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King Road  作者: 坂田リン
後章:救われた人々
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想い人



リベルの両腕が失われた、少し後──


「わっ!」

「きゃっ!」


残された少女たち──マキナとクラルを閉じ込めていた空間が、突如効果を失った。


「あ、あれ……私たち……解放されたの?」

「もしくは……リベルさんたちに……何かあったんですかね……」


マキナが少し歩を進め辺りを見渡す。


自分の足元にはまだ届いていない、謎の地割れ。肥えた大地があられもない姿になり果てている。


さらには、先ほどまで天が躍っていた謎の大嵐。2人は瞬きすら忘れ、見ていることしかできなかった。


「なにが……どうなってるの? 空が暗くなったり、だけどスパって切れたように晴れたり、そんでもってここまででかい騒音が鳴りやまないし……何も……わからない……」

「……ボクもです。ルーさんたちに何が起きてるのか、さっぱりです」

「……でも……わかったところで、だよね。私たち……おいてきぼりだから……」


地面にへたり込んでしまう。悲しい感情が乗っかった言葉。マキナはまだ、割り切れてなどいなかった。


「何もできないって……こんなに悲しいんだね。今まで忘れてた……なんだかんだ言って……ルーは連れて行ってくれたから。でも……普通そうか。だってさ……私は魔法も使えないし……子どもだし……何も……ぐすっ……できないっ!」


出し切ったはずの瞼から、涙が溢れ出す。


「……こんなのしか……私にはない」


リベルの空間を破ろうとしてバッグから取り出した、《マジックブラスター》。結果破れず、魔力の無駄になってしまったが。


虚しくそれを見つめる。ルーが褒めてくれた。そして、認めてくれた才能。それが本当に使いたい時に役に立たない。


馬鹿にもほどがあるだろう。


「うぅ……なんで……なんで……」


マキナが酷く項垂うなだれている……そんな時だ。


クラルは"あること"に気づく。


「ま、マキナさんっ! マキナさんっ!」

「ぐすっ……もうちょっと泣かせて……」

「いや、あの、そ、その銃がっ!」

「え……?」


クラルに言われ、自身の手の中にある《マジックブラスター》を改めて見る。よく見つめていると、《マジックブラスター》がぼやっと淡い青白い光に輝いていることがわかった。


「これって……」


瞼を袖で拭き思い返す。ルーの"作戦"を。


「……なんで私に……だって……これはルーだけだって……ルーが言ったのに……」

「もしかして……マキナさんを信じたんじゃないですか?」

「……それって?」

「敵を討つための奥の手があったとして……マキナさんがその……奥の奥の手だったとしたら……? だって、"ルーさんが言ってたことと違うじゃないですか"」

「……っ!」


マキナは理解した。いや、もしかしたら見当違いかもしれない。自分の浅はかな理想を無理矢理現実にしているだけかもしれない。


だがそれでも──


「……私、行かなきゃ」


マキナは停止した体を動かす。バッグの中身をあさり、必要なものを厳選し始める。


「マキナさんっ! これを持って行ってくださいっ!」


クラルが両手いっぱいに抱えた治癒魔道具をマキナに手渡す。


「ボクは行っても役に立たない。だからせめて……これをお願いします。人を癒すのが、私の仕事ですから」

「……ありがとう。今度、いっぱい話そうね」


そう言ってマキナは、空へと羽ばたいた────




「なんだ……子ども?」

「……っ!」


魔法を使っているわけでもないのに宙に浮く少女──マキナの姿があった。ルーは地面に貼り付けにされているため見えないが、同じく発動した気配探知魔法がマキナと認識した。


「まさか、貴様と一緒にいた少女とは、奴のことか?」

「私の好きな人に何してる」


ルーに発した質問に、マキナが静かに答えた。《ホバーブースト》の出力を下げ地上に降りてくる。


「貴様は誰だ。名乗れ」

「マキナ。マキナ=アーセナル」

「アーセナル……聞いたことがあるな。確か、ロンダンテ帝国の科学者だったか。あまり良い噂は聞かなかったが、子どもがいたという情報も聞いてない……まさか……いや……ふっはは。なるほど、合点がいったぞ。"また貴様が救ったのか"?」

「……」


マキナの存在は知らないはずが、全てを知ったように笑うフィーニス。興味が新たにマキナに移り、ルーを蹴飛ばし近づいていく。


「ルー。これが残した物、いや、残り物と言った方が正しいか?」

「……どういう意味?」

「こんな子どもまで出陣しなければならない状況。今まで出てこなかったということは、どこかに縛り付けておいたのだろう。つまり貴様は、戦力でも何者でもない、残り物だというわけだ」

