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しまっておこう

掲載日:2023/01/09

いろいろなものが詰め込まれた、しばらく開けられていない箱の中。

そのすみっこに、ふたつのぬいぐるみがありました。


茶色いウサギのぬいぐるみが呼びかけました。


「ねえ、チャック」


目がボタン、口がチャックで出来ている男の子のぬいぐるみが答えました。


「なんだい、ジミー」


実は、おもちゃたちは話をしたり、ちょっと動いたりすることができます。

でも、それは誰も見ていないときだけ。なので、知られることはないのです。


「ずいぶん長いあいだ、エマと会ってないね」


「そうだね」


エマは、このぬいぐるみたちたちの持ち主の女の子です。

もともと、ジミーとチャックはエマの部屋のタンスの上に座っていました。

夜はベッドですやすや眠るエマを、こっそり見守っていたものです。


でも、いまは暗い箱の中。


「どうして、エマは、ぼくらを箱にしまっちゃったのかな」


そういうとジミーは、ガラスの目を心なしかうるうるさせました。


「それはね、ジミー」


「え? なにか知ってるの? チャック」


しゃべりにくいのか自分の手で口のチャックを引っ張ります。

大口を開いてチャックがいいました。


「エマが大人になったからだよ」


「おとなになったって、エマはエマじゃないの?」


「エマはエマのままだけど、だんだん大きくなって成長していくんだ」


「ぼくらはずっと変わらないのに?」


「ちょっと説明が難しいな。どういえばいいんだろう」


チャックは丸いあごに手を当てて考えます。


「あのね、ジミー。僕はもともとエマのママのぬいぐるみだったんだよ」


「エマのママの?」


「そう、エマのママがまだ子供だった頃、ママのママ、エマのおばあちゃんが作ってくれたんだ。僕の口は秘密の小物入れになってるだろう? これはおばあちゃんのアイディアなんだよ」


「そうだったんだ。しらなかった」


「でも、ママは大きくなって僕がいらなくなったから、エマにあげたんだよ」


「じゃあ、ぼくらはいらなくなるの? エマが大きくなっておとなになると」


「いいや。本当にいらないなら、きっとゴミとして捨てられるだろうから」


「じゃあ、どうして、ぼくらを捨てないで箱の中にしまっちゃったんだろう」


「うーん。まだ、とっておきたいからじゃないかな」


「じゃあ、そのうち、いらなくなっちゃうかもしれないね」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」


「じゃあ、もしも、エマがおとなにならなきゃ、ずっと一緒にいられるのかな」


しょんぼりとなったジミーに、チャックは聞きました。


「そういえば、ジミーはデパートのおもちゃ売り場でエマと出会ったんだったね」


「うん。いっぱいいる同じようなウサギたちのなかから、エマがぼくをえらんでくれたんだよ」


ジミーはちょっと誇らしげです。


「そして、この家に来て、エマに名前を付けてもらってジミーになった」


「うん」


「ところで、デパートの棚に並んでたときのこと、なにかおぼえてるかい?」


「おぼえてるけど、なんにもないよ。だって、ぼくもみんなも、おとなしくしてたから。みんな名前がないから、お互いになんて呼べばいいのかわからないし」


「ジミーと呼ばれる前とそのあとじゃ全然違うだろう?」


「うん。そうだね。エマと出会えて本当によかった」


「そう思えるようになったのも、君がエマと出会って変わったからさ、ジミー。姿かたちは変わらないけど、君だって成長してるんだよ」


「じゃあ、おとなになったエマも、いつかそんな風に思うことがあるのかな。ぼくらと出会えてよかったって」


「ふとしたときにね」



「でも、チャック」


「なんだい、ジミー」


「やっぱり、エマに会えなくて、ぼくはさびしいよ。チャックはどう?」



「そういうことは、心にしまっておくものさ」


それだけいうと、チャックは口のチャックを閉じました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつかエマさんが母親になった時に、次の世代にひき津田れるのかもしれませんね。
[一言] エマがまた箱を開けますように!
2023/01/09 20:42 退会済み
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