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King Road  作者: 坂田リン
後章:救われた人々
33/36

必然



(おかしい……)


フィーニスは考えていた。この想像していたものとは違う……異様な現状に。


(なんでこの終盤でシエン(やつ)が出てくる……? 死人しびとがなぜ現在生きている俺の命に牙を剥く……? なんで俺は……死んだ人間にムカついているのだ……?)


かつてのシエンの最後を思い出す。


完膚なきまでに叩きのめした。シエンの存在意義を破壊し、絶望させ、哀れな男の最後の泣きっ面を見れると思った。


だが見れなかった。後悔の感情は確かに見えた。諦めも、苦痛も、悲哀も見えたのに。


(何と言えば良い……あいつの中に……"何かが消えなかった"。最後まで……最後まで…………目の前の奴らも同じ。闘志が消えていない。私を滅ぼそうとその足を止めない。ただの小市民……特に役割も持たない脇役わきやく……選ばれた勇者でもないくせに……何が起こってるかわからない……)



『随分不思議なことを言うんだね』



聞こえた。確かに聞こえた。脳に直接送り込んでるように、フィーニスは1語1句聞き取れた。


死んだはずの人の声を────


(シエンッ!)

『お前はこれが……偶然だと思うのかい?』


姿は見えない。シエンの声だけが聞こえてくる。


(どういうことだ……奴の力という物が、奴の意識を私の意識に介入させたのか?)

『そんなのどうだっていいだろ。もう僕は何もしないよ。ただ少し雑談をしにきただけだ』

(雑談だと……?)

『お前はルーたちが歩みを止めないことを不思議がっている。僕からすれば何もおかしなことはない。これは必然だ。"時が来た"だけのことさ』


フィーニスは声だけの存在の言うことに、疑問を抱く。


(言ってる意味がわからん)

『お前の素性には驚いた。まさかこの世界の人間じゃないなんて。後天的呪縛特異能力……魔法とは違う力だ』


シエンの意識はフィーニスの意識に入ったことで、フィーニスの過去、考えを読めていた。


『これは勝手な想像だけどね、その力の"呪い"なんじゃないかな? 呪縛……その呪いが今起こっている事実だ』

(呪い……?)

『別に真に受ける必要はない。根拠もクソもないから。でもそうじゃないか? お前が世界という世界を渡り続け、好き放題し生きてきた。その道中で膨らみ続けた呪いが、今になって発散した。代償……因果……運命とも呼ぶのかな?』

(……じゃあなんだ? 今、この私に起きている状況は、初めから決められていた終着点だとでも言うのかっ!?)

『さあ? そんなの知らないよ。私は神じゃないんだから。でもそうだな……仮に根拠と呼ぶものを挙げるとすれば、お前の記憶の物語かな?』


聴覚を遮断したかった。しかしフィーニスの中に声は響く続ける。


『漫画……映画……どれも興味深いね。私の世界にはないものばかりだ。その中にある、明らかに"味方"と"敵"の陣営に分かれる多くの物語は、ほぼ100%の確率で"敵"が敗北する。ありきたりで、見てる人からすれば陳腐に感じるかもしれない。でも……私は"そこが良い"と思う』

(貴様の意見などクソ喰らえだ。そんなものは"つまらない"っ!!)

『そんなこと言ってもね……。まあ、この先どうなるかは"彼ら"が決める。僕はもう消えるよ。最後に外野がとやかく言ってると、場が冷めるからね』


そう言ったシエンの声は、それっきり聞こえなくなった。


(呪いなど……あってたまるか────)




────現在




「「はああああああああああああああああああああっ!!」」


フィーニスの左右から襲い掛かる双龍そうりゅう。最大火力の魔法武装(マジックアーツ)を宿すユマンと、鋼鉄以上の強度を持つ氷の籠手こてを身に着けるサラの拳が火を吹く。


