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失くした腕輪と魅惑の花畑

あと少し!本当にあと少し。

ハロウィンの夜には間に合わなかったですが、しばしお付き合いください。

その後、どんどん訪問者が来て、挨拶したりぶつぶつ交換したり、梅鳴が魔法勝負を挑まれて外で圧勝したりと色々あったが、怪我人が出ることもなく、ツリーハウスの面々はまったりしていた。ちなみに外ではあっちで爆発音がしたり、こっちで飛来物があったり、向こうでドラゴンが火を吹いていたりした。外は巻き込まれる危険が満載である。

話に夢中になっている魔女達を尻目に、突然キースが慌て出した。

「ん?ない?!…やば!」

「どうした?」

ヒースが聞くが、キースの落ち着きがなくなる。どうやら何かを探しているようだが、見つからない。

「腕輪どっかに落としたorz」

「あの、力の入った魔法モリモリの腕輪?」

「あれがないとこの後も飲み食いできない」

キースがフラフラと立ち上がり、耳をしょげさせつつ、ドアのほうにトボトボ歩く。

「ちょっと、探して来る」

「カミラー!!!ボクらちょっと出てくる」

「はーい、気をつけるのよ〜」

カミラはこちらをみて首輪のあるあたりを引っ張るジェスチャーをして来る。2人はうなずいた。

「パルムさん達、カミラをよろしく」

「うむ」


2人は人型になると、ドアを開けて外を出た。上がってきた時に使っていたツタがそのまま残っている。ツヤツヤしており、丈夫なようだった。

「下に降下しながら、探してみようか?見つけたらシンパシーで合図するから止まって」

「おう」

人狼の特性はその強靭な肉体である。身体のバネも強くて、しなりが効く。ピョーンと飛び降りては適当な葉っぱに留まり、また降りる。

「どっかにひっかけた?」

「かも」

どんどん降りていく。すると。

「ア!!!!カラス!!!テメェ返せ!」

「え?」

急にキースが止まり、何かを目で追う。その先を見ると、カラスがキースの腕輪を咥えて空中を飛んでいた。

「あ、カラスか〜。なるほどね」

途端にキースがカバンから植物の種が入った瓶を出して中身を握りしめた。種は銀色に光り、次の瞬間真横に蔦を伸ばす形で成長する。細い板のように硬いのでそこを足場に2人がカラスの方へ向かい走る。するとカラスが慌ててそばにあるドアに入った。後を追う。


「ようこそ。いらっしゃい」

中に入ると一面花畑だった。様子がおかしい。中にカラスと誰かいる。

すかさず、ヒースが魔法でカラスの咥えていた腕輪と光る金の枝を交換する。光る金の枝は魔道具の素材だが、観賞用にも好まれる嗜好品の一つである。すぐにヒースがキースに腕輪を投げ、キースが腕につける。が、視線は誰かに向けたまま外さない。

「それはお近づきの印にプレゼントするね、カラス君」

「おや?よかったなぁ、楓。良いものをありがとう」

「失礼ですが、貴方様はどなたでしょうか」

キースはヒースに会話を任せて、さりげなく出口を探す。真後ろにドアはあるが、入室した途端に閉まったし、目の前の誰かは「ようこそ」と言っていた。用が済むまで出してくれないかもしれない。しかも、ここは個室ではない。花畑である。青い月と赤い空に色とりどりの花が咲く。紫、青、黒、オレンジ、グレー。一般的な景色とはずいぶん様相が異なっていた。一見綺麗だが少し怖い。目の前には隠された毒々しさを感じる。

「私?私は、さてね。誰でしょう?」

「私は人狼のヒースです。こっちはキース。ご教授願えませんか」

「私は、極限の魔女ゲロニカ」

「「??(知らないな…?)」」

ゲロニカは白いローブを被り、全身を覆っていたがローブを脱ぐと中はすごかった。

「ふふふ。私の全身はバラに巻きつかれて、自身で身動きを取ることは出来ないのだよ。魔法があるから、移動させたり移動したり、目の前に物を引き寄せることは出来るけれども」

「これは奇病の薔薇咲き病?」

「えぇ。でも、貴方達に移ることはないから安心してね。私は身が朽ちるまで薔薇に愛されて終わる。」

「それは…オレ達に何か御用でしょうか」

「ハロウィンの夜。魔女集会でお茶会が開かれる奇跡の夜。そんな夜だから、貴方達に会えた。これは幸運ね」

キースはゲロニカに話しかけたが、さりげなく首元に自然な動作で手を運ぶ。逆の手は背中に隠しているがヒースと手を繋いでいる。


目の前の魔女は花畑の真ん中に立っていると思われたが、正確には椅子に座っていた。キースもヒースも最初彼女が赤いドレスを纏っていると思ったが、全て全身に絡んだ薔薇だった。ドレスの裾のように足元に広がる薔薇は、よくよく見ると花畑の中でもポツポツと至る所で咲き誇っていた。青い月に照らされる彼女は綺麗な菫色の瞳をしていた。しかし、その焦点が合わない。おそらく見えていないのだろう。そして、銀色の髪が足下まで伸びて広がっており、銀糸の美しいカーテンのようだった。おそらく長い間、ここに居たのだ。

「貴方達はきっと、カミラの愛し子よね?

食人衝動のない、稀有な人狼の双子」

「「!」」

(カミラの知り合い?)

