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King Road  作者: 坂田リン
前章:旅人と暗殺者
11/36

裏切り



リベルが本拠地へと帰る、数日前────


「俺、裏切ることにした」


とんでも発言の直後である。


「……冗談?」

「マジです」


純粋な瞳と笑顔が、ルーの理解を遮らせ、頭を抱えさせた。ちなみにクラルも疑問符が頭の上に浮かび、マキナは笑顔になっていた。


「リベル君私たちと一緒に来るの! ホントに!?」

「行きますよ~。ルー兄さんとは運命共同体になりました!」

「わーい! やったねルー!」

「いやいや待て待て。なぜ喜ぶ? 色々おかしいだろ」


喜ぶマキナを控えさせる。


「なんでその見解に至った?」

「面白そうだから」


単純すぎてルーは数秒放心した。


「……ホントにお前の思考が読めない」

「深く考えることないっすよ~。欲しがってたおもちゃが気が付いたら手に入ったって思えば。利益しかありませんよ?」

「怪しさ満点すぎて怖いんだよ」


急に殺されかけ、急に休戦し、急に話し合いになり、果てには所属してる組織を裏切るときた。


もうめちゃくちゃである。


「怪しさは否定しませんが、裏はないっすよ。剣と剣を交わえた仲だから、俺の気持ち少しはわかると思うんだけどな~?」

「あと拳な」

「あ、そうでした~。あはは!」


会話がリベルの方に持っていかれる。やはり怪しい、そして不気味だ。


(でも……悪い奴ではない……気がする)


マキナほどではないが、ルーも若干の心を許していた。


今まで殺し合いをしてきた相手と、こんなになるまで言葉を交わしたことがないことが影響してるかもしれない。


最早ここまで来て、リベルを"敵"と認識していいのか、ルーにはわからなくなっていた。


「組織を裏切るのに抵抗はないのか?」

「ないかな~。俺はボスに拾われたけど、寝る場所があって金も飯も楽に手に入るって言われたから、入っただけで。ルー兄さんの方が面白そう」

「面白いは関係ないだろ……はあ……」


ルーは、体を嬉しそうにゆらゆら揺らしているマキナを見た後、改めてリベルに向き直る。


「なんか策があんのか?」

「その言葉待ってました!」


リベルの気分が1段階上がった。


「ルー兄さんは、ウィルレウス(ボス)から『魔才』について聞きたいんですよね?」

「ああそうだ。お前が戻って直接聞けばいいんじゃないか?」

「うーん。あの時、魔才のことを話したのは偶然なんですよ。うっかりボスが口を滑らしたみたいな? だから簡単にはもう言わないっすね」

「そうか……」

「なので! 俺が考えた策は!」



「『虚栄』を壊滅させる」



大胆かつシンプル。だが予想外の言葉に、付いてこれてないクラルが口を出した。


「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり話が飛び過ぎじゃありませんか! か、壊滅って」

「落ち着いてクラルちゃん。要はつまり、"脅し"だ」

「具体的に説明してくれ」


了解! と元気に返事を返した。


「簡潔に言えば、ボスが一枚岩の組織をぶっ壊して、盾も矛も無くしたボスを問い詰めるって感じすかね」

「盾と矛ってのはどういう意味だ?」

「『虚栄』そのもの、具体的に言えば俺ら以外の暗殺者(アサシン)の連中です。暗殺者にも色々いましてね。住むとこがなくて仕方なく入った奴、殺人が趣味の変態野郎、ボスに忠誠を誓う者、など様々で。俺らがボスに強行突破しようとすれば、そいつらがボスの盾となり矛となるってわけです」

