お菓子の雨
やっとお茶会スタート!
しかし、やることは多い。まだまだ序盤です。
2度目の鐘が鳴る。
1度目の鐘より長く、少し間隔をあけて鳴った。
これより、世にも奇妙な真夜中のお茶会が始まる。
「魔女長様より、お茶会の開始のご挨拶です」
魔女達の頂点に立ち、魔女を統べる魔女長が呼ばれる。
今夜の司会は主催・魔女長の使い魔達で行われる。ずらっと魔女達が座る長い食卓の、いわゆるお誕生日席に座っているのが魔女長である。ちなみに彼女の使い魔は複数いるが、お誕生日席の向かいにあたるところにも彼女の人型の使い魔が座っており、周りの魔女をもてなしつつ周囲に目を光らせている。魔女長と一番長く寄り添っている神々しい青年エルフ様である。視野がずば抜けて広いエルフは適任とも言える。
「皆、一年が経ってからの再会、大変に喜ばしい。今宵は存分に楽しんでいってくれ。私も今日はハメを外す所存だ。先が長いし話まで長いのもなんだからな、これくらいにさせてもらう。以上!」
盛大な拍手とともに、魔女長がステッキを振ると、お菓子が大量に降ってくる。そして、給仕が各魔女にカゴを手渡し、お菓子を集めて片した後に薬草がたっぷり添えられたチキンステーキ、香り豊かなフレーバーティーが出された。
もちろん苦手な者もいるが、給仕に言えば別メニューに変えてもらえる。カゴに入ったお菓子は各自のお土産となる。
場が落ち着いたタイミングで、各魔女と使い魔からも魔女長とその使い魔、給仕に感謝としてそれぞれちょっとした魔法のギフトが送られる。薬草だったり珍しい魔法具だったり、はたまた長寿の魔法だったりと内容は様々である。プレゼント交換のようなもので、この場に参加する給仕はこの瞬間を楽しみに働いている者も多いとか。ちゃんと誰から何をもらったかわかるよう、それぞれのギフトにはラベリングが施されている親切設計である。
ちなみにカミラは新開発の薬草の束、ヒースは人狼のヒゲ数本と爪、キースは牙と体毛数本である。いずれも魔道具の材料となる高級素材である。
ギフトのルールは1つだけ、マイナスではなくプラスのものを!相手の幸福を願うものに限りギフト可能、と言うことである。つまり、例えどんなにおどろおどろしい呪術や人族の殺戮が好きで呪殺が得意な魔女であっても、今夜だけはそれは無し!幸せになる呪いのみ可能、という事だ。
マイナスを願うような負のギフトはこの空間の強力な守護魔法で弾かれ即座に無効化され、なんならギフトカウントはマイナスになる為、2人分のギフトを用意しなければいけなくなり、出費が多くなるシステムである。人を呪わば穴2つ、を地で行く魔女協会らしい設計だ。
もちろん、その場にいる魔女達もてなす側ともてなされる側のギフトカウントはしっかり管理されている。ハッピーなお茶会で哀しい想いをする者を出さない為の徹底した配慮である。給仕が多い場合には魔女長や余力のある魔女が多目にギフトを配るので問題ない。
魔女長がトータルを把握しているので、全員のギフトが交換し終わったタイミングで一区切りとなる。魔女長による「あと3ハッピー!あと2ハッピー!!」という掛け声で残り何人かわかる。
何故数える単位がハッピーなのかは誰も知らない。昔からそうなのである。ギフト配布が終われば10分休憩を挟んでから、本格的な会議に近い、重要事項の共有タイムとなる。
チリンチリン…
「小休憩〜」
司会による鈴の音と案内があったのち、全員が一息つく。トイレに席を外すものもいる。
「ふぅ〜!!!緊張した〜!!!」
「果たして喜んでくれるだろうか」
「きっと、大丈夫よ。」
ヒースとキースも初めてのギフト交換を終えて、やっと少しリラックスできそうだ。カミラは微笑みながら、出されたフレーバーティーを飲んでいる。
隣でもレオンとソフィアが話をしていた。周りでは給仕が嬉しそうにそれぞれのギフトを仕舞いに持ち場を離れている。ドリンク・お菓子のおかわりは今だけセルフ形式となっていた。
籠の中のたくさんのお菓子を眺めて、ヒースとキースが目を輝かせる。
「沢山もらったね!何これすごい。」
「…!チョコチップクッキーもある!!」
「2人が見た事ないお菓子もあるかもよ?
いつもお土産に持って帰ってたのがコレ」
カミラは2人が自分の好みのお菓子を探して話をするのを微笑ましく見守っていた。
「3人で山分けするなら、こっちのマシュマロとわたあめはカミラね!あ、でも3人分いけるな?」
「家でゆっくり机に広げて平等に分けよう」
「2人とも、1日で全部食べちゃダメだからね?」
「「ハーイ」」
かくして、魔法で出されたお菓子の雨はヒースにとってもキースにとって印象的なイベントとなった。
ガラン、ガラン、ガラン、ガラン…
次の予定開始の鐘が鳴った。
「さて、今年の共有事項について話をしたい。皆は目の前の料理とお茶を飲みながら話を聞いてくれ。何かある者は挙手するか机の上のベルを鳴らしてくれ。」
魔女長による共有事項は概ね滞りなく、普通に終わった。人族と魔女の関係について触れる場面があったが、長く協調路線なのでこれはいつも通りである。
魔女協会側から、人族に執着し無闇矢鱈に殺生する問題児は引き続き協会預かりとなる旨、注意喚起がなされた程度である。と言うのも、過去に人間界で魔女裁判と魔女狩りが起きた歴史がある為、2度とそのような事がないように魔女協会は努力しているのだ。
何人か、協会が「こやつを人間界に存在する事を許してはならぬ、世に出すんじゃない」と判断した魔女がいるのだが、該当者は人間界に行けないように制限をかけた上で監視が行われているのだった。魔女界にいる分には無害な為、その措置である。
ちなみに共有事項の中に、この問題児が誰か?と監視人担当は誰か?も必須項目として含まれている。こうして今日まで人間界も魔女界も平和に保たれているのだった。
最後に、魔女協会から使い魔と魔女のマッチング会を今日も行なっているというイベントアナウンスがあり、話は幕を閉じた。会場の一角、個室が3つほど確保され中でヒアリングしたのちにマッチングされると言う。
常時、協会の方でも行っている取り組みではあるが、一堂に魔女と使い魔が介す今夜は最高の相棒を見つけるのに一際おすすめとのこと。テンション高めに話が終わった。
チリンチリン…
「小休憩〜」
こうして2度目の小休憩がきた。
このタイミングで3人ともお手洗いに席を立った。
見ていただき、ありがとうございます。
まだ続きますが、もし良ければしばしお付き合いください。