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血石   作者: 花葵
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【第一部 国生の里】 8話 出会い


――あれは咲宮が宮になって3年くらいたった時の頃だった



国生の里長から里長交代の知らせがきた

義蔵は先代からの里長で咲宮も信頼していた1人だ

その1人がまた自分の元を去っていく


少し重い心を抱えながら池の水に両足をつけて涼んでいた

もうすぐ義蔵が新しい里長を連れてやってくるというのに、どうしても重い腰があげられずにいた


そんな時、その場所にひとりの少年が飛び込んできた

思わず池から出ようとして足を滑らせ、片足に酷い擦り傷ができてしまった


(痛っ……)


痛みを顔には出さずその場を去ろうとする咲宮をその少年はとても優しい笑顔で引き止めた


「ごめんね。驚かせてしまって……ケガをしただろう?治すからおいで」


多分咲宮の事を知らないのだろう

気軽に声をかけ、穏やかな笑みのまま寄ってくる



(変わった空気をまとっているな)



貴丞の第一印象はそうだった

優しいだけじゃない。何かこう……


それにしてもこの咲宮がいる場所に人が迷い込むこともありえない

暁の里が彼をまったく警戒していないその事実に咲宮は一番驚いた


「ああ……これはひどいな。本当にごめん」


何度も詫びながらその右手に淡いオレンジの光を出して咲宮の足にそっとあてる


(珍しいな。この年で治療の光か)


暖かい

治療の光を受けたことは他にもあるが…

この温もりとその治療の正確さに驚く


「はい。これでおしまい。本当にごめんね。痛かっただろ?」


すっかりきれいに治った足を一撫でして咲宮は「ありがとう」と礼を言った


「あの……ところで会合の間ってどこかな?早めについてうろうろしてたら

迷ってしまって……」


会合の間以外をうろつけるものなど多くはない

暁の里はえらく彼を気に入っているのだとわかる


「そこから出てまっすぐ行って右だ」

「ありがとう」


急ぎ向かおうとする少年を呼び止める


「そなた名前は?」

「貴丞!」


にこやかに手をあげ去っていったその彼が次の里長だと咲宮はその時知った


「咲宮様。義蔵殿がいらっしゃってます。お着換えください」


御影に声をかけられ立ち上がる

もう一度、ケガをしていた足を撫でた


(あんなにも暖かい光があるのか…)






「咲宮様がお越しです」


義蔵の横で共に頭を下げていた貴丞は頭をあげ一瞬目を見開いた


(宮様だったのか…)


まあ、この屋敷で寛いでいるなら、そう考えるのが確かに一番ふさわしかった


「今回国生は息子、貴丞に里長を交代いたします」


その場に居合わせた他の長達からぼそぼそと話す声が響く


「貴丞。そなたは何の力を使う?」


咲宮の問いに長達は聞き漏らすまいと話をやめた


「『読み』と『治療』です」


顔をあげまっすぐに咲宮を見て返答した貴丞に対して、長達から失笑が漏れる


咲宮が長達を一瞥してさらに貴丞に問う


「そなた他の力も使えるだろう?なぜそれを選ぶ?」


「戦う力はみなが持っているが、治せるものは少ない。

私はこの力で傷ついた者達を治し…そして皆も守りたい」


父親ほど年上の長達の失笑にもまったく動じず、咲宮にまっすぐ目を向けたまま

貴丞はそれを言い切った


「里長の交代を認める」

「お待ちください!」


異議を唱える年老いた里長に咲宮は冷たい視線をおくる

幼い少女がこんな視線をおくれると誰がおもうかと思うほど冷たかった


「わたしの決定に不服か」


「ですが…里長の力が読みと治療など…まったく戦えぬものなど!」


口々に異議を唱える長達に、咲宮は重いため息をついた


「決してその力で戦えぬ訳ではない。ただ戦うには他の者たち以上の

訓練が必要となるだけだ。それでもこの者はその道を選んだのだ」


「しかし…」


まだ食い下がろうとする長達の続きを切り捨てるように、咲宮は無視した


「貴丞。そなたのその力はこれから私にとって貴重な力となる。くじけず一層の鍛錬に励め」


「ありがとうございます」


退出しようとする咲宮にあの時漏らした貴丞のひとこと





『さっきの緋色の衣の方があなたには似合うのに』





咲宮の驚いた顔と、その後に義蔵からものすごく怒られた覚えがある


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