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King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
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20秒の死合い



時間制限。リベルはルーに「耐え切ってください」と言った。つまりまともに戦わなくとも、ルーが20秒間逃げ続ければ条件が満たされる、とも解釈できる。


屁理屈かもしれない。しかしそれでもリベルは許してくれるとルーは勝手に思い込んでいた。


あの底が知れないが無邪気過ぎる笑顔を見て感じた。


(……やめた)


選択肢から外した。ルーはあのセメントで固めたように動かない笑顔を崩す方針へと変えた。


そのために、わざわざ魔力消費が高い重要武器(メインウエポン)を両手に装備したのだ。


「……」

「……」


20秒の死合い────開始。


怒涛の1歩でお互い距離を詰める。1秒どころか0.1秒すらかかっていない。


ルーが剣先を地面に向けた黒魔剣(こくまけん)を振ろうとする動きがリベルは視えた。


リベルも曲刀を横薙ぎに払おうとする。


(これは避けるよね〜)


攻撃すると見せかけてすかさず躱し、そこから背後に回るなりの展開だと予測した。


何せリベル自身もわかっている、この曲刀の恐ろしさ。触れた物、さもなくば斬撃の範囲内にいる者全てを斬り伏せる絶剣。


現に先の戦闘でもルーはリベルに曲刀を殆ど使わせなかった。


今回もまともに正面から来るとは考えなかった。己の脳をフル活用し、"避けた後の行動"を必死に解析していた……が──



ギィイイン!!!



「ほえ?」


"黒魔剣と曲刀が衝突した"。


だが黒魔剣の刀身は折れておらず、さらに予想外の事態に対応できず、リベルは押し返されてしまった。



2秒経過──



リベルはルーの瞳を覗き込んだ。


「こいよ」


そう言われた気がした。


「いくぜええええええええええええええええええええええええ!!!」


押し負けた体勢を元に戻し、今度は思いっきり斬りかかる。黒と白の対局した斬撃が交わり、鼓動を鳴らし続ける。


剣と剣が殴り合う、ぶつかり合う。衝撃音が深淵の狂詩曲(ラプソディ)を奏でている。不気味で美しい光景だ。


(後4秒か……)


ルーは数字を数えていた。黒魔剣をリベルの曲刀にぶつけたのは賭けだった。


黒魔剣なら曲刀に封じられている魔法を阻害できると思った。しかしそれは100%確信がなかった。


曲刀との魔法の差が大きすぎたら、黒魔剣はただの刃物となり、ルーはお陀仏。


だが真正面からリベルと対峙するには、まず曲刀の力を一時的でもいいから防ぐ必要があったのだ。


賭けはルーの黒魔剣を讃え、滲み出る黒が曲刀の両断を消している──が、所有者であるルーは感じ取った。


"黒魔剣は5秒しかもたない"。


やはり埋めることができない魔法の差は存在した。ぶつかり合ったその瞬間から、黒魔剣絶命のカウントダウンは始まっていた。


一度折られれば刀身を再生するのに時間を有する。無理矢理再生できなくはないが、己のパフォーマンスを下げるだけなので却下。


死想亡鎌(メメントモリ)と二刀流で使えば時間を延命させることはできただろう。しかしルーは左手を使わない。"まだ"、使わない。


(3秒……2秒……)



5秒経過──



(1秒……!)


姿勢を低くした。残り1秒の中での神速の動き。黒魔剣を透明な鞘に収めるよう、左下に構える。


抜刀。下方から上方に斬り上げ、強い衝撃でリベルの右腕を横に逸らすことに成功した。


パリン。


黒魔剣は破壊された。柄のみになった黒魔剣を魔法で手の中から消した。残るは左手にある死想亡鎌(メメントモリ)のみ。


敗北(リタイア)はまだだろ!?」


衝動がリベルを突き動かす。腕が引きちぎれない限り、その振るう手は止められない。


曲刀の一閃が迫ろうとする──


ゴツッ。


(ぇ)


リベルの握りこぶしに何かがぶつかった。


("俺の銃"……?)


リベルがルーの頭を貫こうとした拳銃。何故かぶつかった……否、"ぶつけられた"。


()ったのか?)