(だとしても、変なタイミングで会ったな)

((確かにオレら、食人衝動感じたこと無い))

念話は悟られる可能性があるため、双子の特殊能力シンパシーの方で会話する。

「私ね、もう長く無いのよ。この通り」

「美しいご婦人、ご用件というのはもしや」

ヒースが言い終わる前にゲロニカが遮って話し始める。

「貴方達、薔薇咲き病の最後をご存知?綺麗な綺麗な薔薇になるの。命を燃やして、一輪の特別な薔薇に。秘める魔力は強力で、生前の個性が反映されるのかその特徴は唯一無二なのですって。」

美しい情景の中に佇むゲロニカは儚くて幻想的でとても切ない。

「そんな…」

「私は幼い頃からその兆候があったの。薔薇に惹かれて薔薇を研究していた。薔薇に恋する乙女なんて聞こえはいいけど、異常よ。そんな中である日一輪の薔薇のトゲで指を刺してしまったの。今思えば、あの時の薔薇はきっと薔薇咲き病の先輩だったのね。それが後押しになったのか薔薇の分だけ魔力が上がると同時に薔薇咲き病を発症し、病状は急速に進行した。それでも、最初は日に一本のバラを抜けばよかったの。でも段々その本数も増えて、抜くと力も抜けて。住んでいた館を出ないといけなくなったけど、それまで遊んでくれたのがカミラなの。1人で動けなくなっても、カミラ達との楽しい思い出があったから寂しくなかった。最後に、お願いがあるの。私をカミラの元に。私のトゲはきっと誰にとっても良く無いから、この手袋と小瓶を使って。トゲを削ぐナイフも。トゲは肌に決して触れず刺さずに摂取する分には問題がないから、細かく粉末にするなりして素材として。因子を持っていなければ薔薇咲き病になるなんてないと思うけど、細心の注意を払ってね」

「えぇ。きっと、お連れしましょう。」

「カミラは世界一の森林の魔女です。

 だから、貴方との再会にきっと喜ぶ」

「今日はなんてミラクルな日なの!

 あの子にまた会える。感謝を伝えられる」

「「幸運…?」」

「本当に長かった。でも、今思えばそんなに悪くなかった。この日の為の今までなのね!楓、貴方もありがとう。この後、どうするかしら?」

「カァァァー…。」

寂しげにひと鳴きすると、キースの肩に止まる。

「そう。今度はキースとヒースを守るのね。

貴方の足元の無数の薔薇は棘を持つ。でも、私の作ったバリヤで万が一にもトゲは刺さらない。術はこの楓が行使しているから、安心してね。ではそろそろ、私は眠るわ。ハッピーハロウィンー…」

「良い夢を」

「新しい旅路に幸ある事を」

ゲロニカが目を閉じると、急激に花畑の様相が変わる。数ある花の中で薔薇だけが黒ずみ萎れ、急速に枯れる。ゲロニカは咲いたばかりのみずみずしい薔薇に埋もれて見えなくなる。そして、どんどん先から中心へ枯れ萎れていく。真ん中のみずみずしい薔薇も一本を残して、全てが枯れた。花畑からは赤が消えた。枯れた薔薇は背丈が縮み、生きている花達に埋もれてしまって見えない。枯れた薔薇の中にある銀の茎を持った菫色の薔薇を見た。先程言われた通り、丁寧に剪定して瓶に入れ鞄に収める。背中のドアを開けて、カラスを連れて出た瞬間、カラスは真っ黒から真っ白に変化した。

「楓が…」

「楓。」

「……。」

カラスは何も語らず、しばらく薔薇をじっと見つめていた。

「「よし」」

ヒースとキースは気を取り直して、楓とゲロニカを抱えながら上を目指す。行きと同じくらい軽快なステップで戻る。

「「ただいまー」」

すると、カミラは行く時と変わらず笑って話していた。

「ねぇ、カミラ」

「うふふふ、あら?何かしら」

「これをあげる」

薔薇を差し出す。その瞬間、カミラの顔色が変わる。

「こ…れ、どうしたのかしら?どこで見つけたの??」

「フム、これは可憐な貴婦人」

「そんな…!」

「「??」」

「カミラに会いたいって言ってたよ。感謝してるって」

「…ずっと、寂しくなかったってよ。」

「「綺麗な、澄んだ菫色の瞳を持つ貴婦人だった」」

「薔薇に愛された貴婦人、カナ?」

少し目を潤ませて梅鳴がつぶやく。

「「極限の魔女ゲロニカ様」」

「「え!??会ったの?幻の偉人、薔薇姫様に?!」」

「ゲロニカ…また会えたわね。良かった!」

カミラはちょっと泣きそうだったが、笑顔を浮かべて薔薇の入った瓶を抱きしめる。真っ白なカラスがその様子をじーっと見つめていた。

「「楓。こっちおいで」」

しかし、キースとヒースに呼ばれると踵を返してそちらに向かう。

リロが、「お近づきの印に〜!」と、楓が白いのも構わず白の魔法をかける。すると、パサパサだった羽根に艶が戻った。ふっくらハリまである。そして、目が綺麗な翡翠色になった。尻尾が長くなり、少しカラスらしさは減った。つぶらな瞳をぱちくりさせている。

「貴方にもハッピーハロウィン!」

「カァァァー!!!」

ゲロニカ様の描写が完全に桜の木に対するそれでした。いやでも、ここはハロウィンの世界観だからやはり生命力ガンガンでも薔薇で正解なはず。うん。


あと残りわずかなので、ハロウィンの夜が過ぎてしまいましたがもし良ければお付き合いください。

※改行やら構成は話が終わったら整理します

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