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King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
13/36



「ああ……リベル様。大丈夫だろうか……」

「やめっ──」


リベルの安否を心配しながら、結界に触れ何かをしようとしていた男の暗殺者(アサシン)の首を手刀で斬り裂く。


死体となった物を捨て置き、また走り出す。先ほどからこの繰り返しである。


怪しい人物がいれば事情を聞くまでもなく殺し回っている。リベルが出した計画に少しでも不穏が迫るようなら、ユマンは問答無用の破壊神となっていた。


「おいお前! いつも次虚殺(セカンドラング)のリベル様と一緒にいる女だろ? なんでこんなことする! ここから出してくれ!」

「無理です。リベル様とルー様の決着がつくまでご待機願いたい。それが嫌で結界を解こうとしたならば、私があの世の出口をお開けします。」

「くぅ……!」


こうして大人しく引き下がる者もいる。


「つまりテメェを殺せば解決ってことだろ!!」


しかしこのような短気な輩もいた。


40代前後の太った男。ユマンは朧げに記憶があった。確かナイフの扱いに()けていた暗殺者だった。


「哀れな──」


ナイフの刺突を放ってきた右腕を蹴りで砕く。悲鳴すら上げる間も与えず、魔法武装(マーシャルアーツ)達人の正拳が腹横をぶち抜いた。


「があぁ……」

「ああもう……汚い……!」


こんなことは放り捨てて、今すぐにでもリベルの元へ駆けつけたいユマン。だがリベル直々の(めい)を破るわけにはいかなかった。


(リベル様……どうかご無事で)


祈ることしかできない。


しかしなぜか、心配の気持ちは決して嘘偽りないはずなのに、ユマンはどうしてか──


リベルが敗北する展開が全く脳に(よぎ)らなかった。



         ────



曲刀は、リベルが有する唯一無二の魔法である。


リベルは、マッチ棒程度の火を生み出す魔法、コップ一杯分の水を生み出す魔法、静電気程度の電気を生み出す魔法。


これらの基礎中の基礎魔法を何1つ習得できなかった。原因は本人も不明。


リベルはこの魔法1つで、『虚栄』に入った瞬間からそのトップに降り立った人物。


その力が今──解放される。


地中から無限にも及ぶ斬撃が飛び出され、周囲全体の地表が断絶される。


「「「なっ!!」」」

「いひひひひひひひっ! あははははははははははっ!!」


天災が大地を破壊尽くすように、地割れを起こし足場を無くす。


斬撃が火山の噴火の如く勢いを見せ、蛇口が壊れた水道のように停止することを知らない。


雨霰(あめあられ)が反転している光景だった。


「なんだこれは!? こんな動きは知らないぞ!」

「斬撃が下から……! 避けるので精一杯だ! おいジェトラ!」

「わかってるよ! こんな広範囲にこんなでたらめ技を……っ! リベル! あいつはどこ行った!」


不安定な足場での回避をしながら、リベルの姿を探す。


リベルは斬撃の影に身を隠し、体のどこからか何かを取り出す。


慣れた手つきで安全装置(セーフティ)を解除し

──"引き金を引く"。


ドンッ!


「今のは!」


リークが音に気づくより早く──


「ぁああああああああっ!」


ゴグレの右眼が銃弾で撃たれた。


「ゴグレか。何があった!?」

「う、撃たれた! 右眼を……右眼を撃たれた!」

「拳銃……! あの曲刀だけじゃなかったのか」


ジェトラは必死でリベルを探す。嫌な汗が背中を伝う。忘れかけていた"焦り"が蘇ってくる。


「眼は魔法外の部位なんだ〜」


遂にリベルが姿を現した。常人を遥かに超える身体能力で凸凹道を駆ける先にいるのは、ゴグレだ。


「ゴグレ! 奴が来てるぞ!」

「ど、どこだ?」


ゴグレはリベルの姿を捉えられない。


リベルが、本来右眼で見えるはずの視界の角度に合わせて走っている。


片目の視覚が失われたゴグレを利用した。


「あの餓鬼っ!」


ドンドンドンッ!


リベルが拳銃で2人の動きを邪魔し、さらに止まらぬ斬撃の嵐と不安定な地表。


初めて"3人"は"1人"になった。


「おーらよっ!」


華麗な跳躍でゴグレのこめかみに回し蹴りを喰らわす。ここでやっとゴグレは姿を認知した。


「くっ……姑息な真似を!」

「思ったんだけどさ〜」


流れる動作でゴグレの攻撃を躱す。


「あんただけ場違いじゃね?」


腕の鱗の一部分を掴み引いて上腕へと乗っかり、そこから拳を3連撃お見舞いする。


顔は鱗が薄く攻撃が通りやすい。


「ただ体格がちょっと大きくなって防御力が上がるって魔法だろ? 面白くないんだよな〜」


怒涛のラッシュがゴグレの巨体に打ち込まれる。ゴグレは右眼の痛みでうまく反撃ができない。


「せめて体から炎とか雷が出れば、もう少しビジュアルに華が出ると思うんだけど、なっ!」


グシャッ!