「"魔王盾イージス"ッ!」


フィーニスが叫ぶと、本人の両サイドに壁のような巨大な盾が出現。突如として出現した盾により、2人の攻撃は防がれた。


「ち……っ!」

「まだ見たことのない魔法を……っ!」


悔しがる2人だが、フィーニスの頭上に新たな影が現れる。


「「今度はこっちだあああああああああああああああっ!!」」


《ホバーブースト》で浮上し《マジックブラスター》の銃口をフィーニスに向けているマキナと、死想亡鎌メメントモリ誕臨バースを構えるルー。


絶大な威力を放つ銃、死を穿うがつ凶刃が発射、振り下ろされる瞬間──


「ぬぁああっ!」


フィーニスが魔王盾イージスを頭上に出現させる。


「制限ないの!?」

「んなの関係ねええええええええええっ!」


ルーが押す。マキナも合わせて出力を上げる。刃先の死の力が増幅し、魔力のレーザーが魔王の盾にぶつかる。


フィーニスは苦い顔になる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「クソッ……たれがあ……っ!」

「からの──」


ルーよりもさらに上、曲刀を片手に持つ少年が舞い上がる。


「俺だああああああっ!」


リベルが空に一閃。それを見たフィーニスは、


「ちぃっ!」


すぐさまその場を離脱する。


リベルが繰り出した飛ぶ斬撃は、屈強な魔王盾イージスを正面から破壊し、フィーニスがついさっきいた地面を抉った。


「俺の刃に強度は関係ない」

「はあ……はあ……これだから嫌なんだ……っ!」


フィーニスの呼吸が乱れ、その顔には汗が見られた。


「ルー兄さんの言った通り、一撃ノックアウトの技は出ませんね。汗なんて初めて見た」

「疲労発散とか……疲労を回復させる魔法を使ってたのかもな」

「今となってはそんなの関係ありません」

「攻めあるのみ」

「だねっ!」

「ああ。行くぞっ!」


5人は駆ける。フィーニスは残っている魔法を最大限行使する。


「がぁああっ!」


周囲の瓦礫を宙に浮かせ、鋭利な棘状の形に変形させる。それらを迫り来るルーたちに向け発射。


麻痺毒が先端に塗られている"麻痺荊棘パラライズニードル"を発動させた。


「ふんっ!」


ルーも魔法を発動する。雷鼓らいこのようにルーの背後に無数の光点が出現。全ての光点は瞬間爆発魔法。散弾銃の如くフィーニスに向け発射。


棘と光がぶつかり合い相殺し合うが、軌道がれて数発の瞬間爆発魔法は、地面へとぶつかり煙を巻き上げる。


「打ちすぎたな」


煙で周囲が見えなくなり、近くにいたマキナ以外の姿が消えたその刹那、


「っ!」


死逝亡鎌ステルベンを振りかぶるフィーニスが来る。その瞳狙うは──マキナだった。


「やろっ!」


ルーが間に割って入り死鎌と死鎌が衝突する。しかし予備動作が足りず、ルーは押し負けてしまった。


「くっ……!」

「ルーッ!」

「まず1人目っ!」


攻めの姿勢を隠さず、マキナを標的に鎌を握る。


(1人殺せば場は乱れる。この身体で長期戦は避けたい。順番に始末する──)


フィーニスが一殺の望みを賭けその刃を──



ガンッ!



「っ!???」


何かがフィーニスの顎にぶつかった。そのせいでマキナへの攻撃が遮断されてしまった。


(何が……)


飛んできたものを確認しようと視界を移すと、地面に1つの"義手"が転がっていた。


「あれは……」

「それやるよっ!」


横から参戦してきたリベル。治癒のおかげで復活した両腕。いらなくなった奇械兜鎧アガートラムを投げ捨てたのだ。


「しゃらあっ!」

「く……っ!」


リベルは曲刀を振り回す。フィーニスは死逝亡鎌ステルベンを後ろに引き攻撃を避け続ける。


(こいつは駄目だっ! 一撃でももらえば即アウト……こいつを引き剝がさねばっ!)