あの激しい乱撃に紛れルーは盗んでいた。あの5秒の間に隠している場所を暴き出し、悟られないように慎重に。


興奮していたリベルは注意力が散漫になっていた。


落ち度。動きが鈍ったリベルによって、ペースはルーの物になっていた。


「んあ」


空いた右手でリベルの胸ぐらをつかみ頭突き。さらにもう1回。


「あがっ」


リベルはまた鼻血を出した。胸ぐらを離したルーは魔法術式を改築。死想亡鎌(メメントモリ)を"分割した"。


『極火』本拠地でも見せた芸当。巨大な大鎌である本体を2分割して両手持ちにする技。


サイズは2分の1になるが、性能は変わらない。ルーは2本の死想亡鎌(メメントモリ)をリベルの肩に乗せ、押し倒した。


「おあ!」


地面に仰向けに倒れこむ。ルーは自然とリベルと向かい合わせになってしまった。


「……俺そういう趣味ないけど」

「俺もねえよ」


真上へと跳躍する。あっという間にリベルの顔が遠のいた。リベルも倒された身体を起こそうとするが、阻止された。


下半身は動くが、肩から上が起き上がることができない。目線を横に動かすと2本の死想亡鎌(メメントモリ)が地面に深く突き刺さっていた。


それがリベルを地べたに固定し動きを阻んだ。


10秒経過──


跳躍限界値まで来たルーは浮遊魔法でその場に止まる。


(立ち上がる前に終わらす)


死想亡鎌の術式に魔力を流し続けながら、ある限りの攻撃魔法術式を解放させた。


これまでにない魔法の複数発動のせいか、右腕が虹色に輝く。リベルが起き上がる時間を考え魔力供給は2秒に制限。万端の中を這いめぐって導き出したルーの最高火力。


「死んだらごめんな」


笑顔。リベルの返答だった。


ここまでで14秒経過──


残り6秒は……面白味がない破滅の映像だった。


右腕に込めた魔法の発散。降り注ぐ隕石と相違ない威力の高出力レーザーと化していた。


含まれた[破動]という魔法の衝撃波の壁によって、リベルはレーザーの中から抜け出すことは不可能。


大抵の人間はする必要もなく散りになるのを待つだけだが、相手は得体の知れない規格外。


念には念を重ねて損はない。


地響きが鳴り続ける爆音を聞きながら6秒が経ち、ついに20秒が経過した。


浮遊魔法以外の魔法術式に魔力の供給をやめ、真下を見る。


クレーターというより、巨大な大穴がぽっかりと出来上がっていた。


仮に他人が上空から景色を眺めた時、何か黒い点のような物が見えて不自然に思うだろう。


深さはわからない。わからないくらい深かった。


「あいつ……生きてっかな……」

「おーい!」


元気な声が耳に届いた。深い大穴からではない。背後から聞こえた。


「まじかよ」


リベルが軽快で、傷一つない姿のまま手を振っていた。鼻血はもう止まっている。


表情には出していないが、ルーは人生最大級に度肝を抜かれていた。


(いつ脱出した? 魔法を放つ瞬間、ほんの一瞬あいつの姿が見えなくなった時? でもどうやって? あの曲刀の性能? ぶった斬るだけじゃなかったのか……にしてもなあ……へこむぞおい)


ゆっくりと浮遊魔法を解除し地上に降りていく。リベルが歩いて近寄って来た。


「お兄さんお兄さん! いつ俺の銃奪ったの!? あの黒い剣凄いねー! 俺の魔法を防いだ! 最後のはマジで死ぬかと思ったから緊急脱出したよ! 20秒間、ずーーと冷や汗が止まんなかった! お兄さ、いや、ルー兄さん!」

「ルー兄さん? やめろ気色悪い。今のはお前の勝ちだ。もう魔力も半分しか残っていない。続ければ間違いなくお前が勝ってた」

「でもルー兄さん。……俺を殺せる場面ありましたよね?」


リベルの指摘に頬がピクッと反応した。


「あの鎌みたいな奴。見た感じやばいオーラ放ってましたけど、俺にかすり傷でも付ければお兄さんの勝ちだったんじゃないすか?」

「……」

「それに魔法をまだ隠してるような……隠してないような……。俺は魔法の才がないんでいまいち感覚がわかりませんが、『魔才』のあなたなら、もっとやばいの持ってんじゃないすか?」

「……想像が豊かだな。戦闘中にそこまで頭が回らなかったことを考慮してか?」

「いや別に。まあでも、俺は今満足なので良いです」


興味がないのか、敢えて聞かないのかわからないまま、ルーは問い詰められることはなかった。


(よくわからん)


