第一話 最底辺の転生
俺の名前は山本一郎。いや、かつてはそうだった。三十五歳、派遣社員。毎日上司に怒鳴られ、同僚に無視され、SNSで承認欲求を満たすだけの空虚な人生。ある日、過労で倒れ、目が覚めるとそこは異世界。薄暗い洞窟、湿った土の匂い。体を確認すると、緑の肌、尖った耳、貧弱な体躯。ゴブリンだ。それも、群れの最底辺。
ステータス画面が浮かぶ。HP10、攻撃力3、防御力2。ゴブリン仲間にすらバカにされる存在。だが、頭に声が響いた。
【転生特典:『創造の筆』スキル獲得。描いたものが現実に具現化。ただし、代償が必要。】
チートスキルだ! 試しに地面に棒で「リンゴ」と書くと、赤いリンゴがポンと出現。だが、頭がズキンと痛み、HPが8に減った。代償は体力か。強力だが、使いすぎると死ぬ。
ゴブリン集落は地獄だった。強いゴブリンが食料を独占、弱い俺は殴られ、ゴミのような残飯しか与えられない。地球の職場と変わらない格差社会。絶望しかけた夜、森の奥で少女を見つけた。
金髪、青い瞳、ボロボロの服。鎖で繋がれ、地面に座り込む。彼女は呟く。「もう、誰も信じない……」俺はこっそり近づき、リンゴを転がす。彼女は驚き、俺を見て微笑んだ。「ゴブリンなのに……優しいの?」
彼女の名はミリア。十七歳。人間の貴族の奴隷だったが、逃げ出し、ゴブリンに捕まった。貴族社会では、貧民はゴミ同然。ミリアは貧民街出身で、親を貴族に殺された過去を持つ。「私、生きる価値ないよね……」
俺は首を振る。声が出ないので、地面に「価値ある」と書く。ミリアの目が潤む。「ありがとう……君、なんて名前?」
俺は「イチ」と書く。ミリアは笑う。「イチ、友達になってくれる?」俺の心が温まる。地球で得られなかった絆だ。