フィーニスは一旦死逝亡鎌(ステルベン)を消し、左掌をリベルに見せつけるように前に出す。


「ぶっ飛べっ!!」


ズドンッ。


圧縮、暴発。風魔法を応用した空気の押し出し。力技だが、リベルの身体は抗えず後方に吹き飛ばされる。


「よしこれで……」


とそこで、フィーニスは異常に気付く。"右足に痺れがある"。


「っ!」


いつの間にか、右足首に"短刀"が突き刺さっていた。


「あのリベル(こぞう)……っ!」

「まだまだああああっ!」


戻ってきたルーが追撃する。フィーニスも応戦するが、足の痺れが動きに支障をきたしている。


(麻痺毒か。"状態無効じょうたいむこう"がない今治すすべがない……曲刀あのぶきの他に警戒をするべきだったっ! とりあえず魔王盾イージスで囲んでから体勢を──)


──メキャ。


「だ……っ!」


頬に強烈な痛みが生じる。渾身のストレートがフィーニスを襲ったからだ。


「あの時はよくもやってくれましたね」


魔力全快の拳を振るうユマンの鬼神の姿がそこにいた。


「おかえしですっ!」


振り抜く。力の塊と化した右腕に対抗し、フィーニスが魔王盾イージスを鎧のように正面の身体に纏わせる。


「ぐうううぅ……っ!!」


足で地面を削り、倒れることを拒んだ。


直撃は免れた。がしかし、殴打の衝撃までも魔王盾イージスは防ぐことはできなかった。


「神の手があれば……っ!」

「ない物に頼るなんて情けないわよっ!」


サラの声が鼓膜を震わせる。胸を抑えながら前を向くと、己の身長の2倍の高さはある氷壁が迫ってきているのが見えた。


それも前方からだけではない、前後左右から全てだった。逃げ道は上空のみ。しかし足の痺れは消えてはいなかった。



魔王盾イージスうううううううううううっ!!!」



合計4つの盾がフィーニスの周囲に出現。見事に氷壁と盾が激突し、強度ではフィーニスの魔法が勝った。氷壁はバラバラに砕かれた。


「クソ……魔力が……」


フィーニスは懸念している点があった。シエンの残した力によって壊された魔法の1つに『魔力増幅(まりょくぞうふく)』というものがあった。


その魔法術式に魔力を通すと、術式に供給した魔力の2倍の魔力が体内に生成される。


この魔法は、簡単に言えば"反則"だった。


1を使えば2が生まれ、2を使えば4が生まれる。マキナの《マジックブラスター》と似たような仕組みだが、この魔法は魔力が無限に生まれることと同意。


故に莫大な魔力を喰う魔法の数々を、フィーニスは涼しい顔で行使することができた。


真の魔才たるフィーニスだからこそ生み出せた究極の魔法、しかし今は──


(もう無限の魔力は存在しない……元々の魔力総量が多いからと言って過剰使用は無理がある。痛手だ……痛手過ぎる……っ!)


後悔がその心を埋め尽くしている時、フィーニスは"上"にいる存在に気づけなかった。


「袋詰めだね」


浮上しているマキナ。魔王盾イージスで周囲から隔離され、唯一上空がぽっかりと開いている場所にいるフィーニスに向け、引き金を引く。


「はっ!」


超巨大魔力砲が自分に到達する数秒前に気づくことができた。フィーニスは最速で魔力回路に魔力を通し、魔王盾イージスを発動しようとするが、突然口から血しぶきを吐いた。


「な……っ!」


意味のわからない事態に混乱し、魔力供給が途切れる。


今フィーニスの身体には神経毒が回っていた。それは、リベルがフィーニスに突き刺した"短刀"に塗られていたもう1つの効果。


時間差で効果を発揮したことを、今のフィーニスは理解できていなかった。


「ぁああああああああああああああああああああ!!!」


マキナの《マジックブラスター》をモロに喰らう。日光が照射されるように肌が焼かれていく。


「……いい加減に……しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


残る魔力で最高強度の死逝亡鎌(ステルベン)を生成、同時に薙ぎ払う。その一撃で死の竜巻がフィーニスを中心に形成された。


「うわあっ!」


マキナも退き、氷壁も自身の魔法の盾も破壊してしまう。フィーニスは攻撃であり防御でもある竜巻の中で苦しむ。


(痛い……痛いっ! 『微回復(びかいふく)』じゃ再生速度が遅すぎる。あんな子どもにまで攻撃を喰らうとは……攻撃の手が()まないせいだ……っ!)


