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King Road  作者: 坂田リン
後章:救われた人々
25/36

どうして俺は……



手の甲の傷はすぐに塞がった。


「ベレッタM9か……そう言えばこの世界にも銃火器はあるんだったな」

「何してんの~。悪の親玉さん?」

「見ての通りだ──」


振り上げた聖剣をサラとユマンに振り下ろそうとする。2人の頭蓋に剣先が当たる刹那──


「おっとっ!」


神速に至るスピードで距離を詰めたリベルが、聖魔剣(エクスカリバー)と2人の間に曲刀を入れ込み────バキンッ!



"聖剣を破壊した"。



「えっ!」


サラが驚愕する。片手で持った曲刀を上段に斬り上げ、黄金を纏いし剣を真っ二つに斬り伏せた。


フィーニスも目を丸くする。


「出し損じゃん」


リベルは銃をしまい空になった左手を握りしめ、渾身のストレートをフィーニスの頬にぶち込んだ。


「おらぁあ!」


荒れた王国の地面を削りながら、フィーニスは彼方へと飛ばされてしまった。


「んん~頭吹っ飛ばすつもりでやったんだけどなあ。それでも結局再生すんのか~。めんど」

「リ、リベル……」

「全く遅くなっちまった。結構地中に埋められてさ~。ルー兄さんはまだ埋もれてんの?」


何食わぬ様子で、笑顔を振りまくリベル。地面に辛そうに伏しているユマンが膝を付き、申し訳なさそうに頭を下げる。


「す、すみません……こんな醜態を晒して……」

「まあ仕方ねえだろ~。相手が相手だし。蟻じゃ虎に勝てないだろ?」

「……ごめんなさい……お役に立てず……」


ユマンは顔を上げない。リベルの顔を見る資格がなかったからだ。がしかし、リベルがしゃがみ込み、ユマンの顔を両手で鷲掴みし無理矢理自分の方に向ける。


「にゅ! リ、リベル様!」

「だから──俺が代わりに狩ってきてやる」


リベルが両手をユマンから離す。ユマンは頬はとても熱かった。


「魔力が回復したら治癒魔法使え。使えるだろ? クラルちゃんの魔道具は全部駄目になっちまったからな。ま気休めにはなるだろ。さて、俺は頑張ってくっかな~」


フィーニスを飛ばした場所へ歩き始めるリベル。


「リベルッ! いくらあなたが強くても、あいつは正真正銘の化け物よ! 絶対に勝てる見込みは──」

「さあね~。やらなきゃわからんし。やらなくてもどうせ死ぬ。ならどうするか? やる一択だ。せめてルー兄さん来るまで耐えねえとな~」

「リベル様!」

「ん?」

「…………死なないでください。それだけは……守ってください」


弱い奴が俺に言うそれ? リベルはそう言うだろうと、ユマンは知っていた。


リベルは去り際に──



「‟仇取ってやるよ‟」



「えっ…………?」


リベルの姿はもうなかった。



         ────



「ちっ……あの小僧……」


折れた首の骨が再生するのを確認して、服に付いた(ほこり)を払う。


「厄病が……やはり奴は1番……」


フィーニスの聴覚が音を拾う。地を駆ける音。もの凄いスピードで自身に近づいてくる。


フィーニスの視界に入るは、元暗殺組織『虚栄』次虚殺(セカンドラング)トップ──リベルの姿。


「次から次に」


術式に魔力を通し、死逝亡鎌(ステルベン)を生み出す。


三日月の刃をリベルの方向に向ける。


死乱バースト


死逝亡鎌(ステルベン)が黒く輝き、黒青い斬撃が刃から解き放たれた。もちろん1つ1つの斬撃には、死へと導く魔法が込められている。


「んあ? なんだあれ?」


当然リベルも気づく。自分が走る直線上に斬撃が津波のように押し寄せてくる。だがリベルは足を止めない。


「じゃあ、俺も!」


右手に持つ曲刀を前に投擲する。死の海に突っ込む瞬間、


解放(ディスチャージ)


ズババッ!


