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King Road  作者: 坂田リン
後章:救われた人々
22/36

真の魔才



「ぐうっ!」


玉座から飛ばされるルーだが、空中で体勢を直し軽やかに着地する。


青と黒の大鎌を構えるフィーニスは、ゆっくりと玉座から腰を上げ、吹き飛ばしたルーへと足を進める。


「貴様の魔法は研究所のデータである程度知っている。死逝亡鎌(ステルベン)は貴様の死想亡鎌(メメントモリ)と双璧を為す宝玉だ。だが、貴様のと同じとは考えないことだな」

「ああ? その言葉そっくりそのまま返すぜ!」


玉座から降りてきたフィーニス目掛けまた走る。


「らあぁ!」

「ふっ」


死鎌と死鎌が交差する。(はじ)き合い、炸裂し、またぶつかり合う。赤、青、黒の色がまるでグラデーションのように流麗に描かれているようだ。


まさに死と死の(せめ)ぎ合い。一太刀でも浴びれば、あの世へのカウントダウンが開始される。否、死戦(しせん)ならとっくに始まっている。


「はあああああああああああっ!」

「中々動けるなあ。流石魔才に選ばれただけある」


フィーニスの一閃を仰け反り避けた後、死想亡鎌を地面に向けて薙ぎ払う。玉座の間の岩盤が破壊され舞う石礫(せきれき)


紛れて狙うはフィーニスの首──ではなく頭──でもなく、腹側頭部。


2のフェイントを織り交ぜ繰り出す斬撃だが、


ギンッ!


「ち……っ!」

「もう少しか」


読んでいたように軽々と鎌を操り防ぐフィーニス。しかし負けじとルーは応戦する。


「まだまだぁああああああああああ!」


乱舞の如く大鎌を振り回す。激突、激突、激突、激突、激突。一撃一撃が致命傷になる威力を持つ攻防戦。


己の恩師の仇を討つために、不幸な邪の連鎖を断ち切るために、ルーは攻めて攻めて攻め続ける。


両者一歩も譲らない互角の死闘を繰り広げる最中、ルーはある思考を回していた。


(こいつ……これで"まだ"あるのか?)


フィーニスがルーの魔法の詳細を知っている可能性は、自身も考慮していた。しかしその逆、ルーもフィーニスの魔法、及び戦闘スタイルは、シエンの記憶の中で見ていた。


"強さ"は理解したつもりだった。これまで戦ってきた敵とは、比べるのもおこがましいと言える強さ。


しかし、それだけではルーの恐怖心を煽ることはなかった。ルーには"手数"があったからだ。


リベルと戦った時にすら見せていない魔法はまだある。数が多ければどうにでもなるというわけでは決してないが、それでも戦力になるのは確実だった。


そんな希望を持ち合わせ、いざ刃を撃ち合った死想亡鎌(まほう)死逝亡鎌(まほう)


直に味わう────"歪な差"。


はたから見れば互角の勝負に見えるかもしれない。しかし、ルーは身体、心、魂で感じてしまった。


("質"が違う)


能力に差は見られないはず。それでも見通せる質の違い。フィーニスの刃も、圧も、オーラも、構えも、挙動も、全てがルーが使う魔法を上回る上位互換を彷彿とさせる歪。


(シエンと戦っていたこいつは……"死逝亡鎌(そんなの)使ってなかった")


フィーニスが使っていたのは全く別の複数の魔法。死逝亡鎌(ステルベン)にも勝るとも劣らない強力な武器の数々。


ルーが脳裏に過った、ある1つの思惑。


(こいつまさか、"これと同等の魔法をまだ何個──)



「何を考えてる?」

「っっ!!」


心を見透かされたようにフィーニスの声が届く。一瞬気を取られ、死鎌の2連撃に押され後ずさる。


「くぅ……はあ……はあ……」

「何か、思う所があるようだな?」

「何の話だ……」

「とぼけなくてもいい。大方、私の魔法と貴様のとの違和感だろ? 確かに気になるよなあ……『魔才』の面目が丸つぶれだものな。しかし、貴様の『魔才』は"偽物"だから仕方ないことだ」