したことと言えば殺し合いをしただけだが、ルーはリベルという人間が掴めていなかった


「それにな、お前が死んだらお前の口から色々聞けなくなる。死体が喋るか?」

「あー確かに!」

「やっぱ想像が豊か過ぎる」

「ははははは。さーせん。じゃあ戻りますか! ユマンはじっとしてっかな〜」

「あ……」


マキナとクラルのことをすっかり忘れていた。



         ────



「喰らえ、"魔法(まほう)"!」


左手で構えた自動式拳銃のような形の拳銃の口径が変形し、肥大化した。その穴から銃弾が巨大化した姿を連想させる魔力の塊が飛び出した。


《マジックブラスター》。マキナの発明品。


《エネルギーブラスター》と酷似しているが、エネルギーの源が魔力である相違点がある。


魔法を使う者たちが放つ魔力砲と同等の威力。マキナは魔法が使えないためか、魔力を放出する時に周囲に霧散する現象が起きてしまう。


しかしこの《マジックブラスター》を経由することより、質量、大きさ、密度を完璧な状態にして放てることができた。


マキナが放った"魔砲"は走り迫るユマンに衝突するが、その足を停めることは叶わなかった。


「ああもう! タフすぎでしょ! 私の"魔法"が!」

「マキナさん! 多分それ字が違います!」

「喋ってると舌噛むよ!」

「ひぃいいいいいいいいい!!」


クラルはというと、空中を飛び回るマキナにしがみ付いていた。慣れない2人乗りで、マキナの《ホバーブースト》が微妙に安定してない。


「クラルちゃん下降りる?」

「今更ですか!? 今降りたら確実に死にますよ!」

「いやだって……邪魔かなと……」

「聞こえてます! ボクを慰めてくれたマキナさんはどこ行ったんですか!?」


ユマンが跳躍する。地上から10メートル以上離れてるマキナまで一直線に。


「くそっ!」


右手に持ってる銀色の筒の飛び出ている部分を上に上げる。すると、光り輝く白刃が筒の中から飛び出してきた。マキナお気に入り、《フォースブレイド》である。


「はああああ!」


ユマンの正突きが《フォースブレイド》と衝突。振りが遅かったのも原因だが、元より体格、実力に差がありすぎた。マキナが押し負け、地へと叩き落されてしまった。


「クラルちゃん……無事?」

「だ、大丈夫です……」

「鬱陶しい」


2人の目と鼻の先にユマンがいた。見惚れる極上の美しさが、今じゃ2人の心拍数を上げるカンフル剤でしかなかった。


「寝ていろ。じゃなきゃ両足を折る」

「言葉は全然美しくない」

「子どもの我儘が一生通用すると思うな」

「我儘は子どもの特権でしょ」


強がっているが覇気がない声量だ。内心諦めかけている。10にも満たない子どもがプロの暗殺者に対してここまでやれた。


これだけで十分な成果だろう。


(降参しても……ルーは怒らないだろうなあ……)


脳裏にチラついた想い人。その時、場違いの声が乱入してきた。


「はいストーップ!」

「え?」

「はっ!」

「なんだこりゃ。さっきより酷くなってんじゃねえか」


ルーとリベルの死合(しあ)いが収まり、南側の町へと戻ってきたのである。


駆け足で2人がルーの元へと駆け寄る。


「ルー無事だった!? 怪我ない!?」

「おっとっと。んな興奮すんな。死にかけたが傷ひとつない」

「一応治癒魔道具(これ)使います? あ、でもルーさん何本か待ってましたよね?」

「あーわり。戦闘中に全部ぶっ壊れちまった。弁償する」

「いえ、平気です。ルーさんになら何個でも作ります」

「そう? ありがとな」


リベルは──


「リベル様! 平気ですか! 体調は、どこか痛い所はありませんか!?」

「近い近ーい。んなことよりさあ、お前何やってんの? 俺がいないところで任務外のことやってんじゃねえよ」

「うっ……こ、これは、リベル様を助けに行こうとしたら邪魔されて……」

「俺より弱い奴が俺の心配すんの〜? お前が来てもルー兄さんに即やられてた。体力を削ることすらできねえよ」

「……申し訳ありません」

「まいいや。ユマン抑えてた奴あの子?」

「はい……そうです」

「へ〜。小さいのにやるね〜。興味出てきた」


笑顔でルーがいる方へ歩いていく背には、ユマンの不満な表情があった。


「ルー兄さん」

「ん?」

「あっ! こっち来んな怪しい奴!」

「こ、来ないでください!」


ルーの盾のように前に出る両者。クラルはマキナの背に体を半分隠していたが。


警戒するのも当然である。


「警戒心マックス。そりゃそうか〜」

「えっと……マキナ、クラル。俺たち一応和解──したのか?」

「完璧に」


親指でグッドサインを見せるリベル。右腕を体の前まで持ってきてお辞儀し、形と言葉を紳士っぽくした。


「御三方。どうか話合いの機会をくださいませんか?」



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