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今夜はウキドキハロウィンナイト!

キラキラしたハロウィンモチーフのお話が書きたくて、田中シリーズより先にこっちを優先!


ハロウィン、好きなんです。

 10月31日の夜。

それはいつもとは一味違う、特別な夜。

今宵はお茶会が開かれる、そんな夜。


***


「ちょっと、カミラ早く支度しないと!」

「今日は魔女の集会でしょ?何してんの?」


 時間がない!と騒ぐ2人の傍ら、カミラは然程急ぐことなく支度を始める。カミラは世に知られるちょっとすごい、森林の魔女である。

 おっとりとした性格、薄い浅葱色の髪に新緑の瞳、黄味の強い健康的な肌に小柄な体格。怪しげな術を使い、おどろおどろしいイメージを持つ魔女にしてはいかんせん、見た目や印象が健康的かつ庶民派すぎた。

 しかし、魔女は魔女である。人知を越える知識を収集し、植物関連においては右に出るものがいないくらいのスゴイ魔女なのだが、今はそんな事は脇においておいて、重要なのは魔女集会である。


 ハロウィンの夜は死者が復活し戻ってくると共に、豊作・豊穣を皆で祝い願う、特別な夜である。魔女業界もご多聞に漏れず、魔女の集会が開催される。開催時刻は真夜中0時。

 各地の魔女が一堂に会す重要なイベントの為、遅刻は厳禁。魔女は基本忙しいか怠惰な為、欠席については認められている。大体3時間前から集まり始め、0時ジャストに会場の鐘が鳴ればそこからはお茶会となる。

 魔女の社交場とも言えるお茶会なので、ここで情報の交換や魔女同士の交流もあったりする。最初は所定の位置に座り共有事項が告げらるが、その後はフリータイムとなり席移動も自由だ。豪華な会場で、使い魔や従者を紹介するもよし、商談をするもよし、友達になりバースペースで飲み明かすもよしの無礼講だ。


 その、魔女の集会に行く為にカミラは準備をしているのだが。髪をセットしたり、ふわふわなレースリボンとキラキラしたパールの髪飾りを出してきてつけたり、メイクしてドレスを着付ける従者2人を見つめながら、カミラはこう言った。


「あら?あなたたち、支度はすんだのかしら?」

「「…ッエ?!」」

「あらあら。伝えてなかったかしら、私ったら。

 あなたたちも今夜は私と一緒に来るのよ?」

「「ハイ?」」


 聞いてない。今初めて聞いたんですけど?という顔をし、困惑する従者2人は、しかしジワジワと嬉しさを噛み締める。が、そうとなったら話は別だ。本当に時間がない。2人が敬愛するカミラが馬鹿にされることのないよう、己もそれなりの身支度をしないといけない。


「ボクらの服、ドレスコードはあるの?」

「オレら、なにもっていけばいーの?」

「そうね、じゃあ私とお揃いにしましょう」


 カミラが杖を振ると、2人の服装はガラッと変わる。白シャツに黒いベスト・黒いネクタイ・黒いスラックスから、クリームベージュのシャツに、深緑ベースかつ金糸でラインが入った揃いのジャケットとスラックスという出立ちへ早変わりである、2人の輝く髪はしっかりとサイドに撫で付けられ、後ろへと流してバッチリ決まっている。


「さ!これでどうかしら。

 髪もついでに少し整えたわよ。気に入った?」

「流石カミラ。いい感じだよ!ありがとう」

「…まぁ、良いんじゃん?これで。(尻尾ゆれてる)」

「2人とも、目の前に出したそれぞれ革の鞄を持って。」


 物腰柔らかですぐに感謝をした方が、ヒース。

クリーム色のふわ髪とふさふさの白耳にグレー目。

素直になれないが感情ダダ漏れな方が、キース。

灰色のハネ髪とツヤツヤの黒耳にキャラメル目。

2人は人と狼のハイブリット、人狼の双子だった。


***

 元々は魔女の住む森の近くにあった村で生まれ、生活していた。だがしかし、10歳の頃のある日に人狼の特性が出てしまう。そこで皆んなにばれて村から追放される前にと、2人の母親がまだ小さかった2人を森へ置いていった。

 人間社会の中ではのびのびと暮らせない事を憂いて。母親なりの愛である。そして、そこに出くわしたのがちょうど森をパトロールしていた森林の魔女・カミラだった。


「あらまぁ。こんなに可愛い子たち、森にいたかしら?

