表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
16/36

語り、そして邂逅



「ふーふー」

「どーどーユマン。これ以上暴れられたら困る」

「もう少しで氷漬けにしたんだけどね」

「目的を忘れないでくれ」


ルーとリベルの2人が介入したことにより、なんとか乱闘を鎮めることができた。


今は魔力で動く昇降機で上へと向かっている。


「そういえばリベル。あなた傷は大丈夫なの? 見たところ……あまり目立つ傷はないようだけど」

「ご心配なく。優秀な仲間の1人のスーパーアイテムのおかげで全回復。もう痛くもねえ」

「そう言えば、クラルちゃんと連絡取らないと」

「片をつけたらで良いだろ。ウィルレウス探すのに時間がかかると思うけど……」

「それはないと思うわ」


ルーの考えに対しサラが否定する。


「死体は幾つもあったけど、どれもこれもこの女が殴り殺してるような死体しかない。ないのよね、"爆発して死んだ死体"が」

「爆発……あっ」


リベルが何かに気づいた。


「首のやつか」

「そう。ボスのことだし、リベルが裏切った段階で何人か見せしめに爆破するんじゃない? こうなりたくなければ裏切り者を殺せ、とか言う意味を込めて」

「あるわ〜。そいやサラのやつも爆破してないな?」

「私はマキナちゃんにさっき解除してもらったけど、これも妙な点ね。首の爆弾が機能していない……ということは、ボスが爆弾を起動できない状態──"身動きが取れない状態にいる"」