曲刀──断空剣(エッジ)が白く輝き、無限に湧き出る斬撃マシーンへと存在を変えた。


降りかかる斬撃と斬撃が相殺し合い、辺り一帯が爆煙に支配される。


常人離れした身体能力を持つ少年が、その爆煙の中をするりするりと抜けて行っていた。


「よおっ!」

「……っ!」


リベルとフィーニスが相対す。30cmもない距離だ。フィーニスが死逝亡鎌(ステルベン)を防御に構えようとするが遅く、強靭な旋風脚を首に喰らう。


「ふっ!」


死逝亡鎌(ステルベン)を消し、黄金の神の手を両拳に宿す。


「なんだそれー!」


リベルの手にいつの間にか握られている曲刀。リベルが曲刀を振り抜き、フィーニスも黄金の拳を振り抜く。


拳と剣の衝突音とは思えない轟音が鳴り響く。大地が振動し、舞っていた爆煙が晴れる。


両者互角に見えた、まさにその時──



斬ッ!



"フィーニスの右腕が縦に斬れた"。


「俺の勝ち〜」

「……」


リベルは追い討ちをかけるように曲刀を振り回す。9、10、11、12連撃。全てを断絶する剣は、玉座に君臨する王も例外ではない。


フィーニスもリベルの魔法については知っている。


(全てを無効化する私の神の手がなあ……あの曲刀。もしかしたら私の魔法概念そのものを"空間"と捉えているのか? 馬鹿げた話だが、"奴ならあり得る")


「貴様はやはり、"真の魔才に1番近い存在"だ」


自身がいる空間を曲刀で切り取り、フィーニスの背後に回って頭部に刃を突き立てようとするが、フィーニスの神の手によって弾かれる。


今度は刹那だったため、フィーニスの手に切り傷をつけるに止まる。


「それどういう意味?」


(空間囲って閉じ込めるか? いやでも数秒の時間差(ラグ)で出ちまったら死んじまうしな。この距離なら天災が起こる寸前に首はねれっかな〜。だとすると──)


問いかける最中にも、リベルはフィーニスを倒す算段を思考していた。


「そのままだ。今この戦いにおいて、いの1番に恐るべき相手は貴様だ」

「へぇ〜。そんな高く評価してくれんの? ありがたいけど、嬉しくはねえな〜」

「私はウィル──ウィルレウスと関わりがあったのは言ったな。なら私が『虚栄』の暗殺者(アサシン)の人物情報を網羅しているのもおかしくないだろ?」

「まそうね〜」

「だが別にどうでも良かった。所詮殆どが『魔才』から魔法を与えられただけの軟弱者。そうでなくとも組織の中だけの指折りの実力者のみ。気にはならなかった……"貴様を除いて"」


フィーニスは隠すことなく曝け出す。


「ウィルが貴様を連れてきた時、私もいたのだ。すぐに帰るはずだった。だが、貴様がいた。見た瞬間感じたよ。こいつは異常だって。貴様が魔法を試しにウィルの前で使った時には、私としたことが冷や汗をかいたよ。貴様の魔法は、本気を出さずとも国家を丸ごと滅ぼせる。つまり、"真の魔才"になり得ると!」

「ほぉん。なんだあの時いたのか〜。まあだから何だって話だけど」

「……貴様まだ気づかないか? リベル。今まで一度も疑問に思わなかったか? "なんで自分は魔法が1つしか使えないのか"と」


リベルは目を細める。疑問には思った。


魔法術式の開発は何度か取り組んだ。だがどうにもできなかった。だからリベルは、自分は凡人の中の凡人だと決めつけ、それで考えを放棄した。それが全部だと思っていた──


「屈辱だが、貴様はルーよりもシエンよりも脅威の対象だった。これから成長を続ければ、貴様は私をも超える存在、天敵になってしまう恐れがあった。だから、『虚栄』で首に爆弾を埋め込むと同時に、私が作った装置で‟ある魔法術式‟を貴様に刻み込んだ。違和感すら覚えなかっただろう? 自覚したとしても認識するのは至難の業。今までずっとその魔法術式に貴様は魔力を自動的に送り込んでいたんだよ。既存を除く、‟他の魔法術式を阻害する術式‟。これが真実だ。貴様は私の天敵となる前にこの──」


