表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/37

―第34話―夢と現実と五感の虚実

 夢は不思議だ。


 夢の中は現実ではないのに感覚があるからだ。


 その感覚の対象など、存在しないはずなのに。



 まずは、視覚だ。


 見ていないのに見えるのだ。


 そして、見え方も様々だ。現実より視界が狭かったり、あるいは広かったり、白黒だったり、はたまた現実よりもフルカラーだったり。



 聴覚もそうだ。


 聴いていないのに聞こえるのだ。


 そしてよくよく、観察してみると、夢の中で聴く作業は、どちらかというと、聞こえるよりは、わかる、という感覚に近いことが多い。


 これは、中沢先輩が言っていた、テレパシーの感覚に近いのかもしれない。


 ただ、しっかり聴覚として聞こえることもあって、そのときは、その声に目を覚まさせられることもある。


 ふいに、別の方向から聞こえるしっかりとした声だ。


 その声は、耳からというよりは中から響き、聴く、という感覚は、耳からだけきているわけではないのだと思わされる。


 そして聴くについて、不思議なのは、そもそも人間は、現実に耳で聞こえている音でさえ、ずいぶん取捨選択しているということだ。


 寝ているときに、耳は閉じていないのに、大抵の生活音は聞こえることはない。


 そして起きているときでも、音は、認識から外されることが多い。


 換気扇の音、冷蔵庫の音、時計の針の音……


 さらに、日本人と一部の国の人に聞こえる虫の音は、多くの外国の人にとっては聞こえないかまたは騒音らしいから、どうやら、実際に存在する音であっても、その認識、その必要性は、随分差があるらしい。


 かと思えば、誰も声など発していないのに、聞こえる声にふりむいてしまうことさえある。



 触覚はどうか?


 夢の中で多くはないが、確かに触覚を感じることがある。


 さらさらした砂の感覚。ざらざらした猫の舌の感覚。ごつごつした人の手の感覚。柔らかな人肌の感覚。


 かと思えば、現実で、着ている服の感覚は、日頃、ない。



 味覚はどうか?


 これも、夢の中では、多くはないが、感じることがある。


 母親の作りおきしてくれた、冷たい塩おにぎりの甘さ。どうしてもなれないニガウリの苦さ。


 そして、現実では、全く同じものを食べても、ずいぶん味が変わることがある。


 もっとも顕著なのは、満腹時と空腹時の違いだ。


 空腹時には、おいしいと感じるだけでなく、味覚も鋭敏になっていて、とくに塩分の感じ方は差が大きくて、普段は薄いと感じるお吸い物でも、十分以上に塩味を感じるのだ。



 嗅覚はどうか?


 これも多くはないが、夢の中でも、線香やお茶の匂いを感じることがある。


 そして、現実では、これもオンオフがある。


 もっとも顕著なのは、ニンニクを食べた後の自分の息の匂いだろうか。


 他人には、わかっても、自分はわからないし、また、他人がニンニクを食べていれば他人はわからないのに、自分はわかるのだ。


 日本人は、醬油臭いなんて、そんな話もあるから、それが本当なら厄介だ。


 また、逆に実際はどこにもないはずの線香の匂いが、突然することもある。



 聴覚、触覚、味覚、嗅覚いずれも人にとっては、あいまいなものらしい。


 そして、実は、視覚でさえ、見ている人によって違うのだということを知ると、もう実体とは何なのか皆目分からなくなる。


 現実においても感覚は、随分自分に都合のいいように変化させられているのだろう。全てが自分を通す以上、もう絶対の現実なんてものは、どうあがいても見出すことはできないのかもしれない。


 そんなことを考えるようになったのは、西村部長から、神の形について話を聞いたことがきっかけだったと思う。


 そして、その話を聞いた数日後、僕は夢の中で、声を聴いた。ただ、聴いたという表現は正確ではなく、なんというか、その言葉を、聴いたと見たの中間のような感覚であった。


空不空(クウフクウ)


 姿は、はっきりとは見えなかった。ただ、扉ごしに、透明で静謐な存在が僕にそう伝えた。その存在の名前なのかどうかは、わからないが、僕はそれからその存在を、空不空様、空不空さん、とそう認識するようになった。


 その存在が、在るものかどうか? それはこの世が在るものかどうかと同じくらいにわからない。


 ただ、僕を通しては、それはやはり在るものなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