出会い 2
すべての動きを予測していたかのように、理真は巨漢の攻撃をひらりとかわす。
次の瞬間。
巨漢の瞳には右脚を高く振り上げている理真の姿が映った。
ーーはずが、気づけば地面を眺めていた。
後頭部に鈍い痛みがある。
声すらあげる暇もなく、自分が倒されたのだと巨漢は悟った。
「ふっ……ぐっ……」
低い声を出し、巨漢はよろよろと立ち上がった。
体勢を立て直し、深い呼吸をした後、理真を見据える。
理真は左足を半歩前へ出し斜めに構えた。
が、その行動は無駄に終わった。
巨漢が、猫のように踵を返し逃げていったのだ。
その逃げ足の素早いこと。
呆気に取られた理真が声をあげる暇もないほどだった。
「え………………?」
拍子抜けではあったが問題は無い。
こんな所でわざわざ素人を相手にしなくて済んだ。そう気を取り直した理真は、未だM字開脚のまま地面に座り込んでいる少女ーー井筒に歩み寄り、声をかける。
「キミ、大丈夫? 立てる? 家はこの近くなのかな?」
言いながら中腰になり右手を差し出す。
理真の学校の先程の先輩達が見たら悲鳴を上げて卒倒しそうな構図である。
が。
「てめぇ ふざけんな」
乱暴なセリフと同時に差し出した右手が弾かれた。
「………………え?」
「『え?』じゃねーよ、このクソ女。 人の獲物を横取りした上、あっさり取り逃してんじゃねーよ」
「………………え? え?」
理真は弾かれた右手と、目の前の少女の顔を何度も見返した。
暴漢に襲われたショックで気が動転して混乱しているのだろうか。
あるいは夕闇に紛れて降臨したアクマに乗り移られたのだろうか。
様々な憶測が脳裏を過ぎる。
「あ、あの、だ、大丈夫だよ。安心して。 私はキミのーー」
「全然大丈夫じゃねーよ!!!!」
グッと左手で顎の汗を拭い井筒が立ち上がる。
(え、うわっ ちっさ)
うっかり声が漏れてしまいそうになるほど、井筒は小さく華奢だった。
「責任取れ。 コノヤロー!」
そんな小さな少女ーー井筒が意味不明なセリフと共に地団駄踏んでいるのだ。理真には幼稚園に通う姪がいる。
理不尽な会話には慣れていた。
「うん。 分かった。 安心して。ちゃんと家まで送って行くよ」
「はぁ? 何が分かっただ。 何も分かってないってか、とんちんかんな事言ってんじゃねーぞ」
「あ、そうか。 キミ、お腹空いてるのかな?」
「ブッとばすぞお前!! ってか、さっきのデカブツの代わりにオレと勝負しろ」
「え?………………は?」
理真は眉間に皺を寄せ、目の前の井筒井筒を見た。
まじまじと。
真剣に。
不躾な程全身を。