「長い」


リベルが曲刀を一閃。フィーニスが顔を横にずらすが、左耳が半分になる。


「もう1度言う? だから何?」


リベルは剣速を更に上げ、フィーニスに襲いかかる。ついにフィーニスは、地上を破壊の限りに尽くす天壊災(さいがい)を発動させる。


ピシャアと人々の恐怖心を掻き立たせる不快音を鳴らしながら、光の速さでリベル目掛け落下する稲妻に──


斬斬斬ッ!


視えているのか、リベルは稲妻がある空間ごと斬り裂き、葬っていく。最早足止めにすらなっていない。


フィーニスを追い詰めながら、リベルは軽快に口を開く。


「んなこと不便に思ったことねえし、長文にして話しを聞くほど興味がない。それに、前からずっと俺のことずっと怖かったんだろ? ならあれだ。今の俺でも、十分テメェを殺せるってわけだ!」


稲妻で視界を隠した隙に、曲刀をフィーニスの右脇に挟み、右腕を斬り飛ばした。


フィーニスが膝蹴りを入れるが、リベルは片手で防ぎ少し後ずさるのみ。


「さっさと俺を殺すべきだったんじゃねえの〜? くひひひひひひひっ。まさか幼い子どもを殺すのを躊躇った? そんな甘ちゃんじゃないか〜」

「……」

「後あれだな。真の魔才ってのは、俺とあんたみたいな"イカれてる奴"がなる体質なのか? もしかしたらそんな法則性があるのかもな〜。死んだらあの世で確かめてくれ」

「……なあリベル」



「いつまで、"そんなフリをしているのだ"?」



「…………え?」


リベルから笑顔が薄れる。なんというか……"確信を突かれた‟ような。


「貴様はいつまで、自分はこういう人間なんだと偽っている?」

「……な、なに言ってんのか」

「ウィルが連れてきた後からの貴様は知ってる。『虚栄』に来るまでどんな人生を歩んできたか知らんが、貴様はどこか"おかしかった"。しかしそれはイカれてるわけではない。なんというのか……生き様の違和感か? ウィルは知ってるみたいだったが……」

「だから……さっきから意味が」

「だが私は億を超える人間を見てきた。多種多様な思考、心理を持ち合わせていた。その中で貴様と似たような奴がいてな────」



「自分は周りとは違うと他人に認識させるために、"わざと自分を捻じ曲げる輩だ"」



その瞬間、リベルが見たこともない表情をする。不安か、恐怖か、憤怒か、悲しみか、初めて指摘され、滲み出てきた──動揺。


それらを全て誤魔化すために、リベルは猪突猛進でフィーニスに斬り迫る。


「ぁああああああああああああああああああああああっ!!!」

「あははははははははははは! 貴様のそんな表情は見たことがないぞ! そうだ、そうじゃないか!  反乱者共の中で貴様だけが唯一、"救われていない"! 盲点だったな!」

「うるせえな! だからなんだよ、あ!? こんな意味ねえ会話どうでもいいんだよ! 俺がお前の天敵には変わりねえ!」

「そうでもないがね?」


神の左手で曲刀の一閃を受け止める。リベルの精神が乱れているせいで、指すら斬り飛ばせずにいる。


「ちっ……!!」

「貴様は天敵になり得る存在だった。だが貴様は、ただフリをしていた偽物。狂人などと他人は貴様を呼ぶが、甚だ見当違いだ。中途半端で、貴様は意外にも"情"がある。だから──」


フィーニスが右手を上げる。リベルは危険を察知し回避行動をとる。フィーニスの掌に纏う黄金が形を成し、光り輝く何十個もの刃を作り飛ばした。


リベルは避けようとするが──


ヒュン。


なぜか背後へと過ぎ去ってしまった。


(は? 外し──)


いや違う。リベルは考えようとした思考を変える。刃の行き着く先は…………


「っ!」


リベルはフィーニスの手首ごと斬り落とし、


(……あれ?)


