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【第一部 国生の里】 1話 重なる現実
「やはり、止まらぬか……」
悲しげな諦めにも似たため息とともに、長い黒髪がかすかに揺れた
平安を思わせる装束を身にまとい呟いた少女にかしずいた、
これまた同じような装束の女性3人が悲しそうな瞳をむける
「咲宮様……」
3人の瞳を受けたまま少女はその言葉の続きを遮るように立ち上がった
「よい。これはわたしが動く。そなた達は暁を頼む」
◇◇◇◇◇
ここは彼の地。
現実とひっそりと重なりあう、こちらもまたもうひとつの現実。
「暁の里」の宮様を拝し、付き従う6つの里
如月・僥倖・籐楚・国生・水上・長瀬
各里には里長がおり、彼らは常にその力で自分たちの里の安寧をはかる
里の安寧はそのまま向こうの現実世界にも通じている
こちらでは人を襲い食い殺す物の怪は、あちらの現実にも存在している
――ただあちらの現実の者達には特異な力がない為、物の怪が見えないだけだ
見えないのをいいことに――物の怪は静かに人の心を貪り食い荒らす
だから我々が守るのだ
たとえそれを向こうの誰が知らなくても
そのための力を我々は与えられているのだから――ずっと昔から変わることなく