「なるほど……全員じゃなくてもかなりの数がいそうだな」


ですけど、とリベルが続ける。


「大半の暗殺者は無視してOKです。理由は戦力差。こういう仕事なんで、ある程度の実力は組織で叩き込まれるんですけど、俺みたいな奴はそういません」

「そりゃそうだ。いたら世界が何個あっても足りん」

「俺とルー兄さん、はたまた片方だけでも余裕でしょ。ボスがいる本拠地に殴り込んで、逃げる奴は逃す。刃向かう奴は殺す。簡単でしょ?」

「確かに。普通なら無鉄砲だが、俺とお前ならいけるかもな」

「ねえねえ、私は?」


マキナが手を上げ自身を指差す。


「お前はどっかで見物だな」

「なんで!? 私も役に立ちたい!」

「役に立ちたいって……子どもの喧嘩じゃねえんだぞ。死人は出るし自分にも危害が及ぶ。お前には危険過ぎる」

「そういうことはルーに付いてきてから覚悟してた! 私を他の子どもと一緒にしないで! ルーに恩返しができるチャンスなんだよ?」

「恩返しって……」


マキナの目は本気だ。"ルーだからこそわかる"。


「お前はそんなこと考えなくて良いんだよ」

「いや考える! 私はルーとずっと一緒にいるの! それに私なら、殺すじゃなくて動きを止めるだけもできる! この天才マキナの発明品で!」

「このっ……強情だなこいつ」


ルーがどうにかしようと思案していたら、リベルが突然拍手をし出した。


「いや〜素晴らしいねマキナちゃん。ルー兄さんへの想いが素晴らしい! 幸せっ者っすね〜」

「褒めてないでお前も止めろよ」

「でもあるかもしれませんよ〜? マキナちゃんっていう隠し武器(カード)がどこかで火を吹くかもしれないですし。まあそれに……ルー兄さんには別の役割がありますから」


「「え?」」


ルーとマキナの声が完璧に重なった。


「いやお前、さっき逃げる奴は逃す、刃向かう奴は殺すって……」

「あー言いましたね。うーんと、話す順番ミスったなー。ちょっと待ってください。整理します」


30秒ほど時間を置き、リベルが再度話し始める。


「大半は無視して良いと俺は言いました。でもそれに語弊があった。いるんですよ、"4人"ほど障害になる奴らが」

「誰だ?」

次虚殺(セカンドラング)です」


まだ単語の意味を理解していないルー、その他に説明する。


「暗殺者のエキスパート。まあ、結構強い部類に入る暗殺者ってことです。それはたった5人しかいなくて、『虚栄』の中核を担っていると言っていいです」

「あれ? リベル君さっき4人って言わなかった?」

「その1人が俺」

「あー……」


納得、とルーが声に出す。ユマンがこくこくと首を縦に振った。


「その内の3人を俺が相手します。この3人は『虚栄』に心酔してるらしいと思うんですよ」

「なんだらしいって?」

「感覚でそう感じるんです。ともかく、3人は必ずボスを守るために動こうとする。それを俺が喰い止めます」

「お前が強いって断言する奴を3人同時に? いけんのか?」

「俺ほどじゃないんで問題なし。でーも、後1人はルー兄さんにお任せしたく。そいつがサラって言って、俺と同じくらいの歳の銀髪の女の子なんすけど、そいつが持ってる魔法がね〜。厄介でして」

「どんな魔法だ?」


自身が知ってる限りの魔法の詳細をルーに話す。ルーはそれを親身に聴き終えた。


「なるほどな……確かに組み合わせたらやばそうだ。了解。俺が相手する」

「OKです。あとそうだな〜。ルー兄さん、結界張れます?」


なんでだ? とは聞き返さず、ルーは事実だけを述べる。


「張れる」

「なら、『虚栄』のアジト丸ごと囲う結界張れませんかね? 本拠地が人里離れた岩山地帯にあるけど、ボスが逃走手段や転移魔法装置を用意してないとも限らない。そこで、ルー兄さんには妨害工作を込めた魔法結界を張ってもらえたらなーって。俺はそんなことできないし、ユマンには流石に高等技術過ぎる」

「申し訳ありません……」


役に立てずしょんぼりするユマン。リベルの時だけ感情を顔に出す時がある。


「うーん……」

「ルーできないの?」

「できなかないが……"維持"が難しくなる。その、サラって奴と常時戦闘中に結界を張るってなったら、意識と魔力がそっちに持ってかれて結界の膜が薄くなる。そうなったら暗殺者(アサシン)の中に魔法が()ける奴がいればすぐに破壊されるぞ」

「それなら心配ご無用。最初に言った他の暗殺者を蹴散らす役目をユマンに任せます。結界を解こうとする者を見つけ次第、ユマンが討伐。これで万事解決です」

「……そんなんで良いのか?」

「保証しますよ。なあ、ユマン?」

「もちろんです」


声に弾みがあることに気づけたのは、全員だろうか?