「まあそれは、すぐわかることだ」


昇降機から降りて廊下をしばらく歩く。その先には、リベルも今日通ったはずの扉があった。


しかし、扉は無造作にも開けられていた。まるで何者かが爆弾を起動させたように、壊されていた。


「あらら〜。ボスゥ、こりゃあ随分と(むご)たらしい姿に」

「……リベル」


周りには謎の瓦礫が散乱していた。豪華な内装が廃墟のビルと化している。


『虚栄』頭領──ウィルレウスは、両足が潰れていた。頭上から降ってきたであろう岩の礫が直撃したのか。


どれにせよ、両足から流れる血の量が半端ではない。放っておけば、死は目前だった。


「これは……」

「ルー兄さんの爆発魔法がちょうどこの真上だったんですよ。ここだけやけに被害がでかい。そしてこの様、なんて運が悪い人だ」

「そうか……」

「ん? ああ〜。ルー兄さんが思い抱える必要は全くないですよ。どうせこうなってた。それに誰が悲しむわけでもない。そうでしょう、ボス?」


ウィルレウスは息を荒くしながらも、リベルの語りに返す。


「お前は本当に……その張り付いた笑顔のまま言うから……余計に腹が立つ」

「ごめんちゃい」

「裏切ったのか……せっかく1人だったお前を拾ってやったというのに……」

「そんなこと頼んでない。別にボスに付いていかなくったって生きていけたんだ。適当なチンピラ殺して金を巻き上げれば良い」

「お前のための"定義"を与えただろ?」


リベルの語りが一瞬途切れる。しかしリベルはすぐに元の調子に戻った。


「それは……上書きされたんだ。案外時間はかからなかったよ」

「ほぉ……なるほど」


ウィルレウスがちらっとルーの方を流し見る。すると少し笑った。


「はは……苦労者だな……リベル」

「何が? まあそれはそうと、このまま出血多量で死なれる前に目的を果たさないとね。ルー兄さん?」

「……そうだな」


ルーはウィルレウスへと接近し、脅迫するように言う。


「『魔才』について知ってることを全部吐け。後、シエンって男のことを知ってればそれもだ」

「……何故そんなことを知りたがる?」

「俺が『魔才』だからだ」


微かにウィルレウスの眼が不自然に動く。ルーは何か知っていると確信した。


「こんなことまでして(はったり)……は考えにくいな。そうか……お前が『魔才』の1人か。案外普通の小僧と同じなのか……」

「お前の組織の暗殺者(アサシン)。リベルとサラ以外に2人戦ったことがある。そいつらは俺の魔法術式を2つ持っていた。何かあるんだろ?」

「話さなかったら?」

「こっちには最強の治癒薬がまだ何本かある。痛めつけて再生のエンドレスを味合わせるくらいの覚悟はあるぜ」

「ふっ。中々肝が座ってるじゃないか……」



「アタナシア王国」



ウィルレウスが呟く。


「その国の王が……全ての邪の起源だ。あいつは到底……人間と呼べる存在じゃない」

「王……国王か?」

「俺も奴の趣味嗜好を知ってるわけじゃない。残念だが……シエンという奴のことは知らん。後は自分で直接聞くんだな」


ルーは心臓の音が(うるさ)くなるのを感じた。失くしたはずのピースが今、カチッと自然にはまった。


高揚、恐れ、不安。様々な感情が入り混じって、どんな顔になっているのか自身でもわからない。


しかしこれだけは言えた。


(俺の最終目標はここか)


"やるべきこと"の最終段階が決まった。


「良い情報ありがとうボス。じゃあ──バイバイの時間だ」


リベルは拳銃を取り出す。意識が朦朧(もうろう)としているウィルレウスの額に銃口を突きつける。


「ふふ……こうなる日が来るとはな……いや……どこかこうなるだろうと思ってた気がするな……」

「落ち着いてんじゃん。泣いて命乞いしないの?」

「してほしいか?」

「別に。仮にも所属してた組織の上司が泣き叫ぶ姿なんて見たくねえしな」

「命を惜しむ気はない……教えただろ? 俺らみたいな奴はいつ死んだっておかしくないんだ」

「なんでこんな組織作ったの?」

「こういう社会で生きていくと決めた……それだけだ」


「あっそ」とさして興味も無い様子で吐き捨てた。


「あ! ルー兄さんはマキナちゃんの目隠しといて。後耳も」

「また私を子ども扱いして!」

「子どもだろ」


ルーがマキナの背中に回り目に両手を被せる。耳は聴覚遮断の魔法をかける。


マキナはじたばた抵抗するが、ルーの力に叶うはずもない。


「ボス銃好きだったよな? 最後はこれで逝かせてあげる」

「リベル……その銃。お前が初任務の時にあげた銃だ。覚えてるか?」

「そうだっけ? 確か名前があ……ベレなんとかだっけ?」

「覚えてないのか……まあそれもお前らしいか」

「手入れはしてるよ。ちゃんとね」


「そうか」とウィルレウスが言った直後、リベルは引き金を引いた。


眉間を撃ち抜いたウィルレウスの顔は、満足そうな表情だった。


(なんだよそれ……)



         ────



ルーたちは地下を出て、地上へと戻った。それからマキナの通信機器でクラルを呼び出して合流した。


「お、お疲れ様です皆さん。ええと……」


クラルがサラを方を見て言葉に詰まる。


「おっと。クラルちゃんは初対面だな。同じ同業者のサラ。寝返ってこっちにつくことになりました!」


リベルがさらっと説明する。


「え、え? ね、寝返った?」

「初めまして。サラです。よろしくね」

「は、はあ……」


サラはにこやかにクラルと握手を交わす。ルーは息をついてから、改めて周りにいる5人を見渡す。


「こう見ると……異常なメンツだな。殺し屋が3人もいるって」

暗殺者(アサシン)ですって。個性的で割と良いじゃないすか。ルー兄さんと愉快な仲間たち。悪くない」

「愉快かどうかは知らないけど、結構なメンバーじゃない? あなたをリーダーって呼んだ方が良い?」

「普通でいいよ」

「ねえルー」


つんつんとマキナがルーの背中をつつく。


「これからどうするの?」

「……ここまでで1番の有力情報だ。行かない手はない──」



「アタナシア王国に行く」



「よっしゃー!」とリベルが先陣を切る。


「面白くなってきた! 早速行っちゃいましょー!」

「なんでお前が張り切るんだよ。これは俺の問題だぞ」

「細かいことは良いじゃないっすか。俺は最後まで着いていきますよ」

「はいはい頼もしいよ」

「ルールー! 私は私は!?」


マキナの頭を撫でるルーに、サラが口添えをする。


「にしても、あなたが『魔才』だなんて私も驚いたわ。今さら理由なんて聞かないけど、『魔才』についてどれくらい知ってるの?」

「俺も詳しくは。俺が探してる人が言ってたのが、天性の魔法の才人。リベルのボスが言ってたのが、ここにいる暗殺者(アサシン)は殆どが『魔才』から力を与えてもらったって。力=魔法のことだと思うが……」

