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【4章完結】罪深き王と贖罪の旅  作者: 伽藍堂
第3章 魔術学院と王の剣
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第六十三話 『力の片鱗と神獣擬きの化け物』


 シグレが順調に計画を進めている頃、ノア達は階層をひたすら下に進んでいた。

 その間、黒薔薇の手下や魔物との遭遇が全く無い事に胸騒ぎが止まらない。


 「この状況、シグレの奴が何かやってるのは確定だよな」

 「ですね。しかし、私たちに瞬時に場所を移動する術がありませんから、少しでも早く走ることしか出来ません」

 「くそ〜、アイツの掌の上で良いように踊らされてるのか! どこかに近道とか無いのか?」

 

 幾ら辺りを見渡しても、ミスリルに覆われた無数の通路しか見当たらず魔力感知で探って見ても半径百メートル以内にこれと言った反応はなかった。

 しかし、その時アイリスはふと思い出した――最初の階層では魔力感知が弾かれた事を。


 「思ったんですけど、もしかしたらこの階層の床なら壊せるかも知れませんね」

 「本当か?」

 「はい。兄さんは魅了されていたから見てないかも知れませんが、この迷宮の最初の階層は石畳にランプがあったんですよ。そして、魔力感知が壁に弾かれました。と言うことはですよ、この階層とは別の鉱石で造られているんです。もしかしたら、入り口と同じオリハルコンかも。で、重要なのはこの階層が普通の鉱石であれば力尽くで破壊できると言うことです!」

 「……確かに、やってみよう」


 ノアはアイリスの言葉に何処か棘を感じながらも、魔剣に闘気を集めて一気に振り抜く。

 すると、ミスリルを砕き下にある床を深く抉った。

 

 「硬いな……けど行ける。アルバート、一緒にやるぞ」

 「おう! 任せとけ! シグレに対する怒りも込めて最下層までぶち抜いてやるぞ!」

 「なら、私もやらせて貰いましょう。それと、迷宮はそもそも地中が動いて圧縮されることで空間が空きますから密度が異常なんです。全力でやりましょう」

 

 三人で同時に渾身の一撃をミスリルが砕けた場所にぶっ放す。

 強力な衝撃と威力の高い打撃、そこに全てを押し潰す破壊力の高い巨大な衝撃が加わるとノア達の足元が崩れて始め浮遊感と共に下に落ちて行く。


 「やったぞ!」

 「ああ、行けたな」

 「――このまま、下まで行きましょう! 【月の衝撃(ルーナ・メテオール)】」


 そう言うと、アイリスは四つの巨大な月を光で創り出し、連続で落下させる。

 その結果、一撃で一つの階層を破壊していき全てで四つの床に巨大な大穴を開けた。


 「シグレの奴、アイリスを完全に怒らせちゃってるぞ」

 「……にしても、凄いな。魔力はだいぶなのか?」

 「連発は出来ませんが、あと数回は大丈夫です」

 「そうか」


 ノア達はそのまま重力に従って落下し、数秒掛けて下に着地した。


 「だいぶ、落ちたな。アイリス、どうだ?」

 

 ふわりと着地して魔力感知を発動するアイリスに周囲の状況を尋ねると、どうやら反応があったようだった。


 「こっちです。だいぶ、弱ってる」

 「床が抜けるなら壁も破壊出来るだろ、直線で行こう。今度は俺一人でやるから温存してくれ」

 「分かりました。頼みますね、それともう気づいてると思いますが、兄さんは剣士なんですから魔術師と同じ要領でやっても闘気の"持続力"と"影響力"は魔術に劣るので仕方ないですよ」

 「ああ、さっきの魔術を見て気付いたよ。ありがとう」

 