「あそうだ! クラルちゃん」

「えあっ! ボボ、ボクは無理ですよ! 戦闘経験なんて皆無ですし! せっかく救われた命を無下にできません!」

「わかってるわかってる。クラルちゃんは治癒魔道具を生産してもらいたいなって。そんな時なんて来ないと思うけど、致命傷を負った時死ぬわけにはいかないからさ」


笑顔で頼み込むリベルだが、ルーがそこに口を出した。


「無理すんなよ」

「えっ?」

「また自分の力を悪用されるかもって思ってんだろ? 顔みりゃわかる。まあ、こいつ胡散臭いからな」

「ひどいな~。俺頭フル回転して考えてるのに」

「使い所は大事にしろ。自分の力なんだから」


ルーはクラルの内心を気づかった。マキナの時と同じように、彼は人間不信のくせして良心を心の底に宿している。


ルーの言葉じゃなかったら、クラルは違う言葉を言っていただろう。


「やります。ボクも役に立ちたいです!」

「ありがとな……」


クラルのとある顔を見て、「言葉のインパクトッ! クラルちゃんがっ……!」とぶつぶつと何やら唱えていた。


「罪な男だね~ルー兄さん」

「ん?」

「まあともかく、これで準備ばんた…………あああー!」


万端と言いかけたところで、リベルが突如大声を上げた。


「おまっ……急になんだ! うるせえぞ!」

「どうかなさいましたか、リベル様!」

「ごめんごめん。いやあのーほんとの本気で忘れてたことがあって……うわぁ……盲点だったなあ……」

「まだ何かあんのか?」

「それがですねえ……」


右手の人差し指で首の(うなじ)部分を指さした。


「ここに爆弾が埋め込まれてまして」

「「爆弾!?」」


少女2名がはもる。


「爆弾、兼発信機みたいなチップが埋め込まれていて。『虚栄』に入る時に強制で手術されたんですよねこれが」

「まあ普通に裏切り防止だろうな。ウィルレウスが発覚したらジ・エンドか?」

「そうっすね〜。爆弾は小型なんで広範囲じゃありませんが、間違いなく首がボンッてなります。あーあ、すっかり忘れてたな〜」

(むし)ろなんで1番に気づかない?」


はぁ、と男2人がため息をついた。しかしそこに救いを手が差し伸べられる。


「ハイハーイ! 私なんとかできるかも!」

「マキナ?」


マキナが(おもむろ)に立ち上がった。


「リベル君とユマンさんに埋め込まれてるのって、多分金属チップ的な大きさのやつ?」

「ユマン」

「ええ、おそらく」

「なら私がその機能を停止する機械装置を作る!」


腕を掲げて言い放つ。ルーはどこか納得したような顔付きになり、リベルは立ち上がりマキナの手を握った。


「マジすかマキナ博士!」

「博士?」

「もっちろん! 仕組みもまだわからないけど、このマキナ様に任せればできるはず! いやできる!!  その本拠地に向かうまでどのくらいかかる?」

「んーんと、3〜4日くらい?」

「それまでに必ず、絶対に間に合わせる! 約束する!」

「オッケーオッケー! 頼りにしてるぜ!」


両者の掌と掌を叩き合わせた。パァンと心地良い音が聞こえた。


「マキナの知識と技術は折り紙付きだ。そこは信頼して良い」

「わー! ルー最高! 好き!」


ルーに抱きつくマキナ。自分に役割が与えられよほど嬉しかったのか。


リベルを超えた満点の笑顔をしている。


「さあさあ、今度こそ準備万端だあ!」


いつの間にか、真夜中だった空に太陽が登り始めている。時間も忘れるほど話し込んでしまっていた。


月明かりより輝く陽光の明かりは、リベルの言葉を現実にする導きのようだった。



「謎解き冒険譚──開幕!」



         ────



場所、時間は変わり──


「なんだかんだ行けるもんだな」


ルーは岩山の地下にいた。もう使われていない、暗殺者の旧訓練場跡地。


先刻、リベルの合図で巨大な岩石の塊を魔法で破壊し、騒ぎに紛れて『虚栄』本拠地へと難なく侵入。


途中でユマンと別れ、作ったこともなかった超巨大結界をならぬ、超巨大天蓋(てんがい)を張ることに成功。


魔才であるルーも維持はできるが、強度を通常の結界同様にすることはできず、突けばドミノのように倒れてしまう結界だった。


しかしそこはユマンに任せると決めた。


クラルは安全な場所にいるので問題なし。


そして──


「想定の範囲内だよ」


マキナがいた。ルーの相棒として隣にいる。決意の固まった表情のマキナの頭を撫で、緊張を解いてやる。


「大丈夫だ。ぜってえ俺が守る」

「ルー……」

「羨ましいわね」


大人びた声が聞こえた。当然、ルーとマキナはその存在を認知している。


銀髪という以外容姿の特徴を聞いていなかったのもあるが、姿を見た時には2人とも驚いた。


マキナに限っては「かわいい……」と口を滑らせていた。


「リベルはいないの?」



凍世(とうせ)』のサラが目の前にいた。



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