【第一部 国生の里】 3話 混ざりあう現実
「……では、宮様。わたしはこれで」
貴丞と交代するように、深い一礼をして父親が立ち上がる
それに対して咲宮は軽くうなずき、ドアがしまるのを確認するかのようにして、貴丞に目をむけた
(いつから来ていたのだろう……?)
咲宮ほどの人が来たなら感知できたはず――道が開いた気配すらなかったことに疑問がわく
咲宮の近くに置かれたお茶から湯気はあがっていない
自分が返るまでの間に咲宮と父親が何を話していたのか……里長として気にはなるが
隠し事なら決して簡単に明かす2人でもなく――隠す必要がないなら言うだろうと諦めるしかなかった
不自然な静けさの中、咲宮もまた貴丞をただじっと見ている
真っ黒でつややかな長い髪――何もかも見透かしてしまいそうな揺るぎない強い眼差し
日焼けをしていない白い肌に、紅を引いているかのような赤い唇
整いすぎた顔立ちに本当は人形なのではないかとさえ思う
貴丞より2つほど年下だが、歴代最強と謳われる圧倒的なその力で、咲宮は8歳にして宮を継いで、父親以上の年の里長達もまとめてきた
その確固たる自信
誰もが畏怖し、憧れずにはいられない唯一無二の存在
この方に仕えているのはとても誇らしい……が、言葉数が少なく、「読み」が使える貴丞はたまに咲宮様を読んでしまえたらと思う時もある
(まあ、この御方を読むなど、させてはもらえないだろうな……)
咲宮ほどの人なら、その辺の防御は抜かりないはずだ
つらつらと考えを巡らせても咲宮から特に話し出す様子がないことにわずかに苦笑して、読みたくなる衝動を抑えて、この不自然な静けさを終わりにした
「そろそろお話ししていただけますか?」
貴丞の優しい視線に、咲宮は珍しく思案するかのように一度目を伏せた