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旅する龍と世界の終わり  作者: LFG!


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12:太陽と勇者(2)

 ♦ ♦ ♦




 闇が蠢き、世界が軋む。

 黒泥の翼がはためくたび、空間そのものが震えた。


 その中心で、僕は駆ける。


 勇者シグンドではなく、()()()()()として。


「行くよ、シグ!」


「了解――合わせる!」


 地を蹴った。


 紅が、流星のように闇を貫く。


 よろめいた核が黒炎を吐き出し、奔流となってニルファちゃんを呑み込もうとした。


 呼応して、グラムを振り抜く。

 放たれた光波が黒炎を撃ち抜き、炎は霧散して陽光に晒された霜のように消えた。


「さっすがぁっ!」


「これくらいはね!」


 核の懐に潜り込む。

 右目の紋章が、最適な切り口を示してくれた。


 グラムが唸り、斜め上から袈裟懸けに闇を裂く。

 核の左翼が削がれ、泥が飛び散る。


 しかし――すぐに再生した。


 影が絡まり、断面が蠢きながら元の形を取り戻していく。


「ほんっと、しつこいっ!」


「だったら、消し飛ばすだけだ!」


 グラムに魔力を込める。

 光波で足りないなら、範囲を絞って威力を上げればいい。


 やったことはないが、出来るはずだ。


「グラム――撃ち抜けぇぇぇぇぇぇぇ!」


 極光が線状に放たれ、核の右半身を貫いた。


 ダメージが大きいのか、再生は遅い。

 その隙を、ニルファちゃんは見逃さなかった。


「ナイス、シグっ!」


 紅の連撃が炸裂する。

 核は体を捻って抵抗するが、半身を欠いたそれは一方的に打ち据えられた。


 轟音が響き、核の体が浮き上がる。


 ニルファちゃんがその体を蹴り、空へ跳ぶ。

 そして、上空から叩き落とした。


 地に落ちた衝撃で、核の体から黒泥が噴き出す。

 大地が割れ、泥がじくじくと流れ落ちていく。


「シグっ!そいつの真ん中に……何かある!」


「狙うかいっ!?」


「ぶっ壊してやろっ!」


「――了解!」


 狙うは中心。

 出すは全力。


 魔力を込めたグラムが、一際強く輝く。


 跳躍。

 地に伏した核の中心部へ降り立つ。


 不安定な体を踏みしめ、真っ直ぐに――深く、グラムを突き刺した。


「応えろ――グラムっ!」


 聖剣から光が、音が、熱が膨張し、核の体を内側から膨れ上がらせる。

 光が世界を包み、爆ぜた。


 それは咆哮か、断末魔か。

 核は光に焼かれ、爆光に呑まれていく。


 だが――まだ崩れきらない。


 中心部、深紅に輝くコアを露出させながら、なおも形を保っていた。

 無数の影の触手が地に根を張り、コアを守るように蠢く。


 その時。


 上空から一直線に、紅が落ちた。


「これで——終わりっっ!!」


 双眸はさらに深紅に輝く。

 燃え滾るような血の色でありながら、確かな意志の光。


 ニルファちゃんの輪郭が、熱に滲むように揺らめく。

 風が巻き上がり、髪と衣が翻るたび――その背に巨大な影が重なった。


 それはまるで、大地に堕ちる一頭の龍。


 背から突き出す漆黒の翼。

 鋼鉄を思わせる紅黒の鱗。


 怒りでも憎しみでもない。

 ただ、守り、外敵を打ち滅ぼすための威風。


 爆ぜる風圧が、暗がりに沈んだ戦場を切り裂く。


 一閃。

 コアを貫く拳が、地を割った。


 ドグン――。


 見えぬ波動が走り、空間が歪む。

 核の身体が、内側から崩壊を始めた。


 泥のように溶け、黒き瘴気が血のように流れ出す。

 やがてそれは、大地の亀裂へと吸い込まれていった。


 巨体が沈みゆく最後の瞬間、深紅の瞳がわずかに細められる。

 その光が、一瞬だけこちらを見たように思えた。


 そしてすべては泥へと還り、大地に流れ落ちた。


 グラムを大地に突き刺し、屈む。


「……ふぅ。流石に、ちょっと疲れたかな」


 心地よい疲労が全身を包む。

 長い夜が、終わった。


「おつかれー」


 横から声がする。

 振り向くと、ニルファちゃんが手を振っていた。