「残り……物……」

「貴様には本当に失望したぞルー。トカゲに加え、あまつさえこんな餓鬼を送り込むとは。私の怒りを募らせる作戦としては見事だ。そのおかげで私の殺意は高まるばかりだが」

「マ……マキナ……今すぐ逃げろ……お前が来ても無駄だ」

「いやだ」


マキナは断固拒否した。


「私が逃げたら、ルー死んじゃうじゃん。そんなこと絶対させない」

「お前が……死んじまうだろ……」

「死なないよ。私は絶対。ルーと結婚するまで死ねないから」

「マキナ……」

「ほお。なんだ貴様、"いるんじゃないか"」


視線はマキナから外れていないが、ルーに向けての言葉だと本人は理解した。


「なら決まりだ。マキナ(こいつ)を殺して、閉幕とする」

「やってみろ。私は天才だっ!」

「マキナ……」


象と蟻。フィーニスとマキナ(ふたり)を表す言葉を述べるとしたら、この3文字がもっとも適切だった。


「威勢が良いのは認めよう。しかし気合でどうにかなるのはフィクションだけだ」

「フィクション?」

「わからんならいい。その雄姿に免じて、1度だけハンデをやろう。私は何もしない。貴様ができる最高最大の一撃を披露して見せろ」

「自信満々だね。フラグって言葉知ってる?」

「逆に貴様を恐れろと言われる方が無理がある。何千年も生きてきた私にとって、貴様は受精卵に等しい」

「ちょっと知らない情報あったけど、いいや」


右手に持つ《マジックブラスター》の銃口をフィーニスに向ける。フィーニスは笑うを越して呆れた。


小道具おもちゃかよ」

「どうかな?」


ガシャガシャガシャガシャン。《マジックブラスター》が変形を始める。サイズがひと回りでかくなり、先端部分がバツのような形のデザインに変わった。


「知は力なり、てやつか?」

「それ、良い言葉!」


引き金を引く──



ズォオッ!



「っ!?」


一瞬、フィーニスの顔が引きつった。



《マジックブラスター》は改良に改良を重ねていた。


ルー、リベル、ユマン、サラ。数々の強者と出会い、マキナは"魔力"を集めていた。



【魔力? 何に使うんだ?】


【分けてほしい? 別にいいけど~】


【構いませんが】


【急ね。まあ断る理由ないからいいけど】



強者の体内に巡る魔力。マキナが研究を進めわかったことは、魔力にも"優劣ゆうれつ"があるということ。


血筋が人間の才能を決めることがあるように、その人間の強い弱いに対して魔力の質が変わる。


しかしこれは特に意味のないことだった。魔力の質が劣ろうが劣らまいが、"魔法術式"に通してしまえば関係はない。


術式性能は魔力の質ではなく、本人の術式構築の精度に左右される。公に言えば、魔法を使うにあたって魔力は材料でしかない。


魔法を使えないマキナは知る由もないが、結局無下の努力だった──"魔法を使う者にとっては"。



(《マジックブラスター》──"進化エボルシオン")



魔法が使えないマキナにとって、この発見は革命だった。複数の魔力を融合させたエネルギーを基本ベースとし、改造を重ねる。


天に恵まれた才は、等価の法則の限界を突破させ、放った魔力砲の威力は──



(ここまで来たのか……)



ルーすらうならせる力を発揮していた。


フィーニスと同一直線上いたルーには被害がなく、魔力砲に呑まれた者はフィーニスだけだった。


「……」


マキナは冷静に顔前を見据える。舞い上がった残骸や土煙で見えない。


5秒経っても出てこない。


「……まさか」



「予想を少し上回った。その程度かな」



芽生えかけていた希望は、邪王の一声で掻き消された。


出てきたフィーニスの焼き焦げた皮膚が、みるみるうちに再生していた。


「多少他より抜きん出ていた神童しんどうであろうとも、全知であり全能の覇者である私には擦り傷同然というわけだ」

「それ自分で言うんだ」

「発言できる力があるということだ」

「へぇ……でも残念だね。私の攻撃……"まだ終わってないんだけど"」


気配が"1人"増えた。


「何……っ!」

「おらあああああっ!!」


背後から斬りかかる──ルーがいた。


しかし重要なのはそこではない。


"傷が癒されていた"。


フィーニスの魔眼がルーの内部までも捉え、その実体を知覚した。


(奴の治癒魔法ではこんな短時間で治せるはずが……)


