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第2話 こんにちは人間さん


 首が熱い。

 背が燃えている。

 手のひらが暖かい。



 まぶたは開く。短髪で黒髪の人間のがうちを見て驚いている。

 そして小さく声を出した。


「  あ  」

 

 咄嗟に手を離すとうちの左腕は力無くベッドに落ちた。


「……貴方が手を握ってくれてたのん?」


「ああ。悪いとは思っていたんだがね。あんまり似てたもので助けてしまったよ。まあ怒られるのは慣れているから気にしなくていいよ」


「あれ……もしかしてミリアムさん?」


 その女性は何も言わずにうちの髪を軽く撫でると微笑んでその場を離れた。

 程なくして遠くからミリアムさんの大きな声が聞こえて来た。


「おいクソガキ! 天使さんが目を覚ましたよ! それと記憶がある状態で姿を見られたからなんとかしておくれよ」



 目頭を押さえながら起き上がる。


「ミリ……あの人と何処かで会ったんかな?」


 たぶん会った事ある。

 うちが生まれた時になにか、大事なものを。


 自分の身体を改める。手のひらに力を入れて緩めて。思わず冷や汗が込み上げる。


 人を救おうとした結果がこれか。


「ない……ないない!? うちの祈詩がない! お母様の……お父さんに。誰にもらったんだっけ?」


 やっぱりうちは大人しくしておくべきだったのだ。

 荒事を解決する力もなければ天使としての力もない。うちだけのたった一つの贈り物さえなくしてしまった。


 さっさと天上に帰ってフィちゃんの世話でもしながら何も考えず生きていこう。

 


「お久しぶりですですティーチェ様ぁ」


 開けっぱなしの扉から修道服に身を包んだフィちゃんより更に小さな女の子が入って来た。声色から察するに心配と喜び、それと不安、沢山の感情がそこには込められていた。


「調子はいかがお過ごしですです?」


「えぇっーと全然平気だけど、まずどうしてうちを知ってるのん?」


「やっぱり本当に記憶に障害? 流石に早過ぎたですです」


 女の子は爪を噛みながらブツブツ言い、そしてうちが慌てないように落ち着いて聞けるように飲み物を手渡した。


 中身は白湯だ。それを口に含んで女の子の次の言葉を待つ。


「ティーチェ様は私様が誰か覚えてるです?」


「女の子やんな! 多分シスターやよ!」


 うちの言葉に女の子絶句した。

 そしてうちの背中を愛おしく撫でながら問いを続ける。


「辛い事を言いますけどティーチェ様は記憶喪失ですです。一気に説明すると頭沸騰してパァになっちゃうからおりを見て説明するですです」


「いやいや。記憶はあるよ。そもそもうち……」


 言い切ろうとしたうちに強烈な違和感が襲いかかる。


 何かおかしい。


「うち……どうやって運ばれたのん?」

 

「朽ちた大木で首を吊られて死んでるところをミリアムが連れて来たです。被害は最小限にしたって言ってたですから気にしなくていいですです」


 ミリアムってさっきの優しそうな人間かな?


 恐る恐る首筋に触れる。

 首を吊ったのはうちではない。

 名も知らない人間だったはずだ。



「あ、はは、人間って頑丈なんだ……アハ……」


「そんな訳ないですよ。神様が有給休暇と奇跡を遣って半分だけ助けたですです」


「神様……そんなのいる訳……ない」


「目の前にいるですです」



「あぁなるほど。確かにうちは混乱しとるやね。目の前で神様を自称出来る幼子が存在してるなんてあり得んもん。」


 なんと言うか。何ひとつ大丈夫ではない。


 察するにうちの天使の羽は砕かれて魂が人間と混じり合っている。ならばうちの魂は昇天する事も出来ずに地上に留まる事しか出来ない。


 そんな事ぐらいなら別段問題ないんだけど、



 何が起こったか理解できないけど今のうちはティーチェ・レストなのだ。

 目の前の幼い子が神様を自称して神罰が下されないのなら本物の神様なのだ。


「うーん、あたま痛い。神様は殺されたはずなのになぁ…この子が神様ならうち何のために100年も罰受けたかわからんやんな」


 うちの言葉に罪悪感を感じたのかバツが悪かったのか幼っ子もコホンと咳払いをして祈りを切る仕草をした。


「え、えぇっと、えとえと、まぁティーチェ様を助けたからおあいこって事で一つよろしくですです!」


「シグちゃんってやっぱり神様らしくないやんなぁ……え? なんで…なんで?」

 

 どうして会ったこともない喋り方も違う目の前の子を神様の名前で呼んだのだろう?


 いや、わかってる。疑いようもない事実だ。神様の名前を人間に対して呼んだうちが消滅してないなんてあり得ない。


「……本当に神様なん?」


「はいですです!休暇を満喫中の私様が珍しくタダでティーチェ様を介抱してあげたですよ! その身体は普段なら絶対に貸し出さない特別ですです」

 


 不思議と笑みが溢れた。

 理由はわかってる。この身体には祈詩が宿っている。


 不思議でもなんでもない。うちはお母様と違って、まだ天使としての職務をまっとう出来るからだ。

 


「ちなみにあんまり馴染まなかったから半年後には溶けちゃうです。それまでに元の身体は返してもらうように段取りつけるですよ」


「えぇ……うちの身体は何処にあるのん。シグちゃんは神様だから知っとるよなぁ?」


「当然知ってるです。そして今のは願い。私様は神様だから人間から集めた祈りと引き換えに叶えてあげるです。さらに降りたばかりのティーチェ様は何も持ってないから教えない。つまりこれは当然不毛なやり取りですです」


「こんなんお願い事に含まんで欲しかったなぁ」


読んでいただきありがとうございました!

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