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King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
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魔法対決



「狩られる気分を味わえ」


白銀の義手から発射された魔力砲。ルーが発動させた瞬間爆発魔法と大差ない規模と破壊力。


ルーは黒魔剣(こくまけん)を創成した。


「ふっ!」


溢れ出す漆黒の斬撃を放ち、真正面から魔力砲を斬り裂く。


魔剣から生み出される"黒"は阻害を意味し、どんな魔法であれ無尽蔵に断つことができる。


魔力砲は魔力というエネルギーの放出であって魔法ではないが、魔法の源であることには変わりなく、黒魔剣(こくまけん)は効果を発揮する。


(あれは……)


黒魔剣の魔法術式に魔力を通す寸前、ルーは死想亡鎌(メメントモリ)の術式に魔力を流そうとした。


敵を殺すだけなら、例外なく死へと(いざな)死想亡鎌(魔法)を使った方が有利になるのは必然。


だが手前でそれをやめた。ルーは気になっていた。


(まさか……)


「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


ドスの利いた声が鼓膜を振動させた。間違いなくテンリの声だった。


声を荒げている様子なのは理解できたが、消し飛ばした魔力砲の残滓が視界を遮り、テンリの姿は確認できなかった。


「ぐがぁ……ああっ! …………ふぅ。良い気分だ」


苦痛の断末魔は途端に終わり静かになる。ちょうど視界が晴れてきた。


ルーは確信した。あれは、あの魔法は────


奇械兜鎧(アガートラム)……」


"ルーは知っている"。


ただの義手ではない。歴とした魔法の1種。


髭が似合っていたテンリは見る影もない。最早誰が誰だか見分けがつかなくなっている。


頭部はカブトムシの角が生えたような金属兜を身に着けており、顔面はおろか、前頭部、頭頂部、側頭部、後頭部を囲いつくしている。


首から下全て、右腕の義手以外が肌の上から金属を(まと)っている。白銀のサイボーグという名が相応しい様相となってしまっていた。


「やはりこの姿こそ至高。とても気分が良くなった」

「鎧身に着けて(たかぶ)るとか、結構かわいいとこあんだな」

「殺戮の高揚さ。俺は今まで自分の手で殺してきた奴らを覚えてる。456人。今日で457人かな」

「きしょいな」

「中でもこの魔法で殺す時は最高だ。わざわざ右腕を切断した甲斐があった。いつもは被害が広すぎるから使わないんだが……」

「よかったな。さら地ならやりたい放題?」

「……小僧。まだ狩る側(そっち)にいるつもりか」


戦闘が始まる。ルーは"観察"することにした。


「立場をわからせてやる」


肘から噴出したガスを推進力に連続のブローを繰り出す。黒魔剣と強化した反射神経で迎え撃つルー。


(これは基本機能の1つ)


噴射したガスを増幅させブローの速度が上がった。対処がめんどくさくなったルーは浮遊魔法で夜空へと舞い上がる。


刹那の黙殺。


「はぁああ!!」


銃の乱射音。右腕と左腕、肩から飛び出た短機関銃のような銃口が火を吹いている。


しかしルーは防御魔法が使える。ただの実弾程度なら何発打ち込まれようとも壊されはしない。


「殺すには攻撃力に欠けるぞ」

「じゃあこれなら」


義手でない左腕から飛び出ている銃が引っ込み、ガチャガチャと変形させる。


ライフル銃などとは比べ物にならないカノン砲級の砲口、装甲の分厚さ。


この魔法最大にして最強の武器。


「ギガデストル砲か」

「受け切れるか!」


上空に向け最大出力で照射。魔力砲などとは違いすぎる、圧倒的な魔の力。ルーも驚きを隠せない。


(流石にこれは……)


受けるは論外。ルーの防御魔法の術式性能では防ぎ切れる自信がなかった。


浮遊魔法で右へ左へと飛び廻り続ける。足先が光線に僅かだが触れてしまう。


「いつっ……こんな威力高かったっけ?」

「おらそこっ!」


背後にテンリが既にいた。マキナのホバーブーストのような推進力で宙に舞っている。


ルーの浮遊魔法とは違い、奇械兜鎧(アガートラム)に潜んだ固有能力。


振り向いていたら間に合わない。背面に防御魔法を発動させた、が──


ドスッ!