「偽物……?」


言ってる意味がわからなかった。


「貴様はそれなりの魔法の実力を持ってるようだが、私が貴様ら実験体(モルモット)に付けた『魔才』の定義は、"魔法術式の多量重視"だ」

「量……」

「シエンが教えなかったか──」


鎌の刃を下に向けたかと思った矢先、フィーニスは瞬間的にスピードを加速させ、一気にルーとの距離を縮めた。


突然の行動変化に驚いたルーだが、まだ対処できる範囲だった。


鎌が狙うは右肩。身体強化術式で底上げされた反射神経と洞察力で見極める。


タイミングを合わせて弾き返そうとするルー。


しかし──


斬ッ!


「……!」

「貴様らに"質"は求めてない」


"左肩"を斬り裂かれた。攻撃が来る瞬間、まるで刃が陽炎(かげろう)のように歪み斬撃が思わぬ方向へと変化した。


それもただの斬撃ではない。あらゆる生物を死へと誘う、冥府の斬撃である。


「ぐあ……あああ!」


何が起こったかは後回しにした。死鎌に喰われた切断面から、徐々に灰になるように腐敗している。


やはり能力はルーの死想亡鎌と変わらない。ならば、このまま放置すれば1分とて保たない。


「……こんな早い段階かよ……」


ルーは動かせる右腕で懐を探り、"それ"を取り出すと、勢いよく自身の首に突き刺した。


「ん?」


フィーニスはルーの行動に首を傾げると、次の瞬間には目を見開いていた。


ルーに与えたはずの傷が、みるみるうちに治っていくのだ。抗えないはずの死逝亡鎌(ステルベン)の死の因果が掻き消され、ルーは健康健全な体を取り戻していた。


「なんと、魔道具か?」

「教えるわけねえだろ」


ルーが自身に刺した物は言わずもがな──クラルが作り上げた治癒魔道具である。


短期間で研鑽を積み重ねたクラルの魔道具は、邪王の息吹(いぶき)すら癒す伝説級の代物になっていた。


「そう言えば……テンリが一時期勢力を拡大してた時期があったな。ある物の生産が鍵になったと……興味深い。"私の再生"に匹敵するかもな」

「勝利の余韻に浸るのはまだ早えぞ。本番はこっからだ」

「ちょちょちょ、ルー兄さん俺らのこと忘れてません?」


後ろからルーの肩を叩く手。リベルの手だった。


「悪い忘れてた」

「本気か~。まいいや。やばいっすねあいつ。遠目から見てもわかりますよ。加勢しますよ」

「いや、少し待ってくれ。後少し……」

「意地ですか? まあ気持ちは……わからないすけど、死んじゃ駄目ですよ。クラルちゃんのだって無限にあるわけじゃないですから」

「ああ……」


ルーは言葉だけを残し、再度フィーニスへと対峙する。


「まだ来るのか? 死の淵に立ったんだ。大人しく後衛に任せれば良いものを」

「うるせ。まだ始まったばっかだろ。偽物だがなんだか知らないが、俺の力をわかった気で言うのはやめてもらいたい」

「ふっ……わかってないのは貴様の方だ。"偽物"であるという意味の奥にある本質をまるで理解できていない。それでは、一生私には勝てない」


フィーニスの言葉には目もくれず、最初同様、死想亡鎌を携えフィーニスに接近する。


「芸のないっ」


つまらなそうに死逝亡鎌を担ぎ上げ、迫り来るルーに向けて凶刃を振り下ろす。


「っ!」

「?」


フィーニスが刃を振り下ろすタイミングで、ルーは手に抱えている死想亡鎌を消した。


丸腰である。


「しぃ!」


ルーはギリギリで凶刃の攻撃を躱し、懐に潜り込む。高速の動作でフィーニスを前方に浮かし、背中にかつぐ。


「おらぁ!」

「……」


肩から勢いよく背負い投げを決めるルー。しかしフィーニスは呆れ半分顔で宙返りを決め、王宮の壁にスタッと張り付く。


「パターンを変えたところで──」


ドドンッ!