 闘気と魔術は同じ魔力を使いながら、大幅に異なる点が一つだけ存在する。

 それは、魔術は魔力を使い現象を"創り出す"が、闘気は魔力を使い現象を"変化させる"だけという事。

 更に、闘気で変化させた現象は拡散していくので射程範囲も一人前の上級剣士で二十メートルほどが限界である。


 「闘気の衝撃波で大穴を開けようとしたのが、そもそもの間違いだった。斬って開ければ良い話だ――ッ!」


 アイリスが魔力の反応があった方向を指差し、その方向にある壁に三つの斬撃を飛ばして三角の穴を開けた。

 この攻撃で開いた穴を数回ほど抜けた先の道で、床に倒れるエレオノーラを見つけた。


 「おい、大丈夫か!」

 

 急いで駆け寄り、声をかけると息も絶え絶えにエレオノーラは口を開く。


 「あれは……化け物なんてレベルの存在じゃない。麒麟(きりん)鳳凰(ほうおう)猿魔(えんま)に次ぐ新たなる……"神獣"と呼ぶべき脅威的な存在だ! しかも、それを従えるあの男は只者じゃない。君たちじゃ無理だ……逃げて、フレイハート様を呼ぶんだ……でなければ、全滅、だ……」


 そう言い残し、エレオノーラは気を失った。

 

 「目立った外傷はありませんが、魔力が枯渇したようです。ヘンリー先生の時とは違い、体内から全く魔力を感じないのでこのままでは命が……早急に対処しなければなりません。でも、ここでは手の打ちようがありません」

 「……そうか。なら、一刻も早くシグレを倒してここから出よう! 最下層までぶち抜く! 【剣技・断絶閃(けんぎ・だんぜつせん)】」


 渾身の力で斬撃を放ち、床に三角の穴をこじ開けた。

 その穴を覗くと、全部で三つの階層を突破しており、三つ目の先には超巨大なミスリルの塊がかなり遠くに見える。

 そして、その近くに三つあった頭が一つ無くなった"未知の魔物"がノア達を睨み付けて唸っていた。


 「居たぞ!」

 「負傷してます! 恐らく、エレオノーラさんが」

 「――行くぞ!」


 ノアは未知の魔物と目が合った瞬間、誰よりも早く三角の穴に飛び込み、魔剣を闘気で覆い巨大な"闘気の剣"を形成する。


 【剣技・飛翔蒼天撃けんぎ・ひしょうそうてんげき

 「――ガァアアアアアアアッ!」


 未知の魔物は二つの口から炎と氷のブレスを落ちてくるノア達に向けて放つ。

 そのブレスを闘気の剣で真っ二つに切り裂いて両足に闘気を集めると、アイリスがそれに気づきノアの近くに防御魔術を展開した。

 

 「助かる」


 ノアはその防御魔術を足場とし、踏み抜いて加速する。

 未知の魔物へと急速に迫り闘気の剣を真ん中の首に突き立てる事に成功するが、次の瞬間には逆立つ毛が一回り膨張して闘気の剣を弾き出し、ノアは背中から振り下ろされる。


 「硬いな、でも攻撃が通らない訳では無い。なら……ひたすら攻め続ければ――ッ!」

 

 空中で体勢を立て直し、床に足がついた瞬間に次の技を繰り出す。

 

 【剣技・翔破断絶けんぎ・しょうはだんぜつ


 ノアが先程までいた床が割れて、瞬きの間に未知の魔物の足元に辿り着くと、巨大な闘気の剣を更に大きくして魔剣に纏わせる。

 未知の魔物が気づく前にノアはその魔剣を振り抜いた。


 「――ガァアヴ!」

 「逃がさない!」


 一撃で逆立つ毛を見事に切り裂き、距離を取ろうとした動きを察して鬼気迫る追撃を仕掛ける。

 背丈をゆうに越える不釣り合いな巨大な剣を手に、それを軽々と振り回す様はまるで剣王像をイメージさせた。

 しかし、ノアの両肩から微かに漏れ始めた黒い煙はさながら悪魔の翼のようであり、剣王像のイメージを掻き消して、更に黒く染まった片目がこの世ならざる者の証であるかのように鈍く、そして黒く光る。