 昨日までは居なかったわよね。2人とも、どうしたの」

「あ、、、あの、魔女さん?」

「オレたちを拾ってくれませんか?なんでもします!」

「ボクたち、行くところが無いんです。本当です」


 きょとんとしつつも好奇心を隠しきれずに瞳をきらきらさせるカミラに、2人は狼耳をペタンと倒しながらも、勇気を出して、魔女に話しかける。


「まぁ!狭い家でよければ、どうぞ。いらっしゃいな」


 花が綻んだように朗らかな笑顔を添えて、明るく答えた。

そんなカミラに、内心不安しか無かったキースとヒースはひとまずホッとした。


 その後は、徐々に距離を詰め仲良くなり、ヒースが他国のお姫様に誘拐される騒動が起きたりキースが拗らせた反抗期で家出をしたりと紆余曲折ありつつもカミラが魔女の力と持ち前の包容力で都度解決し、今に至る。ヒースもキースも今ではカミラの研究を手伝うまでに成長し、立派な番犬兼従者となっていた。

***


 今日は2人が腕によりをかけて、カミラの支度をした訳だが、ドレスアップされたカミラは普段の3割り増し綺麗になった。深緑のドレスに、胸元と袖が黒いレースで露出はそこまでないが大人っぽさを演出している。ドレスのすそやフチにはアクセントとして金糸で唐草模様が描かれており、華やかになっていた。髪飾りもネックレスもイヤリングもパールで上品にまとめた。が、カミラは魔女なので、普段からつけている魔力の篭った装身具を含めると丁度いいバランスとなった。


 メイクについては普段朗らかな印象のカミラではあるが、変な虫がつかぬよう近づき難いと思われる程クールに、という2人の意図と方針により朗らか可愛い系から冷たい綺麗系へと変身を遂げた。

 支度中、時折2人がカミラに見惚れていた事にカミラは気づいていない。最後に、防寒用のローブと手袋、愛用の長い杖を装備したら完成である。


「カミラ、もうすでに開場3時間前だけど、出られる?」

「準備はおわった。これで誰にも舐められない。満足」

「というか、どうやって向かうのかな?キース」

「知らん。カミラ?」


 話しているヒースとキースを連れて、カミラが庭に出る。そして、長杖で暗い足下を照らす。そして、魔女協会から届いた招待状を魔法で燃やした。招待状が燃え尽きると共に、黒い馬と馬車が現れる。

「さ、これに乗るわよ〜。これであっという間に会場よ」

 カミラが2人に手で支えられながら乗車、その後2人も乗車。馬の方に御者はいないが、魔法の馬車が出発した。


「さて、2人とも。これをつけてくれるかしら?」

「ん?首輪とイヤーカフ?魔力を感じる」

「いいけど、犬扱いはイヤだ」

 カミラがヒースにライトブラウンの首輪と金のイヤーカフ、キースにダークブラウンの首輪と銀のイヤーカフを差し出す。2人は受け取ると、耳をピンとさせながらまじまじと渡されたものを見つめる。


「魔女集会は知っての通り、魔女だらけよ。使い魔を連れている魔女も多いけど、使い魔を連れていない人もいるの。

 もし、その人に貴方達が気に入られでもしたら、2人の意思なんか完全無視でお持ち帰りされちゃうかもしれないから、その予防ね。魔除けと思ってくれたらいいわ。」

「えっ、コワ!」

「魔除けは魔除けでも魔女除けかよ」

(まぁ、使い魔がいてもお持ち帰りする事はあるんだけど。

2人には言えないわね)