そこでフィーニスが気づく。ルーの太ももに刺さった──



(注射器……ああ……"治癒魔道具あれ"か……)



マキナが仕掛けた裏の手。巨大魔力砲に紛れ込ませ、用意しておいた専用発射銃でクラルからもらった治癒魔道具を飛ばしていた。


見事ルーへと届き、意図を察したルーは回復した体で立ち向かっている。


(個ではなく他を使った……子どもにしては悪くないな)


ルーが黒魔剣こくまけんの3蓮撃を繰り出すが、その最後の一撃がフィーニスの素手に止められる。


「だが結局他人任せの愚策だ」


またフィーニスの眼が赤く染まる。視界に映るはルー。


「ごふっ……!」


口からも目からも血が吹き出し、その場に倒れこむ。


「ルーッ!」


マキナが俊敏な動作で治癒魔道具を銃に装填し、発射する。


「おっと」


がしかし、フィーニスの異次元の反射で、人差し指と親指で摘まんだ。


「あっ!」

「治そうとするなよ」

「ク……ソ……ッ!」

「敗者が出しゃばるなっ!」


地面に伏すルーの腹を蹴飛ばす。血をまき散らしながら、地面を転がってゆく。


「がふっ……ぶっ……」

「ルーッ!!!」

「これか。確かに、そこらにある魔道具とは別の領域にあるな。どれ、試してみるか」


なんとフィーニスは、神の黄金を宿した右手刀で左手首を斬り落とした。そこですぐさま治癒魔道具を、左肩に突き刺した。


「おお……これは中々……」


無限再生の魔法術式の魔力供給を止め、フィーニスはクラルの力を直に体験していた。


言わずもがな、フィーニスの左手首の切断面が塞がり生え、再生は終わった。


「再生速度なら私の魔法を勝るか。魔力も回復してる。素晴らしい。貴様は良い仲間を手に入れたな。この力をうまく使えば、私の不老不死ゆめにも更に近づくことができるかもしれん」

「げふっ……ふぅ……テンリと同じ……すぐに利用することを考える……やっぱ……下衆と下衆は似るな……」

「その下衆の前に這いつくばってる貴様は、下衆以下だな」


吐き捨てるように言い、マキナに近づく。


「や……めろ……行くんじゃねえ……っ!」

「なら体を起こして止めてみろ」


背後のルーに見向きもしない。マキナは段々と近づいてくる王の"格と圧"に、手を震わせる。


「恐怖がようやく芽生えてきたか? 最初から子どもらしく泣きわめけばいいのだ」

「だ、誰が……お前なんかに……」

「はっ」


手を振るい、マキナが構える《マジックブラスター》を弾く。カラカラと地面を転がる。


「貴様らの物語はしいだ」


マキナの首を左手で掴み持ち上げる。そして空の手の右手に死逝亡鎌ステルベンを生み出す。


「あぐっ!」

「マキナッ!」

「つまらん人生だったな。可哀かわいそうに。"救いこそしたが守ることはできなかった"。身勝手な男のせいで、1人の子ども、1人の少年、そいつを愛した2人の女。これから順番に私が殺す。わかっているかルー。"貴様が招いた出来事だ"」

「……勝手に……解釈……しないでよ。悪いのは……全部お前だろ……」

「……最後に残す遺言は、それでいいか?」


フィーニスが死鎌を振り上げる。マキナの死が、もうすぐそこまで迫っていた。


「や、やめろっ……やめろよクソ野郎っ!!」

「体ではなく口だけを動かす。ははっ、はははははははっ! 死に際に実に相応しい。今私の1番の楽しみは、数秒後に表れる貴様の歪んだ顔だっ!」

「……ルー」


かすれた声が漏れる。か細いがはっきり聞こえる、優しい……愛の言葉。


「世界で1番……大好きだよ……」

「……っ!!!」

おもえてもらって良かったなっ!!」


遂にフィーニスが、ルーの目の前でマキナを手にかける────



「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」



言うことを聞かない体で決死の叫びをするが、邪王は不快な笑みを浮かべ、手を止めることはない。


防ぐ手段も、魔法も、力もない。愛する人が死ぬのをただ見るしかなかった──────





────────グシャ。





(……え?)


音。


骨が折れたような、岩を砕いたような、皿が割れたような音を…………"フィーニスだけが聞いた"。




         ────




ルーは"あの時"、マキナに触れられなかった。だから言葉だけで伝えた…………




「信じてる」、と。




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