「ハハッ!」

「……」


右肩を貫かれた。テンリの義手の手首から出した暗器の刺突をモロに喰らってしまった。


「小僧如き、血を流し這いつくばる餌でしかない」

「……」


黒魔剣を左手に持ち替え旋回させ、斬りかかる。しかしテンリの左腕によって防御される。


今の一撃では、黒魔剣の効果で金属の装甲は剥がすことができなかった。


「お前は誰に盾突いたか理解できていないな!」


黒魔剣を弾き、貫いたままの肩ごと地上に投げ飛ばす。投げたルーよりも早くテンリは迫り来る。


格下の相手を蹂躙している愉悦を感じさせる嗤い声をわめきながら、飛行速度と魔法技能を活かした拳撃をどてっぱらにぶち込んだ。


「ゴウッ……!」


血反吐を吐く。骨が何本か折れた嫌な音がした。自由落下するルーは元の壊滅地へと落とされた。


残骸が衝撃で舞い上がり、血肉と瓦礫の霧が発生した。


「獣は牙がなきゃ脅威ですら、敵にすらならない。どういうわけでこの『極火』に喧嘩を売ったか知らんが、この魔法を持った俺に勝てるなど思い上がりだ」


少ししてテンリも降りてきて、ルーの落下地点に接近する。先の一撃でルーはもう立ち上がることすら不可能と思い込んでいる。


「手下も本部もこの有様だ。しかし今は憂鬱が少し晴れた。だから手足の解体で許してやる。それを売れ捌けば多少は金になるだろう。と言ったが、これからは新たな金脈が見つかる。そうすれば『極火』の再建は遠くない未来に──」

「金脈ねえ……」


土煙から足先が見えた。横たわっているルーのそれではない、"自立したルーの足先だった"。


「子どもはお金製造機じゃねえよ屑」

「…………小僧」



「"何故平気でいる"?」



右肩に貫かれたはずの刺し傷がない。折れたはずの骨が完治していた。まるで時間が巻き戻ったかのようにルーは無傷の状態に戻っていた。


「あー痛かった」

「どういうことだ……俺が与えたダメージは確かだったはず。なぜ全快でいる!?」

「ん? これのことか?」


ルーがポケットから取り出したのはそう──クラルが作り上げた治癒魔道具であった。中身は既になくなっている。


「そ、それは治癒魔道具! いや待てっ、その色……まさか!」

「やっぱすげーよこれ。俺も治癒魔法あるけど、比べるのも浅はかに思える。痛みも失くすなんて聞いてなかったんだが。間違いなく、これは"癒す力"だな」

「小僧……どこでそれを手に入れた! お前はあいつらの娘と会っているのか!」

「耳障りだよ」


加速。速度を絶するルーの膝蹴りが、テンリの兜を破壊した。


「あがっ!!」


鈍器で殴られたような重い殴打は、テンリを何度も地面に転ばせた。


「はぁ……お、俺の魔法が!」

「感服してんのに乱すんじゃねえよ。ペラペラとよう喋って、わざと喰らってやった攻撃がそんなに嬉しかったか?」

「は……?」

「デストル砲は冷や汗かいたけど、防御魔法の術式に送る魔力を減らして、わざと破らせて貫かせた。黒を増やせば斬り裂くのは容易だった。でも俺は黒魔剣の出力を落としてた。お分かり?」


事実だ。ルーは本拠地に乗り込む前、クラルに治癒魔道具を何本かもらっていた。


その効果を実際に試すために攻撃を受けきった。意図してテンリの奇械兜鎧(アガートラム)の能力を存分に使わせていた。


「はったりなぞ今頃」

「うるせ」


はみ出ている頭を踏みつけた。


「ぐふっ……!」

「そもそも、"お前の魔法"? さも自分の物のように扱うのはやっぱ気に食わねえ。所有者はお前じゃないだろ」

「何を……言っている?」


テンリは真に知らない様子だった。ルーは伝える。



「それは俺の魔法だ」



テンリは何かに気づいた。そのことにルーも気づいた。


「一度たりとも使ったことはなかった。奇械兜鎧(アガートラム)はその魔法術式を生成した後、その術式性能そのまま具現化した魔法(義手)。使わなかったのは片腕を斬り落とさなきゃならない致命的な欠陥があったからだ。正直なんで作っちまったのか俺にもわからん。メタルアームかっこいいとか思ってたんかね当時は」

