バンドマン風兄弟とお茶会のお開き
ようやく、終わりです。
楽しかったハロウィンが終わってしまいます。
心にいつも、ハロウィンを!
どうやら極限の魔女ゲロニカは数十年前まで大人気の薔薇香水作家だったようだ。その透明感溢れる可憐な姿から薔薇姫様とよばれ、愛されていたらしい。が、突然姿をくらませ、香水業界からも居なくなった。おそらく病の治療をしていたのだろう。ゲロニカの調香レシピは有名で、今でも男性女性問わず人気である。ネロとアイラもゲロニカの熱狂的なファンで、実を言うと今もゲロニカ作の香りを纏っていた。カミラはそっと薔薇を仕舞うと、梅鳴と何かを話していた。
「薔薇咲き病なんだけど、わかった事があるわ。」
「アイヤー、何カナ?」
「またまとまってから手紙にして送るわね。」
「了解ネ」
(にしても、外はだいぶ騒がしかったが、よく平気だったな?お主ら)
(いや、それが伝ってきたツタを下ってったんだけどよ、)
(周りには不思議と誰もいなかったよ。
そこの、楓以外は)
(幸運、なんだろうなきっと。)
((そうかも))
(皆さんの白い姿は大変良かったので、本日のお茶会が終わって眠るまでは、白の術をとかないでおきますね。)
(((((ヤッター)))))
楓も嬉しそうに跳ねる。
なんだかんだで、小腹がすいてきた面々。たまにというか、割と来客はあるが、そろそろお茶会会場に戻ろうと言う話になった。おそらく、あと少しでこの回も終わる。実りの多い時間となり、全員が満足した。
「戻るわよ〜」
「あ!待って待って、ここは空間の魔女アイラ様に任せなさい〜★ひょひょいっとな!」
「「「え?」」」
ぽわわーんっ!
「「「ッハ?!」」」
「瞬間移動みたいでしょ?ワープの魔法ー!」
「イヤ、わかるけどこの人数は普通無理では」
「魔力量だけは自信あるの!朝飯前よ」
「スゴイネ!!!」
「尊敬しますぅ〜!!!」
「ありがとう、アイラちゃん」
あんなに上がるのに時間がかかったにも関わらず、瞬く間にお茶会会場に戻っていた。ある意味アイラは反則的に強かった。便利である。
各々が解散して自分の席に戻ったあたりで、やはり他の魔女や使い魔が戻りつつあった。たまにボロボロな魔女もいる。戦闘狂に間違いない。
先程マッチングしていたバクの左門と魔女のアルカナも仲良く一緒にいる。アルカナの肌が心無しツヤツヤしている。一眠りしたのだろうか。クマがすごいのは変わらないが、顔が明るかった。机の上にはお菓子の積まれたお皿が並び、紅茶も何種類かの中から選べるようになっていた。
「「カミラ!ドーナツがある!!」」
「どうしたの?2人とも。目の色を変えて」
「「ドーナツは村でよく食べてたんだ!」」
「え?」
「「今でもずっと、好物なんだ」」
とニコニコしながら、キースとヒースはドーナツを手に取る。穴の空いた種類の違うドーナツ3つを積み上げてお皿に取る。そんなに?という量である。
「「美味しそう!いただきまーす!」」
「あらまぁ、うふふ。食欲旺盛ね」
ドーナツに首ったけな2人を見守るカミラはふと、視線を感じる。
「?」
そちらを見ると気のせいだったのか、誰もいなかった。
「やぁ、君たち。可愛いね?双子かな」
目線を戻すと、チャラい男もといチャラい魔女がキースとヒースに声をかけていた。
((もぐもぐもぐもぐ…))
2人は丁度ドーナツを口いっぱいにほうばっており、咀嚼に夢中で答えられる状況になかった。しかも、両手にドーナツを持ち、まだ食べるつもりで全く会話する気が無い。
(ちょっと、2人とも失礼だわぁ〜!でも、確かに可愛い〜。白い双子が両手にドーナツ)
「ハハ、本当よく食べる…見ていて気持ちがいいくらいだ。そばに置いておきたい位に」
(ぬ!こいつ、キケンなやつかしら?というか、使い魔はいないようね。んー。さっきの視線が気になるわ)
カミラは2人の使い魔にナンパするチャラ魔女をどうするか、悩んだ。声がけだけなら、ドーナツ完食のタイミングで2人は断れるし、変な魔術の気配もない。カミラが見ている間はいくつかの魔法をランダムで常時起動させているのでそれに気付けないアホでもない限りは安全だ。
そして、2人に魔女の友達が出来るなら邪魔はしたくない。今夜はそう言う夜なのだ。狭い人間関係もとい、魔女関係を広げるにはまたとない機会だった。が、友達候補とするには少し見た目が引っかかった。
紫のウルフ髪に金の瞳、長いまつ毛に青白い肌。そして痩身に纏っているのはダメージ加工された黒い長袖と普通の半袖を重ね着し、黒革のズボンをピタッと来ていた。そこにゆるいローブを着ているが、装飾品が多くて歩くとチャラチャラ音がしていた。一言で言うなら、パンキッシュな男だった。良い悪いは置いておいて、ファッションの主張が強い。こだわりを感じる。
(どういう方なのかしら?)
