黒いもののけと幸運の白
もうちょい!もうちょいで終わりが見えてくる!
よろしくお願いします(?)
正確には近くに生えてあったツタを伸ばして上にあるツリーハウスを目指す。周囲を見ても一番高くて大きめのツリーハウスだった。
「「ぴぇっ?!」」
しっかり構えていたヒースとキースだったが、華奢なカミラに急所の首を鷲掴みにされて秒で飛ぶとは思っておらず、大人しくするほかない。下の方では、ソフィアがレオンの箒に乗せられて、東家の方に向かっているのが見えた。と、下から追いかけてくる者が数名。いや、数十名。
「カミラさんー!!!」
杖に乗ったネロもいる。
しかし、カミラは一切返事をせずに上を目指す。すると目の前に翼の生えた男が現れた。
「キース!!!」
「了解!アイアンクロー…に炎草の瓶」
翼の生えた男が瓶にぶつかり減速する。近くにいた魔女が即座に魔法で回復させ、少し空いた距離から追ってくる。
カミラは上を目指しながら、下方で周囲を取り巻く一部の魔女の進路をツタで塞ぎガードしている。挨拶代わりか花まで咲かせる余裕がある。
「くそっ、さすが森林の魔女!草原はフィールド的にあっちが有利か」
「そら、そうでしょうヨ」
その間をツタに妨害されずタダラに抱えられた梅鳴が抜けていく。
「ひとまずあのツリーハウスでお客様をお出迎えしましょう。神無月様にはもう会えたし、こちらから出向く必要がある方はいないわ。」
すると向かいから大きな巨体の黒いもののけと魔女がやってきた。
「カミラ!」
「あの子はいいわ。あの方は知り合いよ」
黒いもののけに抱えられた魔女がカミラと一緒の速度で上がっていく。するとヒース側からヒースの尻尾を掴んだものがいた。
「ぴ!カミラ〜!」
「ヒース!プランB」
「…アイアンテール、からのホルスライム」
尻尾を鋭くし体を捻りつつ相手の手を刺し、そこにホルマリン漬けスライムをかける。
「イタっ!す、すべる!!!あ、しみる!」
「ごめんね」
尻尾を掴んだ者は感想を残して姿を消した。
高く見えたツリーハウスもあと少しの所まで来た。カミラを狙うものは隣の黒いもののけやヒース・キースが問題なく対処出来ている。ヒース・キースが狙われても黒いもののけが守ってくれる為、黒いもののけが狙われたらヒース・キースが守った。
そうこうしているとようやく、ツリーハウスに辿り着いた。ツタを伸ばして足元を作り、安定した足取りでカミラは進む。ヒースとキースもようやく地に足をつけた。後ろから、黒いもののけと魔女がついてくる。ツリーハウスの中は広く、黒いもののけの頭より少し天井が高い。かつ、黒いもののけは壁を通り抜けた。便利である。
「いやぁー、お疲れ様でした。先手必勝ね!」
「「一言、言って!」」
「10分くらいしたら目隠しのシールドが取れるから、お客様が来ちゃうわよ〜」
「「そうなんだ」」
早速、カミラがお茶の準備をする。
ケーキも並べた。ソファに腰掛けてようやく落ち着く。
「カミラちゃん、久しぶり!」
「…!」
「久しぶりね、アイラちゃん!パルムちゃんも元気?」
「…!!」
黒いもののけが何度も頷く。
「パルム、話しても大丈夫」
「アリガトウ。…オレ、ゲンキ!」
カミラとアイラは拾い子仲間だった。
カミラが聞いた話では、流星の魔女アイラも自分の住む高山の近くで幼いパルムを拾ったそうだ。パルムは今でこそ大きくて強い黒いもののけではあるが、幼い頃は頼りないほど小さく、弱かった。身体に纏っている紫色のオーラも弱すぎて見えず、うっかり黒猫と見間違えたアイラが
「家族にいじめられたのかい?可哀想に。
おいで、一緒に楽しく暮らそう。」
と声をかけて家に連れ帰ったとか。
お風呂に入れても姿形が変わらないので、ア!コレ黒猫じゃない!と気づいたらしい。
そんな黒いもののけはすっかりアイラに懐き、病気もなく丈夫に育ち今に至る。
「アイラちゃんに本当に感謝だわ。ヒースもキースもようやくここまで大きくなったわ。と言っても数年だし成長が早いわねぇ〜!」
「良かったね、嬉しいね!カミラちゃん。パルムは2年くらい前から独り立ちできるくらいにはなったんだけど去年、初めて体調崩したから驚いちゃった。カミラちゃんの薬草、助かったなぁ。」
「役に立てて良かったわ〜!なんせ何が効くかわからないから、場当たり的に試したら、食あたりとは思わないじゃない?」
「あはは!最早、笑い話だよね〜!!」
「ウッカリ、シツノワルイエネルギーたべた」
「コレしか言わないし。もう!」
2人でお菓子も食べつつ、子育てあるあるで盛り上がる。
かたや、使い魔サイドはというと。
(え!ちょっと!!パルムさん、悪魔族出身なの?カッコいい〜!!!)