「魔女は実力主義なところがあって、もし格上の魔女に目の前で自分の使い魔を取られても恨みっこ無しなのよ。今夜は自分の身を守りつつ、目一杯楽しみましょうね」

「魔女、コワ!」

「勘弁してくれよ」

「この首輪は見たら主人が誰かすぐわかるし、イヤーカフにありったけの各魔法防御兼迎撃魔法を詰め込んだから、変な輩に絡まれても2人を守るわ。

 あと、私の魔法が相手に勝てない場合には転移が発動するようにしたわ。追跡を防ぎつつ自宅に強制送還されるわ。その時点で私もセットで強制帰宅なのでよろしくね。

 あ、首輪の端を引っ張ったら私を2人のところに転移で呼べるわ。久々に本気だしちゃった★」

「「まじか」」

「まぁ、お茶会に参加するなら当然の嗜みよ、ふふ」

2人はしばし、自分達がこれから何しに行くのかな?と遠い目をした。否、魔女と戦うつもりはさらさらない。


「あ!あと、これも忘れずにつけてね!」

「今度は腕輪とネックレス?」

「ネックレスごついな。」

「腕輪は毒消し、麻痺消し、酔い止め、自動治癒機能付き」

「「は?」」

「お茶会で出されるものは貴方達が食べ慣れないものも多いから、念の為。魔女は元々悪食でお腹も強いから」

「「魔女は悪食、なの?」」

「ネックレスの方は2人が嫌な事や不快な事を感じたら、あるいは意識を失ったら、私に伝わる魔法がかかってるわ。

 居場所もこれでわかるし、誘拐リスクも万全対策済み!」

「過保護かな?」

「ヒースが誘拐されたのトラウマになってんじゃん」


 そんなこんなで、カミラと同じく目一杯装身具をつけた2人は少し憂鬱だ。しかし、痩身具の重み以上にカミラの愛を感じて2人は少し回復した。

 ちなみにキースがごついと称したネックレスは、黒いボールチェーンに金属を黒塗り加工した十字架モチーフである。超ゴシック調の一品であった。優しい色彩のヒースには少し浮いてる感まであるが、ヒースは一切気にせずつけている。

 ともあれ準備万端である。


 車内の時計で15分しないうちに馬車が止まり、馬が鳴いた。到着の合図である。

「革の鞄には2人が出先でいつも使うものを一通り入れたから、忘れないでね。」

「「ハーイ」」

「さ、ついにお茶会よ〜!お友達に会えるかしら?!」

「「不安」」


***

 会場はお城だった。宮廷貴族が住むような煌びやかな装飾と魔女の話声が聞こえ活気あふれる雰囲気が、非日常を演出していた。また、使い魔を連れた魔女が次々に受付を済ませて入場している。

 時折、仲睦まじいペアが散見され、(微笑ましいな。)と他人事にキースとヒースは周囲を警戒しつつ眺めている。が、かくいう2人もハタから見ればカミラを守る騎士のように、カミラの両脇をガッチリ守り固めているのだった。


 魔女は魔法が使える人型の者の総称の為、男女の差はない。青年の魔女にフランケンシュタインの使い魔が連れ添ったり、老婆の魔女にユニコーンの使い魔が付き添っていたり、かと思えばお色気お姉さん魔女に猫娘がべったりだったりと様々である。

 魔法を扱う者の間では、性別も種族も年齢をも越えるのは最早当たり前の事で誰も周りを気に留めていない。

 加えて魔女は個人主義の傾向が強く、仮に見た目や性質、匂いなどがあからさまにヤバイ奴がいても、自分に関わらない限りは隣にいようと気にも留めないのである。つまり、魔女はおしなべて寛容だがある意味図太い。


 魔女と使い魔の関係性もペアによって様々で、友人に近い気安い間柄もあれば、主従や恋人・家族に近い関係もある。

 また、魔女に対して使い魔の個体数も縛りはない。3人以上連れている魔女もいれば、逆に2人の魔女に1体の使い魔が付いてる場合もある。もちろん、使い魔がいないこともある。