フィーニスの周囲が爆ぜた。爆発魔法である光の球をルーが飛ばしたのだ。


「少し派手になったか?」

「……」


直撃したはずなのに無傷なフィーニス。壁から勢いをつけ飛び去ろうとした時、


「んおぉ?」


突如フィーニスの動きが止まる。阻んだのは、いつの間にかフィーニスの腕に巻き付けてあったロープのような物だった。


(こんなのあったか?)


「プレゼントだよ」


静止したフィーニスの顔面向けて、強化されたルーの鉄拳が牙を剥く。壁に打ちつけ殴打を連発する。


《バインドロープ》。


マキナの発明品。一見すると変哲も無い四角い物体だが、壁でも床でも磁石のように貼り付けることができ、ロックオンした対象を拘束する縄が飛び出るアイテムである。


ルーが魔法をかけたことにより、フィーニスは気づくまでに時間がかかった。


「まあまあだ」


拘束されてない右腕をルーに振りかぶる。しかしルーはすんでの所で避け、身を翻し後ろ回し蹴りをフィーニスへ放つ。


前方へ飛ばされるフィーニスはすぐにルーの真正面に向き直ると、体が硬直した。


ルーの『念力』で動きを数秒封じられた。


「はぁああああああああああああああああ!!」


ルーは右腕に『獄炎(ごくえん)』を纏わせる。


通常の炎とは規格が違う火炎の真髄。魔力が満ち満ちている爆炎が、フィーニスの土手っ腹を焼き尽くす。


「やあああ!!」


炎に呑まれながら吹き飛ばされた。周囲に散った炎の残滓がゆらゆらと燃え盛っている。


フィーニスは仰向けに倒れたまま動かない。


「おーすげーすげー! ルー兄さんやりますねぇ」


手出ししなかったリベル、ユマン、サラが近づいてくる。


「……」

「ほんじゃ、後は首チョンパするだけかな〜」

「動かないわね……これでもう終わり?」

「リベル様。気をつけてください」


リベルが曲刀を手に持ち歩く。


「……まだだ」

「ん? 何か言いました?」

「ふふふふ。騙されなかったか」


リベルの足が止まる。獄炎(ごくえん)で今もなお燃やされ、傷つき出血している部分を"再生しながら"、フィーニスは不敵に笑いながら起き上がる。


「流石に舐め過ぎていたな。どっかの世界にこんな単純な罠に引っかかる間抜けがいたんだ。失礼した」


炎が中和されるように消えていく。焼け焦げた肌が瞬き1つで治っていく。


まるで、クラルの治癒魔道具のように。


「治癒魔法か……厄介だな」

「治癒? 違うな。そこらにある物と一緒にされるのは不本意だ。私のこれは"再生"──『無限再生』だ」

「無限?」

「魔力尽きぬ限り私の肉体が滅ぶことはないという意味だ」


無限。


これほど格の差を表す言葉があるのか?