(王族としては弱すぎて、弟が魔王になる事になり私は捨てられた。家族にいらぬと)
(魔族、キビっしぃ〜〜!!!流石、魔だわ)
(愛という概念が希薄で、弱いとわかるや否やゴミのような扱いだったからな。アイラがいてくれて命を救われた。我は己と同じ魔族は好かん)
(オレ達も、カミラに会えて幸せだぜ?
魔女って本当、希望の光だよな。母さんはオレらが村から追放される前に動いてくれたけど、容赦ない人間の方がよっぽど怖いかも。)
(同意する。気まぐれでも拾ってくれた)
(でもまぁ、悪どい魔女には注意だよ)
(うむ、最近少し耳に挟むな)
(多くは善良なのにね。質の悪いエネルギーってもしやそれ?王家魔族がお腹壊すほどってえげつないわぁ〜)
(いや、我は王家にしては弱いぞ?そうだ。ゲキマズだったが、この世に置いておくのもアイラが危険かと思い、食した。びっくりするほどゲキマズかった。具合も悪くなった。通常、悪意や憎悪が強いような世に言う悪い魔女は我ら魔族的には美味のはずなのだが、えぐみと渋みが酷くて不味かった。あれは魔女と言うにはおかしい個体だ。)
(内緒な)
(内緒だ)
(そんなつもりはサラサラないけど、オレら人狼の中にも魔女を食べる奴が居るんだ。好んでは食べないが)
(おそらく、我らの魔女は知っているぞ。
わかった上で側にいてくれる。だが、内緒だ)
(あぁ、我らが魔女はオレ達が守る。)
(それがよい。我らは魔女の優しき隣人ぞ)
以上が3人で横並びに座り、カミラとアイラを見ている間の会話である。ハタから見ても無言である。
コンコン…ガチャ
そこに、梅鳴とネロがやってきた。
「あ!いらっしゃい〜」
「む!またあいつだ!!!」
「タダラとキギラ!!!!」
ドアを開けた瞬間すかさずヒースがカミラの左をキースが右を抱きつく形で守る。
タダラとキギラは珍しくガードされてカミラの首に近づけないでいた。
「「その厄介な性質、何とかならないか!」」
「ッハ!失礼。またもや。」
「「失礼って言葉、謝ってないからな!」」
「申し訳ない」
「「もう今日の分の健康診断は終わり!」」
「ハハハ、愛されてるねぇカミラ姉さん」
笑いながら指示を出してタダラを背中に抱きつかせキギラを頭に乗せた梅鳴が、あからさまな無害アピールをしながら室内に入ってくる。
「あ、梅鳴サーン!ご無沙汰してます」
「ウンウン、久しぶりネ」
キースとヒースの警戒具合に思わず、アイラを抱えたパルムが梅鳴の方を見ていた。挨拶が終わっても勿論離さない。
「え?何ここ、使い魔溺愛ペアしかいない家ですか??」
ネロが面食らって皆んなの様子を観察している。
「ネロちゃん、ここに座って〜」
そんなネロに構わずカミラは隣に誘導する。
「あ、ハイ」
素直に座るネロ。
「ネロくん?初めましてネ、梅鳴です」
「あ、初めまして。ネロです。お噂はかねがね」
「ネロちゃん、私はアイラ。よろしくねー!」
「アイラさん、よろしくお願いします。」
カオスである。
その頃の使い魔サイドは…。
(やぃ!何で毎度お前らはカミラの血にこだわる?)
(そう言われても我輩にはわからぬのだよ。許せ。本能だ。)
(尚更、許せるかー!ばかー!!)
(君たちは、吸血鬼とその眷属。血に惑わされる気が強いな。確かに本能かもしれん)
(カッコいい!…パルムさん?キギラです。よろしくお願いします)
(うむ。よろしく)
(あのぅ)
(ぬ?!き、君は、虹色族のカメレオン殿?!)
