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King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
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もう1回



少し前、マキナとクラルは……


「ルーどっか行っちゃったんだけど……」

「どどどど、どうしましょうマキナさん!」


真上でルーがリベルを蹴り飛ばす場面を見ていた。そこからルーも何も言わずにいなくなってしまい、どうしたらいいかわからなくなっていた。


「いきなり殺すとか言った瞬間斬りかかるとか、絶対まともな連中じゃない。クラルちゃんが追われてた『極火』の残党はないよね?」

「あんな黒装束つけてませんよ。てっきりルーさんとマキナさんの知り合いかと……」

「んーなんだろう……どっかで見たことあるような……前に他に印象深いの見たせいで記憶が上書きされてんのかな……唐突すぎて頭がまだ追いついてない感じ」


クラルの顔から血の気が引いていく。


「絶対やばいですよ! こんな町を武器1つで原型を残さずにする奴なんて!」


跡形もなくなった町を指差して言うクラル。


「でも私たちが行ったところでって感じだし、大体2人もいるなんて──あれ? そういえばあと1人いたような」


遠くから物音が聞こえた。何かを破壊するような音だ。2人は恐る恐るその方向に首を振り向くと、ルーが吹き飛ばした背の高い黒装束がいた。


「あの男……どこに行った? くそっ! リベル様の前で私に恥をかかせた! 許せない!」


ぽっかり空いたある家の穴からひょこっと姿を現した。本人は気づいていないのか、被っていたフードがめくれてしまっている。


マキナとクラルは目を奪われた。謎の黒装束の素顔の美貌に。


美の女神が与えてくださった天与と言われれば信じられるほどの美しさ。


初めて会った女性がこの人なら、他の女共など眼中になくなると言い切れる。目、鼻、口、耳。どれを見ても極上の一級品に他ならない。


「やばあ……めちゃ美人じゃん」

「き、綺麗です……」


思わずひと言漏らしてしまった2人。そんな美人さんがちらりと一瞥した。


身を固める両者。しかしすぐにそっぽを向いてしまい、どこかへ足を運ぼうとする。マキナは慌てて口を開く。


「あ、あの!」

「……?」

「あなたは誰ですか? なんでルーを殺そうとするんですか?」


さっきから気になっていたことを言葉にしてぶつけた。そうするしか方法がなかったから。


「語る義理はない」


受け付けられなかった。声も綺麗だなー、と心の中だけで留めた。


断られることも考えていたが、こうもまともに取り合ってもらうことができないと、マキナはショックを受けた。


黒装束の人はスタスタとまたどこかへ歩き始める。


「ああちょっと! だめか……こうなったら!」


マキナが背負ってるバッグから謎のアームが飛び出した。そのアームはバッグの中身を弄ると、とある2個の物体を取り出してきてくれた。


《エネルギーブラスター》と《サンダーボール》


俊敏な動作で《サンダーボール》を《エネルギーブラスター》へ装填。ブラスターが黄色く輝いた。


「ファイヤ!」


引き金を引いた。まるで稲妻が横に線を引いているようだった。黒装束の女は顔を後ろに晒し、元々顔があった所へ光線が打ち込まれた。


雷鳴が地に落ちた音がした。奥にあった一軒家の外壁を軽々と貫いてしまった。


「……なんだ?」

「マジでわけわかんないけど……ルーのとこ行くんでしょ? なら通行禁止ね。私が絶対通さない」


黒装束が睨んだ。その姿も昇天するほど美しかったが、マキナは恐怖心が勝っていた。


「やばいですってマキナさん! 今すぐ土下座しましょう!」

「ボスみたいな奴にあんなに大声出してたクラルちゃんはどこ行ったの!?」

「今では状況がまるで違いますよ!」

「大丈夫! 私だって防御手段……戦えだってする!」


マキナは左手首の服をめくった。右手の指を何やら動かし、ピピピと機械音が鳴る。


「よしこれで──」


瞬きする間に黒装束が眼前に存在した。マキナとクラルの動体視力では、相手の速さを捉えることができなかった。


見惚れる美脚の旋風脚に喰らった後で気づく──だが、"喰らった"のは語弊があるかもしれない。


黒装束の装束の旋風脚はマキナの頭部に直撃する前に、まるで見えない壁があるかの如く寸前で止まった。


「……妙だ。防御魔法じゃない。そこの小さい奴の手品か?」

「手品じゃない。機械の力だ」

「まあいい。私は幼子をいたぶる趣味もない。ましてやお前たちは殺害対象外。じっとしていろ。私はリベル様の元へ行く」

「やだ。ルーにこれ以上負担はかけさせない」


女同士の火花を散らしている。何人(なんぴと)たりとも介入できない不可視のバリアがそこにはあった。


(助けてもらったけど……もう死んじゃうかも)


