者の聖剣よりも重い……! いや、質が違う! これは「正義」などという綺麗な力ではない……もっとドロドロとした、報われない労働の怨嗟……!)


「か、かつての勇者よりも怖い……!!」


 魔王の本音が漏れた。


「わ、わかった! 悪かった! だから落ち着け!」


「落ち着けません! 私に休みをください! エステに行く時間をください! さもなくば、ここで自爆して……!」


「ストーーーップ!!」


 ヨシコが割って入り、暴走寸前のラピスの背中を優しく抱きしめた。


「辛かったなぁ。よう頑張ったなぁ」


「……う、ううっ……おばちゃん……」


「もうええ。もう頑張らんでええ」


 ヨシコの温もりに触れ、ラピスはその場に泣き崩れた。

それにつられて、他の3人も堰を切ったように本音を吐き出し始めた。


「俺だって……本当は家で猫と遊びたいんだぁぁ!」(炎の将軍)


「暗いところはもう嫌だ……日向ぼっこがしたい……」(闇の暗殺者)


「僕、先輩たちのパシリばっかりで……本来の仕事が全然できてません……」(風の隊長)


 会議室は一転、阿鼻叫喚の「集団セラピー会場」と化した。

魔王ゼノンは、顔面蒼白でその光景を見つめている。

自分の「情熱」が、最も信頼する部下たちをここまで追い詰めていた現実を、初めて直視したのだ。


「……私は……何ということを……」


 ヨシコは泣き止まない四天王たちをなだめつつ、魔王を一喝した。


「反省は後や! 今すぐ『業務停止命令』を出せ!」


「ぎょ、業務停止?」


「せや! 今日から3日間、魔王軍は全休や! 電話もメールも(通信魔法も)禁止! 全員、泥のように寝ろ!」


 ヨシコは仁王立ちして宣言した。

その声が響き渡った、直後だった。


 カタン。


 会議室のどこかで、乾いた音がした。

氷の参謀ラピスの手から、長い間止まることのなかった羽ペンが滑り落ち、机の上で止まった音だった。

それは、彼らを縛り付けていた「終わらない業務」という呪いが、物理的に途切れた瞬間のように聞こえた。


「四天王の仕事はな、魔王のパシリとちゃう。『部下を守ること』や。……まずはあんたら自身が、自分を守りなさい」


 その言葉に、四天王たちは涙目で頷いた。

炎の将軍ボルグが、震える手で『魔剤』の瓶を床に投げ捨てた。


ガシャン!


と割れる音が、ブラック企業の終焉を告げる号砲のように響いた。


 翌日。

魔王城は静寂に包まれていた。

誰も働いていない。

全員が死んだように眠っているからだ。


 ヨシコだけが、厨房で大量の「お粥」を作りながら、スマホに話しかけていた。


「……ほんま、世話の焼ける連中やわ」


『姉さん、お疲れ様。……潰す気がないなら、再建しかありませんね。組織図の再編案、送っておきました』


 どこまでもドライなサブロウの対応に、ヨシコは苦笑した。


「おおきに。……カケルも、こんなふうに誰かに止めてもろてたら、よかったのにな」


 鍋から立ち上る湯気の向こうに、ヨシコは幻を見る。

エナジードリンクの空き缶に埋もれて働く息子の姿を。

(あんたの分まで、お母さんが全部ひっくり返したるからな)


 最強の総務おばちゃんの「魔王軍改造計画」。

次は、溜まりに溜まった「業務の棚卸し」が待っている。


(続く)

四天王、ボロボロでしたね……。

エナドリで乾杯する職場は、大体ヤバいです(経験談?)。


次回は、地獄の「業務棚卸し」!

付箋を使った整理術は、現実の仕事でも使える……かも?

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