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著者:山岡再起「宝石の淡い輝き」

 小さな、暗いアパートの一室。溜息を重ねる度に、部屋の空気も重く沈んでゆく気がする。

「ばれてしまった」

 溜息とともに零れた言葉。傾けたコーヒーカップの上に、音もなく。


 世間は、きっと、彼を許さないだろう。

 魔女と愛し合うことなど、到底許されないのだから。

 秘術を使い、気の遠くなるような長い年月を生きる女たち。魔女。

 私は魔女として世界の移り変わりを見てきた。どの時代でも魔女という存在は、疎まれる。

 魔女狩りに追われ、殺されかけたことすらあった。それでも私は人間を愛することをやめなかった。やめられなかった。

 魔女の記憶は甘く、それでいて苦い。まるで、そう、コーヒーのよう。私はコーヒーカップをソーサーにそっと戻す。

 磁器の擦れる小さな音はテレビのアナウンサーの声にかき消されてしまう。

 テーブルの上の二つのコーヒーカップは、まだ湯気が立っている。

 まるで時間が停まってしまったかの様に。

「もう、行かなきゃ」

 テーブルの上に放置されていたエメラルドをあしらったネックレスを手に取る。それは彼からの最後のプレゼント。

 彼と思い出が詰まった緑の小さなエメラルド。

 持っていく思い出はこれだけでいい。魔女の旅路に多くの荷物は必要ない。

私の持つ小さなカバンには、長い人生の『思い出達』が詰まっている。私はネックレスをカバンの中に落とす。

 宝石同士が触れ合う鈴の様な音は、やはりテレビの声にかき消されてしまった。

「さようなら」

私は部屋を出た。


 誰もいない部屋の中でテレビの声だけが響いている。

「東京都板橋区に住んでいた20代男性が現在も行方不明です。

同棲していたと思われる女性についての情報をお持ちの方は、ご一報ください。

……。次のニュースです」


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