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King Road  作者: 坂田リン
後章:救われた人々
31/36

最高じゃん



「最後にやるべきことがある」


上も、下も、左右も、黒色に包まれた空間で、ルーが記憶の具現化であるシエンに言った言葉。


シエンは一瞬沈黙し、ルーへ言葉を投げかける。


「フィーニスを……倒しに行くのかい?」

「ああ。全て終わらせる。あんたの無念は、俺が晴らす」

「……私は……できれば、ルーには身を引いてほしいけどね。過去を捨てて、好きな人と一緒にどこかで暮らして、私のことなんて忘れてほしい……て、私に言える権利はないんだけど。私もルーが死んでしまったら、きっと同じことをする」

「忘れろなんて……無理があるだろ」

「そうだね……ルーの言うとおりだ。だから、せめてこれを──」


シエンが右手を前に差し出す。するとシエンの掌が輝きだし、アカの腹部から出てきたような、青白い光の球が出てきた。


「"作っておいて良かった"」

「これは……?」

「もしものための"切り札"……と言ったら誇張し過ぎだけど、ルーが戦う道を選んだら、渡しておきたくて」

「そんなにやばいのか?」

「奴の魔法の1つに、"かみ"という魔法がある。両の手に迫る攻撃を全て無効化し、その拳は破壊の痛みを与える。この魔法に対抗する手段は最早なかった。だから、奴と戦っている最中に一か八か試してみた。"神の手の術式コピー"を」

「……っ」


相手が持つ魔法術式を模倣コピーすることは、不可能なことではない。相手が持つ魔法に直に触れたり、魔法で強化した視覚で相手の魔法術式を分析したりして、限りなく所有者と同じ魔法術式を作り出すことができる。


「でも、それははっきり言って無謀だったろ? シエンとあの王の戦いは見てたが、そんな暇はなかったはずだ。確かにそれを自分の物にできたら有利になるだろうが……あまりにも……」

「やはりルーは頭がいいね。そう、無理だった。たとえ他の魔法術式を選んでいたとしても、同じ結果だったろう。あの時……別の活路があればね……私は神様じゃないから」

「シエン……」

「でも、全てが無になったわけじゃない。ルーに"残せたから"」


掌に浮かぶ球体を見ながら言う。


「奴の神の手から、破壊に関する術式情報だけは解析できた。結局私は無様に敗北し、醜い体のまましばらく生きながらえた。でもその間に、奴の術式情報を組み合わせた"これ"を作り出すことができたんだ」


掌に青白い球体を浮かべたまま、ルーの手を握る。球体がルーの体の中へと入っていき、ルーはシエンが残した物を"理解した"。


「シエン……これって……」

「これで一矢報いれた……かな。私の力なんてたかがしれてるけどね」


ルーは手の中で光る輝きを見つめていると、突然膝から崩れ落ち涙を流す。


「ルー……?」

「……いや……改めて……シエンはもう……いないんだなって考えて。どうして……どうして……っ」

「ルー……許してくれとは言わない。ここから逃げ出しても、私はそれでも全然構わない。…………ルー? 私に言う権利なんてないけど……少しだけ……時間をください」

「シエン?」


項垂れている頭を上げる。


そこには、ルーと同じく膝から崩れ落ち、涙を流しているシエンがいた。



「ひぐっ……私も……迎えに行きたかった……行きたかったよ……」



ルーはシエンの涙をもらい、更に泣く。どれだけの時間泣いていたかわからない。ただひたすら、涙が落ちる音だけを聞いていた。


瞼を拭い、悲しみは捨て、ルーとシエンはお互いに向き合った。


「やっぱ行くよシエン。俺を見ててくれ」

「……わかった。これだけは覚えておいてくれ。私があげた力は、"1番信頼がおける人に分け与えることができる"。自分の覚悟、決意を1番わかってくれる人だ。1人で抱え込まず……どうか……生きてくれ」

「……わかったよ。"シエンさん"」

「っ! ……嬉しいなあ。じゃあねル──」

「シエンッ!」


突如ルーが大きな声を上げる。感動の別れの挨拶が途切れてしまった。


「び、びっくりしたっ! どうしたんだい?」

「……勇気くれよ」

「…………はい?」


あまりに予想外な言葉に、シエンもルーの意図が読めない。


「ごめんルー。少し意味がわからないんだけど……」

「だから、験担げんかつぎだよ。良い結果になるようにって……」

「……ぷっ。あはははははははっ!」

「ちょっ!? なんで笑うっ!?」

「いやごめんっ。いやールーも、そういうのに興味があったんだなと思って」

「別にいいだろ……」

「でも、する必要あるのかい? いきなりスーパーパワーが宿るわけでもないし、奇跡的な力に目覚めるわけでもない。そんなのは、どこぞのお伽話とぎばなしだけだ」

「……そうだな。根性こんじょう気合きあいでどうにかなったら苦労しないしな。でもそれで、良い結果になったらさ──」




「最高じゃん」




満面の笑みで言うルーを見て、




「間違いないね」




シエンも頷き、ルーの体を抱きしめる。


「頑張れ。私の……"愛する息子"」

「っ! …………ありがとうっ」



その言葉を最後に、ルーは現実世界へ戻っていった。



もうラストスパートです。ちょっと期間あけて、一気に投稿します。

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