 その姿は正しく、"悪魔の力をその身に宿した"というのが最も相応しい形容であった……。


 「――絶対に、()()は殺す! 隠れてないで出て来い!」

 「バァウッ!」


 溜まりに溜まった様々な感情が未知の魔物との戦いで際限なく溢れ出て、この状況を何処かで見ている者に叫び掛ける。

 それと、同時に未知の魔物がノアに巨大な口を開けて噛み付く。

 

 「兄さんから離れなさい! 【星の煌きアステール・エクリクシス】」


 二つの頭でノアに噛み付く未知の魔物に、アイリスの魔術が襲い掛かり身体中の傷口に直撃し爆発する。

 呻き声をあげて真ん中の頭が暴れるが、もう一つの頭は眉間から突き出た"黒い剣"に身動きを封じられていた。


 「アイリス……俺は大丈夫だ。魔力は温存してくれ、この化け物はもう……終わりだ」

 「――ッ!」


 どこか落ち着いて、どこか激しい怒りを感じる声色でそう言うと未知の魔物の眉間を突き出ている黒い剣がスッと動いて頭を真っ二つに切り裂く。

 着地したノアの手には黒に染まった巨大な闘気の剣があり、ゆっくりと見上げたその双眼は闇に染まり切っていた。


 「グゥルルゥゥウウ!!!」


 未知の魔物はノアを鋭く睨み付け、魔力を全力で放出して威嚇する。

 その魔力の放出により絶えず衝撃波が起き、全身から激しいプラズマが発生し、口からは轟々と燃える黒い焔が溢れ出す。

 アイリスとアルバートはその影響でノアに近づく事が出来ないが、相対するノアはその影響をものともせずに未知の魔物の眼前に立つ。


 そして、両者ともに動く――


 全てを焼き尽くすかのような黒い焔と全てを呑み込むかのような黒の一閃が混じり、黒い光が空間を包み込む。

 その後、迷宮全体を大きく揺れ動かす衝撃が発生して中央にある超巨大なミスリルの塊は静かに崩壊を始める。

 崩れ落ちるミスリルの近くに黒い煙に呑み込まれつつあるノアと、頭部の無い未知の魔物がじっと立っていた。


 「グゥウウ……」


 胴体から離れて床に落ちている頭部が小さく唸り声をあげて、眼前にいるノアを噛み殺すかのように睨み続けていたがその眼から急速に光が失われた。


 「――見つけた! これで、ようやく俺は自由だ!」


 その声は未知の魔物の胴体から聞こえて来て、ノアがそっちに目を向けると未知の魔物の胴体が切り刻まれて中から黒薔薇の鎧を身につけた血だらけのシグレ・オルムが現れた。

 シグレは身体中についた血と周囲に飛び散った血を手に持つ柄だけの武器に吸収させて後ろ腰の鞘に納めると、腰の左に差した剣を鞘から抜き、闘気を込めて嬉々とした表情でその魔法武器を振り抜く。


 「ありがとな、今まで利用されてくれて。そのお礼として、痛み無く殺してやるよ! 【剣技・天淵氷牙けんぎ・てんえんひょうが】」


 巨大な氷塊が地面から次々と突き出て、ノアへと襲いかかる。

 

 「――ふざけるな!」


 ノアを包み込む黒い煙がパッと割れて、振り上げた黒に染まった両腕を振り下ろすと黒の一閃が放たれ氷塊を真っ二つにしてシグレへと迫る。


 「やるじゃねーか! だが、今の俺には勝てねーぜ! 【氷炎・真・極螺旋ひょうえん・しん・ごくらせん】」


 右の腰に差しているもう一つの武器を鞘から抜き、二本の魔法武器を交差させて斬りつけると炎と氷の巨大な螺旋が黒の一閃を相殺させた。

 両者はしばし睨み合い、崩壊したミスリルの最後の一塊が床に落ちたのを合図に熾烈を極める戦いが幕を開ける――


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