―第30話―事後報告と、小さな決意
翌朝、僕は、赤田先輩にお礼の電話をかけた。ひとしきり状況報告とお礼を言った後、
「あの…… 今回、自分から霊にコンタクトをとろうとしたんですが、気づいてもらえませんでした。僕でもこういう時に、コミュニケーションをとる方法って何かあったりするんでしょうか?」
と深く考えずに聞いてしまった。今、僕は、自分の人生に向き合っていて、霊能力に関して言うならば、あまり深くそれに関わることは、その妨げになると思っていた。でも、見えているのに…… 自分には何かできそうなのに…… 何もできないことに、いや、何もしないことに、それではいけないような気がして、つい口に出してしまったのだ。
「おや、ちょっとは自分の能力をいかすことに、やる気になったのかな?」
「えと、修行とか、そうガッツリやるっていうのは多分無理なんですが、今の僕でもできることがあれば…… と思いまして」
「煮え切らないなぁ…… 、まぁ、そうだねぇ、とりあえず、今回の件については、話を聞く限り、多分普段の小林君ならあまり見ないタイプの霊だったんじゃないかな。魂の形、結構しっかりしていたでしょう?」
「そういえば…… はい、結構昔の霊のはずなのにしっかり残っていました」
「そういう霊は、あの世とこの世の間みたいなところの中の大抵はすごく暗いところにいて、その場所はこの世とは少しずれているんだよね。私にはよくわからないけど、時間の流れる速さとかもこの世とはだいぶ違うみたいよ」
「時間の流れですか…… 今朝枕元に立った霊が、この世の進みにびっくりしていたのはそういう理由なんですかね」
「多分そう。行くべきあの世に行くのに、間からこの世を中継したらびっくりした、みたいな」
「なるほど…… そういえば自分、そういう暗い場所見たことがあるかもしれません」
「おっ、経験あるんだ?」
「えっと、あれがそうなのかわかりませんが、小学生の時に、祖母が亡くなって、初登校したときに友達に『亡くなって大変だったね』って声をかけられたんです。その瞬間になぜか壁に頭をつけて、目を瞑ってしまって、完全に真っ暗な宇宙空間みたいなところに自分だけが投げ出された感覚になってその空間をさまようんですが、1分位かなと思って目をあけたら10分位そのままにしていたみたいなことがありまして…… 」
「そっか、多分それだと思うよ。小林君の魂が、おばあちゃんを探して、飛び出しちゃったんだね」
「そうだったんですか…… ちなみにそれって帰ってこられないってこともあるんですか? 」
「まぁ、大抵帰ってこられるから大丈夫よ。帰ってこられなきゃ魂の神隠し、この世とおさらばだけどね」
「え…… やっぱりそうなんですか?」
「それはそうよ。ちなみに、そういう場所からの帰還っていうことでいうと、ほら、あの世とこの世の間の中の有名な一つに三途の川ってあるじゃない? そこまで行ったんだけど亡くなった家族に追い返されて帰ってくるみたいな話」
「はい」
「そういうのもあるんだけど、そういう記憶もなく、何かの存在にこの世に連れ戻されるってことも多いわけ。瀕死で奇跡的に助かったけれど、臨死体験は覚えていない、みたいなときだったり、小林君みたいに魂が一時的に別の世界にいったけど、どうやって帰ったかわからないときとかね。死ぬべきときと、そうでないとき、それが、この世とあの世の理で決まっているのかどうかなんて、私にはわからないけれど、どうやら、そこに何かの力が働いているのは確かみたい。ちなみにあの世とこの世の間にいくわけじゃないけど、この世での幽体離脱も、勝手に体に戻っちゃうっていうのは似たようなものね」
「なるほど…… そういえば寝ているときの幽体離脱ですか、そのときは、帰ってくる記憶がないことがほとんどですね。何かの力って何なんでしょう…… 」
「それは、私にもよくわからないけど、西村部長曰く、大抵は無意識部分の自分の魂…… もう一人の自分とか、自分の大本の魂とかそういったものが選択しているとは言ってたねぇ。まぁ、そうして帰ってこられるとはいえ幽体離脱は余りやらないようにおすすめするよ。肉体に宿った魂は強いけど、抜けちゃうとそうはいかないからね」
「あ、はい…… したくてしているわけでもないんですが。しかし、西村部長はそういうことまで知っているんですね…… 」
「まぁ、あの人はね」
「そういえば、今朝、霊を見送ったときには、別の、すごくたくさんの光が集まった巨大な柱が立ち昇る場所にいましたけど…… 」
「ほー、その霊が、次に行く世界の通路を見ちゃったんだね。でも、そこに飛び乗ったら駄目だからね、そしたら死んじゃうから」
「えっ……」
「まぁ、話をもとにもどすと、たまにさっき言った間みたいな場所と、この世が一部重なることがあるんだけど、一部だから、いつもこの世にいる魂とは同じようにはコンタクトできないんだよね。だからそういう霊にこちらからコンタクトを取ろうとすると、ちょっと回路をかませる必要があるんだ。例えていうなら、相手の霊がテレビ電話から妹さんに電話をかけていて、つながってはいるんだけれど、妹さんにはそれが何かわからない。対して、小林君は、妹さんのテレビ電話の画面を覗き見しているけど、通話はできないないって状態。だから、自分でも電話をかけなきゃいけない」
「そうすると、その電話…… 回路を作る作業であったり通話の仕方を覚えたりが必要になるということですね」
「そう、だからやっぱり、修行とはいかなくても、それなりに、何かをしてそれをできるようにしていかなきゃいけないね。とはいえ、完全に成仏した霊…… 完全に別の世界にいる霊との通信よりは、まだ多少やりやすいかな。今回の小林君みたいに、気づくこともできたりするしね」
「なるほど…… 」
「まぁ、せっかく、少しやる気になったんだから、ちょっとづつ教えていこうか。別にみっちりやるとかじゃなくて。とりあえず、今は何かあっても私を頼ってくれればいいんだし」
「あ、はい、すみませんお願いします」
「オカルト研究会の、霊能部門の火を絶やすわけにはいかんからねぇ」
「えと…… 」
「冗談よ、冗談」
電話を切ったあと、僕は余計な相談を先輩にしてしまったかもしれないと思ったが、何もしないのは、もっときついなと思い返し、少しは霊能力にもきちんと向き合おうと小さく決心した。
昨日、一昨日と、この旅行を経て、来る前より少しだけ心が軽くなった気がした。今は、多分ただ動く時だ。




