表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する龍と世界の終わり  作者: LFG!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

18:世界樹の枝葉(1)




 ノルンが言っていた。

 俺の体には、邪龍すら上回る膨大な魔力が流れているらしい。


 その理由はひとつ。

 俺という存在が、世界樹の枝葉――その分離体だからだ。


 世界樹。

 この世界の外に在り、幾つもの世界を果実として実らせる、最初で最後の神樹。

 ノルンの話が真実なら、俺たちの住むこの大地も、その果実のひとつにすぎないという。


 ――途方もない話だ。笑うしかなかった。


 どうしてそんなことを知っているのかと問えば、答えは単純明快だった。


 世界樹――ユグドラシルには意思がある。

 かつて勇者と聖女に語りかけ、力を授けたその存在は、確かに実在していた。


 そんな規格外の、神に等しい存在の枝葉が、俺という“形”を成している。

 つまり――俺は、()()()姿()()()()()()だった。


 五感はある。空腹も感じる。眠ることもできる。

 けれど、それらは人間を模した仮初の機能にすぎない。


 俺の肉体を構成するのは、世界樹の外皮。

 神代の素材――あらゆる干渉を拒む絶対の器。


 剣も、火も、毒も、氷も、空間さえも。

 この皮一枚、傷つけることはできない。


 思い返せば、命を狙われた夜があった。

 暗殺者の刃が俺の胸を貫こうとした瞬間、鈍い音を立ててナイフは折れた。

 皮膚の下にすら届かず、まるで大地を打ったかのように。


 あの時は驚いた。

 ――だが、今思えば当然のことだったのだ。


 肉体を構成するものとして、外せないものがある。


 それは血だ。

 だが、俺の体内を流れるのは血液ではない。


 魔力の樹液。

 それは命そのものと呼べるほど濃密で、傷を負えば瞬時に集い、組織を再生する。


 つまり俺は、物理的な死から最も遠いところに立つ存在だ。


 俺の死は、この世界の土台そのものの崩壊を意味する。

 つまり――俺が滅べば、世界も滅ぶ。


 だからこそ、ノルンもヒルデも俺を“様”付けで呼び、丁重に扱う。


 俺を傷つけられる存在は、極めて限られている。

 ユグドラシルに由来するものか、あるいはその枝葉すら超える邪龍たちだけだ。


 ヒルデがこの戦線からの撤退を望むのも、当然のことだろう。


 ――けれど、それでも。


 俺は断じて、植物なんかじゃない。


 心は震える。

 誰かを大切に思える。

 怒れるし、哀しめるし、愛することもできる。


 だから俺は、人間として生きる。

 たとえこの体が神の造った器であっても――仲間と共に歩み、戦う道を選ぶ。


 ……まぁ、理屈はここまでだ。


 今、大事なのは俺が人間かどうかなんて話じゃない。


 俺の内を流れる魔力の樹液――それが、勇者よりも、聖女よりも、邪龍よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。


 俺は知っている。

 この世界で一番尊敬しているシスターが、教えてくれた言葉を。


『ちゃんと名前を呼んで……それから、心からお願いするの。助けてほしいってね』

『……そんなんでいいのか?』

『本当に心から願えば、それで良いのよ』


 あの時、俺は自分に力なんてないと思っていた。

 けれど――そうじゃなかった。


 俺には、あったんだ。


 魔力が。

 仲間を信じ、自分を信じ、世界そのものに手を伸ばす力が。


 だからこそ。


 ――俺は、俺のすべてを懸けて、仲間を守り抜く。




もうすぐ終わり。

ぜひブックマーク登録をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