「もしもーし、僕は夜城の魔女ロキ。君たちに主人はいるのかな?」
((もきゅもきゅもきゅ…))
脇目もふらずにまた新しいドーナツをほうばり、咀嚼に夢中である。
「ん?このドーナツ…」
「え?」
「え?」
(しまった〜)
ロキと名乗るパンキッシュ男の不穏な一言に釣られて名乗りを上げたも同然のカミラ。ロキとしっかり目線が合い、小首をかしげる彼と数秒見つめ合うハメになった。ロキはしばしキョトンとした後、満面の笑顔になりこう答えた。
「この可愛い双子のご主人は貴方か。主人まで可愛いとは。ところでこのドーナツだけど、お酒入ってるよね?そこの双子、酔っ払ってない?」
「え!いや、酔い止めを付けてるけれど」
「そうか。なら、強めのマジカルハイかな」
「あ。」
そうなのである。魔女も使い魔も生きるのに魔法エネルギーを必要としている。今夜のお茶会で提供されたものはどれも魔法エネルギー満点。年齢が若い者や体格が小さい者が必要以上に摂取すれば多すぎる魔法に酔ってしまう。パルムがリロから白の術をかけられてなっていた、あのマジカルハイである。
2人の様子を振り返るに年齢の割にお菓子や肉を沢山食べていた。体格が十分あるため、大人として扱っていたが彼らはまだ15である。
「しまったわ。そう、魔吸草はここにあるけれど。2人が食べるには今お口が一杯ね」
「少し目を離した隙に、またドーナツをおかわりしてるし。まだかかるんじゃない?」
「えぇ。でも、よく気づかれましたね?」
「弟がいるんだ。その弟の使い魔が牙狼族なんだけど、狼系の強靭な肉体は代謝が良いのか口から魔法を摂取するとマジカルハイになりやすくてしょっちゅう面倒見てたんだ。」
(普通に面倒見のいいお兄さんだったー…)
「そうだったんですね。ありがとうございます。」
「どうもー、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃジャーン!弟のブラギです。兄が失礼。チャラくてね〜もうほんと!」
(どっちも北欧神の名前ー!強そうだわ。)
「いえ、そんな…」
「こちら僕の相棒もご覧の通り見事にマジカルハイです!」
「ハ?」
牙狼族と思われる狼がその場で楽しそうにクルクル回っていた。
(ウワァ)
「まぁ、お姉さん。そんな怖がらないで?
僕も兄も一応人畜無害だから〜」
ブラギはマニッシュヘアの中性的なお洒落男子だった。白いタートルネックに黒のジャケットとパンツでモード系の格好だった。兄に比べるとほどほどにアクセをつけている。兄弟とも並ぶとバンドマンのコンビぽい。
「あの…魔吸草、いるかしら?」
「え!いいの?もらっとく〜」
「こら、ブラギ!お礼言いなさい」
ロキに嗜められてブラギはそれを流す。
「ハーイ!感謝です!」
カミラが渡そうとした薬草の入った瓶ではなく、カミラの手を取り自分の両手で包むと
「お姉さん、ありがと?」
と上目使いしてきた。あざとい。
とそこに、楓を頭に乗せたキースがもぐもぐしながらこっちに来てブラギに握られたカミラの手をぶんどる。そしてキースが今度はカミラの手を握る。ヒースもこっちにきて、もきゅもきゅしながら逆側を握る。キースは瓶をブラギにドーナツでベタベタな手のまま渡すとまたドーナツを手に食べ始めた。ヒースも手を繋いでない方にドーナツを掴んでいる。が、2人とも目はブラギに向いている。
「えーーー…」
「おい、ブラギ。余計な事したな?」
「いや、だって。僕女の子には優しいよ?」
「タラシの間違いだろ?」
ナンパな兄貴とタラシな弟分。納得である。
が、カミラはサッと空に3つの魔法式を浮かべた。手が塞がっていたので、近くの蔦を伸ばして指がわりに魔法式を描く。すると、ドーナツでベタベタだったキースとヒースの手が綺麗になり、空いた手に持っていたドーナツは瞬時に魔吸草に代わっていた。2人は手元では無くブラギに気を取られていたので入れ替えに気づかずそのまま草を食べ始めた。
「ふぅ、これでいいかしら?」
「いや、僕の瓶まだべたついてる…」
「ほら。いいから早くお前もクルトに上げてこい。」
「ハーイ」
ブラギはロキに瓶のベタつきをとってもらうとくるくる回る牙狼の方に向かっていった。
「あぁ、可愛い」
ブラギでは無く、やっとロキを見た2人はしかし、まだ無言で草を食べている。
「というか、ちょっとシュールだね。めちゃくちゃモリモリ食べるなぁ。食べてるの草なんだけど。どうなってるの」
「今ドーナツと思いながら草を食べてますけど、草を食べたら魔力が吸収されて楽になるはずなので、本能じゃないかしら?スッと爽やかになるから、徐々にスッキリするはず」
「いやめっちゃ食べつつ、凝視されてる」