 魔女とは規則に縛られない、至極自由な種族なのだった。たまに倫理観にも縛られない問題児が出るのも致し方なかったし、その点が悪目立ちして、人族に警戒されている部分もある。魔女とは、枠にはめて捉えるには難しい生き物なのである。


 そんな訳で様々な姿形をした者で賑わう場内ではあるが、カミラはキースとヒースを連れて入場を済ませ、早速今回主催の魔女長に申し訳程度の簡易な挨拶をし、早々に着席した。

 すると、近くにいた給仕の者がすぐにウェルカムドリンクを数種類ある中から提供してくれる。使い魔の2人にはクッキーまでついてきた。このドリンクとお菓子は新開発の商品お披露目も兼ねており、おかわり自由だった。実益を兼ねているあたりが、抜け目ない魔女らしいとも言える。

 と、そこに、玄関エントランスの方から爆風が聞こえた。


…ッボン!ドゴォォォン…


「ちょっと!誰よドラゴンの使い魔をそのまま連れてきた奴!サイズ感考えなさいよ〜!!!使い魔ちゃんも可哀想に、きっとびっくりしたはずだわ。」

「確か、今回は氷山の魔女が来るからそれじゃない?」

「あぁ、なるほど。」

という側に座る魔女の女の子達の話し声も耳に入る。


「「え?ドラゴン来てんの?」」

キースとヒースは使い魔ながらにちょっと引いた。

「うふふ、たまにありますよ。小さいドラゴンの子だと小さくなろうとして爆破しちゃうのよね。今日はオープンテラスのお茶会かもしれないわ〜!ステキ!!」

「「割とあるの?こういう事」」


 そんなこんなで玄関では一悶着あったようだが、カミラ達はというと、一歩離れたところでのんびり一息ついていた。ちなみに案の定、可動式の壁がなくなり会場はオープンテラスに近い形となった。

 ドアが取り払われ天井が開き、席を中心としたガラス張りのドームのみが内と外を分ける間仕切りの役目を果たしている。魔法なのか外の喧騒は中まで届かない。空には満月が浮かび星が瞬いていた。


「カミラ、久しぶり。割と到着が早かったんだね」

「まぁ!闇守りの賢者、お久しゅう。レオン様もお元気そうで何よりですわ。またお会いできて嬉しいです〜」

3人まったりとしていると隣の席の魔女が着席し、声をかけてくる。

 優男風の青年の魔女に、リアル赤狐が寄り添っている。ちなみに、魔女の席の真後ろに2名掛けソファがそれぞれ置いてあり、そこに使い魔が座るシステムとなっているが、赤狐は青年をひとしきりスリスリした後、後ろのソファにゆったりと全身を伸ばした。目線はこちらに固定したまま、落ち着いている。


