長い長い休みとカミラの飛翔
やっと、ここまで来た!
もう少し!!!
歓談しておりざわつく中を鈴の音が響き、司会が大休憩を告げた。会場内は熱気と活気に溢れて、空気も温まっている。いよいよ次が交流フリータイムである。魔女のやりたい放題タイムがやってくる。ちなみに、言い換えるなら使い魔恐々タイムとも言える。
傍を見ると、なぜか屈伸や腕伸ばしをする魔女がいた。準備運動までして何を企んでいるのやら。
「ヒース、キース。あのね」
「「ハイ」」
「この次の時間が最もデンジャラスというか、使い魔的に注意すべきタイミングなの。毎回何かが起きるのは交流フリータイムだから、気を引き締めて。警戒を怠らないでね。大丈夫、私も全力で守るから覚悟を決めてね」
「ウッ!はい。」
「うへぇ〜ヤダヤダ。」
「簡単に魔女の交流パターンを説明するわね。
①人脈構築を目的として普通に話をする
②商品・魔法を手に商談を持ちかける
③友人の実力を試そうとする
④知らない強者に挑む
⑤団体につっこみ引っ掻き回して楽しむ
⑥使い魔探し
⑦魔道具探し
⑧新作魔法を披露する
この、後半の③〜⑧に要注意よ!魔女は好奇心が強いのが習性なのか、周りに目が行かなくなりやすくて、タチの悪い事に楽しくなると引き際を見失いやすいの。最終的には力押しで収めるのが多いわね。1人で収められない時は周りをサッと見て目が合った人を協力者にすると良いわ。数の暴力は割と有効だから、使い魔と魔女を巻き込んで勝てるまで増やしてね」
「頭の片隅に置いておきます…」
「交流会じゃなくて武闘会か何かか?」
「魔女のコミュニケーションは厄介なのよ」
3人で話しながら、気合を入れる意味でお手洗いに向かう。すると先ほどのバクと女の子がまだマッチングの続きをしていた。
「…貴方が私の夢を食べたら、きっと健康的な生活が手に入ると思うの!」
「毎日食べ放題は良いかもしれない。これぞまさに健康的な生活だ」
決着が近いようである。あと、少し噛み合ってない。
「では、よろしくお願いしたい。
ご主人様、私はバクのサモンです。」
「左門?わかった。私は眠りの魔女、アルカナよ。これから末永くよろしく!相棒!!」
ついにマッチングが成立し、見守っていた観衆が一斉に拍手していた。カミラもヒースもキースも拍手してしまった。おめでたい。
「あ、カミラ。やぁ。」
「レオン、貴方も休憩?」
レオンがソフィアを連れて、向かいから現れる。
「いや、次の回に備えて、ソフィアを人型にしておこうかなと思って。」
「あぁ、確かにそれが良いわね。クリムゾンフォックスが獣型でいたら色々狙われそうだし」
「この艶やかな自慢の毛並みもフワフワでほっこりする暖かさもキュートでつぶらな瞳も聡明な頭脳も、丸ごとこの存在は私が守る!」
「ぬっ?」
急に熱い眼差しでソフィアを見つめた様子のおかしいレオンに、少しソフィアが引いている。
「さぁ、今なら隅っこでバレないから、早く私の陣に入って!ほら。」
(とことこ…)
「クォーン(よいぞ)」
レオンが陣の中のソフィアにステッキを振る。すると銀の光に包まれてソフィアが人型になった。いかつい細マッチョに狐耳がついた赤髪ロン毛の男が現れた。シャツとブラウンのスラックスに黒いローブがとても似合っている。髪が艶やかななストレートなのが憎い。ちなみに顔がすこぶる良い。目は金眼でキラキラしている。
「ソフィアさん、いけめーん!」
「ソフィア兄貴、カッコいい!!!」
ヒースとキースが当てられたのか、尻尾をぶんぶんさせつつ興奮している。何故かしがみつく。
「まぁ、そう言うな。わかっておる。」
身体に張り付いてきたヒースとキースに、返答しつつ、やんわりと引き剥がして元の距離感を取り戻そうとしている。
「カミラ…これ大丈夫かな?」
「レオン、もう一工夫しないとダメね」
「ソフィア、フードをかぶろう!!外しちゃダメだからね。魔女のお姉さんお兄さんに着いていっちゃダメだから!」
「う、うむ。」
フードをかぶり、髪で眼を隠し、反射の強い眼鏡をかけた。少しキラキラオーラが収まった。
「「よし!」」
愛しい使い魔がいる魔女は、やはり次の回に備えて対策をするのが必須であった。色んな意味で出会いの場ともなる為、警戒度が上がる。大休憩は長めの休憩だったが、それも終わろうとしていた。
ガラン、ガラン、ガラン。
「では、皆さんお待ちかね!交流フリータイムでございます。ここからは立席ビュッフェスタイルとなりますのでご自由におくつろぎください。部屋の隅に食事スペース、ここの空中に個室が数室と外に東家、ベンチスペースがございます。そちらもご利用ください。なお、ツリーハウスも各所使用可能です。何かの際の救護室は私の後ろのテントと部屋になります。有事の際は給仕か私ども使い魔を迅速にお呼びください。」
確かに司会の言う通り、空中を見ると幾つものドアが浮いている。魔女は基本飛べるので空中にちょっとした空間的な個室を用意したようだ。正確にいえば、この館の各室とお茶会会場を魔法のドアで繋げている。ちなみにこの時点ではまだ先ほどの所定の位置で魔女が立ちながら大人しくしている。が、背後にそれぞれの使い魔をつけて臨戦体制である。使い魔がいない者も、その手に箒を握りしめている。
「では、ご交流を楽しんでください」
ガタンっ!
司会の一声が終わった瞬間にカミラはヒースとキースを掴んで飛んだ。
長くて長くてすみませんが、良ければもう少しだけお付き合いください。