クラルは何かを諦めた顔だった。



         ────



「オッケーオッケー! アンサータイムといこう!」

「は?」


本当に意味がわからなかった。意味深な台詞(セリフ)を口にしたと思った次の言葉がこれである。ルーはリベルの思考が完全に読めなくなっていた。


「質問あるって言ってたでしょ? 楽しかったから2つ答えますよ。お兄さんに大サービース!」

「……お前の行動原理がわからん」

「俺は"勝手"だからね〜。じゃあ1つ目、ああでも、聞かなくてもわかっちゃった。"俺たちが何なのか"。でしょ?」


間違ってなかった。戦闘の最中もずっと気がかりだった疑問。と言っても、殺し合っている奴にそんなこと聞いても答えるはずない、と思っていた直後にこれ。


確かにリベルは「答える答える」と発言していた。まさか本気で言っていたとは驚愕するルーだった。


「俺たちね〜。"暗殺者(アサシン)"です!」

暗殺者(アサシン)……」

「そのまんまだよ。人を殺すのを生業(なりわい)としてる職業。俺はただ命じられてお兄さんを殺しにきた。ただそれだけ」

「あの背の高い奴と2人でか?」

「あー違う違う。あいつはただついてきてるだけ。ひっつき虫みたいなもん」

「なんで俺を殺しにきた?」

「その質問はさっき答えたけどな〜。マジで命令されたからなんだよ。必要最低事項以外の情報は、ボス渡してくんなかったし」

「ボス……」


思考を読み取る魔法があったとしても、リベル(この男)の思考は読めそうにないが、嘘をついてる様子ではなかった。


(マフィア……暗殺者(アサシン)……俺の周りはこうもクセの強い奴らが出てくるのが不思議だ。あの研究所にいた奴らも暗殺者(アサシン)だったのか。やっぱ雇われてたのか……ん? 確か……)


「『虚栄』の名のもとに」

「お?」

「この言葉を知ってるか?」


リベルは笑顔で答えた。


「えーなんで知ってんすか! 俺の組織の代名詞みたいなもんです。どっかで聞きました?」

「ちょっと前……お前と同じ姿の2人と戦った……。顔も見たけど、どっちとも似てて兄妹(きょうだい)みたいだった」

「それ……合ってますよ」

「はっ?」

「名前聞いてます?」

「……アセとシノだったか?」


リベルは何故か笑いながら拍手した。


「はははははは! それ、"姉弟(きょうだい)"揃っての暗殺者(アサシン)の名前です」

「本当か?」

「大マジっすよ。あんま面識ないですけど、そいや最近聞きましたね。その2人の任務先から連絡が途絶えたって。そっか~死んじゃったかあ~。まあお兄さんの強さなら妥当かな~」

「まさか……それのせいで俺の抹殺命令が出たんじゃないよな?」


ルーの存在自体がばれてるはずはないはず。部下の報復としてやって来たとも考えられたが、リベルの発言で搔き消された。


「ないですよそれは。ボスは1人ひとりに人情深い奴じゃないし、てかぶっちゃけ屑ですからww。まあ、もしかしたら"きっかけ"にはなってるかもしれませんね~」

「……」

「よーし! じゃあバトルターイム!」

「は?」


数分前と似たような声を漏らすルー。


「もう1回やろう! ラウンド2!」

「おい待て待て! 2つだろ! お前が何者なのかしか答えてない!」

「話したじゃないすか。『虚栄』の名の下に、の意味的な解釈とお兄さんが出会ったっていうアセとシノ(ふたり)の詳細のダブルパーンチ!」

「なしだろそれは!」

「ノンノン。これ以上は駄目ですよ~。俺の口は臨時休業です!」


リベルの口にナイフをぶっ刺したくなった。しかし実力のほどを身をもって知っているルー。怒りが沸き立つだけであった。


「そんな怖い顔しないでください。後"20秒"。それでいいです。その時間耐えきれば、話を聞くし話をしましょう」

「……お前俺殺しにきたんじゃねえの?」


最初からだ。リベルを暗殺者(アサシン)と信じるなら、会話などせず自分の力のすべてをもって殺しに来るのがベストな選択のはずが、リベルはどうだ。


楽しんでる、としかルーには見えなかった。


「ユマンを吹っ飛ばしたあの時、俺はもしやって思ったんですよ」


ユマンが誰のことかわからなかったが、多分もう1人の方の暗殺者(アサシン)だと納得した。


「強そうって」


ルーは襲い掛かる前のリベルの言動を思い起こす。似たようなことを喋っていた気がした。


「こういう仕事上、戦闘は避けて取れなくてですね。でも俺は負けたことがない。1度も。俺が1番強かった。自意識過剰に聞こえるかもしれませんが、本当なんですよ。でも──お兄さんには湧かないんです。"勝つイメージ"が。負けるイメージも湧きませんが、どういうことなんですかね? 生まれて初めての感覚だ」

「知らねえよ。戦闘狂の類い?」

「戦うのが好きってわけじゃないですけどね〜。大体はめんどくさくてユマンに全部任せてて。ユマンは滅多にやられないけど、あのままやってたらお兄さんが間違いなく勝ってた。これは異常事態。もう任務とか頭から離れそうだ。俺の力が通用するのかどうか、試したい」


不変の笑顔。自分のすごい所を見せびらかしたい年頃の子どものようだ。あまりの無邪気さにルーは考えるのをやめた。


「なんだろうな……お前は欠けてる気がする。人間としての何かが」


ルーは見ていた。一瞬、ほんの僅かだが、リベルから笑顔が消えていたのを。


「そうかもしんないっすね」


また笑顔に戻っていた。


「……受けてやる。怪我しても慰謝料払わねえぞ」

「殺す気でどうぞ」


ルーは右手に黒魔剣(こくまけん)、左手に死想亡鎌(メメントモリ)を生成した。



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