半端な魔法では、たった2文字のこの言葉を使うことは許されない。そもそも大抵の者が口にすれば、鼻で笑われて終わる。


だがしかし──目の前にいる男の脅威を知る彼らは、確証を悟った。


「何それやば。チートじゃんチート」

「それもう不老不死みたいなものじゃない」

「まるで異なるさ、サラ。私の夢には程遠い」

「気安く呼ばないで」

「それより、なあルー。偽の反対はなんだと思う?」


唐突な質問。ルーが考える前にフィーニスが言う。


「裏があれば表があるように、黒があれば白があるように、偽りがあれば真実がある。お(わか)りいただけたかな?」

「意味不明だ。何が言いたい?」

「……さっきから悉く言っているのだが……やはり実感しないとわからないのだなあ」


再生が終わる。フィーニスは元の体を取り戻した。


同時にルーたちも構える。何が来ようと動じない自信があった。


フィーニスが一歩前に足を踏み込んだ────




地壊震(アースクエイク)




世界が──断末魔を上げる。


「「「「っっっっ!!!!」」」」


大地を支配する魔法が、王国全土を呑みこみ、地響きがオーケストラを奏で、王国を喰らいつくしていく。


リベルが『虚栄』本部で見せた地中斬撃とは比較にならない、災害規模の威力を持つ。


「んだこれっ!」


玉座の間の天井が崩壊する。それどころか王宮全体を震撼させ、大地が割れ崩れ落ちてゆく。激震が走る、走る、走る。


世界に天誅が下されたように、誰1人抵抗できぬまま地の底に沈んでいく。


「こんな……でたらめがあんのかよっ!」

「そのでたらめこそ、"真の魔才"の本領だ」

「あ!?」


ルーは地面が隆起し沈降する異次元の地形を踏み荒らしながら、耳を傾ける。


「わかるか? そこら有象無象の並の魔法とは次元が違う。私の持つ単体の魔法は、国家を滅ぼせるレベルにある。本来ならわざわざ貴様たちに触れずとも勝負は決する。そして、さらにおまけだ──」




天壊災(ジオストーム)




パチンッ。


フィーニスが指を鳴らした直後、天空がどす黒い暗雲に覆われる。神の啓示か、不吉の前兆を知らせる導きのようだった。


そしてそれは、現実に変わる。



ピシャアアアアアアアッ!!



天が泣き叫ぶ。


雷、台風、雹、隕石が天から降り注ぐ。神の怒りの神罰に共鳴するように、大地もまた産声を上げる。


悪い夢を悪夢というなら、今起こっている光景は違うのだろう。


悪いなどと、軽はずみな単語で片づけられるわけはない。天災が人の手で作られるなど……笑えない冗談である。


「絶景だなあ」

「フィーニスッ!」


ルーの視界の景色が崩れていく。もうリベル他2人の面影は消えてしまった。


何とか浮遊魔法でフィーニスの姿を視野に収めている。


「やめろっ! この国には多くの民がいるんだぞ!? 関係ない人を巻き込むんじゃねえ!」

「ははは。今さら他人の心配か? どうせこの国も後1年もしたら壊そうと思ってた。遅かれ早かれ、結末は同じだった。貴様が私に敗北するように」


魔法を使ったか、フィーニスが消えた。


(どこに……っ!)


気配探知魔法が上空に反応を示す。首を上に傾け姿を捉える。死逝亡鎌(ステルベン)は手の中になかった。


ルーと同じ浮遊魔法に似た魔法で空を飛び、ルーに迫ってきている。かなり距離が近い。考える暇もなくルーは魔力供給を再開し死想亡鎌(メメントモリ)を生成。


(せめて一撃入れてこのデタラメな災害を止めねえと……っ!)


フィーニスが右手を伸ばす。ルーは全身全霊を持って大鎌を振るう──



バキン。



「…………は?」


"素手が鎌を砕いた"。


ルーは手加減などしてない。フィーニスの五指を全て斬り裂く勢いで攻撃した。だが結果は……破壊に終わった。


フィーニスの素手には切り傷1つ付いていない。死をまき散らす凶刃の死鎌が、こうもあっさり破られた。


さっきまでの衝突は何だったのかと疑いたくなる光景だった。


「嘘……だ……」

「真実さ。もうわかっただろう。貴様らは勝利を求めて来たのではない──無駄死にをしに来たんだ」



次にルーが見たのは、黄金に輝いた、振り上げられた拳だった。



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