(ハイ、私リロタリアータと申します。リロと呼んでください。)
(初めて会うぜ。リロ殿、よろしく。人狼のキースだ。)
(リロ様、初めまして。ヒースです)
(お近づきの印に、色変えの術を披露しても良いですか?そうですね、幸運に恵まれる白の術を見せましょう。)
(((((是非、見たい)))))
キラキラキラ〜…
「あれ?私達のかわいい使い魔が、なんかやってる」
「なんかやってる?」
「なんか、やってる!!!?」
「あ〜、あれは虹色カメレオンの色変えの術カナ?素敵だねぇ〜!全員お揃いの白ダ!」
「!…きっと私の使い魔のリロです。仲良くなった証に幸運の白い術をかけたようです」
しばし使い魔達のわちゃわちゃを無音で見る魔女達。お茶は飲んでいる。
使い魔サイド…。
(ウワァァァ、我が真っ白に!!!これは奇跡か!!!最高にハッピーだ!)
(あれ?さっきまでクールに決めてたパルムさんが性格まで軽くなってる?)
(あちゃー、これはマジカルハイです)
(そんな、ランナーズハイみたいな感じに)
(我輩は白も似合いますな。ふふふ)
(あ!ヒースさんとキースさん、色が同じになるとそっくりですね!!!眼も髪も肌も白系だと見分けがつかない。)
(あー、元々双子だからな。赤ん坊の時もよく言われてたらしい)
(だよねぇ〜。懐かしいね)
(でも、瞳は狼らしいアイスブルーで綺麗です)
(リロ様、ありがとうございます)
皆んな真っ白くなった。
カミラ達は映像魔法を使って、この様子を永久保存することにした。
「可愛い〜」
「何枚でも見てられる。」
「癒されますねぇ」
「ンン?」
しばらく見ていると、キースとヒースがオオカミ形態になってパルムとタダラにじゃれつき始めた。リロはキギラと何やら話し込んでいる。と思ったらキギラがリロをハグした。
((((仲良し!!!))))
とそこに、コンコンコン…
来客である。
途端に使い魔が通常の色味に戻り、配置についた。が、またもや白くなる。ちなみにヒースもキースも狼のままだ。
「リロ?」
「やぁ、カミラ!とそのお仲間!!」
なんと、魔女長の使い魔、青年エルフが来た。
「うわぁ、見事に白いね。ん?私もか!」
テンションの高いエルフお兄さんは元々色素が薄かったが、元はブルー系なのが今は真っ白である。
「お近づきの印に幸せの白、です。」
「なるほど。ありがたい」
軽く驚くそぶりを見せたが、ネロが説明するとすぐ思い当たったのか、青年エルフは感謝した。ちなみに、ただでさえ神々しかった青年エルフは白を纏い笑顔になる事でさらに神々しさを増した。
「私はエルフの速水。我らが魔女長からお使いを頼まれています。こちらをどうぞ」
何かとカミラがみると、ガラス板だった。速水が手をかざすと魔女長が映し出される。
「ヤッホー、楽しんでるかい?今日で100ハッピーいけるくらい楽しんでってね〜!ヨッと。(ばーん)こちらから、カミラ氏の1年の功績と献身を讃えて、小包を送っといたから後で帰ったらみてみてね。個人的な贈り物とでも思ってもらえれば。」
「まぁ、ありがとうございます」
「最近、ちょっとキナ臭い奴が1人いるようだから、身辺にはよくよく気を付けてね。おばちゃん心配だわ。あ!そろそろ、ハッピーハロウィン!」
「とまぁ、こんな形でメッセージを確認いただきました。1年、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。」
「あら。ふふ、精一杯頑張ります」
「では、お邪魔しました。私はこれで。
そうだ、妖精王の加護が有りますように」
速水さんがスッと指先を振ると、星のようなものがそれぞれに降ってきた。ほんのり光ると吸い込まれる。
「幸運の重ねがけ、です。ハッピーハロウィン」
そう言うと、速水は白い姿のまま出ていった。
「我輩ら今超絶ハッピーなのでは??」
「「え?」」
「いや、絶対そうでしょ。白の幸運に、星の加護ですよ??今ならすごいラッキーに見舞われるかもしれない(ワクワク)」
「タダラ、落ち着いて。ね?」
「すごいハッピー&ラッキーかもだけど、知る術はないじゃない。」
「いーや、今日はツイてる!!!最高に!」
「キギラまで」
「「「マジカルハイか」」」
「ふはははは」
「パルムさんまで」
ハロウィンてなんでこんなに魅力があるのか。とにかく好きです。