「こら、ソフィア」

 レオンが挨拶をせずにくつろぎ始めた使い魔を嗜めるが、赤狐のソフィアはどこ吹く風で動じない。

「良いのよ。ヒース、キース」

「「初めまして。カミラ様のご友人」」

 カミラに声をかけられてヒースとキースが挨拶をする。

「あぁ、フフ、よろしくね。カミラの友人のレオンだ。話は聞いているから、気を楽にして」

「「ありがたきお言葉、是非よろしくお願いします」」

それぞれがにこやかに握手をする。


「そちらはクリムゾンフォックスのソフィア様ですか、

 私はヒースと申します。お会いできて光栄です。」

「キースと申します、ソフィア殿。以後、お見知りおきを」

「クォン(苦しゅうない)」

ひとまず、使い魔同士の挨拶も併せて済んだようである。

 ちなみに、3人は念話が使える為、実際にはもっと言葉を交わしているがそれは主人の知らぬところだった。


「手紙ではやりとりしていたけれど、最近の研究の進み具合はどう?あの、宿題草の生態、だったかな?」

「至極順調ですわ。ヒースとキースが要所要所それぞれ手伝ってくれるので、全体通して見てもスムーズかしら」

「そうか、それは良いね。私も手伝って欲しいくらいだ」

「またそんなご謙遜を。賢者として名を馳せる魔女様ともあろうお方が何にそんな手間取られまして?」

「ふむ。概ね大きな障害はない、と言いたいところだが、ちょっと問題が発生してね。相談に乗ってくれるか?」

「えぇ、もちろん。」


 カミラとレオンが研究話で盛り上がり話し込み始め、それを背後のソファからヒース・キースとソフィアが見守りつつ、念話を交わす。


 すると、しばらくも立たない数分後に、

「お話中、失礼する。久しぶりだな、森林の。そして闇の。1年の間、元気にしておったか?」

お色気ムンムンな和風美人が、九尾狐を連れてやってきた。


「まぁ!神無月様、ごきげんよう。今日もお美しいわ」

「ありがとう。森林の、今日は格好良いな」

「ふふふ、こちらに来てくださり、ありがとうございます。

 お約束のお品物ですわ。薬湯各種と毒消し薬です」

カミラはどこからともなく取り出した、大きな葉で包んだ小包を差し出した。神無月もそれを受け取り満足そうにした。


「あれ?カミラ、神無月様にも薬出すようになったの?」

レオンだけ、驚いた様子で2人のやり取りを見た。

「去年縁があり、桧風呂をお見せいただいたので感謝の印です。滋養に大変良いのですよ」

「ヒノキブロ?へぇ、今度私も見てみたいな。」

今度は3人で盛り上がり始める。


 背後の九尾がゆったりとヒース達の方へやってきた。

((なんかお狐様多くない?というか犬型多くない??))

ヒースとキースは思っても口には出さなかった。


「初めまして。九尾狐の白檀だ。」

「クリムゾンフォックスのソフィアだ。よろしく」

「人狼のヒースと申します、白檀様」

「人狼のキースと申します、白檀殿」

 4人は挨拶をし始めるが、どうやら白檀はソフィアと同格かそれ以上らしい。挨拶が終わり、それぞれソファに着く。

そして、ヒースとキースがカミラを見た瞬間、おののいた。


 なんと、カミラは見知らぬ男に抱きつかれ、頭にはコウモリが引っ付いているのが2人の視界に映った。

「「なんでだよ?!!…グルルゥゥウ、フゥゥウ」」

ちなみに一瞬の出来事だった為、レオンも神無月も呆然と固まっている。


「ご主人から離れて下さい。迅速に、今すぐ。グルル」

「おい、ご主人。覚悟はできてんだろうな?ゥゥウ」

途端に目を座らせて唸りつつ、かたや相手を牽制しながら力ずくで男を剥がそうとし、かたや簡単に男に触らせたカミラをたしなめる。2人はずっと唸って止まらない。

 が、なぜかヒースがひっぺがそうとしても一向に男が離れない。コウモリは髪が崩れるのを配慮したのか肩に移動していた。もちろんキースが剥がそうとするがびくともしない。

「あら、まぁまぁ、うふふ。そんなに心配しないで。」

「カミラ、タダラくっつけたまま言うセリフではないよ」

「森林の、キギラをつけたままいうセリフでもないぞ」

キースもヒースも逆立った毛が戻らず唸り続けている。


「あぁ、すまない。二人が目を離した隙に、おいたしたネ」

「梅鳴!!!」

「どなたか存じ上げませんが、おいたは現在進行中です。

 即刻とめていただきたい。」

「ウメナキ殿とやら、早急に離して下さい。さもなくば…」

「ゴメンネ。…タダラ!キギラ!!回来(もどれ)