「そ……そんなデタラメを」

「とぼけんのも大概にしろ!」


薄くなっている灰色の髪をルーは鷲掴みにし、己の顔付近にまで持ち上げる。


苦しそうな声を発するがルーは無視する。


「"3人目だ"。俺が編み出した魔法を無断で使ってる奴を見るのはな。昔、ある出来事で幾つかの魔法術式が奪われた。それを何故お前が持ってると聞いてるんだ!」

「……」

「だんまりか。どうせお前は今日で終いだ。なら少しでも知ってることを吐け! その次はクラルの前でな──」

「ぬあぁ!!」


テンリは固めた魔力を鎧を通して腹から放出した。掴んでいた髪が千切れ、ルーは後方に飛ばされるが浮遊魔法で衝撃を緩和した。


「がむしゃらの魔力放出……もったいねえな。大事にしろよ」

「黙れ青二才が。言ったな……今言ったな! 思い出したぞ。あいつらの娘はクラルという名だった。そしてお前はそれを口にした……何か知っているんだな!」


破壊したはずの兜が再生していく。これまでの戦跡、明らかにルーを引き離すための魔力放出、兜の再生。


魔力の過剰行使。顔を覆い隠してもルーはどんな表情をしてるか理解している。


(あせってんな)


「手間が省けた。全て吐くのは小僧の方だ。お前を戦闘不能にしてあの娘の居場所を聞き出した後、俺は真の復活をするのだ!」

「んな未来は一生来ねえ。お前は……もう何も得ることはできない」

「それは今にわかることだ!」


鎧がさらに分厚く、より強固になる。テンリの魔法のギアが上がった。


両腕両肩以外の部位からあらゆる銃火器を生み出し、際限ない質量攻撃が放たれる。


荒れ狂う暴嵐が市街地にまで降り注ぐ。人がいないことがせめてもの救いだった。


充分な魔力を通した防御魔法と浮遊を駆使し、嵐から身を守るルー。


(癇癪起こしてマキナたちの方に行かれるのは勘弁願いたい。破壊一択だ)


奇械兜鎧(アガートラム)は欠陥の他、"弱点"がある。


たった一つ、義手を壊せば魔法術式ごと砕け散る。


ルーが扱う黒魔剣(こくまけん)はたとえ刀身が折られようが、ルーの体に刻み込まれた術式が消えない、かつ魔力が尽きない限り何度でも再生することができる。


しかしあの魔法は違う。言うなれば、術式を具現化した物があの義手。心臓を直に晒しているような所業をテンリは進行形でしているのだ。


(くろ)


光すら反射しない純黒が膨れ上がる。純白などこの世にいらんと言わんばかりに、黒魔剣の真価が発揮される。


「拾った物は持ち主に返すのが礼儀だろ」


5本の指先に光が灯った。先刻、周囲一帯を壊滅へと迷い込んだ瞬間爆発魔法である。


銃弾が猛威を振るう中に5つの光球を飛ばした。


微かに生まれた隙間を鳥のように移動し、爆破。


両者の視界に花火が咲いた。


「何っ!」


何が起こったかわからず嵐を止めたテンリ。ルーはその隙を見逃さない。


くるりと一回転し、空気を蹴るように加速した。地上に足をつけ、さらに地を蹴る。


テンリの背中が見えた。


「舐めるなあああああああああ!!」


テンリが振り向き正面が見えた。あっちにも気配探知魔法があるか不明だが、ルーもこれには驚いた。


野生の勘というやつか、とも思った。


「死ねぇえ!」


ルーの肩を貫いた暗器を出している。狙いは頭部。しかしルーは避けない。結果はわかりきってるからだ。


刃がルーが展開している防御魔法に触れた────



パキン。折れた。



「……っ!」

「人の話聞けよ」


情けなく口を開けたまま、テンリは逃れられない黒の本流に呑まれた。



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