女だらけの水中女子格闘技
はじめに
【スイマーの起源】
水中女子格闘技として、現在世界中に競技人口をもつスイマーですが、実は最初からスポーツとして考案されたものではありませんでした。
旧アメリカ軍が深海内で行っていた水中軍事訓練が発祥の基となっており、この頃は名称も『ダイバーズ・ファイト』と呼ばれていました。
当時は明確なルールが一切なく、兵士のための訓練技術向上の戦闘用格闘技でした。もちろん世間的認知度は全くありません。
転機となったのは1895年。西ドイツの柔道選手だったアグネスとビアンカがこの訓練を練習メニューに取り入れた事がきっかけとなり、ダイバーズ・ファイトは一躍世間にその名を知られるようになりました。
この両選手、柔道選手ではありましたがモデルとしても活躍していた事から美容と健康に非常に効果があるという噂が広まった事が大きな要因だと言われています。
※この競技は水中で効率よく有酸素運動が行われるため、脂肪燃焼効果の高さは科学的に実証済みです
世界中でダイバーズ・ファイトのブームが巻き起こり、競技施設が数多く建設されましたが、基本アングラな格闘技であったため、怪我や事故等の報告が相次ぎ、大きな社会問題にまで発展していきました。
この状況を改善するため、ダイバーズ・ファイトには詳細なルールと規定が設けられる事となり、名称も現在呼ばれている『スイマー』へと変更されました。
こうしてスイマーは多くの競技者に愛される正式なスポーツへと変貌を遂げたのです。
(財)日本スイマー協会発行
『競技規則教本』より抜粋
第一話 風とセーラー服
二月の夕暮れだった
町外れの児童公園からはとうに人気が消えていた。
取り残されている動物型の遊具が、灯り始めた街灯の光に照らされ泣き出しそうな顔をしている。
彼らの視線の先に一組の男女がいる。
向かい合っているが、恋人同士の雰囲気は無い。
むしろ二人の間には、今にもはじき出されそうな闘気のオーラが膨れあがっている。
男は、この界隈では少しは知られているストリートファイターだ。
大学を中退するまでは空手部だった───という経歴が示す通りの巨漢だが、長年の怠惰によって全身の肉はぶよぶよとダブついている。
しかし。
ストリートファイトでは逆にそれが武器となっていた。
あらゆる打撃系の技は、その肉壁によって無効化される。
相手の消耗を見計らって力で押し切る。
戦闘スタイルは単純極まりないが、この戦略で男の戦績はほぼ無敗。
ほぼ、というのはこの男が賢いからだ。
この男は決して自分よりも強そうなものとは対戦しない。
挑まれてものらりくらりと逃げの一手を打つ。
相手にするのは明らかに自分より格下と見て取れる者のみ。
そういう相手を一方的に嬲り、痛めつけるのがこの男の趣味だった。
例えばそう。
今、目の前にいる少女はまさにそれ。
この男にとって格好の獲物である。
男は卑猥に目を細め、少女の全身を遠慮なく、視姦するように眺め回した。
薄茶色のショートヘア、大きな瞳、キュッと結ばれた意志の強そうな唇。
一目で都立北高校の制服だと分かる真っ白いセーラー服。これを着ていなければ小中学生にしか見えないほど華奢な四肢。
おおよそストリートファイトとは無縁と思われるほど可憐極まりない少女。
───が、自分からストリートファイトの対戦を申し込んできたのだ。
男は最初、冗談か悪ふざけだと思い無下に断ろうとして、しかし一瞬でその考えを翻した。
人気のない公園での対決を提案すると、少女はいとも簡単にそれを承諾した。
何か企みがあるのか、あるいは頭が弱いのか。
どちらの考えも薄く脳裏を過ぎったが、構わなかった。
「ぶフフフフフ」
男は低く下品な笑い声を漏らした。
下あごの肉が波のようにぶよぶよと揺れる。
それを左手で撫で付けると、緩んだ口許から触手のように長い舌がだらしなくはみ出した。
舌はそれ自体が別の意志を持った生き物のように動き、淫靡な音をたてながら自分の唇を舐め回す。
少女は黙ってそれを見ていた。
男の下劣な顔の動きに臆している様子は微塵もない。
「おい、もういいのか」
少女が言った。
声色自体は鈴の音のように軽やかだが、口調は乱暴である。
少女は男の返事を待たず、手にしていた学生鞄を放り投げた。
視線の先に男を捉えたまま、両足を肩幅に開き、左足と握った左拳を斜めに突き出して構える。
その姿に、男はさらにニンマリと笑う。
熱心ではなかったとはいえ、元空手部だ。
構えを見れば、相手の力量はおおよそ測れる。
この眼力のおかげで、男の戦績はほぼ無敗、なのだ。
少女の構えはどう見ても自己流。
ド素人そのもの。
普段なら、男の戦法は相手が動くのを待ち、先に打たせる。
相手の攻撃が自分の肉体の壁に阻まれ、対戦者の表情が恐怖と絶望に染まったのを見届けて動く。が、今回は待ちきれないようだった。
逸る心そのままに、男は巨体を前進させる。
瞬間、風が吹いた。
それが合図だった。
「はあっ!」
掛け声と共に、少女の身体が宙を舞っていた。
細くしなやかな体躯が空中で半回転し、男の頭上にローファーの踵が叩き落とされ───
「ぎゃうっっっ!!」
悲鳴は少女のものだった。
男は、かろうじて残っていた反射神経で左手を振り上げると、斧で薪を斜めに切るような動作で、少女の攻撃を払い除けたのだ。
丸太のような腕に弾かれ、少女はいとも簡単にゴムまりのように弾き飛んだ。
少女の身体は地面を三回転し、ロバの遊具にぶち当たって停止した。
M字に大きく開いてしまった両足を覆うには、セーラー服は短かった。
「グッフフフフフ」
露になった少女の太ももと下着を眺め、男は一層下品に笑う。
唇からはボロリと長い舌が溢れた。