拳の連打のどこかで、ゴグレの体から割れるような音が聞こえた。


「わ、我の銀灰金属(ウォルフラム)が……!」

「案外脆かったね」


その直後、リベルとゴグレの間から一閃の斬撃が、下から這い出てきた。


気を取られていたゴグレは、不幸にも右腕が斬り飛ばされてしまった。


「リ、リーク! ジェトラあああああああああああああああああ!!」

「1人じゃこの程度──」



「だから、死ぬんだよ」



捨てたはずの"曲刀"がリベルの手に握られる。笑みを絶やさない顔で、横一文字に斬る。



リベルの曲刀────断空剣(エッジ)は、"空間を分断する"。世界における空間に収まっている全を、曲刀で斬り、断絶する。


ルーと戦うまで、リベルは斬り合いをしたことがなかった。剣と剣がぶつかる衝撃も感じたことがない。


相手の剣がリベル曲刀に衝突する瞬間に、その剣がある空間諸共(もろとも)分断してしまうから。


どれだけ頑丈な壁だろうと、どんな矛すら貫けない無敵の盾だろうと、魔法で強化された不屈の肉体だろうと、リベルの曲刀の前では無も同然。


リベルは曲刀の能力を拡張し、空間を正確に斬り取ることもできるようにもなった。


自分がいる空間を直方体のように斬り取り、好きな空間に移動するなど、これ以外の魔法が使えない分、極める時間はたっぷりあった。


リベルに守りは通用しない。受ければ終わる、残忍無欠の凶器。


その刃は今──また1人の命を斬り裂いた。



「あーとふーたり♪」


リベルが曲刀を持った途端、ピタリと電池が切れたように嵐の斬撃が(おさま)った。


1人の死体を残して。


「ゴ、ゴグレが……」

「嘘……だろ……」


上半身と下半身が離れて生きているとするのなら、それは生者ではなく最早不死者(アンデッド)だろう。


リベルの力を知っている2人は痛感する。


逃避すら許されない現実を突きつけられる。


「どうするジェトラ? 最適解が無くなっちゃったけど、まだやる?」

「っ……リーク。ここは一旦!」

「このっ、この悪魔があああああああああああ!!」


自我を保つ糸が切れたのか、ジェトラの言葉が耳に入っていない。


「くたばれっ!」


魔法の両腕に溜めた衝撃波を容赦なく放出する。怒りで魔力の流れが早まったせいか、乱暴だがこれまでで一番の威力を誇っていた。


リベルは──呆れた。


「つまんな」



斬ッ!



「……え?」


衝撃波を斬った。正確には、衝撃波が飛び交う空間そのものを分断し、斬った。


その斬撃の余波は、リークの2本の右腕を巻き込んだ。


「あり……え」


曲刀がぶれることなく一直線に迫った。リークが生涯最後に見た物は、心臓に突き刺さった曲刀だった。


「別に衝撃波(それ)、斬れなくないんだ。なんかまだあるかな〜って待ってたんだけど……ほんじゃ、そろそろ終焉(エンディング)にする?」

「……」


ジェトラの顔色がすこぶる悪かった。仲間が一気に2人もやられたら、こうもなるだろう。


手がぶるぶると震えている。本人は気づいていない。涙の雫が一滴、瞼からこぼれ落ちたことも。


「どうして……こんなことをする?」

「え?」

「なんで死んでくれない!? さっさと死ねよ! 私はいつだって最適解を選んで来たんだ! それ以外は全部拒絶した! 全部だ! なんで私の思うようにいかない! 順調だったのに! お前のせいだこの悪魔が!」

「はいはい。罵倒終わり?」


リークの心臓に刺さった曲刀が、リベル手の中に戻っていた。


「あー相変わらずわかんね〜。なに、『虚栄』のトップに立ちたかったの? そんならこんな地位さっさとあげたのに。なんか不満あった? 暗殺者(アサシン)次虚殺(セカンドラング)じゃなくても金払い悪くなかったはずだけどな〜。欲張り?」

「うるさいうるさい!」


ジェトラは策も無しにリベルの元へ突っ込む。しかしその動きは愚行に他ならない。


「ぁああああ! このっ! クソがっ!」

「あーあーみっともない」


リベルに触れようとするが叶わない。ただ空の手を虚空に空振りさせるだけだった。


滑稽という言葉が似合う無様だ。


「俺が言うのもなんだけど、あんたみたいなの生かしとく価値ないわ」


虚しくも、思い通りに進んできた彼女の積み上げた物は──壊され、失い、拒絶されていく……







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