「ちなみにまだ草はストックがあります」
「いや、草の残量については心配してない」
少しズレてるカミラにロキがつっこむ。
ブラギはくるくるする牙狼を抱きつく形で捕まえて口に草を入れていた。ブラギは使い魔の扱いに慣れており鋭い牙をものともしない。線が細いのにさすがである。
「2人も十分楽しんだし、用も済んだから、そろそろ帰ろうかしら。楓、帰るわ」
目の前のカオスな光景を尻目にカミラがつぶやく。楓もキースから離れてカミラの首元に寄り添った。
するとロキがカミラを見て言った。
「可愛いご主人、貴方と貴方の使い魔の名を教えていただけませんか?ついでに連絡先も交換しませんか?…ん??もしや、貴方様は森林の魔女様?」
カミラが手にしていたキースの鞄にはみっちり薬草瓶が入っているのを垣間見たようだ。
「と言うことは、彼らは人狼のヒースとキース?おかしいな、聞いてた色味と毛色が違う」
「そうです、私は森林の魔女カミラ。あそこの2人はキースとヒース。そして、この楓。白の術です、ロキさん」
「なんと!あの貴重な白の術を?!!虹色カメレオンに僕も会ってみたかった。」
「夜城の魔女ロキさん、今思い出しました。貴方私の家のお隣さんですね?お噂はかねがね。」
「フフ、それは光栄です。こちらをどうぞ」
ロキが方位磁石の蓋がついた、魔道具をカミラに渡してきた。蓋が開くと中に青く光る石が入っている。
「まぁ、ご丁寧に。では私もこれを。定期連絡に使っている通信機です。」
ロキに金の葉っぱ飾りがついた緑の鉱石の魔道具を渡す。
「ありがとうございます。今度デートでも」
「まぁ!近所に夜の散歩程度なら。うふふ」
「おやおや。手厳しい」
遠出も、デートらしいデートもしないつもりらしい。遠回しにその気はない旨が伝わる。しかし、カミラはダメとも言っていない。
そこに、鐘の音がなった。
ガランガランガラン…
「皆さまご交流の中、失礼致します。この後は自由解散となっております。本日は誠に有難うございました。この後の説明ですが、明日の昼中、白い月が空の天辺に来るまではこちらを解放し自由に使用を認めます。引き続きご交流ください。時間になりましたら、自動的に皆様は会場の庭エントランスに転移しますので気をつけてお帰りくださいませ。」
「皆、ハッピーハロウィン!また来年までよろしく。これを会の区切りとさせてもらう。これにて閉会!」
司会と魔女長の言葉に『わーパチパチ』と拍手喝采が起きるが、魔女の大半が引き続きお茶会を続ける気配である。
「さて、帰りますか。ロキさん、ブラギさん、お先に失礼します。ご機嫌よう。」
「あぁ、また。良い夜を。」
「またね、カミラさん!良い夢を!」
2人を連れて馬車に乗るのが面倒になったカミラは愛用の杖で転移陣を描いた。すると転移陣が緑色に光り、次の瞬間には自宅についた。
電気は暗いままだが、足元についてくる魔法陣の光の残滓を頼りに静かな家の中をゆったり歩く。先程は音に溢れ、活気に溢れ、熱気を帯びて色鮮やかだったから、これくらいが落ち着く。音はなく、森は寝静まっている時間だ。家の中は少しひんやりとしていて、火照りを覚ましてくれる。暗がりは目に優しかった。酔ってる2人を連れながら、楓に語りかける。
「今日は楽しかったけど、疲れたわね」
「クルルルラァ」
「カミラ?」
「終わった??」
2人はようやくキャパオーバーした魔法が抜けてきたようだ。返事が返ってきた。
「ハイ、コレ」
魔吸草を組み込んだランプを手渡した。
3人で満月が覗く窓際の大きなソファにゆったりかけて休む。
「「あぁ、終わっちゃったのか。楽しかったなぁ。」」
「そうね。私も楽しかったわ。」
「カー…!」
楽しそうなカミラに、ヒースとキースは目を奪われる。窓から月明かりがカミラを照らしていて、よりそう楓も神々しく、まるで月の女神のようだった。
「ねぇカミラ、今日は1番カミラが綺麗だったよ」
「カミラ、1番可愛いかった」
2人の狼は1人の魔女に恋焦がれる。
「あらまぁ!照れるわ」
いつものように返したカミラだったが、その頬は桃色になっていた。2人はその事に気が付かない。楓はカミラにすりすりした。
果たして2人の想いが報われるのは、いつの夜やら。今は家族としてゆったりくつろぐ皆を大きな窓から満月が見守っていた。ウキウキ時にドキドキなハロウィンが終わった後の、優しい時間だった。
これにて、ハロウィンの夜の特別なお茶会は終了。しかし、1年経てばまた、奇妙な魔女のお茶会は開かれる。
また、次の夜までのお楽しみ。
ハッピーハロウィン!
長々とお付き合い頂きありがとうございました。
田中シリーズも進めたいと思います。
ハッピーハロウィン!