「止め刺したのあたしだから……あたしの勝ちっ!」


「ははっ! そうだね……いやぁ、勇者に生まれて、負け知らずだったんだけどなぁ」


「ふっふー! シグもめっちゃ強いから安心していいよ!」


「そうかい? それは光栄だ」


 ようやく、心から笑えている気がした。


 ニルファちゃんは遠くのフヴェルミルの街を見つめる。


「トネとルーン、今どこにいるんだろ? 早く会いたいなぁ」


「僕もだよ。とりあえず街に戻ろう。二人も、戦いが終わったことに気づけば戻ると思うから」


「おっけーい」


 グラムを還す。

 立ち上がろうと地面に手をついた――ネチャリ、と粘ついた感触。


「……?」


 手を見ると、黒い泥がついていた。

 下を見れば、大地の亀裂を泥がゆっくりと流れている。


 ――どこに?


 いや、なぜ。


「なんで……残ってるんだ?」


 呆然と呟く。

 嫌な予感が、背を這い上がった。


「どうしたのー?」


 街へ歩き出していたニルファちゃんが、こちらを振り向く。

 僕は答えず、倒したばかりの核を見つめた。


 核はなおも、どろどろと体を崩壊させながら泥を流し続けている。


 ――なぜ、消えない?


 本来なら、魔物は倒せば塵となって消えるはず。


 瞬間、脳裏を電撃のような記憶が走る。

 森で倒した魔喰熊は? 洞窟で見た新種は?


 顔を上げ、叫ぶ。


「ニルファちゃんっ!魔物は――倒した後はどうなってたっ!?」


「え?……んー、そいつとおんなじ。泥になって死んだよ?」


 ニルファちゃんは周囲を見渡した。


「他の人が倒した奴も、全部そうなんじゃない?……シグも同じでしょ?」


 心臓が早鐘を打つ。

 予感が、確信に変わる。


「僕はっ……違う。グラムで切った魔物は、全部――」


 聖剣グラム。

 世界樹ユグドラシルより授かった、闇祓いの剣。


「――グラムっ!」


 名を呼ぶと、虚空から聖なる剣が顕現した。

 握り、振りかぶり、魔力を込める。


 グラムが唸る。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 上段から振り抜く。

 極光が核を呑み込み――核は光の粒子となって空へと消えた。


 疑問が、確信に変わる。


「ど、どうしたのシグ? ……何かあったの?」


 答える余裕はない。


 足元の泥を見る。

 地面の亀裂を伝い、それはフヴェルミルへと流れ続けていた。


「……っ!」


 霧の軍勢の侵攻は終わっていなかった。

 僕たちが戦っている間も――。


 当初の目的通り、街へと進み続けていたのだ。


 フヴェルミル――邪龍の眠る街へと。


「グラァァァァァァァァァァムっ!」


 魔力を込める。込める。込める。込める。


 振り抜いた。


「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 先ほどとは逆に、範囲を広げて光波を放つ。


 極光が街へ向かい――ふっと掻き消えた。


 その光景に、手遅れを悟る。


「……ぁぁ」


 呟いた瞬間――


 ――ゴゴゴゴゴゴ……。


 大地が震動し、空気が鳴動する。

 世界が震えた。


 轟音とともに、遠くの街の大地が裂ける。

 崩壊とともに、濛々と土煙が舞い上がる。


 その煙を突き破るようにして、天へと巨大な『何か』が這い上がっていった。


「……嘘」


 ニルファちゃんの声が震える。


 天を穿った影は、土煙も暗雲も吹き飛ばした。


 フヴェルミルの大地を喰い破り、天を駆けるその姿――黒い龍。


 山よりも巨大な黒き龍が、全身を天へと躍らせる。

 蛇のような首がゆっくりと大地を見渡し――やがて、天を睨んだ。


 ――aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!


 天地を貫く咆哮が、世界の終わりを告げる。


 古より伝承される『邪龍ニーズヘッグ』の復活。


 それは破壊と終焉の象徴であり――

 後に龍の夜と呼ばれる滅びの始まりだった。




 ♦ ♦ ♦

いよいよ後編スタート!

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