Happy Birth Day
この話を読む前に、僕が出した短編の"Loster&Little Girl"を読むことを薦めます。そうすれば、より一層物語を楽しめます。
「ルー。少し下に来れるかい?」
「はい。わかりました」
シエンの呼びかけでルーは魔法の鍛錬を一時中断し、1階へと繋がる階段をゆっくり降りて行く。
もう空は真っ暗。降りていきながら、シエンが作った料理のことをルーは思い出す。
シエンが作る料理はいつも絶品だった。朝食、昼食、夕食、全てをシエンが作ってくれる。
前にルーはシエンと一緒に町のレストランに出向いたことがあったが、どれもシエンが作る料理には劣る。
(そういえば、今日は一段と豪華だったな。何かの記念日だったっけ?)
そんなことを考えていると、あっという間に1階へと辿り着く。
「シエンさん。来ました──」
ぱちっと、1階の電気が消えてしまった。急な視界の様変わりに眼が慣れず、暗闇にあたふたした。
「シエンさん! 何も見えないよ!」
「ふふふ。大丈夫だよ。ゆっくり前に歩いてきてごらん」
シエンの言葉を信じ、少しずつ足を前に進めてみる。ゆっくりゆっくり。すると一筋の光が見えた。
よく見るとロウソクの光だった。それも一つだけではない。
規則正しいテンポでロウソクの火が灯される。とても綺麗で美しい光景だった。
火が顔の数メートル前まで来ると、はっきりわかった。
ルーが見えていたロウソクは、ホール型のケーキに刺さっていた。いちごがたっぷり乗った実に美味しそうなケーキである。
「これは……」
「ルー」
シエンの声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、パンッ! と何かが破裂したような音が部屋中に鳴り響く。
「わっ! えっ」
「誕生日、おめでとう」
幾つものロウソクの光ではっきり見える恩人の顔。安らぐような大好きな笑顔を向けているシエンがいた。
「た、誕生日? えっ……いやこれは……」
「ははは。理解が追いついていないかい? 不思議じゃないだろ? 前にレストランで店員が家族連れの客に大きなケーキを出していただろ? あれはその娘さんが誕生日だったからさ。誕生日には立派なケーキ。鉄板だろ?」
「いやだから、俺自分の誕生日なんてわからなくて……」
「ルー。今日は私とルーが初めて会った日だよ。覚えているかい?」
はっとなってルーは今日の日付を思い出す。確かに今日はルーとシエンが会った日であることを自覚した。
シエンにとっては出会の日かも知らないが、ルーにとっては違う意味合いを持つ。
救われた日、希望をくれた日、愛情をくれた日、美味しいご飯を食べた日。言葉で表すには多すぎるほど余りあった。
「それって……誕生日なの?」
「ルー。細かいことを考えてはいけないよ。確かに殆どの人は自分が生まれた日、お母さんのお腹から生まれてきた日を誕生日とするだろう。それが一般的だからね。でもね、私はどうでもいいと思っているよ。毎年1回必ず訪れる誕生日で大事なことは、"祝う"ことだ」
「祝う?」
「簡単さ。いつもより豪華な食事をして、最後には大きなケーキをみんなで食べる。たったそれだけ。それだけで幸福になれるからね」
「あ、だから今日の夕食はいつもより豪華だったの?」
「ルーが望むなら、今日みたいなのを毎日作るよ。そしてまた今日が来たら、もっとすごい料理を作るさ」
シエンは幸せそうな笑顔で言った。流石にそれは大変だと思い、ルーはいいよと言った。
「もしかして、これもシエンさんが作ったの?」
「もちろん。私はこういう時張り切る人だからね。いちごは好きだったろ?」
「うん、大好き! やっぱシエンさんはすごいです!」
「喜んでもらえて何よりだ。さあルー。火を消して」
ルーはケーキに顔を近づける。今この瞬間、ルーはこの世の誰よりも幸福だと自信を持って言えることができた。
空気を目一杯吸う。ちゃんとひと吹きで消せるように。勢いよく息を吐いた。
ロウソクの火は掻き消され、暗闇に戻った時「誕生日おめでとう」とシエンがまた言った。
いつかこの人に恩返しをしよう。ルーはそう思った。
どうも坂田リンです。長編2作品目です。といっても、そこまで長くしないつもりです。前書きでも言いましたが、この話を見る前、見た後でも、僕が短編として出した"Loster&Little Girl"を見ることを強くおすすめします。話が繋がっているので。後もうひと短編の"Assassin"もおすすめです。まあこれはどっちでもいいです。僕がこの小説で言いたいことはただ1つです。それは──最後に言います。