「「…ッハ! 失礼。あるじ様!」」


 タダラと呼ばれた男とキギラと呼ばれたコウモリがやっと離れた。しかし、ヒースもキースも唸り声を上げて目を吊り上げて睨み付けるのを辞めない。

かつ、自分の背中にカミラを隠す。カミラの首筋には2つの真新しい噛み跡があった。


「改めてゴメンネ、ワタシ梅鳴(ウメナキ)ネ。こっちは吸血鬼の多々(タダラ)と吸血蝙蝠の綺々(キギラ)。ヨロシク」

「「…」」

「どちらも美味しい血が大好きなグルメ家さ。特に、緑ものが好きネ。カミラ姉さんの血は1人分で100人分の栄養価がある。さすが森林の魔女ネ。」

「「森林、関係なくね?」」

「悪食な魔女が多い中、特に葉物や木の実を多く摂取してるカミラはやはり栄養価が高いのか。ふむ」

「まぁ、森林のは毒草も多く好んで食しているがな」

「「ハァ?勝手に血吸って謝罪もなしかよ?!!」」

すかさずキースとヒースが礼儀もかなぐり捨てて突っ込む。


「まぁまぁ、2人とも落ち着いて?タダラもキギラも私のお友達よ。研究にも協力してくれてるのよ。それに、私の健康診断も兼ねているの。」

「「エ?カミラ、どこか悪いの?」」

カミラになだめられるも、途端にへにゃりと耳が下がり、尻尾までだらりと力が入らない。

「チガウ。ワタシは医者も兼ねた魔女ネ。健康診断っていうのは、ただの定期検診ヨ。2人に血を吸われて貧血になってもナイし、カミラ姉さんは極めて健康!極めて頑丈ヨ!!ネ、ホラ元気出して!」

 梅鳴が慌ててフォローするが狐顔で糸目なせいか、ニィィッと笑った笑顔が非常に胡散臭い。

 しかし、ひとまず気持ちを落ち着かせようとカミラがヒースとキース2人の頭を撫でるうちに、2人の機嫌が戻り、落ち着きを取り戻した。

((でも、出合頭に血を吸う輩なんかぜってー認めない。))


 キースもヒースも内心はまだメラメラしていた。ついでに言うと健康診断うんぬんから、その後キースとヒースも血を吸われる流れになり、なんだかんだで仲良くなることとなる。

 ちなみに2人もカミラと同じものを食べている為、中々に美味な血、とのこと。しかしカミラと違って葉物に加え肉も食べる人狼なので、少しジビエっぽいのかタダラもキギラも気を失うほどではないらしい。


 状況を整理すると、普段はタダラもキギラも普通に良識ある使い魔である。しかし、カミラの血が2人を狂わせる。

 理由はわからないが、他に比べて栄養価たっぷり極上の血を前に正気を失い、気がつけばカミラに引っ付いて血を吸っている最中…という事は以前から多々起きていた。

 去年も一昨年もその前の年も、カミラは2人に出合頭に血を吸われている。しかし、そんな2人を見て、カミラから取引を持ちかけた。健康診断である。


 魔女に医者は原則いない。魔法を扱う為、大抵のことは薬草やポーション、治癒魔法や修復・回復魔法でなんとかなる。カミラも普段は色々な悩みに効く薬草や薬湯を提供している側だ。

 が、しかしである。日頃の健康管理は難しく、何より自分の身体で実験する事もあるカミラは何かいい方法を探していた。もっと言えば、正確な研究データを取れるなら血を吸われるくらいなんてことないと結論づけたのだ。

 タダラもキギラも血液の成分分析は得意であり、数値化も可能だった。しかも、後で気づいたことだが、2人の主人の梅鳴は魔女専門の医者を営む変わり者だった。

 噛まれた後は仙人薬をくれるので問題ない。傷跡も残らない優れものの万能薬だった。今回もそれで傷を治した。ついでに言うならば髪の乱れは然程なく、キースとヒースがその場で即座に直した。


 丁度良い頃合いになったのか、会場の鐘が鳴った。お茶会開始10分前の合図である。これを聞いたらお手洗いや身支度を済ませ所定の席に座らないといけない。魔女の楽しくも騒がしいマジカルパーティ開始まであと少し。神無月と梅鳴はカミラ・レオンと別れ、自分の席へと移動した。

((もう来るだけで色々ありすぎる。))


お茶会はまだ、はじまったばかり。


短編にしようと思ったけど長くなってしまい、断念。

もしよろしければ、しばしお付き合いください。

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