「それは……少しわかるわ。少し話をした暗殺者は、全員口を揃えて自分の生来の魔法じゃないって言ってた。ちなみに私の魔法は私物だけど」


リベルとサラの証言が合致した。『虚栄』本部にいた暗殺者たちの魔法は殆ど見れていないが、その中にルーの魔法もあったかもしれない。


(まあいいか)


ルーはこの際いいやと捨て置いた。


「じゃあルー兄さん! 今から行きます? ねえねえ?」

「今日はもういいだろ。明日からにしよう。お前も疲れてんだろ?」

「俺は全然ノープロブレムですよ! 寧ろ有り余ってます!」

「リベル様」


いつもと同じ冷静な口調のユマンの声がした。敬愛の感情はずっとリベルに向けられたままだが、別の感情は別の人物に向けられっぱなしだった。


「どしたーユマン?」

「私もすぐに出発しても構いません。しかし……そこにいるクソ女を1発殴る許可をください」


怒りは消えていなかったユマン。根に持つタイプのようだ。


「まだそれ〜? もういいじゃん。仲良くしろよ」

「いくらリベル様でも受理できません。この女がしたことは万死に値する愚業。私は……いつどこでというシチュエーションまで想像してたのに……」

「ふふふ。負け犬の遠吠えね。もしかして結構ロマンチスト? 行動が遅いのよ、こ・う・ど・う・が」

「よし殺す」


サラが煽ったせいで第2ラウンドが勃発しようとしたその時、ルーはふと気配を感じた。


(空……?)


上空を見上げる。太陽光のせいで目が半開きになるが、黒い点のような物が見えた。


その点が徐々に大きくなっていく。ルーは気づく。


(近づいてきてる!)


「みんな上だ! 何かでかいのが来る!」


全員がルーと同じ動作をする。皆のスイッチが切り替わった。


「何か空を飛び回ってる?」

「魔物かしら? 試竜(ワイバーン)、それとも雷鳥(サンダーバード)?」

「全部斬っちまえば終わりだ」


元暗殺者組は恐れも怯えもしていない。こういう状況では頼もしい限りだ。


上空を右往左往している黒い点は、ルーたちの(まなこ)にその姿を現し始める。


それは、全員が予想できなかった正体だった。


"誰もが知っていて、誰もが見たことない生物"。


「な、ななななななっ!!!」

「これは……」

「ははっ。マジ?」


人間の視界に収まりきらない巨体、そして"双翼"。


一度動かせば風が脈動を起こし、大地を揺らし、人を跪かせる。


紅赤色に輝く鱗は天上天下を超える美しさを持つ。


百獣の王すら慄く眼光。鋭く強靭な牙と爪。


最早伝説上の生物と世界で名が知られる一方、どこかでは、竜の都という幻の地で生息しているという言い伝えがある。


その生物の名は──



「"(ドラゴン)"……?」



ルーは呟く。姿の特徴は誰でも読める本の知識程度しかない。しかしこの6人の中でルーだけが、驚愕とは違う"何か"を心に抱いた。


(なんだ……俺は……"こいつを知ってる"? でもそんなことは……いつどこで会った? 何も……思い出せない……でも……何か引っかかる……)


「ようやく会えたぞ。ルーよ」


当然(ドラゴン)が喋り始めた。その名前にルーもそれ以外の人間も目を見開く。


「今……俺の名前を」

「ル、ルー! 知り合いなの!? て、ていうか、竜なんて本当に実在したの!?」

「あ、頭の情報理解が追いつきません……」

「これは現実……?」

「一体何がなんだか……」

「やべぇ、とんでも展開来たぞこれ」


竜は視線をルーに移す。たったそれだけの行為があり得ないほど迫力を放ち、ルーでさえ後ずさるほどだ。


「覚えていないか? 我のことを」

「俺は……お前に会ったことがあるのか?」

「ふむ。記憶にないようだな。"あの時の主"には、我の存在を(とど)めておける記憶の穴がなかったか。しかし仕方のないことだ」

「何の話だ?」

「いやいいんだ。今はな。そんなことより、言わねばならないことがある」



「シエンについて、知りたくないか?」



         ────



ルーたちの最終決戦が、火蓋を切ろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