しまっておこう
いろいろなものが詰め込まれた、しばらく開けられていない箱の中。
そのすみっこに、ふたつのぬいぐるみがありました。
茶色いウサギのぬいぐるみが呼びかけました。
「ねえ、チャック」
目がボタン、口がチャックで出来ている男の子のぬいぐるみが答えました。
「なんだい、ジミー」
実は、おもちゃたちは話をしたり、ちょっと動いたりすることができます。
でも、それは誰も見ていないときだけ。なので、知られることはないのです。
「ずいぶん長いあいだ、エマと会ってないね」
「そうだね」
エマは、このぬいぐるみたちたちの持ち主の女の子です。
もともと、ジミーとチャックはエマの部屋のタンスの上に座っていました。
夜はベッドですやすや眠るエマを、こっそり見守っていたものです。
でも、いまは暗い箱の中。
「どうして、エマは、ぼくらを箱にしまっちゃったのかな」
そういうとジミーは、ガラスの目を心なしかうるうるさせました。
「それはね、ジミー」
「え? なにか知ってるの? チャック」
しゃべりにくいのか自分の手で口のチャックを引っ張ります。
大口を開いてチャックがいいました。
「エマが大人になったからだよ」
「おとなになったって、エマはエマじゃないの?」
「エマはエマのままだけど、だんだん大きくなって成長していくんだ」
「ぼくらはずっと変わらないのに?」
「ちょっと説明が難しいな。どういえばいいんだろう」
チャックは丸いあごに手を当てて考えます。
「あのね、ジミー。僕はもともとエマのママのぬいぐるみだったんだよ」
「エマのママの?」
「そう、エマのママがまだ子供だった頃、ママのママ、エマのおばあちゃんが作ってくれたんだ。僕の口は秘密の小物入れになってるだろう? これはおばあちゃんのアイディアなんだよ」
「そうだったんだ。しらなかった」
「でも、ママは大きくなって僕がいらなくなったから、エマにあげたんだよ」
「じゃあ、ぼくらはいらなくなるの? エマが大きくなっておとなになると」
「いいや。本当にいらないなら、きっとゴミとして捨てられるだろうから」
「じゃあ、どうして、ぼくらを捨てないで箱の中にしまっちゃったんだろう」
「うーん。まだ、とっておきたいからじゃないかな」
「じゃあ、そのうち、いらなくなっちゃうかもしれないね」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
「じゃあ、もしも、エマがおとなにならなきゃ、ずっと一緒にいられるのかな」
しょんぼりとなったジミーに、チャックは聞きました。
「そういえば、ジミーはデパートのおもちゃ売り場でエマと出会ったんだったね」
「うん。いっぱいいる同じようなウサギたちのなかから、エマがぼくをえらんでくれたんだよ」
ジミーはちょっと誇らしげです。
「そして、この家に来て、エマに名前を付けてもらってジミーになった」
「うん」
「ところで、デパートの棚に並んでたときのこと、なにかおぼえてるかい?」
「おぼえてるけど、なんにもないよ。だって、ぼくもみんなも、おとなしくしてたから。みんな名前がないから、お互いになんて呼べばいいのかわからないし」
「ジミーと呼ばれる前とそのあとじゃ全然違うだろう?」
「うん。そうだね。エマと出会えて本当によかった」
「そう思えるようになったのも、君がエマと出会って変わったからさ、ジミー。姿かたちは変わらないけど、君だって成長してるんだよ」
「じゃあ、おとなになったエマも、いつかそんな風に思うことがあるのかな。ぼくらと出会えてよかったって」
「ふとしたときにね」
「でも、チャック」
「なんだい、ジミー」
「やっぱり、エマに会えなくて、ぼくはさびしいよ。チャックはどう?」
「そういうことは、心にしまっておくものさ」
それだけいうと、チャックは口のチャックを閉じました。