ここまで憔悴(しょうすい)しきってる自分にフィーニスは驚く。そんな状態の邪王に、待ってくれる者はいなく、ルーが同じ能力を持つ死鎌で竜巻の檻を斬り伏せた。


「またお前かっ!」

「俺だよ」



ギィンッ! ギィンッ!! ギィンッ!!! ギィンッ!!!!



斬撃音が鳴り響く。少し前にも同じような場面があったが、優劣が変わっているように見えた。


フィーニスの息遣いがさらに荒くなる。


「はあ……どうして……どうしてこうなった……なんで今なんだ!? 勝ち続けてきたのに!! うまくいってたのに!! これは呪いなのか!? なんでなんだよ!!」

「子どもみたいなこと言ってんな! んなこと自分で考えろ!」


ルーが死逝亡鎌ステルベンを右に流した。その隙を突き、湾曲した刃を同じく湾曲した刃に挟み込ませ、死逝亡鎌ステルベンを弾いた。


鎌は宙を舞い、フィーニスは徒手空拳となる。


他の魔法術式に魔力を通そうとしたが、予想外のことに魔法を発動するための魔力が残っていなかった。


原因は『魔力増幅』があったが故の魔力の消費加減のミス。意識はしていたはずなのに、致命的な誤算が生じた。


フィーニスは拳を握ることしかできず、刹那の時間に考えた。


(間違えた間違えた間違えた! あそこだ、この小僧が現れた時にさっさと殺しとくべきだった! いや、それ以前に逃げたルー(こいつ)をさっさと殺しとけば! いや……もっと前だ。あいつ……シエンだ……そうだ……猶予など与えずさっさと首をはねれば良かったんだ!! 無様に死んだくせに爪痕つめあとを残した、余計なことをした! あいつに出会わなければ! 呪いというなら貴様の存在こそが呪いだシエンッ!!)


言葉の裏に住む後悔。後悔に後悔を重ねた愚かな悶絶。それが彼の心を支配していた。


もうフィーニスの原動力は…………僅かな意地と矜持だけだった。


「させないっ!」


死想亡鎌(メメントモリ)の一撃を(かわ)し、顔面ストレートの拳をルーに打ち込む。さらに体を1回転させ踵落かかとおとしを繰り出す。


「ちっ……魔法がなくても戦えんじゃねえかよ!」

「終わらないっ! 終わってたまるかっ! 他人に救われる、自分1人ではとうの昔に朽ち果てていた奴らなどに、俺の(ものがたり)は終わらせないっ!」


無数の世界で培った体術を披露する。武器を持った者にも通じる武器。フィーニスは動くことをやめなかった。


「終わりだよ」


ルーとフィーニスの間を蛇のようにすり抜け、曲刀がフィーニスの右腕を斬り飛ばす。


飛ばされたリベルが戻ってきた。


「終わりがあるから、物語なんだろ?」


リベルに反論のことを吐こうとするが、ユマンとサラのダブル殴打を喰らい口を阻まれる。


「あがっ……」

「1人じゃないから戦える」

「孤独は寂しいだけよ」


攻の勢いは止まらない。上空にいるマキナは、高密度の魔力の拳を生み出す《ギガントグローブ》を装着し、全力で振りかぶる。


「救われたから、強く生きてこれたんだっ!」


直撃する。フィーニスは白目を剥き脳が揺らぐ。


そして、ルーが目の前に立つ。


「……主人公おまえの……軌跡」

「今度こそ終わりだ────フィーニスッ!!」



刃を振り下ろす。"2人"の力が遂に届いた。



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