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もうだめな国のアリス  作者: 住之江京


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第1話「国がだめ」

「この国はもうだめです」

「ひえ~……」


 ウサギを追いかけていた私は、もうだめな国に迷い込んだ。

 私の知るウサギとは少し違うから、ここはきっと、別の星とか、別の世界とかなのだろう。


 胸に時計が埋め込まれた3本耳、7本足のウサギ。

 ウサギ? ウサギだ。さっき話したとき、語尾に「ウサ」ってついてたし。

 彼は私を女王の下に案内した。


 獣の女王。

 3つの眼、6対12個の様々な動物の耳に、1対の鳥翼を持ち、人と獅子とプレーリードッグの中間のような顔立ち。

 座った状態でも私より目線の高い女王は、厳かな声音で私にお告げあそばされた。


「なんでまぁアリスさんに、だめじゃなくして頂こうかと」


 なお、アリスは私の名前だ。

 私は埼玉出身の日本人だけど、両親が谷村新司さんのファンだったのでそのように名付けられたそう。

 私は谷村新司さんは物真似でしか見たことがないものの、家族で旅行に行く際に車の中でよく流れていたので、大体の曲はカラオケで歌える。

 歌わないけど。同世代の友達は誰も知らないので。TikTokでも流行ってなかったので。

 谷村新司さんの話はいいんだよ。


 そんなことより、女王様のお話が問題だ。

 王族の血も引いておらず、内政の経験もない新卒就職浪人の私が、もうだめな国をだめじゃなくするなんて、あまり現実的ではないのでは?


「なんで私を連れて来たの?」


 小声でウサギに尋ねると、ウサギは透徹(とうてつ)した目で私に告げた。


「成人で、現在無職だけど労働意欲はあり、犯罪歴がなく、人格的に一目でわかる問題もなく、なおかつウサギを追いかけてこんなところまで来てくれる人は、意外と少ないウサ」


 意外でもない気もするなぁ。

 あと、多少なりと私の個人情報が漏れているのが気になるけれど。


「ではまぁダメ元でやってみますが……」


 かくして私・アリスは、国をだめじゃなくする大臣に任命されたのであった。



       ∩∩∩

        ()ߐ ()



 この国の名は、獣の王国。

 獣の女王が治める専制君主制国家だ。

 獣の王国とは言っても町を見渡す限り、住民の半分以上は獣ではなさそう。五索(ウーソウ)の赤牌に人らしき頭部と手足が生えた人?が多いと思う。

 残り半分は獣っぽい人が多いけれど、それでも何の獣だかわからない者がいる。正直に言えば、ウサギもそうだ。

 でも、獣の女王が元首なのだから、ここは獣の王国で良いのだろう。


「それで、具体的には何がだめなの?」


 住宅地を並んで歩きながら、私はウサギに尋ねる。


「そうウサね、たとえば……」


 ウサギは少し考えるように言葉を止めると、一度(またた)いて、口を開いた。


「国民の主食が生の本マグロ」

「食費が(かさ)むなぁ」


 思っていた方向と違うけれど、思っていたよりもだめそうだった。

 近年は本マグロの完全養殖技術も進んでいるというし、その内に漁獲量の問題は解消されるだろう。

 技術の向上でコストダウンも可能かもしれない。

 問題は、私にそんな技術も知識もないってことだけど。


「他に何か食べ物はないの? お米とか」

「他はボルシチとか……ああそう、茶会ガチ勢はお茶だけで生きてるウサね」


 ボルシチというチョイスも気になるけれど、お茶だけで生きているというのが、よくわからない。

 わからないからこそ、そこに食料問題解決の糸口があるかもしれない。

 私はそう考えた。


「そのお茶会? って見れる?」

「可能ウサ」


 私はウサギを追いかけて、お茶会の常設会場なる場所へと向かう。



       ∩∩∩

        ()ߐ ()



 いつもお茶会をしているグループは4人組。

 一抱えほどもあるハリネズミと、帽子をかぶった猫と、頭に葉っぱの生えた鳥と……何だろう。よくわからない、獣タイプの人だった。


「「「「千回記念おめでと~☆」」」」


 ちょうどお茶会は始まったばかりの様子。

 彼らは【祝☆第1000次世界大戦】と白抜きで書かれた横断幕の下に卓袱台を置き、楽しそうに紅茶を飲んで騒いでいた。

 何だか物騒なお題目が掲げてあるけど、何かの比喩なのかな。


「ついに大台やね~☆」


 クラッカーを鳴らしたハリネズミがにこやかに、隣の席の猫に話しかける。


「前回で同盟国が滅んだし、今回は孤立無援やよ~☆」


 猫はにこやかに答える。


 うーん。これ文字通り、世界大戦1000回やってるな?

 全世界が敵に回るとか、戦略シミュレーションゲームの最終盤かな。


「これはもうだめなのでは?」


 私はウサギに尋ねた。


「だからそう言ってるウサ」


 そこで私はようやく、この国のだめ具合の一端を理解した。



【第1話 おわり】

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これはもうダメかもわからんね
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