自分でもわからぬまま、飛んで行った刃を追いかけた。



         ────



「ユ、ユマン……っ!」

「まずいですね……」


抑圧を無視した殺気が、サラとユマンの肌を震わせる。お互いに治癒魔法をかけ合っていた最中、前方から刃の濁流が迫り来るのが見える。


そして自分たちを切り刻むのに、後30秒もない。


リベルがどういう状況になっているのか2人が知る由もないが、自分たちに攻撃が向けられていることは理解できた。


「立てますか?」

「まだ無理ね……足のダメージが多いみたい…………あんただけでも逃げなさい」

「あなた……」

「ふん。清々するでしょ。リベルの側近の役目は譲るわ。頑張りなさい」


サラが何かを諦めた顔をする。普段のサラとは想像もつかない優しい言葉。


ユマンも、いつもなら言葉の通りに真っ先に置いて逃げるだろう。リベルの安否を確認したくて仕方がなかった。しかし、


「残ります」

「……はい?」

「残ると言いました。肉体を残った魔力で限界まで高めて、一か八か戦ってみます」

「はあ!? なにとち狂ってんのよ! 今のあなたじゃ真っ二つにされて終わりよ!」

「うるさいですねえ! 戦えない人は黙っててください! リベル様のファーストキスを奪ったことを、私は許した覚えはありません! その(つら)殴るまで、死なれるのは困るんですよ!」

「……こんな状況で……なに言ってんのよ……」


無謀だとわかりながらも、サラは口を閉じた。どれだけ言っても、ユマンはこの場を離れないとわかったからだ。


各々が覚悟を決めている時──




(なにしてんだろ……俺)


体が勝手に動くリベル。サラとユマンに迫り来る黄金の飛刃(ひじん)を、曲刀で吹き飛ばしながら地を駆け抜ける。


(どうして……体が動く)


しかしどれだけ斬り伏せても無くならない。刃は確実に2人の元へ進み続ける。


(フリをしてる……か)


サラとユマンの姿が見えた。しかし、このままではリベルが辿り着くまでに間に合わない、


(なんで……なんでかなぁ……)


無意識な心の言葉、無意識に動く体、無意識に覚醒する力。


限界値を超え覚醒した力が、サラとユマンの元まで足を届けた。


「えっ!」

「なんでここに!?」

「ふぅ──」


横一文字の斬撃が無数の刃を退ける。その時の1つの刃が突如軌道を(ずら)し、リベルの攻撃を躱した。


「リベル様下がっ──」


(ああ……クソッ……)


曲刀を振り切っている。たとえ曲刀をもう一方の手に曲刀を移動させたとしても間に合わない。


リベルは────




斬ッ!




「…………」

「…………リベル様……?」

「そ、それ……」


サラとユマンに傷はない。刃の軌道を晒すことができた…………"右腕を犠牲にして"。



「ほら、"そうする"」



フィーニスが呟く。右腕は宙を舞う。リベルは虚無の表情で、失った右腕を見つめる。


「一点を除けば、貴様も他と同じ。扱いやすい人間だ」


再生は既に終わっている。フィーニスの右腕の黄金の輝き更に増し、その光を放つ。


眩しく、神々しく、荒々しい、破壊の光だ。


(こりゃ死ぬなあ)


後ろにいるユマンを見る。瞬き1つせず、心配する顔で自分を見つめている。情報が処理しきれていないのだろう。


【なあ? 名前なんて言うの?】

【ユマンです】


いつかの任務で拾った女。年月が過ぎるにつれ、自分よりも遥かに背が高くなった女。


こんな自分を愛してくれる、おかしな女。


(おかしな奴らばっかだ)


光が届く寸前、残った左手に曲刀を生み出し、サラとユマンがいる空間を囲う。


こんな体だが、死なない程度の壁にはなるだろう。


「っ!!!」


ユマンが何かを言っている。言ってることはわからない。リベルはただ……"悲しい笑顔"を浮かべる。


思うことがある。


(どうして俺は……)




("普通に生きれなかったんだろう")




         ────

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