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犬とうんことレッドブル

 晴れの日だった。加えて、土曜日。親は家におらず、念のため確認した天気予報もすこぶる快晴。午後はバイトの面接があるが、それまでの予定はぽっかりと空白。暇を極めていた。ということで俺は一時間前、帽子と財布を携えてうきうきと散歩に繰り出した。空は青く澄み渡り、海を目指して歩きたくなるのどやかな休日。

 ため息。

 そして臭気。

 俺の心は曇り切っていた。

 公園のベンチに腰を下ろした状態だ。もう少し詳しく言うなら、左足をピクリとも動かせない状態である。さらに詳しく言うならば。

 左足にうんこを乗せた状態だった。

 終わりだ。

 端的に言って、この世の終わり。

 灰になりたい。このまま現世終了のゴングが鳴ったなら俺は速やかに成仏してやるぞ。

 コンビニにぐんぐんグルトを買いに行った後のことだった。

 ぐんぐんグルトとココアシガレットで一服しようかねと考え、俺はコンビニからほど近い公園へと足を延ばした。

 そこで、昔の友人とばったり会った。俺のぐんぐんグルトを一瞥し、そいつは手に持っていたレッドブルを胸の前に掲げた。負けたと思った。

 そいつは犬を連れていた。人懐っこい小さな柴犬で、まだ一歳にもならないらしい。胸を撃ち抜いてくるレベルの可愛さだったので、思い出話をぽつぽつと語りながら、主に子犬を撫でまわしていた。うりうりわしゃわしゃ、こっちを向いたりあっちを向いたり、うつぶせになったり仰向けになったり。

 おお~かぁいらしな~~おほほほ。

 いつの間にか俺の左足に、子犬の体から出たとは思えない巨大な糞が湯気を立てていた。

 お互いに絶句した。

 子犬が出していい量ではなかった。

 罪悪感があるのか、子犬は以前よりおとなしくなった。今にしてみると、糞を出す前後でちょっと瘦せていたように思う。

 驚きに目を見張ったままの俺たちはしばし無言だったが、やがて友人は申し訳なさそうに、飲みかけのレッドブルを俺の横において帰っていった。

 そして公園には、俺とうんことレッドブルだけが残された―――

 詰んだ。

 これが人生?

 かわいいかわいい柴犬に巨大な糞をされる、これが俺の人生?

 誰かツッコんでくれ。

 『いや左足にうんこ乗ってるやないかー!!』と言ってくれ。

 誰でもいいから。

 友人。

 たぶん一部始終を見ていた警備員のおっさん。

 なぜかこっちへ来ようとしない、遠くで遊んでるガキ。

 今通りすがったおばさん。あんた今絶対こっち見ただろ。

 近くのベンチに座ってる老夫婦。おい今目が合ったろ。やめろ、目をそらすな。二人で示し合わせたように首を振るな。やめろ。

 陣内。

 助けてくれ陣内。

 午後からバイトの面接なんだ。この靴を履いていくんだ。

 俺には見える。『……靴に乗ってる、茶色のお友達は何でしょうか?』と面接官に苦笑いされる未来が見える。流石に耐えがたい。成仏したい。

 絶対にそんな結末は避けなければならない。

 やはりこれしか……。

 俺は心を決めた。自分の中に闘争心が燃え上がるのを感じる。

 俺は、赤い牡牛になるのだ。

 俺は立ち上がった。自分の横に置かれた缶を取る。左足に茶色のエンブレムを乗せたまま、堂々と歩いていく。もはや怖いものなどなかった。

 面接官に左足のうんこを指摘される、最悪のバッドエンド。

 それを回避するために残された道は、ただ一つ。

 簡単なことだった。

 もう俺には、レッドブルしか残されていないのだ。

 俺の左足のブツに気づいた者、全員の顔面にレッドブルを注ぐ道しか。

あれ、二作品連続うんこネタ…?

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