―第37話―霊能力授業③
「とりあえず、どういう状態までもっていけばいいか、私が10分位瞑想するから、それを見ていて」
赤田先輩の瞑想は、徳留先輩の気功講座でも多少見ていて、基本あぐらをかいてしていたが、そのときは正座だった。
「はい」
そう僕が答えた瞬間。すーっと赤田先輩の気配が部屋の置物と化したかのように希薄になっていった。目の前の人が急にいなくなった感覚。その感覚に戸惑う間もなく、さらに半眼を開いている赤田先輩の目の奥に引きずり込まれそうになる。そしてついには、多分、ひきこまれてしまった。多分というのはそこから僕の意識はとぎれてしまったからだ。
気がついたとき、目の前には赤田先輩の顔があって、座ったままうなだれている僕の顔は光の戻った目でのぞき込まれていた。
「お、戻ってきたね。大丈夫? やっぱり記憶、とんじゃっているかな?」
「あ……よくわからないんですが…… 大丈夫です。僕…… 気を失ってました?」
意識が朦朧としている。
「う~ん、気を失ったというか、私につられて、この世からあの世に飛んじゃったっていうかんじね。ちょっと想定外だったけど、まぁ、やっぱり小林君素質あるってことね」
「あの世に…… 」
といったところで、赤田先輩に背中をばしっとたたかれた。
「どう?目が覚めた?」
「あ、はい、完全に寝起きの感覚ですけど…… 」
「やっぱり向こうのこと覚えてないかな?」
「はい、何も……」
「ま、というわけで、記憶の持ち帰りは難しいのよ」
「その…… 僕がつられていったあの世というのはどういうところだったんですか? 」
「それは、私から聞かない方がいいかな」
「それはどういう…… 」
「あの世の世界を見たあとで、持ち帰る情報というのは、おおざっぱにいうと2つに分かれるのね」
「はい」
「一つは、この世に近い、もしくは類似する世界に多い、ちゃんとした霊能力者がそこを覗けば、覗いた人全員がほぼ同じものとして認識し、持ち帰れる情報。まぁ、同じ世界の同じ場所を覗くことはそうないけどね。そしてもう一つは、その世界とは少し理の違う世界の情報。その別の世界は、そこで霊能者が得た実体の情報を、自分で認識できるものに置き換えてしまうから、見た人によってはおよそ別のものになっちゃうのね。実体や意味は同一だけど、見た人のフィルターを通すと別のものになってしまうという感じ。ちょっとわかりづらいね」
「えと…… 前中沢先輩が言っていた、テレパシーの話で、「好き」という言葉ではなく、感情を相手の頭にいれると、「好き」という言葉に勝手に変換されるのと同じような感じでしょうか? 例えば、日本語の話者に対しては、「好き」という言葉になるけど。英語の話者に対しては「LOVE」という言葉になるみたいな…… 」
「お、そうそう、まぁだいたいそんな感じね。実体や本質は同じものでもそれをこの世の理で表現しようとすると齟齬がでちゃうの。だから、私から聞かない方がいいといったのは、私の認識を聞いちゃうと、ただ観察したものを純粋に認識する必要があるのに、そこに思い込みが入っちゃって認識できなくなる可能性があるからなんだ。特に意識や言葉が頭の中一杯に詰まっちゃう頑固な小林君にとってはね」
頑固といわれて、ちょっとどうかと思ったけれど、考えるのを止めるために寝ることの多い僕にはその通りだと思わざるをえなかった。
「そうなんですね…… 」
「まぁ、この大別して2つっていうのは、極端に分かれるわけじゃなくて、その中間のような部分ももちろんあるから、難しいのよね。対象のあの世は無数にあるし、その見え方も大きく違ったり、微妙に違ったり、そりゃ、あの世を語る人は胡散臭く見えて当然よね~」
「はぁ…… 」
なんだか、大変なことに首を突っ込んだ気がして、ちょっとしょんぼりとした顔をしていただろうか。
「あ、でも、安心して。一回回路を作れば、そうあの世に出向く必要はないし、そのために小林君が繋がりをもつべき存在は、ちゃんといらっしゃるんだからね」




